2019.09.19(木)大会

【MGC】女子・前田穂南選手が優勝!レポート&コメント



2020年東京オリンピック女子マラソンの日本代表を選考するマラソングランドチャンピオンシップ(MGC)が9月15日、第103回日本選手権を兼ねて開催されました。コースは、男子同様に明治神宮外苑いちょう並木を発着点として都内を回る42.195km。発着点が、現在建設中である新国立競技場となる以外は、東京オリンピック本番とほぼルートです。2017年から始まったMGCシリーズで進出条件を満たした15名の選手のうち10名が出場し、上位2選手に与えられる東京オリンピック代表の座を競いました。

 

 

女子は、天候晴れ、気温26.9℃、湿度63%(主催者発表による出発時のデータ)というコンディションのなか、男子の出発から20分後となる午前9時10分にスタートしました。

スタートしてすぐに、今大会の出場選手中、最年少である一山麻緒選手(ワコール)が前に飛び出して、リードを奪います。800m付近で後続の8選手が追いつき、一山選手を先頭とする縦に長いトップ集団を形成。最初の1kmを、3分17秒(以下、1kmごとの通過は速報値、5kmごとの通過は大会発表の正式記録による)というやや速いペースで通過し、少し離れて野上恵子選手(十八銀行)が通過していく隊列となりました。野上選手は集団から後れるというよりは、設定していた自身のペースで進めている印象です。その後、先頭集団の後方にいた松田瑞生選手(ダイハツ)が1.5km付近辺りから明らかに距離が開くようになり、一山選手をトップとする1位集団は8名となりました。





先頭集団は、その後も1km3分18秒前後のペースで進んで5kmを16分31秒で通過。9位の松田選手は16分42秒、10位の野上選手は17分17秒の入りとなりました。そして、給水を終えた直後の5.5km付近で、岩出玲亜選手(アンダーアーマー)が先頭集団から後れ始めます。ここまで依然として一山選手がリードしていましたが、6.6km地点で迎える右折に備えて、うまくコース取りする動きを見せていた前田穂南選手(天満屋)が、この右折を利用してするすると2番手に浮上。その前田選手に安藤友香選手(ワコール)がぴたりとつき、小原怜選手(天満屋)、鈴木亜由子選手(日本郵政グループ)、福士加代子選手(ワコール)、上原美幸選手(第一生命グループ)が続く並びとなりました。7.4km辺りから上原選手が後れて先頭は6選手に。その辺りから前田選手が先頭の一山選手に並びかけ、2人で先頭集団をリードしていきます。 

先頭が入れ替わったのは8.3km過ぎでした。一山選手との並走のなかで前田選手が自然と前に出る形で首位に立ち、そのすぐ後ろに一山選手と安藤選手が並び、小原選手、鈴木選手、福士選手が集団の後方に位置する隊列へと変わります。さらに、コースの高低差が安定してきた付近から先頭集団が5km17分前後のペースに落ちるなか、いったんは離れされていた松田選手が再浮上。9.8km地点で先頭集団に追いつき、10kmは、7選手が一団となって33分34秒で通過していきました。トップを行く前田選手は、急なアップダウンのある10~11kmは3分31秒かかったものの走りのリズムは落としておらず、11~12kmは3分23秒で走り、淡々と歩を進めていきます。この間に安藤選手が2番手に上がり、以下、一山選手、小原選手、鈴木選手、福士選手、松田選手が縦長の1列で続くようになりました。しかし、一山選手が徐々に後退し、12.7kmでは集団が上位4選手と一山・福士・松田の3選手の2つに分かれる様相に変化。福士選手はそこで再び上位集団につけたものの、松田選手はやや離され、一山選手はここで一気にペースダウンする形となりました。 

5人となったトップグループは、前田選手を先頭に15kmを50分40秒で通過。前田選手は、ここからの1kmを3分22秒に引き上げ、給水を終えた15.5km過ぎから他選手との差を広げていきます。後続は、鈴木選手が、小原選手と安藤選手をかわして2番手に浮上。16.5km付近で前田選手に追いつき、再び縦に長い集団に戻しましたが、前田選手が17~18kmを3分19秒に引き上げたことで、福士選手が17.3km辺りから徐々に集団から後れだし、17.7km過ぎで安藤選手も後退。さらに18.2kmで小原選手も後れ、前田選手につくのは鈴木選手のみとなってしまいました。 

前田選手と、これを追う鈴木選手の差がやや開いたのは、19.5km過ぎからの給水を終えた直後。日本橋交差点を左折して中央通りに入った辺りでした。すぐに迎えた20km地点を、前田選手は1時間07分27秒(この間の5kmは16分47秒)、2番手の鈴木選手は1時間27分29秒(同16分48秒)で通過。前田選手は中間点を1時間11分05秒で通過し、この時点で、両者の差は、9秒に広がりました。

 



前田選手は、後続との差をさらに広げていきます。25kmを1時間24分08秒(この間の5kmは16分41秒)、30kmは1時間41分20秒(同17分12秒)、35kmを1時間58分52秒(同17分33秒)と、次第にペースは落としていったものの、他選手に比較すると速いペースを維持して、終盤の坂を迎えました。35~40kmは18分26秒かかったものの40km地点を2時間17分19秒で通過して、ここで2位との差を2分48秒まで広げます。表情は苦しそうになりましたが、ラスト2.195kmを7分56秒で走り抜き、2時間25分15秒で優勝。陸上競技の女子選手としては第1号となる東京オリンピック代表内定を決めました。



 

2枚目の代表切符を手に入れたのは鈴木選手。前田選手から後れた20km以降は単独走となり、中間点を1時間11分14秒、25kmを1時間24分46秒(この間の5kmは17分17秒)、30kmは1時間42分42秒(同17分56秒)、35kmは2時間00分53秒(同18分11秒)で通過しましたが、37km過ぎからの長い坂を登る辺りから、次第に身体が前に進んでいかなくなっていきます。40kmは2時間20分07秒での通過となり、この間の5kmのラップは19分14秒に。逆に、3番手でやはり単独でレースを進めていた小原選手が、この5kmを19分08秒と、鈴木選手のラップを上回るペースで走り、40kmを2時間20分40秒で通過すると、この時点で33秒の開きがあった鈴木選手との差をぐんぐんと詰めていきます。小原選手は、最後の2.195kmを8分26秒でカバーする走りを見せましたが、鈴木選手が逃げ切って逆転はならず。鈴木選手が2時間29分02秒で2位、小原選手は、その4秒後の2時間29分06秒でのフィニッシュとなりました。 

4位に食い込んだのは、13km手前で先頭集団から後れた松田選手。15~20kmは17分35秒までペースを落としましたが、17分19秒にペースを上げた20~25kmの間に、安藤選手と福士選手を交わして4位に浮上。最後の2.195kmは、鈴木選手・小原選手より速い8分08秒でカバーし、2時間09分51秒でフィニッシュしました。また、5位には、スタート直後から集団にはつかず、自身のペースでレースを展開していった野上選手が2時間31分14秒で続きました。25km以降は落ちてくる選手を1人ずつかわして順位を上げていく粘りの展開を披露。特に35~40kmは18分29秒、最後の2.195kmは7分53秒と、ともに優勝した前田選手に次ぐラップタイムを叩き出し、終盤の強さを印象づけました。



 

 

 

【女子代表内定者コメント】

◎前田穂南(天満屋)
優勝 2時間25分15秒

優勝を狙っていたので、すごく嬉しい。たくさんの応援があったことが、とても力になった。

今回のレースは自分で「しっかり行く」と決めていた。不安もなく、自信をもって最後まで走ることができた。自信を持つことができていたのは、30kmや20kmの変化走で、最後の1kmをスピードの切り替えをする練習を何度かやっていて、最後の1kmで3分を切ったり3分10秒を切ったりできていたから。(そういう)スピードの切り替えができていたことが、すごく自信になっていた。 

また、去年の大阪国際マラソンでチャレンジするレースをしたことも自信になっている。自分がいろいろな展開の走りができるということがわかったことが、今大会のレースにつながっていると思う。 

レース中は、ペースのことはあまり気にしていなくて、自分の感覚で走っていた。(20kmから独走になったが)自分が仕掛けたつもりはなく、いつの間にか後ろの選手がいなくなっていた。(そこから)誰かが来るかなと思って、仕掛ける準備はしていたが、誰も来なかった。 

(一人旅になってからは)「とりあえずリラックス、リラックス」と思いながら走っていた。正確な距離はよく覚えていないが、30km以降くらいからきつくなってきて、なかなかペースが上げられなかったので、少し不安もあった。終盤の上り坂は、練習でけっこうクロカンなどを走って、きつい思いをしてきていたので、そのことを思い出しながら走った。ラストは、けっこうきつかったが、しっかりとゴールテープを切るという気持ちで走った。ゴールした瞬間はほっとした。 

「マラソンでオリンピックに出て、世界で戦いたい」という強い気持ちがあったので、今まで、ずっとその思いで練習を続けてきた。今大会、優勝して、オリンピックの切符を取ることができたので、また気持ちを切り替えて臨みたい。世界で戦えるように、金メダルを目指して、練習に取り組んでいきたい。

 

 

◎鈴木亜由子(日本郵政グループ)
2位 2時間29分02秒

まずは、(五輪代表に内定する)2位を確保できたというところでは、ほっとした気持ち。しかし、かなり後半苦しい走りになってしまい、課題の残るレースになってしまった。2回目のマラソンということで、今回、マラソンの怖さを知ったので、この結果を受け止めて、オリンピックでは納得のいく走りをして、しっかりと勝負できるように気を引き締めて頑張りたい。 

前半が思っていたよりも速いペースで進んだので、自分の感覚として「ちょっときついな」というところがあった。(20kmで前田選手と差がついたときにつかなかったのは)今、ついていくよりは、自分のペースで走っていったほうが、後半脚が残るのではないかと思っての判断だった。それでも後半、本当に苦しくなったので、あのときついていったら2番になれていなかったかもしれない。まだまだ本当に力不足だったなと思う。 

終盤では、脚が動かなくなってきて、「ああ、マラソンって本当に動かなくなるんだな」というのを経験した。初マラソンのときは、後半にスピードを上げられていたので、初めて味わうマラソンの怖さだった。(最後で小原選手に、4秒差まで迫られたが)小原さんとの差はラスト10kmのところで30秒だったので、「これは油断できないな」という思いでずっと走っていた。しかし、最後は(自分の)脚がもう動かない状態だったので、後ろを気にするというよりは、とにかく1歩1歩足を進めるだけという状態だった。後半は本当に長かったが、やはり「オリンピックで戦いたい」という思いが、なんとか自分をゴールまで運んでくれたのかなと思う。 

五輪代表に内定したということで身の引き締まる思いでいる。ただ、今回、スピード持久力という点で課題が残ったので、これからはトラックでのスピードをマラソンに生かせるように練習していきたい。この大会に向けては、継続して練習できたということは収穫だったが、質という部分が欠けていた。まだまだレベルアップしていける余地は残っている。本番は、今日よりも暑いなかでのレースになる。そのなかで、ハイペースで押していって、(他選手を)振り落として、レースを勝ち抜けるような、そういう強い精神力と身体を、この1年弱でつくっていきたい。


文:児玉育美(JAAFメディアチーム
写真提供:フォート・キシモト

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