2019.08.29(木)委員会

女性指導者のためのコーチングクリニック【1. 実技講習】



日本陸連では、委員会組織として“指導者養成委員会”(旧普及育成委員会)を設置し、指導者の養成に、より力を注いでいます。2019年2月には、女性指導者に特化したコーチングクリニック「第25回JAAFコーチングクリニック」を、広島修道大学(広島市)において開催しました。このコーチングクリニックでは、企画・運営面を、加盟団体と共同で開催する初の試みが採用されました。タッグを組んだのは、広島陸上競技協会(以下、広島陸協)。『RIKUJO(陸女)』という女性推進プロジェクトを展開するなど、すでに日常的な組織運営において多くの女性関係者が積極的に活動していることで知られる協会です。

天候にも恵まれた当日には、中国・四国地区や九州方を中心に、全国から48名が参加。午前中に3種目の実技講習が行われたあと、午後には2つの講習に加えて、参加者全員で取り組むワークショップを実施されるなど、盛りだくさんのプログラムとなりました。

ここでは、その模様をご紹介します。

 ※本文中の内容や関係者の所属等は、実施された時点の情報です。

取材・構成、写真/児玉育美(JAAF メディアチーム)

 

 

1.実技講習

午前中は、陸上競技場で、短距離、跳躍、投てきの実技講習が行われました。
講師を担当したのは、吉田真希子氏(東邦銀行、女子400mHオリンピック強化スタッフ、女子4×400mR強化コーチ)、近藤高代氏(近江高校、女子跳躍オリンピック強化スタッフ)、成瀬美代子氏(成瀬鍼灸治療院、投てきU20オリンピック強化スタッフ)の3氏。講習は、受講者を3グループに分けて、各講習を45分のサイクルでローテーションしていく形で進められ、受講者たちは、自身が実技に取り組みながら、指導を行う上で必要となる知識やポイントを学んでいきました。




 

◎短距離の指導法

吉田真希子(東邦銀行、女子400mHオリンピック強化スタッフ、女子4×400mR強化コーチ)

女子400mHをメインに取り組み、日本人初の56秒台、55秒台突入を果たして日本記録を55秒89まで更新して世界選手権に出場したほか、4×400mRでも日本代表チームを牽引し続けてきた吉田氏。現在は、東邦銀行女子陸上競技部のコーチを務める一方で、日本陸連オリンピック強化スタッフ(400mH)として活躍。さらに、昨年末からスタートした女子リレー特別対策プロジェクトでは、女子4×400mR強化コーチの重責を担っています。「走るということは、すごくシンプル。いかに地面に力を加えて、それをもらって弾んでいくこと」と述べた吉田氏は、走りを「グイ・グイと進んでいく加速の局面」と「ポン・ポンと弾んでいく加速を終えてからの局面」の2つに分け、「弾む」「加速する」の順にポイントを紹介していきました。

 
<走りの要素が異なる2局面>
・走りには、「加速の局面」と「加速を終えてからの局面」があるが、そこには全く違う要素がある。スタートからの加速のときは、筋力を使いながら少し屈伸系の動きを使っていくが、後半になってくると、逆に屈伸系ではなく1本の棒のように弾んでいくようになり、なるべく緩衝しないことが中心になってくる。
・指導する年代によって違いは出てくるが、屈伸系の動き(加速局面)から始めると、その感覚が残ってしまいがち。このため、指導する場合は、最初に「弾む」ところから始めていくようにしている。
・すべてにおいて共通して大切なのは、力をうまく伝えられる姿勢を常に意識すること。「白樺のポーズ」で正しい基本姿勢をつくる。

 
<弾む>
・足を下ろす:空き缶を上から踏み潰すイメージで足を下ろす。このとき、ハムストリングスに力が入ってしまっていると、足の下りてくる位置が変わってくるので注意。力が入ってしまっている状態、力が入っていない状態の両方を経験させ、違いを実感させてやると理解しやすい。
・空中で脚を「ポン」と入れ替える:支持脚のお尻(の筋肉)を使って重心を移動させ、反対側の脚に乗り込んでいく。下ろす足が地面に着く前に、反対側の脚が前に来ていることが大事。これらの動きを、「ポン」と表現する瞬間で、一気に行う。指導の際には、重心が接地した側の足に乗ったときに、次の動作につながる姿勢がとれているかをチェックする。また、頭の位置が後方に残っていないか留意させる。
・空中で脚を入れ替える動作を「ポン・ポン」と2歩連続で行う:1歩目を終えたときの姿勢がきちんととれていないと、2歩目はうまく乗り込んでいくことができないので、そこを意識させる。
・この「ポン・ポン」を連続させて走る:空中で脚を入れ替えて緩衝せずに走っていく。少し助走をつけてやると走りやすい。このとき、できるだけ接地を短く、空中に長くいられるように。「熱い砂浜の上を走る」など想起しやすいたとえを出して、選手にイメージさせてやる。
・接地する脚を空中で追い越す側の脚の動き:速く動かせるように膝を折り畳む。足の軌跡が低いところを行くと接地が早すぎてつぶれてしまう。いったんしっかりと引き上げることを意識させてやるとよい。
・つま先を上げた状態のまま膝を曲げて足を真上に引き上げる動作:実は、引き上げる脚自体より、支持脚のお尻に力が入っていることがすごく大切。これは正しい姿勢で行えていなければできないので、まず、姿勢を意識して行う。
・「空き缶を真上から踏み潰すような足の下ろし」と「反対側の脚(もも)を地面と平行のところまで引き上げて持ってくる」の両方を意識して走る。

 
<加速する>
・前脚を最も力を発揮できる角度(垂直跳びを行う際の予備動作で身体を沈ませたときの脚の角度)に曲げて、もう片方の脚を後方へ下げ、上体を脚の付け根で折ってスタート姿勢をつくり、お尻の筋肉を使って「グイ」とまっすぐ押し出すようにして前に飛び出していく。このとき、スイングするもう片方の脚(後方へ下げた脚)で方向を定めてやる。
・前に飛び出して接地する足は、次の動作の際に自分で「グイ」と押せる場所に接地していくことが大切。まず、1歩だけで「グイ」と飛び出すことをやってみて、それができたら2歩続けて「グイ・グイ」と行ってみる。このとき、アゴを引いた状態で頭の位置を保つことを意識させる。
・スタート局面での留意点:①しっかりと筋肉を使っていく、②(支持脚と)反対の脚を利用して身体を前に進ませていく、③アゴをしっかり引いて力が加わるような頭の位置を保ち、走っていく、④腕振りは円運動なので接線方向に力を加えていくことを意識する。


<まとめ>
・加速局面の走りから加速が終わったあとの局面の走りまでを、トータルで50mほど走ってみる。「グイ・グイ」と加速させていき、上体が起きてきたところから「ポン・ポン」と弾んで走っていく。 




 

◎跳躍(棒高跳)の指導法

近藤高代(近江高校、女子跳躍オリンピック強化スタッフ)

跳躍(棒高跳)は、前回に引き続き近藤氏が指導に当たりました。女子棒高跳元日本記録保持者(4m35)で、オリンピック、世界選手権などの代表経験を持つ近藤氏は、2011年に第一線を退き、2012年度から近江高校(滋賀)の教員となり、顧問として陸上競技部の指導に当たっています。
冒頭で、「棒高跳は、なかなか経験する機会がないなか、私は“なんだろう? めっちゃ、面白そう”とやってみたのがこの競技を始めるきっかけになった。ぜひ、実際に触れてみて、その面白さを知ってほしい」と話した近藤氏。「中学校の女子も、もう何年か先には全日本中学校選手権にも入ってくるのではないかといわれているし、小学生などの年代でも“棒遊び”の形でいろいろなことができる。ぜひ、活用していただきたい」と述べ、受講者にポールを扱う感覚を体験させながら、指導していく上での留意点を解説していきました。

 
<ポールを持って走る。踏み切ってぶら下がり、ポールで漕いでみる>
・ポールの持ち方(右利きの例、以下同じ):右手は下から、左手は上から持ち、骨盤の(右)横で保持する。持ち方や持つ場所によって、重量感がかなり違ってくる。
・棒高跳で一番大事なのでは、ポールをボックスに突っ込んだときに、いかに早くマット側へ返すかということ。突っ込むまでの助走では、ポールを保持して走るために強靱な体幹が必要である。
・ポール走:まずポールを保持した状態で走ってみる(重すぎて保持できない場合は、短く持ってもよい)。
・身体の正面にポールを置き、左足で踏み切ってポールにぶら下がってみる。
・右手の握りを、こぶし1つ分高い位置に上げて、助走をつけて左足で踏み切り、その踏み切りと同時に、ポールにぶら下がって前へ進んでいく:ここで大切なのは、しっかり踏み切ること。
・身体の正面にポールを保持し、踏み切ってポールを「漕ぐ」動作を行う:船頭が棒で船を漕ぐイメージ。ずっとポールに力を加え続ける。

 
<砂場での突っ込み動作>
・握りの位置をさらに高くして、砂場で突っ込み動作を行う。握りの位置を上げることによって、もっと空中に浮く感触を得ることができる。初心者の場合は、ボックスという限られた位置にポールを突っ込むこと自体が難しく、本来ならスピードを高めたい踏み切り直前の助走の最後で減速してしまいがち。砂場を利用することで、その恐怖感を和らげることができる。
・砂場では、ポールをどこにでも突っ込めることができるが、ここで留意したいのは踏み切り位置。棒高跳における踏み切り場所の最適なポジションは、ポールを持っている上の手(右)の真下というのがベーシックなパターン。世界クラスのトップ選手になってくると遠いところから踏み切れるようになるが、走力や筋力のない選手がそれを真似ようとするとうまく踏み切ることができない。初心者が砂場でポール遊びをする段階では、どこでも踏み切っていいが、踏み切り位置は上の手の真下になるようコントロールしてやってほしい。
・右手をこぶし4つ分上げた位置で握り、頭の上でポールを両手で保持し、助走をつけて左足で踏み切る。このとき指導者が踏み切り場所でサポートに入り、方向性などをコントロールしてやることで、怖がらずにしっかり踏み切ることを選手が意識できるようにするとよい。また、砂場は耕しておけば軟らかいが、足の着き方によっては捻挫する恐れがあるので留意を促す。
・さらに身体を浮かせたい場合は、握りの位置を5~6つにして、助走スピードを高めて踏み切るようにする。棒高跳では中途半端が一番危険。思いきってやったほうがいい。
・砂場で踏み切って、空中で身体を返して着地してみる:助走スピードを高めて、踏み切ったあとに身体を反転させる。着地場所にマットを置いてやると恐怖感はより和らぐが、その半面、足で着地すると捻挫の危険性も高まる。マットを設置する場合は、背中から着地するように指導したほうがよい。

 
<棒高跳ピットへ移動しての解説>
・棒高跳ピットやボックスの構造、アップライトについての説明。
・ポールチェンジの判断の仕方:跳躍が流れた場合、ポールを硬いものに変えていく。硬いポールを使えたほうが記録も上がるが、体力や技術、スピードなど、より高い能力が必要となる。指導者は選手の助走や跳躍、気象条件などから判断して、ポールを変えたり、アップライトの位置を変えたりすることを助言し、調整していく。ここが棒高跳の難しさでもあり、面白さでもある。




 

◎投てき(円盤投)の指導法

成瀬美代子(成瀬鍼灸治療院、投てきU20オリンピック強化スタッフ)

投てきを担当したのは、現役時代に中学のころから円盤投に取り組み、各年代ごろにトップとして活躍。2000年に日本歴代2位(当時)の56m51をマークしたほか、1994年広島アジア大会銅メダル、日本選手権5連覇などの実績を持つ成瀬氏。引退後、ドイツでコーチングを学び、2007年世界選手権、2008年北京五輪はドイツ代表選手のサポートを行った経験も持っている人物です。
「投てき種目はいろいろあるが、すべてに共通しているのは、“足の力を上手に使う”ことが大切であるという点。“投てきは脚で投げる”などともいわれているが、脚力をはじめ、全身の力をいかに投てき物に伝えて投げることができるかが大切。今回は、その身体の使い方をぜひ覚えてもらいたい」と、さまざまな種類のメディシンボール投げトレーニングを紹介したほか、日常的にあまり経験することのない「ターン」が用いられる円盤投を解説。ターンの仕方や練習の方法などについて触れました。

 
<メディシンボールを使った投運動>
※こうしたメディシンボール投げは、ウォーミングアップの1つとして用いてもよいが、ウエイトトレーニングのあとに行うと、ウエイトトレーニングで鍛えた筋肉を実際の投げる動きにつなげていく効果もある。
※どの運動を行う場合も、腕だけで投げるのでなく、全身の力をうまく使って投げるように意識する。力を最大に伝えていくためには「姿勢」が非常に重要。
・オーバーヘッドスロー:両手を伸ばしてボールを掲げた状態から前方へ投げる
・バックスロー:後ろ向きになり、身体を大きく反らせるようにして両手で後方へ投げる
・タッチ&スロー:1歩前に置いたボールを、両脚跳びで踏み込んでボールを拾い、両手で前方へ投げ出す
・後頭部に保持した状態からの直上投げ:ボールを後頭部(首の後ろ付近)に保持して、クォータースクワットをする要領で腰の位置を下げて勢いをつけ、真上に投げ上げる
・後頭部に保持してからのバックスロー:ボールを後頭部(首の後ろ付近)に保持して後ろ向きになり、両手で斜め上の方向へ投げ出す
・両足で挟んで前方へ投げる:ボールを両足のつま先で挟んだ状態から、跳び上がってボールを前方へ飛ばす
・両足で後方に投げ上げボールをキャッチ:ボールを両足のかかとで挟んで立った状態から、跳び上がってボールを背後へ蹴り上げるように飛ばし、そのボールをキャッチする。
・スタンディング投げ:ボールを砲丸投のスタンディング投げの要領で投げる。このとき、構えた肘は肩のラインとまっすぐになるように、上体が折れないように意識する。また、投げ出しは脚から。右脚(右投げの場合)を曲げて踏ん張って力を蓄えた状態から、伸び上がるようにして前方へ動かしていき、その力を利用してボールを押し出すイメージ。最初はひねりの動作を入れずに、横からまっすぐに投げ出すことから始めるとよい。

 
<円盤の投げ方>
・円盤について:女子の円盤の重量(1kg)。円盤の持ち方(指の第1関節をひっかけるようにして保持する)、投てきの際、どのように手を離れて飛んでいくかを説明。
・チューブ円盤:自身は円盤投を始めた導入段階で、先生が自転車のチューブに砂を詰めてつくった「チューブ円盤」を使用して、振り切り動作、投てきなどを行っていた。
・円盤は、サークルの中で1回転半のターンを行って投げる。このときターンの足運びが大切。直線を引いて、その上を移動していく練習をすると、正確な足運びとスムーズな移動を身につけやすい。
・スタンディング投げ→ハーフターン投げ→フルターン投げへと段階を踏んで技術を身につける。
・ターンは大きく回って、円盤にスピードを加える。
・円盤転がし:円盤をボウリングの要領で縦に転がす。転がす前の予備動作でリズムをとると、まっすぐに転がすことができる。
・立ち投げ:円盤を横から投げ出す。だんだん身体のひねりを使っていくことになるが、その時、ひねりだけでなく、いかに「脚全体の力」をうまく使えるかが大きなポイントとなる。


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