2019.05.30(木)大会

【ドーハ世界選手権】マラソン代表発表会見レポート&コメント




日本陸連は5月28日、今秋に開催されるドーハ世界選手権マラソンの日本代表選手を決定し、同日夕刻、東京都内において代表発表会見を行いました。その後、代表選手のうち1名が登壇。現在の気持ちや大会に向けての抱負を語りました。
以下、記者発表の概要を、ご報告します。




 【代表選手発表会見】 

1.はじめに:尾縣 貢(専務理事)

原案策定会議、理事会を経て、ドーハ世界選手権マラソン日本代表選手を決定された。MGC(マラソングランドチャンピオンシップ)シリーズの最中は、(9月15日に開催される)MGCとこの世界選手権との期間が非常に短いということで、出場の意思を示す選手がどれだけいるのかという不安を持っていたが、MGC出場権を獲得した本当に力のある選手をエントリーすることができた。本番でも活躍できるメンバーだと思っている。

このメンバーには、世界での舞台を経験して、順位だけではなく、さらに大きく飛躍するような経験をしてもらいたい。代表選手は、瀬古マラソン強化戦略プロジェクトリーダーから発表していただく。





2.マラソン日本代表選手:瀬古利彦(強化委員会マラソン強化戦略プロジェクトリーダー)

マラソン日本代表選手を発表する。なお、補欠については、我々としては4番目の代表という位置づけで捉えている。

<男子>
・二岡康平(中電工)
・川内優輝(あいおいニッセイ同和損害保険)
・山岸宏貴(GMOアスリーツ)
・補欠:河合代二(トーエネック)

<女子>
・谷本観月(天満屋)
・池満綾乃(鹿児島銀行)
・中野円花(ノーリツ)
・補欠:阿部有香里(しまむら)





3.選考に関する補足説明:河野匡(強化委員会長距離・マラソンディレクター)

今回のドーハ世界選手権の選手選考に当たっては、昨年の12月に選考要項(https://www.jaaf.or.jp/files/upload/201812/18_145238.pdf)を作成し、本日の発表に至ったわけだが、選考基準を設けるにあたっては、MGCという新たな仕組みのなかでどれだけの選手が世界選手権にチャレンジできるのか、また、それ以外の選手で戦える方法があるのかという、いろいろな角度から、今までとは違った意識で作成した。選考基準には、1~3の優先順位を設け、さまざまなケースを想定して作成したものの、我々としては選考基準の(1)に挙げた「MGC資格者で選考する★」ことは、当初は想定していなかった。参加意志を示してくれた選手に対して、改めて敬意を表したい。

MGC有資格者のうち、(世界選手権への)出場意思を示したのは、女子は代表となった3名、男子は第4番目の選手とした河合くんを含めた4名全員であった。

男子については、記録的な要素を含めて、二岡くんと川内くんに関しては、選考大会において2時間10分を切り、なおかつ日本人トップまたは優勝争いを含めたレース内容を評価して選出した。3人目としては、山岸くんと河合くんとの差を見出すことになったのだが、記録的なもの、いろいろな要素を比べても本当に差がないという状態だった。2人とも選びたい、(世界選手権で)戦わせたいという思いもあったが、残り1枠という形のなかで、最終的に、我々は35km以降のラップの落ち込みを分岐点として判断させていただいた。やはり世界大会においては35km以降のラップがいかに上げられるか、または保たれるかということが入賞を狙う、あるいは上位を狙うための必要条件となる。その観点から、(選考大会における)レース展開自体は河合くんのほうがより積極的な展開ではあったのだが、「唯一明らかな差」という形で、その1点に絞られたということで、山岸くん、河合くんという順序になった次第である。

女子については、代表となった3名ともにMGC有資格者であり、選考基準に示した通りの選出となった。4番目の選手として選出した阿部さんに関しては、(MGC資格獲得条件を満たすために)惜しくも2秒足りなかった選手。ほぼMGC有資格者と同等という流れのレースをしてくれたということで、十分に4番目の選手として準備をしてもらうことに値するとして選出した。

なお、4番目の選手に関しては、(世界選手権直前の9月15日に)MGCもある。また、(12月以降は)MGCファイナルチャレンジ(以下、ファイナルチャレンジ)もある。MGC出場権は彼らが獲得した権利。世界選手権に向けたマラソンの準備を、どのタイミングまで行うかについては、現場の判断に委ねたいと思っている。強化委員会としては、いろいろな条件を考慮しながら、(補欠解除を)どの地点まで引っ張るかの相談を(当事者たちと)したいと考えている。

また、今回の世界選手権に対しては、当初、MGCを優先したことで、戦えるメンバーが代表に選べるのかという心配もあったが、MGCの仕組みのなかで有資格者になった選手全員が出場することとなった。(世界選手権本番でも)十分に入賞を狙える可能性があるして、自信を持って送り出したい。この選手たちは、世界選手権が終わったあとは、(12月以降に行われる)ファイナルチャレンジに積極的に戦いに来るのではないかと思っている。ドーハ世界選手権では、そういったことや、日本のマラソン界がよりオリンピックを戦えるリハーサルといった意味合いも含めて、戦いたいと思っている。

★ドーハ2019世界陸上競技選手権大会マラソン日本代表選手要項における「3.選考基準」の第1項目の内容を指す:『(1)選考競技会において、その競技会のみの成績によりマラソングランドチャンピオンシップ(以下「MGC」という。)の出場資格を獲得した競技者及び選考競技会参加前に、MGC の出場資格を獲得している競技者のうち、選考競技会においてその競技会のみの成績により MGC 出場資格を獲得できる成績を収めた競技者の中で、各選考競技会における記録・順位・レー ス展開・タイム差・気象条件等を総合的に勘案しつつ、本大会で活躍が期待される競技者。』





4.質疑応答

Q:代表となった男女代表6選手は、MGCには出場しないということでよいか?

河野:はい。MGCには出場しない。


Q:男子4番目の選手である河合選手はMGC有資格であるわけだが、MGCには出場できるということでよいか?

河野:河合選手については、出場意思確認の段階でもMGCに出るという意思はありながら、優先順位は世界選手権出場を上に置いていた。どういう時点でMGCにシフトするかということは、先ほども述べたように現場に委ねたいと考えている。ただし、今の段階は、どちらも準備するということ。そして、(代表となった)3人が確実に出場できる状態となったときに、その後、MGCに注力した調整にしていくかは現場の意思に委ねる。今のところはMGCへの参加意思も示している。


Q:発言のなかで「4人目」という表現がさかんに出ているがこれについて確認したい。特に、来年のオリンピックでは補欠の起用については、これまでにも情報交換等をしていくということはさかんにおっしゃっていたが、今回は現場に任せるところもありながら、東京オリンピックのシミュレーション的なものを、その「4人目」で考えているのか?

河野:(自身が)現場の監督をしていることもあり「補欠」という言葉に、常に馴染まない感覚があったこと。なおかつ、いつ、どこで代表選手に代わるかわからないこと。さらに、今回、(強化内での)会議にもおいても、「もっといい呼び方がないか」と論議されたこともあり、そのへんの経緯も含めて「4番目の選手」という使い方をした。他意はない。

とはいえ、戦いの準備は、東京オリンピックのときも変わらず求めるようになること。そういった意味で、日本チームとして、すべての選手の頑張りに対して、どのように準備できるかという立場として、選手の権利を最大限に担保するのであれば、「補欠」という言い方は馴染まないという思いがある。今後、この言葉をどうにかできないかという課題は、自分の中では持っている。

ドーハ世界選手権はスタートが23時59分。時間的なものは非常に難しいが、今、伝え聞く気象コンディションは、気温は25℃前後で、湿度は60%前後になるのではないかといわれている。これは、東京オリンピックのマラソンの時のコンディションに似通ってくるのではないか。また、湿度については、(4月にドーハで開催された)アジア選手権の際、コース視察もしたが、暑さを感じたらどういうふうな展開をすれば勝負できるのだろうかと考えた。起伏はほとんどないので、(スピードが)速くなるのか持久戦になるのか、または暑熱対策が有効なのか。そういったことも代表選手のコーチ陣や選手と相談しながら、状況に応じては、東京オリンピックで考えている暑熱対策を講じたいとは思っている。ある意味、東京オリンピックのシミュレーションとしても使いたいなと考えている。

Q:代表選手はMGC有資格者で埋まる結果となったが、これは、6人とも、選手たちのほうから「MGCよりも世界選手権出場を」の意思が示されてのことか? 強化のほうから推薦したケースはあったのか?

河野:我々(強化)からのアプローチは一切ない。すべて現場からの意思による。これに関しては、正直驚きがあった。改めて、そういった考え方もあるのだなということを実感した。今回、世界選手権の選考要項は、もし(出場の意思を示す者が)いなかった場合をいろいろと想定してつくったのだが、オリンピックに重点を置きすぎていたという反省はある。日本代表ということ、世界と戦うということに対しては、いろいろな考え方があるのだなということを改めて感じた。


【代表選手記者会見コメント】

続いて、発表された選手のうち、川内選手が記者会見を行いました。メディアからの質疑応答も含めたコメント(要旨)は次の通りです。

◎川内優輝(あいおいニッセイ同和損害保険)

世界陸上4回目ということで、なかなかマラソンで4回選ばれる選手というのは男女通してもいないので、そうした意味で、経験者としてしっかりとした結果を残さなければならないと思っている。自身としては、びわ湖(3月10日:びわ湖毎日マラソン)の結果が出た時点で、90%以上(の確率で)世界陸上は決まったと思っていて、スケジューリングなどの準備は行ってきている。そうした意味では、今日、発表があっただけであって、ドーハへの道はすでに進んでいる。

市民ランナーだったロンドン世界陸上のときには、3秒差で入賞を果たすことができなかった。プロランナーに転向した以上、入賞は最低限果たさなければならないと思っている。ロンドン(世界選手権後)のときには、(日本代表として戦うことに対して)「こんなに精いっぱいやったのに、もう無理だ」と思ったが、しばらくして「あと3秒まで来たのだから、なんとか入賞以上の結果を残したい」という思いがふつふつと上がってきて、日本代表をやめるか、公務員をやめるかとなったときに、公務員をやめるという選択をして今に至っているので、ドーハまでしっかりと頑張っていきたい。

・暑さについて

ドーハでの気温は26~28℃で湿度は高いだろうと思っていたので想定通り。ただ、夜のレースということで直射日光がないので、皮膚の熱が上がってくることはないと考える。ロンドン世界陸上のときも、身体を冷やす工夫はやってきたので、今回も身体を冷やす工夫やウエアなどで清涼感を得るようにしたい。

また、直前の1カ月くらいは釧路(北海道)で合宿を予定しているが、最後の1カ月はドーハの暑さに適応するために、暑い場所に降りてくるつもりでいる。そこで質は落とさないように調整しつつ、しっかり暑熱馴化を進めていくことがポイントになるかなと思っている。

・今回のドーハ世界選手権の位置づけ

プロとして初めて挑む世界陸上になる。そうした意味では、プロとしてのスタートを切る大会で、今年一番のメインとなってくる。そこでしっかりとした結果を残すことで、「ああ、川内はプロに転向して、市民ランナー時代には越えられなかった壁を越えられたな」と思ってもらえるようなレースにしたい。

ロンドン(世界選手権)のときは、市民ランナーとしてできる範囲でほぼ9割以上の練習をうまく消化して臨んだが、残り1割のところで時間的な制約があり、涼しいところで合宿するなどのことができなかった。頭の中で道ができているのに、それに100%は近づいていけないことへのもどかしさがずっとあった。そうした意味で、(プロ選手になった今回は)思い描いていたことに限りなく100%に近づいていくことによって、ドーハでしっかり結果を残せると思っている。

・MGCではなく世界選手権を選択した理由

東京オリンピックはもともとスタート時間が遅かった関係で、ドーハ世界陸上よりも私が戦える可能性は少ないと考えていた。このため、ドーハのスタートが深夜になることが発表された時点で、ドーハ世界陸上に標準を切り替えてスケジューリングをしてきた。結果的に、東京オリンピックのスタート時間が早まったわけだが、(9月15日開催の)MGCに合わせるスケジューリングになっていないので、当初の予定通りにやっていくことで進めてきた。それが日本代表として世界大会で活躍できる道だと思ってやってきた。

・世界選手権後の東京オリンピックについては?

MGCファイナルチャレンジとなる福岡、東京、びわ湖は間違いなく出場する。(出場するのは)3大会のうち1大会になるのか2大会になるのかはわからないが、自分自身が走る以上は、そういう記録(MGCファイナルチャレンジ設定記録:2時間05分49秒)があるわけだから狙っていくし、そういう水準まで高めていくことが大事だと思っている。しかし、本命はやはりドーハ世界陸上。そこで結果を残すことがすべてだと思っている。

・深夜スタートについての対策

まだ机上の空論ではるのだが、ドーハでの23時59分は、日本時間にすると朝の5時59分。1つの仮定として、時差を直さないままドーハを走ってみてはどうかと考えている。朝6時くらいのスタートということであれば、これまでにもオーストラリアのレースなどで経験しているので問題なく対処できる。時差をずらさずに試してみることを考えている。



構成・文、写真:児玉育美(JAAFメディアチーム)

※本稿は、5月28日に行われた記者発表で行われた説明および質疑応答を元に、一部を再構成しています。


第17回世界陸上競技選手権大会はカタール・ドーハにて9月27日(金)~10月6日(日)開催!


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