『第5回 新プロジェクトで挑む女子リレー(2)』から
――合宿としては今回を含めて4継が4回、マイルが3回予定されています。4継としては、今後はどのようにチームビルディングをしていくのでしょうか。
信岡 4継も、結局は先ほど言った現実のデータと向き合わせた時には、間違いなく個人にもつながっていく課題だと思うので、そういったデータを出しながら進めていきます。今回はまだ共有だったり、理解のところで、実際にバトンパスの精度を高めていく作業は、次回の2月くらい。ただ、3月に2回予定していますが、そこでは通し練習など実戦に近いところまでしっかりと仕上げていきたいですね。女子の場合、最後の速度低下のところが距離の短いバトンパス練習だけではちょっと見えない部分があるので。ただ、2月の時点で、仮にですがA、Bチームを作っていかないと精度を高めるところは難しい、と選手たちには話しています。また、まだ可能性を見たいので、コーナーと直線の両方は毎回やって、自分の武器を増やしてもらいたい。〝ここしか走れない〟という選手は、一番手であれば当然問題ありませんが、オーダー編成としてはなかなか難しくなります。いろいろなオーダーが組めるように、意識付けをしていきたいですね。
4度の合宿を経て、シンガポールオープンへと向かいます。どのレベルの大会に出場していくかは少し悩みましたが、4継に関してはセレクションで1人で走る能力を見たように、チーム全体の精度を高めることが先決かな、と。世界リレーで戦うレベルまでもっていかないといけないのですが、上のレベルのチームと競って、自分たちが乱れたら話になりません。だから、チームとしての完成度を高めないことには世界リレーで戦うことも難しいので、大会のレベルを問わず、まずは成功体験を得ることを狙います。私自身、2008年の北京五輪を目指した時は、シーズンの一番最初のリレーが埼玉・上尾での記録会だったんですよね。その時はA、B、Cの3チームで出たのですが、国内の記録会とはいえ、すごく緊張感がありました。データも出されますし、チーム内の競争もありました。自分たちのタイムを上げることが目的なので、別に大会の大きさは関係ない。今、やらないといけない課題を考えたら、1戦目はシンガポールでいいと判断しました。
――マイルは3月末に米国のテキサス・リレーが予定されています。
吉田 実戦的な部分と、あとは本当に足りている、足りていない部分を確認したいという意図があります。目標はあくまでも世界リレーで10位以内ですが、できれば8位以内、ファイナルで走りたい。マイルは決勝に残れなかった場合、残り2枠はB決勝で争います。でも、B決勝で2位以内に入る難しさがあるので、できれば8位以内に入っていきたいです。そうなった時に、なるべく多くの経験を積んだほうがいい。テキサス・リレーは例年、複数チームが3分26秒~ 30秒くらいを出す大会なので、レース構成的に前半からガンガン突っ込んでいくような海外のレース展開を経験していきたいと思っています。これはアジア選手権ではちょっとできない部分。よりレベルの高いところで、自分たちの足りているもの、足りていないものを最終確認したいと思っています。
――4月後半のアジア選手権は、どのような位置づけでしょうか。
信岡 アジアの中で勝つ、アジアで勝負に挑む。そこも、実戦として大事な経験になると思います。
――昨年のアジア大会の4継はバーレーンが42秒73で優勝、中国が42秒84で2位でした。信岡 そこを相手に、どういった戦いができるかということですね。でも、まずは先ほど言った「自分たちのチームを作りあげる」こと。シンガポールでやったことを、アジアの舞台でまた試して、世界リレーにつなげるというかたちがとれるのではないかと思います。
――マイルは、アジア大会金、銀のインド、バーレーンが飛び抜けた存在です。
吉田 今まで勝負を挑んでもなかなか勝てなかったチームですが、まずは勝ち切る。結果を出し切るということもすごく大切なこと。勝てる試合で、しっかり勝っていく、結果を残していくという意味では、アジアの大会で金メダルを狙ってやっていくことがすごく大切です。テキサスリレーはどちらかというと〝チャレンジ〟になると思うのですが、アジア選手権はしっかりと勝ちにいく。勝負どころとして使わせていただいて、その両方を合わせたものを世界リレーで発揮できればと思っています。
ターゲットタイムは 「42秒8」と「3分27秒69」
――その後は、世界リレーに挑むことになります。世界リレーに向けてはターゲットタイムなどはどのように設定されているのですか?
信岡 今回、選手たちに配ったコンセプトのデータの中では「42秒8台」としています。山崎ディレクターからは、100mに換算すれば11秒44の走力だと。ですから、そこが一つターゲットになると考えています。ここからどこまで精度、走力が上がっていくのか、本番までに間に合うのかという問題もありますが、今、厳しい状況であることは百も承知です。でも、先ほどデータとして出した部分は決して実現不可能じゃないと思うんです。ですから、「42秒8」を狙うチームづくりをしたいと思っています。
――現在の日本記録が43秒39ですが、これも、それぞれの個々の走力が出し切れていないという認識なんですか。
山崎 言ってしまえばそうです。そこから冒頭の話なんですよ。低迷とか、低迷じゃない、とかではないのです。だから、力を出し切る、選手の能力を最大限に出させるということが、一番大事。そこに、まずチャレンジする。信岡コーチ、できそうですか?
信岡 11秒44が4枚……。でも今、11秒6前後では何人かいます。個人で世界大会に出るには11秒2が必要ですが、そこを考えたら11秒44なら、1つひとつしっかりとやっていけば届かない範囲ではない。そこが4枚そろえば、42秒8という記録が出せるということなら、挑戦する価値があると思います。
吉田 マイルは図にあるように、高速トラックの日産スタジアムですから、3分27秒69くらいでいかないと、決勝進出は難しいのかな、と。普通に考えて「3分27秒69」は、尋常ではないタイム。今の走力で考えていけば、全員がちゃんと走れた時のタイムは3分29秒をちょっと切るくらいでしょうか。そこから、あと1秒5~6をどうやって縮めるのかとなると、やっぱり、賭けじゃないですけど、低酸素トレーニングを入れて、それぞれの無酸素性能力の向上を図っていくこと。それでも、52秒台を出すのは当然として、51秒台のラップで回ってくる選手が1人は出てこない限り、このタイムに到達するのは難しいのかなと思います。難しさも共有しながら、チャレンジしていく。今はとにかく、やるしかないってところですね。
山崎 あとは、どれだけ上位国が参加してくるかはわかりませんが、逆に出てこなくてラッキーと言っていると、日本がそれでも落ちた場合に、今度はヨーロッパなどでどんどん記録を出されてランキングに入れない可能性が出てきます。ですから、何としてでも10位以内に入らないといけないのです。
――4継、マイルのドーハ世界選手権の出場権は、世界リレーの上位10ヵ国と、2ヵ国以上が出場したレースでの記録によるランキング上位6ヵ国。そして、東京五輪はドーハ世界選手権のトップ8と、2ヵ国以上が出場したレースのベスト2記録の平均で集計するランキング上位8ヵ国が出場権を獲得できます。
瀧谷 世界選手権は、世界リレーで現状のベストを、すべてを出すということ。それで勢いづくということもあるので、この一点絞りです。
山崎 今の状況を冷静に分析して、できること、できないことをちゃんと整理すること。そこが一番大事じゃないですかね。あとは、太田コーチ、前村公彦コーチという〝ブレーン〟もいて、データ面からもさまざまな提案をしてくれています。今回の測定も、彼らが入ってくれて、うまくかたちになっています。ですから、いい流れができているのではないでしょうか。
五輪に出ることは、みんなの思いです。何とかリレーで女子の〝オリンピック選手〟を出さないと。そうすることで、次にもつながります。次のことは、今は考えられませんけど、まずは冷静に、一生懸命に。
瀧谷 継続していくことが大事です。
信岡 まず日本記録ですね。
世界リレーに向けての戦略、4継はチームの精度、マイルは経験を優先
――合宿としては今回を含めて4継が4回、マイルが3回予定されています。4継としては、今後はどのようにチームビルディングをしていくのでしょうか。
信岡 4継も、結局は先ほど言った現実のデータと向き合わせた時には、間違いなく個人にもつながっていく課題だと思うので、そういったデータを出しながら進めていきます。今回はまだ共有だったり、理解のところで、実際にバトンパスの精度を高めていく作業は、次回の2月くらい。ただ、3月に2回予定していますが、そこでは通し練習など実戦に近いところまでしっかりと仕上げていきたいですね。女子の場合、最後の速度低下のところが距離の短いバトンパス練習だけではちょっと見えない部分があるので。ただ、2月の時点で、仮にですがA、Bチームを作っていかないと精度を高めるところは難しい、と選手たちには話しています。また、まだ可能性を見たいので、コーナーと直線の両方は毎回やって、自分の武器を増やしてもらいたい。〝ここしか走れない〟という選手は、一番手であれば当然問題ありませんが、オーダー編成としてはなかなか難しくなります。いろいろなオーダーが組めるように、意識付けをしていきたいですね。
4度の合宿を経て、シンガポールオープンへと向かいます。どのレベルの大会に出場していくかは少し悩みましたが、4継に関してはセレクションで1人で走る能力を見たように、チーム全体の精度を高めることが先決かな、と。世界リレーで戦うレベルまでもっていかないといけないのですが、上のレベルのチームと競って、自分たちが乱れたら話になりません。だから、チームとしての完成度を高めないことには世界リレーで戦うことも難しいので、大会のレベルを問わず、まずは成功体験を得ることを狙います。私自身、2008年の北京五輪を目指した時は、シーズンの一番最初のリレーが埼玉・上尾での記録会だったんですよね。その時はA、B、Cの3チームで出たのですが、国内の記録会とはいえ、すごく緊張感がありました。データも出されますし、チーム内の競争もありました。自分たちのタイムを上げることが目的なので、別に大会の大きさは関係ない。今、やらないといけない課題を考えたら、1戦目はシンガポールでいいと判断しました。
――マイルは3月末に米国のテキサス・リレーが予定されています。
吉田 実戦的な部分と、あとは本当に足りている、足りていない部分を確認したいという意図があります。目標はあくまでも世界リレーで10位以内ですが、できれば8位以内、ファイナルで走りたい。マイルは決勝に残れなかった場合、残り2枠はB決勝で争います。でも、B決勝で2位以内に入る難しさがあるので、できれば8位以内に入っていきたいです。そうなった時に、なるべく多くの経験を積んだほうがいい。テキサス・リレーは例年、複数チームが3分26秒~ 30秒くらいを出す大会なので、レース構成的に前半からガンガン突っ込んでいくような海外のレース展開を経験していきたいと思っています。これはアジア選手権ではちょっとできない部分。よりレベルの高いところで、自分たちの足りているもの、足りていないものを最終確認したいと思っています。
――4月後半のアジア選手権は、どのような位置づけでしょうか。
信岡 アジアの中で勝つ、アジアで勝負に挑む。そこも、実戦として大事な経験になると思います。
――昨年のアジア大会の4継はバーレーンが42秒73で優勝、中国が42秒84で2位でした。信岡 そこを相手に、どういった戦いができるかということですね。でも、まずは先ほど言った「自分たちのチームを作りあげる」こと。シンガポールでやったことを、アジアの舞台でまた試して、世界リレーにつなげるというかたちがとれるのではないかと思います。
――マイルは、アジア大会金、銀のインド、バーレーンが飛び抜けた存在です。
吉田 今まで勝負を挑んでもなかなか勝てなかったチームですが、まずは勝ち切る。結果を出し切るということもすごく大切なこと。勝てる試合で、しっかり勝っていく、結果を残していくという意味では、アジアの大会で金メダルを狙ってやっていくことがすごく大切です。テキサスリレーはどちらかというと〝チャレンジ〟になると思うのですが、アジア選手権はしっかりと勝ちにいく。勝負どころとして使わせていただいて、その両方を合わせたものを世界リレーで発揮できればと思っています。
ターゲットタイムは 「42秒8」と「3分27秒69」
――その後は、世界リレーに挑むことになります。世界リレーに向けてはターゲットタイムなどはどのように設定されているのですか?信岡 今回、選手たちに配ったコンセプトのデータの中では「42秒8台」としています。山崎ディレクターからは、100mに換算すれば11秒44の走力だと。ですから、そこが一つターゲットになると考えています。ここからどこまで精度、走力が上がっていくのか、本番までに間に合うのかという問題もありますが、今、厳しい状況であることは百も承知です。でも、先ほどデータとして出した部分は決して実現不可能じゃないと思うんです。ですから、「42秒8」を狙うチームづくりをしたいと思っています。
――現在の日本記録が43秒39ですが、これも、それぞれの個々の走力が出し切れていないという認識なんですか。
山崎 言ってしまえばそうです。そこから冒頭の話なんですよ。低迷とか、低迷じゃない、とかではないのです。だから、力を出し切る、選手の能力を最大限に出させるということが、一番大事。そこに、まずチャレンジする。信岡コーチ、できそうですか?
信岡 11秒44が4枚……。でも今、11秒6前後では何人かいます。個人で世界大会に出るには11秒2が必要ですが、そこを考えたら11秒44なら、1つひとつしっかりとやっていけば届かない範囲ではない。そこが4枚そろえば、42秒8という記録が出せるということなら、挑戦する価値があると思います。
吉田 マイルは図にあるように、高速トラックの日産スタジアムですから、3分27秒69くらいでいかないと、決勝進出は難しいのかな、と。普通に考えて「3分27秒69」は、尋常ではないタイム。今の走力で考えていけば、全員がちゃんと走れた時のタイムは3分29秒をちょっと切るくらいでしょうか。そこから、あと1秒5~6をどうやって縮めるのかとなると、やっぱり、賭けじゃないですけど、低酸素トレーニングを入れて、それぞれの無酸素性能力の向上を図っていくこと。それでも、52秒台を出すのは当然として、51秒台のラップで回ってくる選手が1人は出てこない限り、このタイムに到達するのは難しいのかなと思います。難しさも共有しながら、チャレンジしていく。今はとにかく、やるしかないってところですね。
山崎 あとは、どれだけ上位国が参加してくるかはわかりませんが、逆に出てこなくてラッキーと言っていると、日本がそれでも落ちた場合に、今度はヨーロッパなどでどんどん記録を出されてランキングに入れない可能性が出てきます。ですから、何としてでも10位以内に入らないといけないのです。
――4継、マイルのドーハ世界選手権の出場権は、世界リレーの上位10ヵ国と、2ヵ国以上が出場したレースでの記録によるランキング上位6ヵ国。そして、東京五輪はドーハ世界選手権のトップ8と、2ヵ国以上が出場したレースのベスト2記録の平均で集計するランキング上位8ヵ国が出場権を獲得できます。
瀧谷 世界選手権は、世界リレーで現状のベストを、すべてを出すということ。それで勢いづくということもあるので、この一点絞りです。
山崎 今の状況を冷静に分析して、できること、できないことをちゃんと整理すること。そこが一番大事じゃないですかね。あとは、太田コーチ、前村公彦コーチという〝ブレーン〟もいて、データ面からもさまざまな提案をしてくれています。今回の測定も、彼らが入ってくれて、うまくかたちになっています。ですから、いい流れができているのではないでしょうか。
五輪に出ることは、みんなの思いです。何とかリレーで女子の〝オリンピック選手〟を出さないと。そうすることで、次にもつながります。次のことは、今は考えられませんけど、まずは冷静に、一生懸命に。
瀧谷 継続していくことが大事です。
信岡 まず日本記録ですね。