日本陸連では、委員会組織として“指導者養成委員会”(旧普及育成委員会)を設置し、指導者の養成に、より力を注いでいます。2019年2月には、女性指導者に特化したコーチングクリニック「第25回JAAFコーチングクリニック」を、広島修道大学(広島市)において開催しました。このコーチングクリニックでは、企画・運営面を、加盟団体と共同で開催する初の試みが採用されました。タッグを組んだのは、広島陸上競技協会(以下、広島陸協)。『RIKUJO(陸女)』という女性推進プロジェクトを展開するなど、すでに日常的な組織運営において多くの女性関係者が積極的に活動していることで知られる協会です。
天候にも恵まれた当日には、中国・四国地区や九州方を中心に、全国から48名が参加。午前中に3種目の実技講習が行われたあと、午後には2つの講習に加えて、参加者全員で取り組むワークショップを実施されるなど、盛りだくさんのプログラムとなりました。
ここでは、その模様をご紹介します。
※本文中の内容や関係者の所属等は、実施された時点の情報です。
取材・構成、写真/児玉育美(JAAF メディアチーム)
>>『1.実技講習』はこちら
2.講習
午後の講習では、2つの講義が行われました。最初に、女性アスリートの指導において欠かすことのできない知識といえる女性特有の問題について、日本体育協会公認スポーツドクターで、文部科学省・国立スポーツ科学センター女性アスリート育成・支援プロジェクトメンバーほか、さまざまな機関で活躍している高尾美穂氏(女性のための総合ヘルスクリニック イーク表参道副院長)が登壇し、「女性特性―女子アスリートの三主徴」をテーマに講義。続いて、麻場一徳日本陸連強化委員長が「女性アスリートおよび女性指導者の育成・強化」というタイトルで、日本陸連が目指している女性アスリートの強化や女性指導者の育成の方向性、2020年東京オリンピックに向けた具体的な取り組みなどの説明を行いました。講習①「女性特性―女子アスリートの三主徴―」
高尾美穂(女性のための総合ヘルスクリニック イーク表参道副院長)「女性に生理(月経)についての悩みを尋ねると、6割くらいが何かしらの悩みを抱えている。また、JISSを利用できるトップアスリートですらも、“生理中は若干トレーニングの手を抜く”というような答えが返ってくる。このように我々女性は生理にすごく調子を揺さぶられる生き物といえる。そう考えたときに、生理の仕組みや、どうしてそんな変化が起きるのかを指導者として知ることは非常に大切」と冒頭で述べた高尾氏は、まず「女性の身体がどのような仕組みになっているのか」を紹介したうえで、婦人科から見る女性アスリートの問題点を、「生理が来ないことが、アスリートにどんな問題を引き起こすのか」と「生理のあるアスリートが直面する問題点」という2つの観点で解説しました。
◎女性の身体の仕組みを知る
<身体のなかで何が起こっているのか>
・男女の違いは、第二次性徴で顕著になってくる。そのなかで最も大きな違いは、女性に初経がやってくること。初経は、急激な成長のピークを迎えた約1.3年後に発来することがわかっている。スポーツによっては、低年齢期から始めることで「十分なエネルギー摂取が得られない状態」が続いて、この急激な成長のピークを迎えられないケースも。その結果、初経が発来しないアスリートが少なからず存在する。
・女性ホルモンのなかで一番大切で、よく知られているのはエストロゲン。卵巣から分泌され、女性らしさのためのホルモンともいわれているが、このほかに、①コレステロールの増加を抑える、②血管を強くする、③骨量を調節する=骨吸収を抑制する、④自律神経の働きを調整する働きなども持っている。閉経を迎えた高齢女性の骨が脆くなるのは③の機能が働かなくなるためだが、これは生理があるべき年代の女性に生理が来なくなった場合(エストロゲンが出ないために)でも同様の状態に陥る。無月経の女性が疲労骨折を起こしやすいのは、ここに原因がある。
・エストロゲンの分泌がピークを迎えると、そのあとに排卵が起きる。排卵が起きると妊娠する可能性があると身体が判断し、身体はその状態を継続させるためにプロゲステロンというホルモンを分泌する。生理前に経験する心身の不調(PMS:月経前症候群とも呼ばれる)は、そのプロゲステロンが原因の1つと考えられている。プロゲステロンはまた、基礎体温を上げるという働きもする。
・排卵後には、プロゲステロンが分泌されて妊娠継続が可能な状態が維持されるが、排卵から10日前後でプロゲステロンが出なくなり、妊娠成立のために準備されていた子宮内膜が排出される。それが毎月起こっている生理である。つまり、生理は、この1つの流れがすべて終わって、最後に起きる出来事といえる。月経異常を訴えて来院する患者は、「今回の生理がいつも違う」と言うが、原因は生理そのものではなく、その生理の前の段階にある。
<身体の状態を把握できる基礎体温>
・身体の状態を把握する手段には基礎体温を計測する方法がある。婦人科医は、基礎体温によって生理前に体温の高い時期があるかどうかを見るが、それは“高温期がある=プロゲステロンが分泌されていた=排卵があった=エストロゲンが分泌されている”と遡って把握できるから。簡易に行えるため、自身で把握する上でも有効な方法といえる。
・エストロゲンは、頭にある視床下部からのフィードバックによりコントロールされている。この視床下部は、ストレスを感知する場所。このためストレスが原因で生理が不順になったり止まったりする場合もある。つまり、女性とって生理が順調に来ているということは、うまく身体が回っているサインともいえる。それだけにコンディションの1つとしてきちんと把握したい。
・正常な月経周期は、25~38日と意外と幅が広い。月経不順といわれるものには、周期が24日未満のもの(頻発月経)、39日以上のもの(稀発月経)があるが、治療が必要なのは、3カ月以上月経が止まっている状態(無月経)の場合。これは必ず婦人科で診察を受けてほしい。また、運動を習慣にしている女性の場合は、15歳までに初経を迎えていることが望ましい。
◎生理が来ないと、何が問題なのか
<無月経はなぜ起きる?>
・トップアスリートのデータによると、約40%が月経異常であると答えていて、全体の約10%の選手が無月経であると答えている。
・無月経は、女性アスリートの三主徴の1つでもある。「十分なエネルギー摂取が得られていない状態」ことから起こり、無月経になると、エストロゲンの働きが悪くなり骨が脆くなる(骨粗鬆症)。また、そもそも十分なエネルギー摂取が足りていない人は、骨を強く保つ栄養素も足りていないということでもある。このように「利用可能なエネルギー不足」「無月経」「骨粗鬆症」という3つの状態は、それぞれに大きく影響し合っている。
・無月経は、BMI(肥満度を示す体格指数。BMI=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)で算出する)が18.5を切ると、有意に生じることがわかっている。BMI17~18あたりで生理が止まっている場合は、「十分なエネルギー摂取が得られていない」ということ。まずは、そもそもの体重を増やす必要がある。
・生理が止まりやすい競技は、フィギュアスケート、新体操、陸上長距離、トライアスロンなど。持久系の競技に取り組んでいる人は、無月経になりやすいことを知った上で競技を続けていくことが必要。
<無月経と疲労骨折>
・大切なのは、「エストロゲンが身体にある状態で競技を続けてほしい」ということ。エストロゲンは骨を強く保つ働きを持っている。これがアスリートにとっては最も大切なエストロゲンの働きといえる。
・本来、運動は、骨の周囲を厚くし、内部をより密にするが、マイナスの変化を及ぼしてしまう可能性があることを知っておきたい。また、骨量を増やすピークは20歳前後でピークを迎える。この時期までに骨量を増やしておかないと、その後は一般的に減少する一方となる。男性の場合は緩やかに減っていくが、女性は閉経を迎えてエストロゲンが分泌されなくなるとがくんと減る。この結果、骨粗鬆症になり、疲労骨折を起こすリスクが高くなる。
・また、疲労骨折を起こすピークは、16歳という早い段階で来ることがわかっている。だからこそ、このピークが来る前に、身体にエストロゲンがある状態(初経発来)を迎えて、骨量を増やしておかなければならない。
・こうした点から、指導者は、「1年以上の無月経は、将来的なリスクにつながる」ことを正しく認識した上で指導に当たり、同時にそれを競技者に伝えていくことが求められる。
・骨を強く保つために大切な条件は、運動をして衝撃を加えることによって骨を強くすること。また、カルシウム(女性は1日650mg必要)、ビタミンD、ビタミンKの栄養素を摂取すること。そして、月経がある年代のうちは、周期に則って月経が到来すること、すなわちエストロゲンが出るはずの年代では、エストロゲンがちゃんと出ていることが大切である。
<改善には時間がかかる>
・無月経の治療は、エネルギー摂取量を増やすことからスタートする。減量によって生理が止まってしまった場合は、減量前の体重に戻すことが原則。このため、対処としては、まずは、食事の指導が最優先となる。
・骨密度の改善には年単位の時間が、また無月経の改善は月単位の時間が必要となる。これらの改善は、まずはエネルギー摂取状態の改善から取り組んでいくしかない。
◎生理が来ていても、問題となる点はある
・選手に調子のいい時期を尋ねると、「生理後」と答える者が多いが、「生理中」あるいは「あまり関係ない」とする者も存在しており、個人差があるといえる。このことから、「自分の調子のいい時期はいつなのか」という目線で、自身の生理周期を眺めてみることを勧めたい。それは、月経周期を変えることで体調のよくなる時期にレースをあてることも可能な時代になってきているからである。逆に、調子が悪い時期を問うと、「生理中」と「生理前」の2つに分かれる。生理中は生理痛が、生理前は月経前症候群(PMS)がそれぞれ原因になっていると思われる。
<生理痛は大きく2種類に分かれる>
・生理痛で練習や学校を休まなければならないほど症状が重い場合は、病気があって生理が重いのか、病気はないけれど生理が重いかを分けて考える必要がある。まずは、一度、婦人科にかかってみることを勧めてほしい。
・病気があって生理が重い状態を「器質性月経困難症」と呼び、代表的なものに「内膜症」がある。この場合、内膜症自体の治療をすれば、生理痛の症状は軽くなる。
・病気がないのに生理が重い状態は、「機能性月経困難症」と呼ばれる。生理時は、筋肉でできている子宮が収縮することによって中身(排出される内膜)が出ていくが、例えば、子宮の発育が十分でないなどの理由により収縮が過剰となり、強い痛み(生理痛)となるケースがある。対処方法は早めに痛み止めを服用して、痛みをブロックすること。経血を見た段階で腹痛が起きていなくても痛み止めを丸2日間服用するようにすると、ほぼ解消できる。逆に、それでも改善されない場合は、婦人科で診察を受けたほうがよい。
<女性アスリートと貧血>
・生理中は血液を失いながら過ごす期間でもあるため、貧血の症状が起きる。貧血とは、血液中の赤血球に含まれるヘモグロビンが少なくなって酸素を運搬する機能が損なわれる状態となること。
・ヘモグロビン値が少ないときの身体の状態は、ヘモグロビン値を小型バスの座席数に置き換えるとイメージしやすい。座席数が12あれば、そこに12の酸素が乗って、心臓1回の拍動で全身に届けることができるが、座席数が6だと心臓1回の拍動で全身に届けられる酸素は6となるため、拍動が2回必要となる。また、ヘモグロビン値が低いと心拍数が多くなるので、長い目で見ると心臓にも負担をかけていることになる。このため、数値を改善する必要がある。近年では、ヘモグロビン値だけでなく、鉄の値、貯蔵鉄(フェリチン)の値がキープされていること望ましいとされている。
・もともとアスリートは、尿や汗によって鉄を失いやすい。また、陸上長距離では接地の際に足の裏で赤血球を踏み潰すことによって起こる溶血性貧血も起こしやすいこともわかっている。女性アスリートの場合では、さらに生理によって血液を失う期間があるため、男性アスリート以上に貧血に目を向ける必要がある。
・フェリチンの値は、若い年代の人のほうが低い。この状態は、貧血という診断を受けた場合には当然治療しなければならない。しかし、一方で、鉄を投与するとパフォーマンスが高まることがわかっているために、貧血と診断されていないにもかかわらず、過剰に鉄剤を摂取するケースが起こって問題になっている。
・鉄も、本来は食事できちんと摂らなければならないもの。つまり、前述した無月経や骨量の問題と同様で、食事が非常に大事であるということ。一方で、1つの食材から摂取できる栄養素は、昔と比べるとずいぶん減っていることもわかっているので、栄養素は、1つの食物に頼るのではなく、いろいろな食物からバランスよく採っていく必要がある。
<月経前症候群(PMS)と低用量ピル>
・生理前になると、むくむ、イライラする、落ち込む、体重が増えるなどの症状が起きることを総称して「月経前症候群(PMS)」という。これは生理前だけ調子が悪く、生理が来ると症状がなくなることが特徴である。アスリートの場合では、この時期に「精神不安定になる」「集中力が落ちる」点を訴える者が多い。
・アスリートに対するPMSの治療で用いるのは低用量ピル。生理前に「うつ状態が起きる」「緊張が強まる」「涙もろくなる」「イライラする」などの症状がある場合、3カ月の服用で確実に改善することができる。なお、一般人の場合では漢方薬を処方するケースもあるが、これはドーピングの恐れを含むため、アスリートに対する治療では選択しない。
・低用量ピルは、1錠のなかにエストロゲンとプロゲステロンが含まれている薬。これを毎日服用することによって、「身体がすでにエストロゲンがあると錯覚する→エストロゲンのピークをつくらない→排卵がない」という状態を起こす。以前は、避妊を目的として使われていたが、現代では「生理痛が重い」「生理の量が多い」「生理が不順である」「生理前にイライラする」などの治療を目的として使われるようになっている。本当に困っている人の場合は、婦人科に相談し、治療の選択肢にぜひ入れてもらいたい。
<低用量ピルは、コンディション管理に活用できる>
・ピルというと、一般的には、生理をずらすことを目的として出あうことが多い。こうした一定のタイミングだけ服用する場合は、含まれているホルモン量が多く、このために副作用の症状が出ることがある。しかし、継続的に服用する低用量ピルの場合は、それよりもはるかに少ないホルモン量で、生理をコントロールすることができる。
・トップアスリートの例をみると、日本においては約3割が低用量ピルでコントロールするようになっているが、世界を見ると40~80%のアスリートが低用量ピルで自分のコンディション管理をしている国もある。
・ここで言いたいのは低用量ピルを使ってほしいということではなく、「困っている場合は、選択肢の1つに入れてほしい」ということ。低用量ピルを使用するにあたっては、ドーピングと副作用を心配するケースが多い。ドーピングについては、毎年の改訂でチェックする必要はあるものの、日本で手に入るもの、処方されるものに関しては心配しなくていい。また、副作用に関しては、一応症状は起きるが、これは身体が慣れていく期間に生じるもので3カ月くらい経つとほぼ解消する。
◎まとめ
・女性のコンディションは、生理によって大きく揺さぶられるが、揺さぶられ続けるだけの時代ではなくなってきている。生理周期をコントロールすることで、目標とする試合に調子を合わせていくこともできるなど、自分のベストコンディションを自分で手に入れられるようになっている。正しい知識を持って、さまざまな情報にあたって手に入れ、それをうまく選択して活用していく意識を、多くの女性競技者に持ってほしい。
・女性指導者に一番伝えたいのは、自分自身の経験は、必ずしも選手の陥っている状態とは一致しないということ。女性指導者が「私もそうだったから大丈夫」と言ってしまうと、選手が、ほかの誰かに相談する機会を奪ってしまうことになりかねない。それは、男性指導者が「オレ、わからないからパス」と言うこと以上に危険といえる。それだけに、女性指導者は、正しい知識を身につけておく必要がある。
講習②「女性アスリートおよび女性指導者の育成・強化」
麻場一徳(日本陸連強化委員長)麻場強化委員長は、まず、2018年12月に発表された「競技者育成指針」の概要を紹介して、現在、日本陸連がどういう方向性で競技者の育成を進めていこうとしているのかを提示。また、日本における女子アスリートや女性指導者の現状、陸上界における現状を踏まえて、日本陸連が実現させていきたい女性の積極的な参画について話を進めました。さらに、東京オリンピックに向けて新たに立ち上がった「女子リレー特別対策プロジェクト」についても触れ、今までになかった施策を進めていくなかで、新たな風が吹き始めていることも紹介しました。
<競技者育成指針>
・日本陸連では、委員会の垣根を越えてさまざまな部門が協力し合い、「競技者育成指針」というものを定めた。これからの日本陸連の強化・育成活動は、この指針に基づいて進めていきたいと考えている。ポイントは「一人でも多く、少しでも長く」ということである。日本陸連ではこれからの競技者育成の方向性として、「国際競技力の向上」と「ウェルネス陸上の実現」という2つのビジョンを、2017年に掲げた。そうした競技者をどうやって育てていくかを示したものが、この競技者育成指針である。
・指針の設定にあたっては、まず「若年期競技者を取り巻く現状と課題」として、1)国内外の競技会の高度化・低年齢化の影響、2)発育発達の遅速の影響と競技実施・継続率、3)早期に才能(タレント)を見極めることの難しさ、4)普及・育成・強化プロセスの問題、5)陸上競技の指導者、審判員の現状、の5項目にまとめられると分析。これを、解消していくために、「競技者育成の方向性」として、1)陸上競技に接する幅広い機会の提供、2)基礎的な運動能力を適切に発達させるための活動支援、3)多様なスポーツおよび複数種目の実施を奨励、4)他者との競争、記録への挑戦を支援、5)あらゆる年齢区分における質の高いコーチングの提供、6)国際的な競技力向上のための適切な強化施策の実施、の6項目を打ち出した。
・この指針の則った競技者の育成は、「階段を1つ1つ上がっていく」イメージ。競技人生を6つのステージに分け、そのステージごとに、どういうことをやっていけばよいかを、日本陸連として現場の皆様に提示した。今後の強化や育成の施策は、この考え方に基づいて進めていく。現在、中学校の大会、高校の大会、一般の大会等いろいろあるが、この方針に合った形に変えていきたいとも考えている。登山を例に考えるなら、小学校、中学校、高校と、それぞれのステージで目指すべき大きな山はあるのだが、それを登ったあとに次のステージのもっと大きな山に登る道筋が残されているという状態が必要。例えば、中学校で大きな山を登ったら、「次は高校のあの大きな山に登ってみよう」という意識をつくれるような仕組みにしていくということである。
※「競技者育成指針」は、http://www.jaaf.or.jp/development/model/ にてダウンロード可能。また、施行の背景や方向性は、http://www.jaaf.or.jp/development/model/ にて詳細を知ることができます。
<女性の陸上競技指導者を増やす>
・そのためには、女性指導者がもっともっと陸上競技の現場に出ていくことが大切。夏季オリンピックにおける女子選手の活躍の変化を見てもわかるように、日本における女性アスリートの活躍は、大幅に増加している。また、活躍度から見ると、2012年ロンドン五輪のメダル獲得数は、男性21個に対して女子は17個。世界的な評価としては、ほぼ男女同じという位置づけとなっており、球技種目などでは、女子のほうが世界に近い状況も生まれている。
・一方で指導者や役員の数が増えていないという側面も抱えている。ロンドン五輪における女子選手の参加者数が53.2%になったにもかかわらず、JOC加盟団体の役員の9割以上が男性で、女性の役員は4.2%しかいなかった。
・それは日本陸連にもいえることで、なかなか女性のスタッフがつくれずにいる。強化委員会でいえば、強化育成の段階では女性スタッフが増えてきているが、シニアで、オリンピック強化コーチに就いているのは、現在は山下佐知子さん(女子マラソン)1人だけである。今回、2018年アジア大会のオフィシャルのスタッフで現地に行ったのは、その山下さんとトレーナーの宮澤那緒さんの2人だけ。これでは女性のアスリートがのびのびと本番で力を発揮するには足りないと我々は思っている。そういう意味で、女性指導者の皆さんの活躍を、これから期待したいところである。
<東京オリンピックに向けて>
・2018年ジャカルタアジア大会を終えて、東京オリンピックに向けて我々が掲げた競技的な課題として、「銅メダルを金メダルレベルに引き上げること」「4位、5位をメダルレベルに引き上げること」とともに、「女子のレベルを引き上げること」が出た。メダルテーブルを見ると、男子は前回3位から今回1位となっているが、女子は前回の8位から今回は10位に後退している。地元オリンピックを目前とするなかでのこの状況は、なんとかしなければならない。
・2020年東京オリンピックに向けては、国からの命題として与えられている目標「メダル・入賞を1つでも多く」を達成するために、男子リレー、男子競歩、男女マラソンを、メダルを獲得する3本柱として強化に取り組んでいるが、我々独自で、もう1つの目標として「舞台に立つ者(出場者)を1人でも多く」ということを掲げ、理事会の承認も得ている。
・この方針に基づき、4月に行われるドーハアジア選手権には81名を代表として、そのうち女子アスリートは41名を選考することができた。残念ながら、現段階のマラソン以外の女子種目で、東京オリンピックでのメダル獲得を目標に掲げるのは無謀といわざるを得ない。今の時点としては、とにかく1人でも多くの選手がオリンピックの舞台に立ってもらえるような取り組みをしたいと考えている。その1つが「女子リレー特別対策プロジェクト」である。
<女子リレー特別対策プロジェクト>
・このプロジェクトは、いろいろな巡りあわせがあって実現した。まず、バハマで行われていた世界リレーの開催を、バハマの辞退が契機となり日本に誘致することができた。このチャンスを生かしていかなければならないということで、立ち上がることとなった。
・リレーは、日本においては、陸上競技の象徴的な種目の1つ。「リレーがその舞台にいる」ことはインパクトがあるし、陸上競技が頑張っている証明になるということになる。リレーを五輪の舞台に立つことによって、さまざまな種目に波及して、いい循環が生まれることを期待している。
・プロジェクトの展開にあたっては、さまざまな点で従来のやり方を一新させている(詳細は、https://www.jaaf.or.jp/news/article/12300/ をご参照ください)が、「公募型選抜システム」とともに大きな1つといえるのは、4×100mRに信岡沙希重さん、4×400mRに吉田真希子さんを、それぞれリーダーに据えることができた点。これは「女子種目だから」という理由ではなく、今、日本の女子のリレーをオリンピックまで引っ張っていける人材は誰かということを考えたなかで出てきた答え。この2人が中心となって、実績のある周囲のコーチのバックアップを得て、オールジャパンで東京オリンピックへの道を歩んでいく体制を整えることができた。
・こうした形のプロジェクトを立ち上げることができたのは、陸上競技の世界も少しは進歩しているということ。その機運をもっと高めていきたい。プロジェクトでは、4×100mRで9名、4×400mRは9名のメンバーを選抜し、第一段階となる2019年シーズンに向けた活動を進めている。
・これから私たちがやっていかなければいけないポイントは、1)「チーム力アップ」を実現するマネジメント、2)医科学的バックグラウンドの強化、3)代表選考の客観化、明確化、透明化、4)到達地点(目標)およびプロセスの具体化、5)積極的な情報発信(多くの方々から応援していただける取り組み)の5つ。
・今日、ここで皆さんに、強化委員会が、どういうことを考えて、どういうことをやりたいのかということをお話しすることも、その1つ(積極的な情報発信)と思っている。1人の多くの方々に、我々の考えや目指すことを知っていただき、一緒になって応援し、東京オリンピックに向かっていきたい。
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