2020.07.28(火)大会

【東京選手権レポート】2020年トラックシーズン、いよいよ開幕!



新型コロナウイルス感染拡大の影響により、日本陸上界では、6月末まで競技会の開催を中止あるいは延期する措置がとられましたが、この期間が明けた7月から、ようやく全国各地で2020年度シーズンが本格的にスタートしています。

東京では、本来であればオリンピック開幕当日となるはずで、延期されたことにより「開幕までちょうど1年」となった7月23日から、第83回東京選手権が、4日間の会期で駒沢公園陸上競技場において行われました。実施にあたって、主催した東京陸上競技協会は、日本陸連が策定した「陸上競技活動再開のガイダンス」に沿った準備や運営様式を導入。感染防止のために万全の措置をとったなかでの開催となりました。

期間中は、梅雨前線が停滞した影響で、悪天候が続くあいにくの気象条件でしたが、小学生から中学・高校生も含めて幅広い年代の選手がエントリー。また、一般種目には、オリンピックや世界選手権の日本代表選手、日本記録保持者などのトップアスリートも多数出場し、それぞれに「2020年シーズン初戦」に挑みました。

 
有力選手が顔を揃えたことで「まるで日本選手権のよう」と、注目を集めたのは男子800m。1日目に予選が、2日目に準決勝・決勝が行われるタイムテーブルとなりました。このレースには、ダイヤモンドアスリートのクレイアーロン竜波選手(相洋AC・神奈川)が出場。今年、すでに2月(22日)に合宿先のシドニー(オーストラリア)でレースに出場して1分48秒13をマークしているクレイ選手にとっては、5カ月ぶりの実戦です。決勝では、スタートしてすぐに先頭に立ち、400mを55秒(場内アナウンスの情報による)で通過。ホームストレートに入る直前で動きを切り替えてスパートすると、後続を突き放し、1分50秒54の大会新記録でフィニッシュしました。

相洋高3年の昨年、日本選手権で自身の高校記録・U18日本記録も塗り替える1分46秒59のU20日本新記録を樹立して初優勝を果たしたほか、世界リレーでは男女混合2×2×400mリレーで3位の成績を残しているクレイ選手は、今年の秋からアメリカ・テキサスA&M大学への進学が決まっています。8月に出発するため、今回が渡米前最後の国内レース。「タイムより順位を狙っていた」ため、展開はレースの流れによって対応しようと考えていたそうで、「誰も出なかったので」前半から先頭に立つ形となりました。「(1周を)53秒で入れれば…と思っていたけれど、2周目(の最後)でラストスパートをかけることができたので、そこは良かったと思う」と振り返り、「課題を見つけることができたし、(勝って)気持ちよく終わることができたので良かった」と笑顔を見せました。

 

 
男子100mには、2016年リオデジャネイロオリンピック男子4×100mR銀メダリストのケンブリッジ飛鳥選手(Nike・東京)が出場。初日に行われた予選を10秒29(+0.3)でトップ通過すると、2日目の準決勝では10秒26(-0.3)、向かい風0.8mの条件下となった決勝では10秒22と3レース連続で大会記録を更新。頭一つ抜けた強さを見せて、優勝を果たしました。

レースへの出場は昨年9月(1日)の富士北麓ワールドトライアル以来。ここ2年、特に昨年は日本選手権決勝で最下位に終わるなど「すごく悔しいシーズン」だったというケンブリッジ選手ですが、冬場のトレーニングで意識してきた正しく、バランスよく力が使えているかという点が「走りに表れてきたように思う」とコメント。「もう一段上の走りができそうな感じ」という好感触も得られたようで、「まだまだこれからだが、最初のレースとしては合格点」と振り返りました。

 

 
最終日に行われた男子三段跳では、好記録が誕生しました。池畠旭佳瑠選手(ひかる、駿大AC・埼玉)が、5回目で16m23の自己新をマークすると、6回目に日本歴代9位となる16m75(±0)まで記録を伸ばし、16m38(+0.4)でトップに立っていた山下祐樹選手(国士舘クラブ)を逆転して優勝したのです。池畠選手の昨年までの自己記録は、東海大3年時(2015年)にマークした16m20で、昨年も同じ記録を跳んでいますが、これを一気に55cmも更新する“ビッグジャンプ”でした。

池畠選手は1994年生まれ。埼玉・聖望学園高から東海大へ進み、卒業後の2017年度からは、埼玉・飯能市内の中学校で非常勤講師を務める傍ら、駿河台大陸上部の跳躍コーチとして学生選手の指導に当たっています。高校3年時の新潟インターハイ(2012年)では優勝者と同記録で2位。その悔しさが大きなモチベーションとなって、「1位を取るまでは(競技を)続けようと思って」、競技を続けてきましたが、近年では全国レベルの大会で“ベストエイト進出の常連”といえる成績を残しており、自己記録の更新こそなかったものの、着実に地力を上げてきていました。ファウルでは16m50台の跳躍も経験していることもあり、池畠選手自身にとっては、驚きよりは「ようやく(出せた)という感じ」の結果だったそうですが、昨年の日本リスト2位に相当する記録をマークしたことによって、一躍、注目株として名乗りを上げる形となりました。

池畠選手が目標に掲げているのは、陸上競技のオリンピック種目で最も長く破られていない17m15の日本記録(山下訓史、1986年)更新。これが実現すれば、待望の“日本一”とともに、東京オリンピック代表の座も、大きくたぐり寄せることになります。

 

 
向かい風1.1mのなか行われた男子110mHは、日本記録保持者(13秒25)の高山峻野選手(ゼンリン・東京)が100m(5位)と掛け持ちで出場しながらも13秒54で快勝。2位には石川周平選手(富士通・東京)が13秒61、3位には学生記録保持者(13秒36)の泉谷駿介選手(順天堂大・神奈川)が13秒80で続きました。ちなみに泉谷選手は走幅跳にも出場し、3回目に自己タイ記録となる7m92(+1.1)を跳んで、優勝を果たしています。また、男子110mHには、昨年、高校3冠(インターハイ、国体、U20日本選手権)を達成し、2月の日本室内大阪大会の60mJHで7秒61のU20日本新記録を樹立している村竹ラシッド選手(順天堂大・千葉)も出場して4位でフィニッシュ。悪条件のなかハイハードルでのU20日本歴代5位となる13秒87の自己新をマークして学生デビューを果たしました。

このほか、男子では、2012年・2016年オリンピック日本代表で、日本記録保持者(8308点)である右代啓祐選手(国士舘クラブ・東京)が十種競技と砲丸投の2種目に出場しました。1・2日目に行われた十種競技では9種目を終えた段階で7035点を獲得して首位に立っていましたが、最終種目の1500mを途中棄権して3位で競技を終了。中1日おいて出場した砲丸投は13m96で8位に食い込みました。十種競技で右代啓祐選手の上位に来たのは、奥田啓祐選手(第一学院高教・東京)と右代啓欣選手(NAKAIAC・東京)。優勝した奥田選手は7487点、2位の右代啓欣選手は7432点と、気象条件が恵まれないなか、ともに自己新記録をマークしています。

男子やり投には、日本歴代2位となる86m83の自己記録を持ち、2016年オリンピック、2015・2017・2019年世界選手権出場の実績を誇る新井涼平選手(スズキ浜松AC)が出場しましたが、強い雨と風のなかでの競技となった影響もあり、記録は1回目にマークした73m99にとどまりました。

上位5選手が大会記録を更新した男子1500mは、今春、東海大を卒業して、横浜DeNA(東京)の所属となった館澤亨次選手が3分42秒67で優勝。このレースでは、高校3年の石塚陽士選手(早稲田実高・東京)が高校歴代3位となる3分44秒62をマークして4位に食い込む健闘を見せています。

 

 
女子1500mには、昨年のドーハ世界選手権10000m代表で今年1月にはハーフマラソンで1時間06分38秒の日本記録を樹立している新谷仁美選手(積水化学・東京)が、7月15日のホクレンディスタンスチャレンジ網走大会に続いてこの種目に挑み、4分21秒77で制しました。ホクレンディスタンスチャレンジでマークした自己記録(4分20秒14)の更新はならなかったものの、「(ホクレン、1日目に行われた予選の走りに比べると)10000mにつながるレースができた」と、まずまずといった様子。女子800mは、新谷選手のチームメイトで、昨年の日本選手権800m・1500mでダブルタイトルを獲得している卜部蘭選手(積水化学・東京)が2分05秒77で圧勝しました。

このほか女子では、400mHは、昨年の日本選手権覇者で、今春から社会人となった伊藤明子選手(セレスポ・東京)が59秒32で優勝。砲丸投では大野史佳選手(埼玉大・埼玉)が2回目に15m88をプットして制し、日本歴代10位、学生歴代6位だった自己記録を5cm更新しました。また、七種競技では、高校記録、U18日本記録、U20日本記録、学生記録を保持するヘンプヒル恵選手(アトレ・東京)が5646点で優勝。日本歴代2位である自己記録5907点(2017年)には及びませんでしたが、左膝を手術した2017年秋以降、膝の痛みや足首の捻挫などで思うように活躍できなかったここ2年の苦境を脱して、着実に復活に向かっている様子を印象づけました。今季は、9月に開催される日本選手権混成で、日本記録(5962点、中田有紀、2004年)の更新を目指しています。


文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真提供:フォート・キシモト


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