第52回織田記念陸上が4月28~29日、ジャカルタ・アジア大会の日本代表選考会を兼ねて、広島広域公園陸上競技場(エディオンスタジアム広島)において行われました。今年から再編成された日本グランプリシリーズでグランプリプレミア「広島大会」と位置づけられ、会期も2日にわたっての開催に。グランプリ種目として男子7種目(100m、5000m、110mH、棒高跳、走幅跳、三段跳、やり投)、女子5種目(100m、5000m、100mH、棒高跳、やり投)が行われたほか、7月にフィンランドで開催されるU20世界選手権の選考種目、SEIKOチャレンジ種目、パラ陸上競技種目、ジュニア種目、広島県内種目が実施されました。
■男子100mは山縣選手がケンブリッジ選手との対決を制す
男子100mは、リオデジャネイロ五輪男子4×100mR銀メダリストメンバーの山縣亮太選手(セイコー)とケンブリッジ飛鳥選手(Nike)が対戦するとあって、今年も大会屈指の注目種目となりました。2人は、予選を山縣選手10秒24(+1.7、1組目)、ケンブリッジ選手10秒25(+0.8、3組目)と、それぞれに組1着で通過。ケンブリッジ選手が5レーン、山縣選手が6レーンに入って行われた決勝は、中盤で山縣選手が抜け出すと、そのまま差を広げて10秒17(+1.3)でフィニッシュ。ケンブリッジ選手は10秒26で2位という結果になりました。
去年は、春先の故障で、毎年出場してきた故郷でのこの大会も欠場せざるを得なかった山縣選手。2年ぶりの勝利に、レース後は「久々の織田記念ということで勝ちたかった。優勝できたことに関しては満足している」と笑顔を見せました。ただし、レース内容について、「予選はスタートで出遅れた印象が強かったので、決勝はスタートからしっかり力を出していくイメージで臨んだ。修正ができたという意味では収穫のあるレースになった」と評価しつつも、10秒17という記録に対しては「(予選の走りから)修正することで10秒0台は狙えると思っていたので、正直、思ったより(記録が)出ていないという感じ」という感想も。「今日のレースで得た反省点と収穫を持ち帰って、次のレースにつなげていきたい」と話していました。
一方、「予選で思っていたほど(得意の後半が)伸びてこなかったので、決勝は自分の得意なところをしっかり出すことを頭に置いて臨んだ」というケンブリッジ選手は、終盤で宮本大輔選手(東洋大)小池祐貴選手(ANA)らをかわして2位に浮上したものの山縣選手を逆転するには至らず。このレース内容を「勝負というところで少し硬くなってしまったかも」と振り返るとともに、「アップのときは調子がいいかなと思っていたが、いざレースになると、自分の思っているような動きができなかった。そのへんの感覚のずれをなくしていきたい」と課題を挙げました。
男子100mでメダリスト2人に続いたのは、今春、慶應大を卒業して社会人となった小池選手。2組目に入った予選で、山縣・ケンブリッジ両選手の予選タイムを上回る10秒22(+1.8)をマークして決勝に進み、10秒29・3位でフィニッシュしました。実は、小池選手は前日に行われたSEIKOチャレンジ100mにも出場して10秒20(+1.4)で優勝しており、3レース連続で大学1年時(2014年)にマークした10秒32の自己記録を上回る形となりました。
10秒35で4位に食い込んだのは、東洋大1年の宮本選手。洛南高2・3年時の2016・2017年に、100mで2年連続高校3冠(インターハイ、国体、U18・20日本選手権)を達成していて、昨年の冬、ダイヤモンドアスリート第4期生に認定されている若手のホープです。この大会では、予選で、昨年出した自己記録(10秒23、高校歴代3位)に0.03秒と迫る10秒26のセカンドベストもマーク。快調な滑り出しを見せています。
■女子100m、福島選手が不安を乗り越え6年ぶりの優勝
女子100mには、今年1月からセイコーの所属となった100m・200m日本記録保持者の福島千里選手が出場。予選を全体のトップタイムとなる11秒58(+1.4)で通過すると、決勝では11秒42(+1.3)と記録を上げて優勝を果たしました。
この大会で、2010年には、現日本記録の11秒21(+1.7)も樹立している福島選手ですが、2014年は故障で欠場、2015年以降は3年連続でふくらはぎにけいれんが起こり途中棄権するアクシデントに見舞われていました。また同じ症状が起きたら…という不安から、「エントリーするかどうかも悩んだ」なかで、チームメンバーやスタッフ全員の後押しにより出場を決意。レース後は、「不安がなかったわけではないけれど、でも“今年は大丈夫”というみんなからの言葉が支えになった。無事に走り終えてよかった」と安堵の表情を見せました。
「恐る恐るといった感覚」で予選を走り、決勝のウォーミングアップでは「スタートの部分を確認してレースに臨んだ」という福島選手。それでもやはり全力でスタートダッシュすることに怖さがあり、決勝は、自身も「スタートがこんなにも動かないレースは初めて」と認めたように、福島選手らしい飛び出しの見られないスタートとなりました。しかし、中盤以降でじりじりと後続との差を広げてフィニッシュ。「レベルが低い話になってしまうが、まずはゴールできてほっとした」と苦笑いしつつも、「決勝は、予選のとき以上に、中盤から後半にかけて落ち着いて上げていける感覚があった。(いつも通りに)良いスタートができたなかで、この走りができれば、もっといいレースができる」と、今後に向けた手応えをつかめたようでした。
2位には、今春から社会人となった前山美優選手(新潟アルビレックス)が、セカンドベストの11秒56で続きました。前山選手は、1週前に行われた出雲陸上100mの優勝者(11秒85、-0.4)。着実に調子を上げてきている様子がうかがえる結果となりました。
■女子5000mの日本人トップは、急成長の山ノ内選手
1日目に行われた女子5000mは、ローズメリー・ワンジル・モニカ選手(スターツ)が2連覇を果たし、15分08秒61をマークして、昨年、自身が樹立した大会記録(15分11秒48)も更新しました。このレースで目を引いたのが、日本人トップとなる4位でフィニッシュした山ノ内みなみ選手(京セラ)。昨年の日本リスト6位に相当する15分21秒31をマークしました。この記録は、昨年のロンドン世界選手権参加標準記録(15分22秒00)をも上回る好記録です。
山ノ内選手の昨年までの自己記録は15分49秒26でしたが、今年、織田記念の前の週に行われた鹿児島県記録会(4月21日)で15分34秒39の自己新記録をマークしたばかり。京セラの佐藤敦之監督(2009年世界選手権男子マラソン6位)によると、この記録は気温28℃という暑さのなかで出したものとのこと。今回は、さらにそれを大幅に塗り替える結果となりました。
1992年生まれの25歳。陸上は中学時代から始め、1年・2年時に800mで全日中にも出場しています。その後、通信制の郡山萌世高校に入学。「陸上部がなかったので1人で走っていた」そうですが、全国高校定時制通信制大会では2011年に400m・800mで、2012年には800mと3000mでともに2冠を達成し、2年連続で女子最優秀選手に選ばれました。卒業後、いったんは市民マラソンクラブに就職し、市民ランナーとしてロードレースやトレイルランのレースに出ていましたが、「実業団で走りたい」という思いが強まり、昨年1月に福島出身の名ランナーであった佐藤監督に手紙を書いて入部を“直訴”。これが縁で、昨年8月から京セラで陸上に取り組むこととなりました。
もともとケガが多く、京セラ入社後もすぐに疲労骨折に見舞われたため、昨年の駅伝シーズンは走ることができませんでしたが、回復とともにトレーニングも積めるように。2月の全日本実業団ハーフマラソンでは10kmの部に出場して33分18秒で8位に入賞しています。そして、本格的な練習に取り組んでわずか3カ月で、日本選手権で上位争いが狙えるレベルまで成長してきました。
レース後は、「先週、自己記録を大きく更新したので、それ以上の記録を狙っていた。走った感じの身体も軽かったので、今日はできるだけ行ってみようと思っていた」と振り返り、「これまでケガばかりだったので、こうやって走れることが本当に楽しい」と充実感をみせた山ノ内選手。すでにフルマラソンは5回ほど経験しているそうですが、将来的には、本格的に「マラソンに挑戦したいという思いもある」と言います。
次のレースとなるゴールデンゲームズ延岡も5000mに出場の予定。172cmの長身を生かした走りはまだまだ荒削りな印象がありますが、延岡でもさらに記録を更新する姿を見ることができるかもしれません。
■男子やり投は新井選手がV 完全復調に向けて好感触
男子やり投は、1回目の試技で79m81をマークした新井涼平選手(スズキ浜松AC)が2連覇を達成しました。昨年は、3月に首を痛めたことがきっかけで、痺れや神経痛などが出て、苦しい1年に。その症状はなかなか改善されず、冬場もほとんど練習ができない状態が続きました。リハビリの成果が表れ始めたのは3月も中旬を迎えるころ。そこからようやく練習ができるようになったといいます。
終了後は、「やっと全力で腕を振れるようになったばかり。80(m)行かなかったのは悔しいが、まずは出場できて、全力で投げられたことが一番の収穫」と喜んだ新井選手。すでに練習では80m台を投げられるようになっているそうで、「(試合でも)行けるかなと思ったが、技術練習ができていないので、スピードがつくとばらばらになってしまった」と苦笑い。優勝記録となった投てきも「全然うまく行った感触がなかったので、“あれでこれだけ行くんだ”とびっくりした」と振り返りました。
次戦はゴールデングランプリ。「まだ(首の)張りが強くて、神経痛も出がちだが、そこを自分でコントロールできるようになってきているので、いい方向に向かっているのかなと思う。大会までに少し期間があるので、技術練習をすれば行けると思う」と完全復調に向けてポジティブな感触をつかめた様子でした。
女子やり投を制したのは、今春、国士舘大を卒業し、スズキ浜松ACの所属となった斉藤真理菜選手。この日は、1回目を55m61でスタート、2回目に57m68をマークして4位で前半を折り返すと、4回目に59m60を投げて首位に立ち、そのまま逃げ切りました。
社会人最初のタイトルを獲得したにもかかわらず、ミックスゾーンに現れた斉藤選手は、「全然納得いかない試合をしてしまった。自分でも投げきった感がない」と不満げな様子。「1回目の入りが悪かったことが良くなかった。また、身体を前傾したまま助走していたために、前に突っ込む投げになってしまった。(優勝記録をマークした)4回目は少しマシだったけれど、そこを直すことができなった。課題がわかったので、そこを修正して(次戦の)ゴールデングランプリに臨みたい」と先を見据えていました。
■110mHと走幅跳は、社会人1年目の金井選手と小田選手が勝利
女子やり投の斉藤選手以外で、社会人ルーキーとしてタイトルを獲得したのは男子110mHの金井大旺選手(福井県スポーツ協会)と男子走幅跳の小田大樹選手(ヤマダ電機)。110mHの金井選手は予選を全体のトップタイムとなる13秒55(+2.2)で通過すると、決勝も13秒52(+2.6)で先着。ともに追い風参考記録になってしまいましたが、好調が伝えられていた通りの快走を披露しました。走幅跳の小田選手は、5回目に7m77(+1.3)をマークして4位から首位に浮上してのV。同期の山川夏輝選手(東京陸協、7m75、+1.5)、後輩の橋岡優輝選手(日本大、7m74、+1.6、ダイヤモンドアスリート)の3選手でワン・ツー・スリーを占める結果となりました。
このほか、男子棒高跳は荻田大樹選手(ミズノ)が5m50をクリアして2連覇を達成。男子三段跳は岡部優真選手(福岡大)が最終跳躍で16m15(+4.0)をマークして逆転、1回目に16m14(+1.5)を跳んで首位に立っていた山本凌雅選手(JAL)の連覇を阻んでいます。
3.6mという強い追い風のなか行われた女子100mHは、ジェード・バーバー選手(アメリカ)が12秒98で昨年に続き優勝。2位には清山ちさと選手(いちご)が13秒14で続き、日本人トップとなりました。なお、この種目で優勝争いを期待されていた木村文子選手(エディオン)は13秒36(+1.8、2組1着)で予選を通過しましたが。左脚大腿四頭筋(太もも前面の筋肉)に違和が生じたため、大事をとって決勝を棄権しました。
7月にタンペレ(フィンランド)で行われるU20世界選手権選考種目として行われた3種目は、男子5000mを中谷雄飛選手(早稲田大)が14分04秒73で、男子110mH(ジュニア規格)は森戸信陽選手(早稲田大)が13秒65(+1.9)で、女子5000mは髙松智美ムセンビ選手(名城大、ダイヤモンドアスリート)が15分45秒79で、それぞれ優勝を果たしています。
文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真提供:フォート・キシモト
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