2019.09.19(木)大会

【MGC】総括会見





日本陸連は9月15日、マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)の結果を踏まえて、尾縣貢日本陸連専務理事、瀬古利彦日本陸連強化委員会マラソン強化戦略プロジェクトリーダー、河野匡日本陸連強化委員会長距離・マラソンディレクターの3氏が登壇して、総括会見を行いました。

会見での各氏の総括と、質疑応答は、以下の通りです。

 

【MGCを終えての総括コメント(要旨)】

◎尾縣 貢(日本陸連専務理事)

今日のレースは選考レース。熱戦ののちに勝負が決定する様子を見ていると、心が苦しくなるような思いだった。選考レースの厳しさや醍醐味というものが、見てくださった皆さまにもよく伝わったのではないかと思う。今日のレースは、東京オリンピックのことを考えると、最高の条件、状況であったといえるだろう。このかなりの暑さのなか勝ち抜いた選手たちは、東京オリンピックでのマラソンでも十分に活躍する選手といえるし、また、(選手たちが繰り広げた)レース展開も、本番に通用する内容だったと考えている。

まずは、このマラソングランドチャンピオンシップの実施に賛同いただき、そして、覚悟をもって積極的に挑んでくれた選手、そしてコーチの皆さんに、この場を借りて改めて感謝申し上げたい。また、このレースを最初から支えていただいた東京メトロはじめ、多くのスポンサーの方々、そして放映いただいたテレビ局の皆さま、事前からいろいろな報道をいただいた新聞各社の皆さま、本当にありがとうございました。

このレースは、テストイベントとしても実施した。東京オリンピック組織委員会の皆さまのほか、支えていただいていただいた警察の皆さま、運営に協力してくだったボランティアの皆さまにも感謝を申し上げたい。そして、このレースでは、40人の選手のために、都内の大きな公道を占有させていただいた。東京都民の皆さまに、心より御礼を申し上げたい。

これで一応、ひと区切りはついたが、これからファイナルチャレンジ、そして東京オリンピックに向かって進んでいく。引き続きメディアの皆さまには、報道をよろしくお願いしたい。

 

 

◎瀬古利彦(日本陸連強化委員会マラソン強化戦略プロジェクトリーダー)

まず、(出場した)40人の選手の皆さんに「ありがとう」と申し上げたい。そして、選ばれた4人の選手、おめでとうございます。

男子は、優勝した中村匠吾選手と2位の服部勇馬選手ともに、見事に後半で勝負を制した。中村選手は、この暑さのなか、最後の2.195kmを6分18秒という素晴らしいタイムで走った。2位の服部選手も6分22秒、3位の大迫傑選手も6分26秒というタイムで走っている。これは相当に速い。こういう上がりをしてくれれば、オリンピックでも通用するのではないかと思っている。大迫選手は残念ながら敗れたが、(ファイナルチャレンジという)次の機会もあるし、また、(ファイナルチャレンジには出ずに結果を)待つという選択もできる。よくコーチと相談して、決めていってほしいなと思う。

女子は前田穂南選手と鈴木亜由子選手が内定した。前田選手は前半からどんどん自分のペースで行き、見事な独走で優勝した。記録は2時間25分15秒ということで、リオ五輪の優勝記録が2時間24分(2時間24分04秒)なので、このペースで行くことができれば、入賞以上の走りが期待できるのではないかと思う。2位の鈴木選手は、前田選手には離されたが、彼女はこれが2回目のマラソン。私の経験によれば、マラソンで本当の力がわかるのは3回目から。3回目となるオリンピックでの走りを期待したい。

女子の前田選手と鈴木選手は、ともに夏のマラソン(北海道マラソン:前田選手は2017年、鈴木選手は2018年優勝者)を経験している選手。暑いマラソンを経験していることが、今回の結果につながったのではないかと思う。

東京オリンピック本番までには、これから11カ月の準備期間がある。まだまだ足りないところもいっぱいあると思うので、ぜひともこれから油断せずに精進していただき、オリンピックを戦っていきたい。

 

 

◎河野 匡(日本陸連強化委員会長距離・マラソンディレクター)

まず、この場を借りて、すべての方々に、このMGCというレースに賛同していただいて、盛り上げていただいたことを感謝し、御礼申し上げたい。選手たちの頑張りには、今も言葉が出ないくらい感動している。特に選ばれた男女2人ずつより、ぎりぎりまで戦って、敗れ去ることになった出場者の人たちに、これからさらに飛躍してほしいという思いも込めて、“ご苦労さん”とねぎらいたい。

これでオリンピック代表内定者は出たわけだが、本当の戦いはこれから。ケニア、エチオピアを含む諸外国勢のレベルは、東京オリンピックまでに、さらに大きくレベルアップしてくると思っている。「メダルを」という目標は大きく持ちたいと思うが、それを取るための戦いは、ここまできた以上に、厳しいものになると覚悟している。

「何をやるか」ということよりも、「やれるべきことのすべて」をやる。今日、選手たちがゴールしたときの気持ちを忘れずに、残された東京オリンピックまでの日々ですべてをやって、8月2日と8月9日のスタートラインにつけるよう準備をしていきたい。

 

 

【質疑応答(抜粋)】

Q:勝敗を分けたポイントをどう見ているか?

瀬古:男子については、(ハイペースで飛び出した)設楽くんは、相当に調子が良かったのだろうと思う。実際に、すごいレベルの高い練習をしていた。人間は、どうして練習でやったことが出てしまう。「ゆっくり行け」といってもできなかったのではないか。ただ、彼が予想していたよりも少し後半で気温が上がっていた。そこが想定外となり最後に失速してしまったように思う。これがもし10℃くらいの気温だったら、あのまま逃げきっていたかもしれない。

中村くんは、残り3kmの地点でスパートしたが、1回(大迫選手に)追いつかれてスパートし、さらに最後でスパートした。あれはすごい。いわば”三段ロケット”。相手が大迫くんや服部くんでは、1回のスパートでは絶対に勝てないと思うのだが、それを3回できたところに勝機があったと思う。また、事前に“4強”と言われていた選手ほどのプレッシャーはなく、リラックスして思うようなレースができたのではないか。ただ、今度はそうはいかない。オリンピックは、逆にマークされることになる。走ることと同時に、心のほうも鍛えてほしいと思う。

女子については、前田選手が序盤から最初から行ってしまった。私は、本当は、あのまま逃がしてはいけないと思うのだが、そのあたりが、まだ女子のレベルが低いところかなと思う。

 

Q:オリンピック本番に向けて、今日のレース環境等、どう分析しているか?

河野:今日は、当初、発表された気象コンディションと、実際のコンディションが違った。事前にどこまで信用するかを、まず考えなければいけないというのが、まず大きな反省点。予報と現実の見極めを我々がきちんとしなければ、本番に痛い目に遭う可能性があることを実感した。

現実に、WBGT(湿球黒球温度:暑さや熱による障害を防ぐために用いられる指標)は、今日は、30度までは行かなかったが、28~29度という状態だったので、ほぼ東京オリンピックのマラソンが実施される午前8~9時くらいのコンディション変化とあまり変わらない状況だったのではないのかなと感じている。もちろん、これよりもっと(気象条件が)厳しくなる可能性もあるが。そういったなかでのレース展開としては、今日の男子の優勝タイムは2時間11分28秒で、中村選手のベストタイムから計算するとだいたい4%くらいの低下率となる。女子に関しては前田さんのベストタイムから見れば3%くらいの落ち方。一般にWBGTが30度前後になるとパフォーマンスは5%落ちるといわれているので、今日の選手たちの頑張りは「(オリンピックで)戦える範囲内だな」と評価している。ただ、先ほども述べたように、諸外国勢が非常に力をつけていることも感じているので、このあたりは、今後、あらゆる可能性を想定しながら準備する必要はある。しかし、ただ、今日のレースの内容自体は、暑さを想定したなかでは、評価できるものだったのではないかと私自身は思っている。

 

Q:MGCのシステムは、今後、継続していくのか?

尾縣:今回のMGCについては、ここまでのところ大成功だと思っている。この制度の導入は、多くの関係者の協力をいただいたなかでできあがったシステム。まず、感謝申し上げたい。

最終的なMGCの評価については、東京オリンピックの男女マラソンが終わったのちにされることだとも考えているが、(基準が)すっきりした点は高く評価できるし、選考としても評価できるものである。ただし、今回の場合は、(自国開催の)東京オリンピックの選考レースだからこそ実現できたという側面もあり、今後もそっくりそのままできるとは思っていない。その仕組みの(良い)要素を、どういう形で、これからの選考に反映させていくか。これ(を確立していくこと)も私たちの課題だと思っている。

 

Q:MGCの導入が強化に果たした役割は?

河野:レース後、全員ではないが、男子の中心に感想を求めたところ、「ここにいることを誇らしく思った」「応援してもらうことをありがたく思った」という答えが返ってきた。また「沿道からの応援が、ほぼ切れ目なくあったことに驚いた」という言葉もあった。また、スタートしていく選手の姿、ゴールしてくる選手の姿を見て、手前味噌ではあるがつくってよかったなとしみじみ感じた。

しかし、これを本当の意味で強化につながるようにしていかなければ…ということも、そのときに改めて思った。専務も述べたように、今後もすべて同じ形でやることはできない点は、背景から見て当然といえる。ただし、強化と選考がうまく連動したこの状況を、さらに進化させることができるかどうかは、逆に我々サイドの課題でもある。選手たちの声も聞きながら、そういったことにチャレンジしていきたい。

 

瀬古:4年に1回、こういう緊張感のなかで走れるというのは、選手にとっても指導者にとっても、本当に貴重なこと。このことが、強化に大きくつながっていくのではないか。こういう“絶対に負けられない”というようなプレッシャーのなかで競技することは、人間的にも競技的にも、ものすごく成長につながる。これまで、なかなかできなかったことだが、今回、こうしてできたことによって、日本のマラソンが絶対に強くなるなと確信した。こういうことを、これに近いことを、これからもやっていってもらいたいなという思いがある。

 

文:児玉育美(JAAFメディアチーム)


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