2019.07.18(木)その他

【Challenge to TOKYO 2020 日本陸連強化委員会~東京五輪ゴールド・プラン~】第6回「競技者育成指針」の策定と運用(3)

第6回「競技者育成指針」の策定と運用(2)』から

 

トランスファーを見越した柔軟な種目設定

山崎 年齢的な区切りの話が出ましたが、種目設定も柔軟に対応した方がいいわけですよ。まだ成長期だと自分がどの種目に合っているかわからないので、ステージ3の中学期、4の高校期には「オリンピック種目にこだわらない種目設定による競技会を開催する」という文言を入れてます。例えば、400mはダメだけど300mは速い、という子もいるのです。その子を大事にしてあげてもいいですよね。運営する側ではなく、競技をやる人たちがどうやって輝くかを考えていく。勝つ喜びを違う種目で味わってもいい。その勝つ喜びをどうやって作っていくかだと思います。

──それが、8月末の全国高校選抜で行われた600mや300mハードルという種目ですね。2020年の鹿児島国体からは少年種目の400mが300mに、400mハードルが300mハードルに変更される予定です。

山崎 確かに煩雑ではあるのですが、選手のことを第一に考えた場合、もしかしたらルールが足かせになっていることもあるのでそれを取り払う、またはルールを変えることによって、その人が輝く可能性はありますよね。今は高校での試みですけど、私はもっと若い頃にやった方がいいと思います。子供たちの遊びって、みんなで集まったらルールを変えるじゃないですか。「今日はこうしよう」とか、「君は小さいからハンデあり」とか。それが原点だと思います。大人が勝手に決めたルールだと、そこに合わない子もいますよね。

──大人も、もっと柔軟な発想が求められているということでしょうか。

杉井 そうですが、そこにエネルギーを注いで「3年目にインターハイで優勝させよう」とか、「ジュニアオリンピックで優勝させよう」と思って準備してきた人が急にはしごをはずされて、怒るのは当然だと思います。結果を出すための経験と蓄積があったのに、それがまったく通用しなくなったら、私でも怒っています。ただ、私たちの見ている景色がすべてではないということにも気づく必要があります。今まで、合宿(オリンピック育成競技者合宿)など育成部としての活動をする中で、「この子はこんな能力を持っていたんだ」という新たな発見がたくさんありました。

 例えば、短距離が専門の選手にハードルをやらせたら、素晴らしい適性があり飛び抜けて強かった。でも、今の種目で結果が出ていますから、コーチも選手もなかなかトランスファーには決心がつかない。競技会で1回やって、結果が出ればまた違うと思うのですが。

森丘 山崎ディレクターと「タレントトランスファーガイド」を作成している時に、「トランスファーの本当の意味は何だろう?」と話したことがあります。言葉のイメージだけで考えると「〝こっち〟から〝そっち〟へ」というようなことになりますが、今後の競技者育成で重要なのは「幼少年期はいろいろな種目を経験して、そこから自分に合ったものに絞っていく」ということであると考えています。ただ今までの競技者の育成や強化プロセスをみても、日本代表選手は、競技間、種目間でトランスファーしている選手が少なくないということを根拠として「トランスファー」という言葉を使っているのですが、杉井コーチがおっしゃたように1つのことにこだわってしまうと、そこから変えるのはなかなか難しいですよね。

杉井 全国高校選抜のサブタイトルは「サマーチャレンジカップ」なんですけど、皆さん気づいてくれていますかね(笑)。高校選抜に限らずU20・U18日本選手権も、大会を運営するに当たっては当然、参加標準記録を設けますね。競技会が適正な人数で運営されるように毎年頭を悩ませているのですが、ある時、記録の有効期限が2週間延びてしまいました。そうしたら、当時の日本ユースで参加人数が2割増えてしまった。理由は、その2週間のうちに新人戦が入っていたのです。

 このように、ただでさえ標準記録を考えるのは難しいのですが、高校選抜はインターハイに入ってない種目のために開催されていましたので、さまざまな工夫が必要になりました。その過程で、今までは参加人数の調整だけに使っていた標準記録を、それではあまりにももったいないな、と考えるようになりました。もっといろいろな要素を組み込んでいけないか。そうすればそれが目標になり、練習の幅も広がるのではないか、と。この標準記録の使い方に気づいたことで、現場の強化の方向が大きく変わってくると思っています。昨年は、まず女子棒高跳の標準記録に100mのタイムも設定して、両方クリアした選手に参加資格を与えることにしたのです。最終的に走力が課題になってくることがその理由です。

 なぜ走力が伸びてこないかを考えた時に、やっぱり道具を使ったバー競技なので、記録の向上にはクリアランスに時間をかける必要に迫られます。また、そこが棒高跳の技術の進歩であり、選手にとっては楽しい時間です。ただ、そうなると走る練習がなかなかできなくなるということにもなります。私たちは、そこに走力が伸びてこない原因があるのではと考えました。「これは走らせないといけない」ということで、標準記録に棒高跳の記録に加えて100mの記録も入れてみました。結果は、一昨年は50人以上の参加者があったにもかかわらず、昨年のエントリーは1人になってしまいました。その選手も「参加者は1人です」と伝えたところ、出場を取りやめてしまい、種目を開設できなくなりました。

 今度は女子棒高跳の標準記録に走幅跳の記録を入れることで、棒高跳と100m、棒高跳と走幅跳といった組み合わせを用意したいと考えています。このように参加資格を満たすための取り組みに幅をもたせ、トレーニングが偏らないようにしていきたい。特に下のカテゴリーはそういう関わり方をすることができれば、試合もうまく強化に使えるのではないかなと、標準記録の設定を考えていた中で、新たな取り組みとして思いつきました。

──おもしろいアイデアですね。

麻場 杉井コーチは本当にアイデアマンで、いろんな発想を出してくれます。また、その種目を決めるに当たっては、自分が思っていることをそのまま「やりましょう」ではなく、研修会で議論して、皆さんの意見を聞いて、よりいいものを作っていこうとされています。

杉井 毎年、強化育成部の研修合宿中に指導者に向けての研修があります。そこで「トランスファーを考えた種目を出してください」と、いろいろ発表してもらったんですね。その提案の1つが、高校選抜で実施したスプリント・トライアスロンです。60m、150m、300mの3種目をやるので、「この子は今100mをやっているけど、400mまで可能性があるね」など発見があり、参加した選手も非常に多くて良かったと思います。

山崎 現場からの声を聞いて、おもしろい取り組みができましたよね。

杉井 男子二段跳と女子四段跳も、技術的課題に対する取り組みとして、指導者研修の中から発案されました。この2種目についても、その後の秋シーズンに結果が出ていますので、やればやっただけの変化はあります。 今後この取り組みに、今まで以上にレベルの高い選手が参加するようになれば、選手のいろいろな能力が引き出されることになると思います。そのためには高校選抜の位置づけを上げていくことと、参加しやすい時期に変更することが課題だと考えています。

麻場 男子110mハードルの高さも、インターハイは一般と同じですが、U20・U18日本選手権や国体はジュニア規格(0.99m)になって、結果として出てきていますよね。シニアにつながってきています。昨シーズン、日本新記録(13秒36)を出した金井大旺選手(当時・福井県スポーツ協会/現・ミズノ)は、まさにその世代ですからね。その流れの1つが、300mや300mハードルになります。

 



 

戸邉選手の成長が1つのモデル

──じゃあ、インターハイのハードルの高さは変えるべきなのか。中学生からの投てき物の重量はどれが適正なのか。今後、規格の部分はいろいろ議論の余地がありますね。

山崎 指針では「国際競技力の向上」が一番のビジョンに挙げられていて、そのためにどういう育成をすべきかがここに盛り込まれています。適正というのは難しいのですが、常に適正を求めて種目設定をするのが大事だし、変化も必要だと思います。その変化の中で、育成の〝完成版〟がオリンピックに出たり、メダリストになることだとしたら、〝完成版〟の選手を科学委員会が分析し、データを出す。そこから得られた知見として、棒高跳に必要なのはやっぱり助走のスピードだとなれば、どういうふうにそのタレントを育成するかの方向性がわかります。

 高校選抜でやっていた種目は、本当にチャレンジ。出る人もチャレンジ、私たちもチャレンジです。いろんな種目を柔軟に考えていって、「これは良さそうだ」というのを採用していくしかありません。

──2019年度の高校選抜、U20・U18日本選手権で、新たに取り入れる種目はありますか。

杉井 種目の変更としましては、U18で300m、300mハードルを実施する方向で検討しています。オリンピック種目ではない種目となると、標準記録の設定が非常に難しくなります。300mは、300mを標準記録にできないので、こちらで求める能力を標準記録として設定しているところです。あとは、参加人数のコントロールをどうするかが課題です。

 その上で、我々としては選手の身体を守ることもしっかり考えていかないといけないと考えています。したがって、昨年の全中の100mのように一次予選、二次予選、準決勝、決勝と4本の設定はとても看過できない状況です。しかし、中体連の先生方の発想としては、エントリーしてきた選手は同じ条件で扱ってあげたいということでそうなったと理解しています。ただ4本走るレースが、果たしてその年一番のスプリンターを決めるものだったかどうか。体力がなかったら4本走れませんからね。こちらとしては、そういうラウンド設定もにらんで標準記録を設定したいと思っています。

──適正人数は予選、準決勝、決勝の3ラウンドですか。

杉井 いや、予選、決勝です。その代わり、走るチャンスを増やすためにA、B決勝を設けます。それならば、2レース以内で終わります。

──最後に、強化委員長にうかがいます。この指針が動き出して、来年の東京五輪、さらにその先を見据えて、どういう舵取りをしていったらいいのでしょうか。

麻場 強化としては、この育成指針に基づいた施策をどのように整備していけるのか。競技会もそうですし、選手育成のプロセスにどうやって関わっていけるのかが大事になります。これからというより、これまでもそうなのですが、エビデンスに基づいて進められるかどうかが選手のパフォーマンスに関わってくると思いますので、そのへんをきちんとやっていきたい。

 それと、どう発信していくかがこれからすごく大事になってきます。その点もよく考えながらやっていければいいと思いますね。東京五輪まで今やっているプロセスをきちんと踏んで、その延長線上に何を作れるか、ということではないでしょうか。

──ちょうどこの時期、ヨーロッパから朗報が飛び込んできて、男子走高跳の戸邉直人選手(つくばツインピークス)がIAAF(国際陸連)主催の世界室内ツアーで総合優勝を果たしました。

麻場 快挙ですね。まさしく我々が目指す1つのモデルです。ここ何年か低迷していたけれども、きちんとエビデンスを固めて、信念に基づいて、粘り強く海外でチャレンジしてきました。山崎さんも「戸邉選手のようなチャレンジが大事なんだ」と、ずっと言ってましたね。

──裾野を広げるためには、子供たちが憧れる頂点のシンボル・アスリートが必要です。男子短距離の選手たちに続いて、跳躍でもそういう選手が出てきたことがうれしいですね。

麻場 あとは発信です。メディアの皆さんにも協力していただいて、彼のパフォーマンスの価値を広く国民の皆さんに広めてもらえるといいですね。

 

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