2月17日、第102回日本選手権男子・女子20km競歩が、9月下旬に開幕するドーハ世界選手権の代表選考会を兼ねて、兵庫県神戸市の六甲アイランド甲南大学周辺公認コース(2.0km)で開催されました。
実績を持つ選手が多数出場した男子は、前回、大会史上初の4連覇を達成した髙橋英輝選手(富士通)が、残り500mを切ったところでスパート。世界競歩チーム選手権金メダリストの池田向希選手(東洋大学)を1秒差で抑えて1時間18分00秒で先着し、連勝回数を「5」に増やすとともに、ドーハ世界選手権の代表に内定しました。僅差で2位となった池田選手の1時間18分01秒も学生歴代2位の好記録。3位にはアジア大会銀メダリストの山西利和選手(愛知製鋼)が1時間18分10秒で続きました。また、50km競歩日本記録保持者の野田明宏選手(自衛隊体育学校)と世界競歩チーム選手権50km金、ロンドン世界選手権銀、リオ五輪銅メダリストの荒井広宙選手(埼玉陸協)がともに1時間19分00秒の自己新記録をマーク(5・6位)。4位(1時間18分53秒)の藤澤勇選手(ALSOK)を含めて6位までが世界選手権の派遣設定記録(1時間20分00秒)を突破しています。
女子は、岡田久美子選手(ビックカメラ)が日本歴代2位の1時間28分26秒をマークして、こちらも大会史上初の5連覇を達成。派遣設定記録(1時間30分00秒)をクリアし、ドーハ世界選手権代表に内定しました。女子では、ダイヤモンドアスリートの藤井菜々子選手(エディオン)も自身初の1時間30分切りとなる1時間29分55秒を記録して2位でフィニッシュし、派遣設定記録を上回る好結果を残しています。
併催された第30回U20選抜競歩のU20男子10kmは、昨年の福井国体少年共通5000m競歩覇の濱西諒選手(履正社高・大阪)が40分58秒で制しました。また、U20女子5kmは、2年生の薮田みのり選手(県西宮高・兵庫)が22分23秒の大会新記録で優勝を果たしています。
■髙橋選手、得意の“スプリント勝負”に持ち込み、大激戦制す
この日は、雲の多い天候にはなったものの、男子20kmがスタートした直後の午前10時の気象状況は気温9.5℃、湿度67%。風もほとんど感じられず、好コンディション下でのレースとなりました。男子は、スタートしてすぐにリードを奪った松永大介選手(富士通)が先頭に立ち、1kmを3分51秒で通過。すぐ後ろに山西選手と池田選手がつき、2~3m遅れて通過した髙橋選手、藤澤選手の5人が先頭集団をつくります。トップグループは次の1kmを4分05秒にペースを落とし、松永選手と髙橋選手が先頭に立つ形で2kmを7分56秒で通過し、1km4分ペースでレースを進めていた荒井選手や野田選手ら50kmを専門とする大集団が、第1グループにやや迫る形で続いていきました。その後、先頭グループが牽制し合うなか、第2グループから上がってきた8選手が先頭グループに追いつき13人の縦長の集団に。松永選手・荒井選手が前に立って3kmを12分00秒で通過すると、3~4kmでは5秒ほどペースが上がって集団は10人となり、4kmは荒井選手がトップに立ち15分55秒で通過。5kmは、その隊形のまま松永選手が先頭となって19分51秒で通過していきました。
先頭は、途中で横に広がるなど形を変えながらも同じペースで歩を進め、6km地点も23分47秒で通過(先頭は髙橋選手)していきましたが、その後、藤澤選手が前に出て一気にペースを3分43秒まで引き上げると、3つのグループに分かれました。単独で首位に立った藤澤選手は7kmを27分30秒で通過。10秒ほど遅れて髙橋・山西・池田の3選手が続き、さらに少し遅れて及川文隆(福井県スポーツ協会)・野田・荒井・諏方元郁(NWS)の4選手が続きましたが、このあたりから松永選手のペースが落ちてしまいます。8kmを通過したところで一度立ち止まった松永選手は、レースを再開したものの、その後、途中棄権しました。
上位陣は、形を変えないままでレースを進めていき、10kmは、藤澤選手が39秒06秒で、山西・髙橋・池田の3選手が39分18~19秒で通過。ここで12~13秒あった差は、その後は少しずつ縮まっていくことになります。また、荒井選手、野田選手、諏訪選手、及川選手が1列となって10kmを39分29~30秒で通過した第3集団は、11kmでは荒井選手と野田選手の2人に絞られ、以降、この2人は、フィニッシュまで並んでレースを進めていく形となりました。
先頭争いは、いったん12~13kmで2位グループが藤澤選手に追いつきますが、14kmにかけて再び藤澤選手が前に出ます。15kmは藤澤選手が58分50秒で、髙橋・池田選手が7秒遅れで通過。しかし、16kmでは4選手が一団となり山西選手が先頭で通過していく展開となりました。
このあと、レースが大きく動きます。「16.5kmで勝負すると決めていた」という池田選手が、ここで先頭に出ると猛スパート。山西選手は反応したものの、藤澤選手がここで完全に遅れてしまいました。池田選手は、その後も懸命に逃げますが、山西選手を突き放すことができません。さらに、いったんは「20mほど引き離された」という髙橋選手も、17km付近で前を行く2人に追いつき、逆に「ラスト勝負に仕向けられるように前に出た」と、ペースをコントロールすべく、残り2.5kmあたりから前に出て2人を牽制。最後の周回の鐘が鳴った18kmは、3者がひと塊で互いの様子を探り合うようにして1時間10分26秒前後で通過していきました。
「スプリント勝負でないと勝てないなと今回は思っていた」とのちに振り返った髙橋選手は、残り500mと迎えたところで渾身のラストスパート。山西選手をじりじりと引き離し、最後まで食らいついた池田選手を制して1時間18分00秒でフィニッシュ。学生歴代2位となる1時間18分01秒で続いた池田選手ともども、直後は倒れ込んだまま動けなくなるほどの壮絶なデッドヒートで5連覇を達成(髙橋選手の優勝コメントは、以下に記載)し、3位には、山西選手が1時間18分10秒で続きました。
4位・1時間18分53秒の藤澤選手までが1時間18分台をマーク。5・6位には、野田選手と荒井選手が、ともに1時間19分00秒の同タイムで自己記録を更新し、笑顔を見せながら並んでのフィニッシュとなりました。なお、今大会を現役最後のレースとして臨んでいた谷井孝行選手(自衛隊体育学校)は、先着した選手たちが大声援をかけながら待ち受けるなか、1時間22分51秒・12位で最後のレースを終了。会場に集まったたくさんのファンや大会関係者からも、あたたかな拍手が送られました。
■岡田選手、日本歴代2位の1時間28分26秒で世界選手権代表に
女子20kmには、1時間24分38秒の世界記録保持者(2015年)で、2016年リオ五輪、2011年・2015年世界選手権の3大会で金メダルを獲得している劉虹選手(中国)がオープン参加するなかでのレースとなりましたが、前回、史上初の4連覇を達成している岡田選手が、「(1km)4分25秒くらいで進めていこうと思っていた」と、1人で前に出て、主導権を握る滑り出しを見せました。2~3kmあたりから、第2集団についていた劉選手が岡田選手を追い始め、さらに、日本記録保持者(1時間28分03秒、2009年)の渕瀬真寿美選手(建装工業)がこの2人に迫っていきます。5km地点は、岡田選手が22分06秒で通過し、劉選手と渕瀬選手がそれぞれ1秒差で通過したものの、その直後に劉選手は岡田選手に追いついて並びかけ、渕瀬選手は2人にやや離される展開となりました。岡田選手と劉選手は、並んでトップ争いを繰り広げながら、10kmを44分17秒で通過。後続では、8km手前で藤井菜々子選手(エディオン)が3番手に浮上しました。最初は、河添香織選手(自衛隊体育学校)がやや遅れて続いていましたが、その差は徐々に開き、藤井選手は、ゴールまでを単独でレースを進める形となりました。
先頭争いに動きが生じたのは13km付近。劉選手が大きくペースを引き上げ、じりじりと岡田選手との差を広げていきました。劉選手は、10~15kmの5kmを21分58秒にペースアップして15kmを1時間06分15秒で通過。残りの5kmでは21分41秒で歩ききり、1時間27分56秒でレースを終えました。
劉選手には突き放される結果となったものの、岡田選手も10kmの段階で22分11秒に落としていた5kmのラップタイムを、10~15kmでは22分06秒に上げ、さらに、これまで課題としていた最後の5kmを、単独歩にもかかわらず22分03秒まで引き上げるレースを展開。1時間29分40秒の自己記録を大幅に上回る1時間28分26秒(日本歴代2位)でフィニッシュし、連勝回数を「5」に増やすとともに、派遣設定記録(1時間30分00秒)を文句なしに突破し、ドーハ世界選手権代表の座を手に入れました(岡田選手の優勝コメントは、以下に記載)。
2位で続いたのは、藤井選手。「岡田さんは1時間28分台で行くということだったので、私はまだつけないと思ったので、4分28秒で押していくことを目指し、15kmまで行くことができた。そこからは徐々足が動かなくなり、ラスト3kmは本当にきつかった」と振り返りましたが、22分25秒、22分25秒、22分21秒と15kmまでを刻んだのち、最後の5kmも22分44秒でカバーし、目標通り世界選手権派遣設定記録の1時間30分00秒を上回る1時間29分55秒をマーク。この記録は日本歴代6位となる好記録です。藤井選手は1999年生まれのためU20のカテゴリーからは外れてしまいますが、日本人女子として10代で1時間30分を切った最初の選手となりました。
3位の河添選手も、自己記録を一気に1分59秒も更新する1時間31分10秒でフィニッシュ。4位には渕瀬選手が1時間32分23秒で続き、復調の兆しを見せました。
※本文中、1kmごとのラップは大会時に速報としてアナウンスされた記録もしくは、筆者計測によるものを記載。なお、5kmごとのスプリットは公式発表の記録である。
【日本選手権獲得者コメント】
■日本選手権男子20km競歩髙橋英輝(富士通)1時間18分00秒
(残り500mでスパートしたが)ラストはもう、気持ちの勝負だなと思ったので、自分を信じて、あとは歩型に気をつけた。力を出しきることはできたと思う。
今回は、それぞれの選手が優勝を意識していて、また、それぞれに得意なレースプランがあることも影響して、少しスローな入りとなったが、そういったなかでもなるべくイライラせず、自分の流れになるのを待つことを意識して歩いた。
藤澤選手が中盤でペースを上げたときは「レースが動いたな」とは思ったが、焦りというよりは、むしろうまく(ペースが)上がっていけばいいなという気持ち。隣に強力な選手(池田、山西)がいたので、2人の動きを見つつ歩いていた。しかし、(16.5km地点で)池田選手が先頭に出てスパートしたときには、20mくらい離されてしまって、池田選手と山西選手の動きがすごく安定していたのに対して、自分には警告が1枚ついていて余裕度にも差があったので、「これはまずいな、負けたな」と考えた。ただ、離されながらも粘っていたら、500mくらいすると2人のペースが落ち、追いつくことができたので、「これはもう、ラスト勝負に持ち込むしかない」と、そうなるように仕向けようと、自分が前に出て、ペースを落ち着かせた。次にまた(レースを)やったら、順位も入れ替わると思う。今は、「レースの流れをつかめてよかったな」という気持ち。自分のほうが強いとは思っていない。
(日本選手権5連覇を達成したが)確かに5回勝つことができているが、1戦1戦課題もあり、“強い選手が5回連続で勝った”というよりは、“1回1回勝っていった”というような形でここまで来た。ただ、そういったなかで、最後まで自分の流れを待てるようになれたかなと思う。
これだけいい選手がいるなかで自分が世界陸上の代表になったので、そこは本当に強く考えていかなければならない。(これまで夏の世界大会で結果が出せていないという)自分の課題は明確なので、そこに向き合いたい。東京オリンピックは自分だけでなく、ほかのアスリートにとっても夢。その切符を世界陸上でつかめるよう頑張りたい。
■日本選手権 女子20km競歩
岡田久美子(ビックカメラ)1時間28分26秒
レースの途中では、日本記録も意識したが、今の実力だとちょっと厳しいと思った。欲をかきすぎずに最後まで落ち着いて歩いたことで、自己ベストを大幅に更新できたので嬉しい。レース当日に(世界選手権代表)内定をもらうのは初めてのことなので、それもまたすごく嬉しくて、でも、なんかまだ実感がわかなくて、フワフワした気持ちというのが正直なところ(笑)。日本記録が出ていたら、もっと嬉しかったのだろうと思うが、それでも、1時間28分台が出て、世界で戦うための(自分の)レベルが大きく上がったかなという気がしている。次がもっと楽しみになった。
今日は、(世界記録保持者で今回オープン参加した)劉虹選手のように、後半で爆発的にペースアップする力が私にはまだないので、最初から身体を動かしていかなければと、最初から行った。5km手前で劉選手が追いついてきて、そこからは一緒に行く形になったが、13kmくらいで劉選手が、それまでの(1km)4分26秒くらいから、4分20秒を切るくらいまでペースを一気に上げたところで、少し離されてしまった。ただ、その段階では、自分のペースもちょっと上がっていて、そこまできつくなかったので「そのまま上がっていけたら残り5kmで日本記録にぎりぎり届くかな」とも考えた。しかし、後半はさすがに余裕がなくなったので、イーブンで行くことを意識して歩いた。これまでだと、ラストの5kmでかなりペースが落ちていたのだが、今回は初めてイーブンか上がっているかくらいの感じ(注:最速ラップの22分03秒に上げている)で歩くことができている。それはすごく大きな収穫。1年間かけて取り組んできたフォーム改善の成果が出たように思う。
世界選手権では暑いなかでのレースになるが、入賞を目指して頑張りたい。また、東京オリンピックで入賞や上位に行けるよう、もっと力をつけたいと思っている。(具体的には)暑さとの勝負になるので、より後半のペースアップに磨きをかけていかなければならないと考えている。これからは、今日の劉選手みたいな思いきったスパートが、後半でできるよう練習に取り組んでいきたい。今回、記録が出たことで、やっている方向は間違っていないと自信を持つことができた。(1時間)28分台が出たといっても、まだ、寒いなかでの結果。これが暑いなかで出せれば、(世界大会でも)勝負はできると思う。そこを意識して、これからの練習に取り組んでいきたい。
文・写真:児玉育美(JAAFメディアチーム)
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