「第3回 男女マラソン(2)」から
山下 女子の日本新も出したいですけど、私は不安定さが一番嫌いで、今はやはり安定感に欠けるなと思うんですね、特に女子は。男子の大迫選手は結果的に日本新を出しましたけど、いつも「勝負、勝負」と言っていますね。私もそれには共感できて、選手には安定感と勝負重視でやってほしいなという気持ちが根底にあります。もちろん、日本新は出てほしいですよ。
──安定感という意味では、ダイハツの松田さんが初マラソンの大阪とベルリンで、2時間22分台を2回そろえましたね。
山下 ベルリンはチームの方にペースメーカーをやってもらったとはいえ、続けて2時間22分台は評価できます。トラック種目を見ても、日本選手権の10000mで2連覇ですから、非常に安定感が高いです。東京五輪に向けては、そこを重視したいですよね。
河野 前田穂南さん(天満屋)も安定して走る選手になっていますね。女子は2時間22分前後の力がないと代表になれないと思って、今やってるでしょうけど、すでにMGCを決めている松田さんや前田さんが、例えば東京マラソンあたりで記録を狙うレースをしたら、おもしろいと思いますね。
山下 一山さんの初マラソンも楽しみですよ。
──女子はMGC出場者をもう少し増やしたいですよね。
山下 増やしたいです。あと5人は行くと思っているんですけど。
瀬古 まず、自分のチームに候補がいるでしょ。
山下 いますよ。上原とリオ五輪代表の田中智美ですね。田中と一緒にリオへ行った福士さん(加代子、ワコール)、伊藤舞さん(大塚製薬)も入ってきますよね。
河野 伊藤にはがんばらせます(笑)。
瀬古 世界選手権代表経験がある前田彩里さん(ダイハツ)、清田さん(真央、スズキ浜松AC)も、まだ突破していないね。
山下 そうですね。九電工の加藤岬さんもいます。ここで名前を挙げられなかった選手だって「私もMGCへ」と思ってがんばっているでしょうから、少なくとも5人は入ってくると思いますね。日本の実業団は「駅伝をやりたい」という発想からチームが作られていますけど、東京五輪を契機に、駅伝ありきじゃなくて個人を育てる方向へ、企業の方の考えが行ってくれないかなと思います。もちろん、駅伝はあっていいので。
河野 そこは私も強く言いたいですね。実業団という世界的に見ても稀有な組織を持っている日本で、個人競技に対しての熱が上がっていかないのはもったいないじゃないですか。駅伝はみんなうれしいんですよ。社員が一体になって、応援して。
山下 それは、ものすごく感じます。社員の方々は、勝っても負けても、本当に一生懸命応援してくれますから。
坂口 駅伝がなかったら、マラソンもないんですからね。
河野 MGCの素案を描いている時は、まだ「メダル」と口にできなかったのが、今は「メダル」と口にできる状況になっています。我々が言わなくても、周囲がそういう雰囲気になっているのがうれしいですね。
坂口 メダルラインまでは届いてきた、という感じはあります。
瀬古 2年前の状況と比べたら、長足の進歩だと思いますよ。今、男子は2時間4分台が見えているんですから、ものすごく力をつけています。あとは、女子が2時間20分を切ってくれればね。
山下 ベルリンで松田さんは2時間20分切りにトライしてるんですよ。そういう芽は出てきています。
河野 松田さんは自己ベストを出しても、レース後に泣いていたらしいね、悔しくて。
山下 高橋尚子さんも野口みずきさんも、日本記録を作ったのはオリンピックで金メダルを取った後なので、私は今、あまり「記録、記録」と言わなくてもいいのかなと思っているんです。もちろん記録が出るに越したことはありませんが、そんな筋書きがなくてもドラマはあるかな、と。東京五輪に関して言えば、まず「勝負」です。そのスタンスは変えなくてもいいと思っています。
暑さの中ですから、前半スローで後半上がるレースに確実になると思うので、途中から勇気を出して1人で行けるとか、後半しっかり走り切るとか。そういう能力が要ることは間違いないと思います。
河野 相当緊張感のあるレースになることは今からでも容易に想像できるので、そこをくぐり抜ける意味は大きいと思うんですよ。プレッシャーのかかる大会をオリンピック本番までに経験するのは、メリットがあると思いますね。
山下 オリンピックより緊張するかもしれないですね。
瀬古 私も9月15日のレースを考えただけで、今から緊張するね(笑)。
河野 オリンピックに行こうとしている選手は、そういうフィルターを通らないといけないということを常に意識しながら、トレーニングに取り組んでもらいたいですね。
瀬古 我々の仕事はそこからなんです。選ばれた選手が、いかにパフォーマンスを出せるか。選手が置かれる状況は、まったく違う世界になってしまいますから。経験したことのないようなことが起こるわけです。そういう状況になったら彼らを守ってあげないといけない。
──これから男子は福岡、女子はさいたまとMGCシリーズの大会が続きます。突破者が1人でも多く出ることを期待しています。
女子選手に求めたい安定感
──今、日本新が出た男子ばかりがクローズアップされて、女子は置いて行かれている感がありますが、女子マラソンは2000年、2004年と五輪で2大会連続金メダルの種目です。野口みずきさんが2005年に作った2時間19分12秒の日本記録は、近々破る選手が出てきますか。山下 女子の日本新も出したいですけど、私は不安定さが一番嫌いで、今はやはり安定感に欠けるなと思うんですね、特に女子は。男子の大迫選手は結果的に日本新を出しましたけど、いつも「勝負、勝負」と言っていますね。私もそれには共感できて、選手には安定感と勝負重視でやってほしいなという気持ちが根底にあります。もちろん、日本新は出てほしいですよ。
──安定感という意味では、ダイハツの松田さんが初マラソンの大阪とベルリンで、2時間22分台を2回そろえましたね。
山下 ベルリンはチームの方にペースメーカーをやってもらったとはいえ、続けて2時間22分台は評価できます。トラック種目を見ても、日本選手権の10000mで2連覇ですから、非常に安定感が高いです。東京五輪に向けては、そこを重視したいですよね。
河野 前田穂南さん(天満屋)も安定して走る選手になっていますね。女子は2時間22分前後の力がないと代表になれないと思って、今やってるでしょうけど、すでにMGCを決めている松田さんや前田さんが、例えば東京マラソンあたりで記録を狙うレースをしたら、おもしろいと思いますね。
山下 一山さんの初マラソンも楽しみですよ。
──女子はMGC出場者をもう少し増やしたいですよね。
山下 増やしたいです。あと5人は行くと思っているんですけど。
瀬古 まず、自分のチームに候補がいるでしょ。
山下 いますよ。上原とリオ五輪代表の田中智美ですね。田中と一緒にリオへ行った福士さん(加代子、ワコール)、伊藤舞さん(大塚製薬)も入ってきますよね。
河野 伊藤にはがんばらせます(笑)。
瀬古 世界選手権代表経験がある前田彩里さん(ダイハツ)、清田さん(真央、スズキ浜松AC)も、まだ突破していないね。
山下 そうですね。九電工の加藤岬さんもいます。ここで名前を挙げられなかった選手だって「私もMGCへ」と思ってがんばっているでしょうから、少なくとも5人は入ってくると思いますね。日本の実業団は「駅伝をやりたい」という発想からチームが作られていますけど、東京五輪を契機に、駅伝ありきじゃなくて個人を育てる方向へ、企業の方の考えが行ってくれないかなと思います。もちろん、駅伝はあっていいので。
河野 そこは私も強く言いたいですね。実業団という世界的に見ても稀有な組織を持っている日本で、個人競技に対しての熱が上がっていかないのはもったいないじゃないですか。駅伝はみんなうれしいんですよ。社員が一体になって、応援して。
山下 それは、ものすごく感じます。社員の方々は、勝っても負けても、本当に一生懸命応援してくれますから。
坂口 駅伝がなかったら、マラソンもないんですからね。
メダルラインに届いてきたか
──そろそろ締めに入りたいと思いますが、東京五輪のマラソンで日の丸は揚がるでしょうか。河野 MGCの素案を描いている時は、まだ「メダル」と口にできなかったのが、今は「メダル」と口にできる状況になっています。我々が言わなくても、周囲がそういう雰囲気になっているのがうれしいですね。
坂口 メダルラインまでは届いてきた、という感じはあります。
瀬古 2年前の状況と比べたら、長足の進歩だと思いますよ。今、男子は2時間4分台が見えているんですから、ものすごく力をつけています。あとは、女子が2時間20分を切ってくれればね。
山下 ベルリンで松田さんは2時間20分切りにトライしてるんですよ。そういう芽は出てきています。
河野 松田さんは自己ベストを出しても、レース後に泣いていたらしいね、悔しくて。
山下 高橋尚子さんも野口みずきさんも、日本記録を作ったのはオリンピックで金メダルを取った後なので、私は今、あまり「記録、記録」と言わなくてもいいのかなと思っているんです。もちろん記録が出るに越したことはありませんが、そんな筋書きがなくてもドラマはあるかな、と。東京五輪に関して言えば、まず「勝負」です。そのスタンスは変えなくてもいいと思っています。
暑さの中ですから、前半スローで後半上がるレースに確実になると思うので、途中から勇気を出して1人で行けるとか、後半しっかり走り切るとか。そういう能力が要ることは間違いないと思います。
──最後に、MGC出場者にエールを送ってもらいましょうか。
瀬古 MGCを勝ち上がることは大事ですが、その先がもっと大事なので、我々はやっぱり先を見てMGCを戦ってもらいたいと思いますね。メダルを取る選手には、サーッとMGCを通過してほしい。河野 相当緊張感のあるレースになることは今からでも容易に想像できるので、そこをくぐり抜ける意味は大きいと思うんですよ。プレッシャーのかかる大会をオリンピック本番までに経験するのは、メリットがあると思いますね。
山下 オリンピックより緊張するかもしれないですね。
瀬古 私も9月15日のレースを考えただけで、今から緊張するね(笑)。
河野 オリンピックに行こうとしている選手は、そういうフィルターを通らないといけないということを常に意識しながら、トレーニングに取り組んでもらいたいですね。
瀬古 我々の仕事はそこからなんです。選ばれた選手が、いかにパフォーマンスを出せるか。選手が置かれる状況は、まったく違う世界になってしまいますから。経験したことのないようなことが起こるわけです。そういう状況になったら彼らを守ってあげないといけない。
──これから男子は福岡、女子はさいたまとMGCシリーズの大会が続きます。突破者が1人でも多く出ることを期待しています。