4月11日に開催される第105回日本選手権50km競歩の前日会見が、10日夕刻、石川県輪島市文化会館で行われました。この大会は、コロナ禍による1年延期で、今年の夏に開催される東京オリンピックの日本代表選手選考会を兼ねて実施。「残り1枠」となったオリンピック代表の座を巡り、熾烈な戦いとなることが見込まれています。
会見には、2016年リオデジャネイロオリンピックで銅メダル、2017年世界選手権で銀メダル、2018年世界チーム競歩選手権で金メダルを獲得している荒井広宙選手(富士通)を筆頭に、小林快選手(新潟アルビレックス R C)、丸尾知司選手(愛知製鋼)、野田明宏選手(自衛隊体育学校)、勝木隼人選手(自衛隊体育学校)と、いずれも高いレベルの実績を持つ5名が出席。各選手は、大会までの経過や現在の体調、レースに向けての思いなどを述べたのちに、メディアからの質問に応えました。各選手のコメント(要旨)は、以下の通りです。
【登壇選手コメント(要旨)】
※掲載は、会見で紹介された順。
◎荒井広宙(富士通)
この大会に向けては、昨年8月に足の甲を痛めて、しばらく練習を休まざるを得ない状況があったのだが、9月に入って少し経ったところで練習がしっかりできるようになり、そこからは順調に取り組むことができている。その間に、2月の日本選手権(20km競歩)にも出場した。このときは、50kmの練習をやるなかでのレースで疲労を残していたこともあり、タイムはよくなかったが、(この大会に向けての)流れも確認できた。今やれることは、十分にやってこられたかなと思っている。明日は、優勝するしかオリンピック(出場)への道はないので、優勝を目標に頑張りたい。50kmのレースは2年ぶりとなるが、特にマイナスなるとは感じていない。50kmに向けた練習をずっと積んできているので、試合に向けての不安はない。
今回に限らず、すべての場合においていえることだと思うが、(レースに向けては)準備が一番大事。明日どう歩こうが、結果はすでに決まっていると思っているので、明日は、今までのトレーニングの成果を、(スタートする)7時半から確認をしに行くという気持ちでいる。
昨年は、この大会が(コロナ禍の影響で)中止となった。今まで長い間競技をやってきて、自分がケガとか風邪とかで大会に出られないということは多くあったが、大会自体がなくなってしまうということは初めて。最初は戸惑いもあったが、その後は「オリンピックに向けて、もう1年準備する期間ができた」と前向きに捉えてやってこられたと思う。そのなかで、「もっと練習しているかもしれない」と自分のモチベーションを高めてくれるようなライバルの存在が、たくさんいるということに、すごく感謝している。
◎小林 快(新潟アルビレックスRC)
ここまでの練習は順調。2週間前くらいから急激に調子が上がってきたので、いいレースができると思っている。意気込みとしては、優勝が当然一つの目標ではあるのだが、「優勝、優勝」と身構えてしまうと、うまくいかないことも多いので、まずは自己ベストを目指したい。そうすれば、いい結果がついてくると思う。確かに(オリンピックの)最終選考会ではあるが、特に気負わず、自分の力を100%出すことを念頭において頑張っていきたい。
(明日のレースで意識したい点は)荒井さんが述べたのと同じで、結局のところ、(結果は)もうほとんど決まっていると思っていて、あとは自分が100%の力を出しきれるかというところにかかってくると考えている。
(コロナ禍の影響で昨年中止となって以降)正直なところ、例年に比べて(他の選手と)会う回数が減ったので、意識面で「モチベーションがどうこう」というのはあまりなかったように感じている。そのなかで勝木さんとは、練習状況も含めて、LINEとかで連絡は取り合っていたので、「自分は一人ではない」ということは感じることができていた。ただ、モチベーションという点では、自分は「やることをやる」という考え方なので、練習や生活がモチベーションに左右されることはない。なので、オリンピックが1年延期になったことも社会的には大変だったと思うが、自分の競技に対するモチベーションという意味では、あまり変わることはなかった。
久しぶりの50kmレースであるが、初めての50kmのレースに出たときに、何もわからない状態で優勝しているので、そのことについて、マイナスだとは感じていない。
◎丸尾知司(愛知製鋼)
(ここまでの)練習については、すべて順調に来た。明日は、感謝の気持ちを込めて、勝つことだけにフォーカスしてレースを進めたい。感謝の気持ちの対象は、絞られた(特定の)存在に向けてものではなく、大会が開催されることもそうだし、私がこのスタートラインに立てたのも本当にたくさんの方々の支えがあってのことなので、応援してくださる皆さんに感謝の気持ちを込めて、それを、結果で表していければいいなと思っている。
(明日のポイントとしては)レースを冷静に進めていくことが、一つ大事なことと思っているので、落ち着いて、50kmというレースをつくっていきたい。(おそらく)この5名が中心の勝負になるとみている。自分の力を発揮することにフォーカスしながら相手を見て進めていきたい。
去年、中止になった大会への取り組みと、今回の大会に向けての取り組みを比べてみると、明らかに今回のほうが、自分の弱点に対して向き合えている。それは練習しているときに「みんなもっとやっているのかな」とか、「みんな頑張っているのかな」とかと思うことで、辛い練習や、できると思わなかったような練習に立ち向かったりすることができたから。また、「残り1枠」という状況に置かれたからこそのことなのかなと、今日、改めて感じている。その成果を、(明日)出せれば、一番いいなと思う。
50kmのレースは久しぶりになるが、昨年試合がなかったことに関しては、大きなマイナスはなかったと思いたいところである。準備はしっかりしてきたので、50kmを歩く感覚も持っているし、(最後の50kmの試合となった2019年の)高畠で歩いた感触や、あの思いも深く覚えているので、遠くに試合がなかったことに関してマイナスはなかったと思う。
◎勝木隼人(自衛隊体育学校)
練習に関しては、いつもに比べると、順調に来ている状況である。明日の目標については、まず、この東京オリンピックの選考会に参加できるというだけでも、感謝しかないという気持ちがある。勝つことを意識しながら、なおかつ、自分のベストの状態で歩ききることを目標に頑張りたい。
(明日のレースに向けて意識したい点は)僕も、荒井さんだったり丸尾だったりが言ったこととほぼ同じ。あとは、気象状況に関して(輪島は)多少風が強い場所なので、そういったところにも注意しながら、しっかりレースができればいいなと思っている。また、特に「ライバル」というのは、僕のなかにはいない。ほかの人に惑わされることなく、自分のレースをするなかで、その周りにいる選手がライバルになっていくのかなと考えている。
(中止になった)昨年もいい状態ではあったのだが、昨年よりも今年のほうがしっかりと練習が積めた状態でこの場に立てているので、そういう意味では、(オリンピックが)1年延びたおかげで競技力が高まったと思っている。また、自分はこの1年、あまり大会に出ることはなかったのだが、ここにいる皆さんは、僕よりも多く出場していて、そういった結果を見ることも自分のモチベーションになっていた。また、先ほど(小林)快も言っていたように、連絡を取り合うなかで「こういった練習をやっているよ」とかやりとりすることで、モチベーションの維持ができていたかなと思う。
昨年、50kmのレースがなかったことについては、僕もマイナスなところはなかったと思っている。50kmのタイムトライアルができるような時間が十分にあり、自分は50kmを2回ほど歩いて、試合とほとんど変わらないくらい(のタイム)で2回とも歩けている。マイナスな面はなかったと思う。
◎野田明宏(自衛隊体育学校)
昨年、この大会が中止になって以降、ケガすることなく、体調不良となることもなく、いい練習が量・質ともにできているので、非常に良い状態である。明日は、(オリンピック代表権を獲得するためには)もう優勝するしかないので、優勝を目指して、勝ちきることをしっかり意識して頑張りたい。(レースで心がける点は)基本的には丸尾さんと同じ。冷静にしっかりレースを運びたい。そして、私は、最大限このレースを楽しみたいとも思っている。
ライバルになるのは自分自身。自分のなかに弱さがあると、後半の伸びとかも欠けてくると思うので、自分自身に勝つことが大切かなと思っている。
昨年の輪島が中止になって以降、非常にいい練習が続けてこられた。そのなかで今回「1枠」を争うなかで、たくさんの選手がその「1枠」に懸けて頑張っているということは、自分自身も危機感として持っていた。それが、私自身が強くなるためのモチベーションになっていたとも思っていて、そういう部分が、今回の輪島に向けて、いい練習、いい精神状態などに繋がったと感じている。
(昨年、50kmのレースがなかった点は)私も全然マイナスには感じていない。私の場合は、50kmを歩くのは、日本記録を出した2018年の高畠以来になる。そのあとも輪島やドーハ(世界選手権)と歩いてはいるが完歩していない。「絶対に明日は完歩する」という思いで、今、話しているわけだが、そういうふうに考えてみても、(ブランクがあることは)マイナスではなかったなと感じていて、いろいろなトレーニングができたという意味では逆にプラスになっていると思う。これだけレースが少なかった年は珍しいいけれど、ある意味、明日を楽しみに思っている。
日本選手権50km競歩は、4月11日午前7時30分にスタート。石川県輪島市の「道の駅輪島ふらっと訪夢」前を発着点とする往復2kmの折り返しコースで行われます。レースは、残り1枠となった東京オリンピック男子50km競歩代表の座を懸けて行われ、優勝者がレース終了時点で派遣設定記録(3時間45分00秒)を満たしている場合、即時内定します。
このほか、派遣設定記録(2時間30分00秒)・参加標準記録(2時間31分00秒)が突破できていないために現在残り1枠が決まっていない女子20km競歩については、日本選手権と併催する形で4月10日から開催されている第60回全日本競歩輪島大会 のなかで特別レースが行われます。出場選手たちは、前述した記録の突破、あるいはターゲットナンバー(全体出場枠)内の判断基準となるWAワールドランキングのポイント獲得を目指し、4月11日午前9時にスタートするレースに挑みます。
また、4月10日に1日目の競技が行われた全日本競歩輪島大会では、「斉藤和夫杯」として実施された全日本男女10kmや、この夏にナイロビ(ケニア)で開催されるU20世界選手権の代表選考レースとして行われたU20男女10kmのほか、中学男女3km、高校1・2年男女3kmの計8種目が実施されました。
全日本男子10kmは石田昴選手(立命館大学)が39分58秒で、全日本女子10kmは園田世玲奈選手(NTN)が45分00秒で優勝。U20男子10kmは中尾心哉選手(関西学院大学)が41分58秒で、U20女子10kmは藪田みのり選手(武庫川女子大学)が45分19秒で、それぞれ制しています。
なお、今大会の開催に当たっては、日本陸連で策定した「ロードレース開催についてのガイダンス」( https://www.jaaf.or.jp/files/upload/202006/30_172327.pdf )に則り、細心の注意を払っての運営を行っていますが、これに伴い、関係者やファンの皆さまにも会場や沿道での応援は自粛するようご協力をお願いしています。
4月11日については、日本選手権男子50km競歩を中心に、特別レース女子20km競歩、高校男女5km競歩等のライブ配信を計画しており、現地の模様は、
・日本陸連公式YouTubeチャンネル( https://www.youtube.com/watch?v=e2J1RaF1GH0 )
・応援TV・日本陸連公式チャンネル(https://ohen.tv/channel/)
・日本陸連公式Twitter(https://twitter.com/jaaf_official )
などで、午前7時20分から視聴いただける予定です。ぜひ、画面越しでの熱い声援をお願いいたします。エントリー状況やタイムテーブル、配信予定等、大会に関する詳細は、https://www.jaaf.or.jp/competition/detail/1539/ にて、ご確認ください。
文・写真:児玉育美(JAAFメディアチーム)
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