2019.07.17(水)その他

【Challenge to TOKYO 2020 日本陸連強化委員会~東京五輪ゴールド・プラン~】第5回 新プロジェクトで挑む女子リレー(1)

日本陸連強化委員会の強化方針を、担当スタッフたちによる座談会形式で説明する本企画の第5回目は「女子リレー」がテーマ。昨年11月末に立ち上がった女子リレー新プロジェクトの核となる公募型セレクションが1月13日、26日に行われ、4×100m、4×400m両リレーの「日本代表候補」が選抜された。その第一歩となる強化合宿が1月25日にスタート。悲願の東京五輪出場へ、その〝正念場〟と言える世界リレー(5月11日~ 12日/横浜・日産スタジアム)に最大の力を注ぐべく準備に入った。女子短距離だけでなく、女子陸上界全体の命運を託された面々に、今後の戦略を聞いた。

●構成/月刊陸上競技編集部

●撮影/船越陽一郎

※「月刊陸上競技」にて毎月掲載されています。



(左から)
瀧谷賢司:女子リレーオリンピック強化コーチ
信岡沙希重:4×100mR強化スタッフ/強化委員会強化育成部委員
吉田真希子:4×400mR強化スタッフ/強化委員会強化育成部委員
山崎一彦:強化委員会 トラック&フィールド ディレクター


女子の〝オリンピアン〟を増やすために


――まずは、女子リレーの新プロジェクトの構想について、改めてご説明ください。


山崎 女子スプリント種目で、1964年の東京五輪以降、個人種目で代表になった選手は2名のみ。福島千里さん(現・セイコー/ 2008年北京100m、12年ロンドン100m・200m、16年リオデジャネイロ100m・200m)と、丹野麻美さん(現姓・千葉/ 08年北京400m)しかいません。女子短距離はオリンピックに出ることすら難しいというのが現状です。なおかつ、2020年の東京五輪には開催国枠はありません。そう考えた時に、リレーしかないではないか、と。やはり、リレーでバトンをつなぐ姿を競技場で見られないというのは寂しいですし、その時点で陸上界全体の敗北ではないかと思いました。

では、何をすればいいのか。時期はかなり遅いとは思いますが、やっぱり何かをやらなくてはいけない。行動に起こすことが大事なので、それがこの「女子リレー新プロジェクト」につながったということです。僕が一番思っていることは、女子は今、とにかく「オリンピックって何なのか」をわかっていないということ。そもそもオリンピックに出られていないから、「オリンピックに出たいです」と言っても、(道筋が)ぼんやりとしています。ですから、本気で世界を目指すということがどういうことなのか、まず選手の「意識を変える」ことが必要だと思うのです。それが、東京五輪で行けるかどうかにつながりますし、その後にもつながるはずです。強化は、世界を目指すとは何かを考えた後にあると思っています。

その意識を、みんなで一緒に変えようと思った時に、長年コーディネーターとして女子短距離をサポートしてきた太田涼コーチ(山梨学大コーチ)から、「セレクションはどうでしょうか?」という話が出ました。セレクションをして、選手たちにもそういう意識づけをする。今までは記録で選ぶことがほとんどでしたが、リレーは種目特性をはじめ、さまざまな要素が加味されます。米国のように強ければタイムの順番でいいのですが、その米国は必ずしもうまくいっているわけではないですよね。チームワークも大事ですし、バトンパスはおそらく陸上競技の中で一番高い精度が要求されます。ちょっとの失敗で大きな結果の差になる種目だと思うんですね。だから、セレクションをして、チームとしてやるという意識を高めたい。そして、評価としてはどうしても普段の競技会のタイムになりますが、日本の良さを出すためにセレクションで違った種目、違った観点から見ていこう、と。以上が今回の趣旨です。





――セレクションの話が出たのはいつですか?

山崎 2018年のシーズン前からずっと話をしていました。瀧谷コーチをはじめ、みんなで「このままじゃいけない」と言うのですが、強化するにもなかなか限界があります。こちらからやるのではなく、やっぱり自分から「オリンピックに行く!」くらいの気持ちでないと、たぶん戦えないと思います。基本的にオリンピックに行っている人って、そうだと思うんですよ。何かを求めて誰かにしてもらうのではなく、自分で行ってやるという人が(五輪に)行くんだと思っています。

でも、女子短距離はそこまでもいっていない状況だと感じていて、このままズルズルいったら何も変わらないし、単に強化しようと言ってもまとまらないと思いました。だから、セレクションをして、コンセプトも明確にする。そして、それを牽引してもらえる新しいスタッフも入れようと考えた時に、信岡コーチ、吉田コーチの名前が浮上してきて、現体制に固まりました。

――近年の女子リレーは北京五輪に4×400m(以下マイル)が、ロンドン五輪には4×100m(以下4継)が出場しましたが、16年のリオ五輪は両種目とも出場を逃しました。女子短距離ブロックとして、この数年の低迷に関しての原因や反省は?

山崎 逆に僕はこの時期が低迷だと思っていません。先ほども言いましたが、64年の東京五輪以降は、まだ2人しか五輪に出てないんですよ。ということは、近年だけが低迷しているわけではなく、成功の評価も失敗の評価もできないと思っております。北京もロンドンも出ただけで、戦ってはいない。男子のように全員が個人で参加標準記録を切って、というレベルで出ているわけじゃないので、運も加味されていたと考えなければいけないと思います。

――瀧谷ヘッドコーチは2012年の五輪後から女子短距離部長を務めておられます。この6年を振り返るといかがですか?

瀧谷 ロンドン五輪後は、みんなが意気消沈していました。4継は44秒25で予選落ちという結果でもあったし、福島さんも100m、200mともに予選落ち。世界に手も足も出なかった意識からか、あの頃は女子短距離としてある意味どん底の時期だったと思います。その後も、選手や専任コーチとの意思統一など、具体的なことがなかなか難しい時期が続きました。限られた予算の中でリレーチームとしての強化もままならず、だったらもう個人でがんばってもらうしかない。でも、福島さんや千葉さんの後、本当は男子のようにつながっていくべきだと思うのですが、それがつながっていかなかった。確かに、2015年の北京世界選手権ではマイルで日本新(3分28秒91)を出しましたが、その後は千葉さんの引退も重なって継続できていません。

女子短距離は案外、意思統一されていないのかな、と。これは、女子全体に言えることかもしれませんが、指導者の意識の問題もあるでしょう。それが日本の女子をストップさせているところかなと思っています。大切なことはみんなが力合わせて、いろんな知識を共有してやれるか。だから、今回の思い切った「公募制選抜システム」は、すばらしいと思います。陸連内でもいろいろと話し、強化委員長の理解もありました。こういうことが、もっともっと前にできていたらよかったと思いますが、〝こういうことができなかった〟ということが、女子が低迷してきた原因かとも思います。

――2000年前後も女子短距離が世界に出ていきました。当時は、男子短距離の初期の頃のように、「まず、リレーで世界に行こう」。そこを突破口に、個人種目でも行こうという雰囲気が高まった時期がありました。信岡コーチ、吉田コーチが現役の頃ですね。

信岡 (代表に)入りたてはそうですね。私は1999年のセビリア世界選手権(4継)が最初。補欠で走れなかったですが……。

吉田 私も代表に呼んでもらえるようになって、世界大会に行こうという頃でした。私は01年のエドモントン世界選手権(マイル)が最初です。

山崎 リレーなら出られる、という雰囲気があったと思います。

瀧谷 一つの原因に、〝リレーありき〟があったと思います。福島さんとはよくその話をするのですが、彼女はやっぱり自分の種目でオリンピックを狙うという意識が非常に高い。でもリレーありき、「4人に入っていたら、日の丸をつけて走れる」という意識は、どこかで「個人で出る」意識の低下を生んでいたのではないでしょうか。自分の種目で上を目指そう、という福島さんの意識にはなかなかならなかったですね。

――お2人は当時、そんなに意識が低かったですか?

吉田 出られればいい、とは……。

信岡 4人に入っていればいい、という意識ではなかったです。結局、私は個人でオリンピックに行けてないわけですから夢物語の範疇かもしれないですけど、200mでオリンピックを目指してやっていました。ただ、同期の石田さん(智子/現・長谷川体育施設監督)とは、「個人では出るくらいだけど、リレーで力を合わせた時に、それこそ決勝に行ったらすごい話。常々は個人だけれども、みんなでそういうところを目指そう」ということは、一緒にやっていたメンバーとは話せていたので、そういう意識では取り組んでいたかと思います。

吉田 私はエドモントン世界選手権の本番は相手にならなかったので、それぞれの種目で世界に出て行くくらいの力がないとこの場では勝負できないから、(課題は)まずは個々じゃないか、と。それぞれの専門種目で日本記録を更新して世界に出て行き、そのメンバーが集まってリレーを組むくらいにならないと、世界では戦えないという話をして解散した記憶がすごくあります。それを(練習拠点の)福島大に帰ってからも、一緒にやってるメンバーにすごく話をして、みんなが個々で世界を目指すところにシフトし、記録が出てきたというところにつながっていった経緯があります。その中で丹野が400mで、久保倉里美(当時・新潟アルビレックスRC/現・同コーチ)が400mハードルでオリンピックや世界選手権に出場することができました。そういう状況が生まれたお陰で、2007年は前年までの日本記録を3秒くらい縮める結果(3分30秒17)につながりました。

だから、チャンス自体はあって、最初のとっかかりはリレーかもしれないですが、それをどう(個人で)世界につなげていけるかは、それぞれの関わり方や取り組み方、そこで何を感じるかだと思います。それがつながっていれば、今のマイルもここまでにはなっていないのかもしれないのですが……。近年は少し、個々で世界を目指している人数が減ったのかな、と。行ける・行けないは別としても、あくまでも個々で勝負していく、準決勝までは必ず進んでいくんだという気概が、各種目の中でなかったかなと感じるところがあります。





――おそらくその頃から全体の出場人数を絞るために、参加標準記録の水準がどんどん上がり、世界との差がどんどん開いていったということもあると思います。今回のこのプロジェクトに、女性2人をコーチとして登用した意図は?

山崎 女性だから、じゃないんです。

信岡 私も最初は女性だから選ばれたと思っていました。

山崎 どうやっても流れが動かないところにきていて、じゃあ流れを変えられるような人は誰だろう、と考えた時に、この2人しかいなかったということです。

瀧谷 誰をスタッフにしようかと考えた時に、思い切ってスタッフも公募制というのもおもしろいなとも思ったのです。ですが、いろいろお任せするために、今、次につなげられるのは誰かと日本全体を見ました。男女問わず、いろんな経験もあり、厳しさもあり、指導実績もありと絞っていった結果、この2人になったのです。

第5回 新プロジェクトで挑む女子リレー(2)』に続く…

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