2019.12.10(火)その他

【Challenge to TOKYO 2020 日本陸連強化委員会~東京五輪ゴールド・プラン~】第12回 「ドーハ世界選手権」総括と東京五輪への取り組み(2)

第12回 「ドーハ世界選手権」総括と東京五輪への取り組み(1)』から


「惜しかった」種目は東京で結果を


──それでは、もう少し大会の中身を掘り下げていきたいと思います。国際陸連が発表した資料によると、過去の大会の記録をポイント化したランキングではドーハ大会が最高レベルだそうです。確かに世界の若手がどんどん出てきて、レベルが高かった種目も多かった印象ですが、そうした中で日本勢は「十分戦えた」と言えるのか。それとも「まだまだ足りなかった」のか。実際、どう感じられたのでしょうか。

麻場 トラック&フィールド種目に関して言うと、山崎ディレクターがジュニア期の強化育成を担当した時に蒔いた種が、ここに来て実を結び始めている気はします。ダイヤモンドアスリートという育成システムの構築もそうですが、U20世界選手権やアジア・ジュニアといったカテゴリー別の大会に戦略的に臨んできて、そういう場で活躍した選手たちが、今度はシニアの舞台で活躍できるようになってきている、ということだと思います。そういう意味では手応えはありますし、プレイシング・テーブル(順位をポイント化した国別入賞ランキング)で11位という結果も、かなり手応えを感じる材料です。 また、まだまだやれる「惜しい」ところにいる選手たちの8割方がきちんと入賞できるようになれば、その手応えはさらに深まるはずです。やれるとは思ってます。

河野 もっと上に行けそうな選手が多かったのは、今回だけを見れば反省材料ですが、いいように解釈すれば、東京五輪へ向けて「悔しさを抱えながらがんばれる」ということにもなります。冬季に集中して練習を行うための〝貴重な財産〟と捉えて、選手やコーチにはやってほしいですよね。東京五輪で見事に花開けば我々にとってもうれしいことだし、そういう経験でステップアップしていくのが世界の大会だと思います。

山崎 ドーハ世界選手権の記録が良かったというのは、グラウンド・コンディションにもよると思います。中長距離の記録がかなり良かったのは、そのお陰だと思いますね。

河野 それはあります。男子5000mは2人が12分台、10000mは6位までが26分台です。女子5000mも田中さんの前、13位までが14分台で、田中さんも15分00秒01ですから14分台が惜しかった。トラックを周回する種目は、軒並み記録が良かったです。

──エアコンのファンの影響で、1周追い風だったという噂もありますが……。

河野 「追い風だ」と表現するのは、正しくないかもしれない(笑)。でも、グラウンド・コンディションがかなり貢献しているのは確かで、「風の影響をなくしている」と言ったほうがいいのかな。風の影響を考えなくていいから、選手がどんどん先頭に行ったりしてましたよね。

山崎 安定してコンディションが良かったので、評価はきちんとできますよね。追い風がどう、向かい風がどうと風に左右されたパフォーマンスではないので、その時の力がそのまま出たのかなと思いました。あと、委員長が先ほど触れたように、ジュニア期にいろいろな経験をしている選手たちが加わってきて、場慣れしているというか、だいぶ変わってきましたね。選手たちが普通にドーハに来て、パッと試合に出る。やることが自然でした。

麻場 世界選手権という感じではなかったですね。普段着で普通に試合をしていました。

山崎 その感じをすごく受けて、「自分の時代とは違うな」と思いましたよ(笑)。

河野 ダイヤモンドアスリートは本当に自分で動ける選手に成長しています。意図してそう育ててきた、という背景がありますけど。男子走幅跳の橋岡君を見ていて、入国審査でも「こんなにリラックスしていて大丈夫なの」と思うぐらい平然としていました。でも、いざ試合になったら急に顔つきが変わって、アップの時から入り込んでいるのがわかりました。オンとオフの切り替えがうまくて、勝負どころではきちんと力を発揮する。一段階上をいってるなと思います。女子やり投の北口さん(榛花/日大)も、見てるとまったく気後れしていませんよね。

山崎 いいですよね。昔だったらたぶん逆に「ふてぶてしい」と言われていたかもしれません(笑)。

河野 そういう意味では日本代表の雰囲気が変わってきているし、パフォーマンスを発揮できそうな空気を感じますね。強化コーチも代替わりして若手が増えているので、マッチしているのではないですか。

麻場 加えて、若手のコーチは自ら現役時代にそういう経験をしてきている人が多いので、自然体で臨めている感じは大いにありますね。





 

秋開催でピークが合わなかった選手も


──グラウンド・コンディションの良さや海外勢のレベルの高さを考えると、日本選手の自己ベスト・シーズンベストが少ないように感じますけど。

山崎 総括でも話しましたけど、今年は世界選手権の前に多くの日本新記録が出ました。これは、オリンピックを目指す気運が高まったことで、トレーニングの質が上がって、記録につながったということだと思います。過去の記録を分析すると、オリンピック前年かオリンピックイヤーに記録を出している人が、オリンピックで入賞しています。そこから見ると、今季自己新が出ているのは大事なことです。 

ただ、今回は世界選手権が9月末から10月にかけての開催で、時期的な問題があってピークがずれてしまった選手が、少なからずいたのかなと思います。世界選手権の時には少し調子を落としていた、というところは否めなかったです。

河野 そこは致し方ない面はありますよね。

山崎 海外のトップ選手は5月ぐらいからゆっくりスタートして、例年より1ヵ月ほど遅らせている状況で、春は記録を出していない選手が多かったですよね。日本は例年通りに行っていたので、その差が出たのではないでしょうか。結果論ですけど、そこはかなり難しかったと思います。そもそも世界選手権に出場できるかどうかのレベルの選手がたくさんいた中で、記録を出さないといけなかった。そのあたりは受け止めたいと思います。今度はオリンピックで99%以上の記録達成率に到達することが目標になると思います。

麻場 東京五輪の参加標準記録を3人以上破っている種目はまた趣が異なりますけど、そうでない標準記録突破者は、オリンピックに照準を合わせたプロセスを踏んでいってほしいと思っています。

河野 今シーズンを迎える段階で、世界選手権が秋に行われることによってシーズンが長くなるけどどうするか、という懸念はありましたよね。4月に始まって、9~10月までピークを維持するのは大変だ、という話は強化でも出ていました。長距離は駅伝シーズンに向かっていく時期でもあります。結局、クラブチームに所属する選手の成績が良かったのが女子長距離なんです。田中さんと新谷さんですね。チームではなく個々の都合に合わせてやれたのが、あの2人の強みだったと思います。

山崎 日本は国体や全日本実業団対抗選手権など、秋シーズンがあるじゃないですか。なので、秋の世界選手権は日本が有利かなと思っていたんですけど、やっぱり国内の大会とはレベルが違いました。エネルギーが満タンで、なおかつ自分の調子も良くないと、世界大会では順位も記録もなかなか上がってきませんね。やはりシーズンが長かったです。 来年はたぶんそういうことはないでしょう。特に標準記録を突破している選手は、余裕を持って過ごせると思います。標準記録を突破していなくても、このまま行けばワールドランキングで代表入りできる選手がかなり出てきているので、時期的な戦略は立てやすくなります。


第12回 「ドーハ世界選手権」総括と東京五輪への取り組み(3)』に続く…

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