
◆五輪&世界選手権の決勝進出ライン
「表18」は、世界大会(五輪&世界選手権)での「ファイナルスト」への条件を調べたものだ。1968年以降の五輪と世界選手権の決勝進出者で最も遅いタイム(「2組4着取り」で準決勝を通過した4着の選手で最もタイムが遅かったもの。または、「3組2着+2」の「+2」で最も遅いタイムで通過した選手)と準決勝落選者で最もタイムが良かった選手のデータをまとめたものだ。
これによると、これまで準決勝落選者で最もタイムが速かったのは、2013年と2015年の世界選手権での「10秒00」。過去の大会では、準決勝で9秒台で走った選手は「100%決勝に進出」している。
今後はどうなるかはわからないが、これまでのデータからすると準決勝で「9秒台」で走れれば「ファイナリスト」が「極めて有望」ということになる。
ちなみに、これまでの五輪と世界選手権の男子100mで「ファイナリスト」となった日本人は、1932年ロサンゼルス五輪で6位に入賞(1960年ローマ五輪までは6人が決勝進出。1964年東京五輪から8人が決勝進出で6位までが入賞。1983年ヘルシンキ世界選手権から8位までが入賞)した吉岡隆徳(たかよし)さんのみ。
また、「暁の超特急」と謳われ吉岡さんが1935年6月15日に明治神宮競技場(のちの国立競技場)で行われたフィリピンとの対抗戦で走った手動計時の10秒3は、当時の世界タイ記録で、男子100mの「世界記録保持者」となった唯一の日本人でもある。
【表18/1968年以降の五輪&世界選手権の準決勝通過最低ラインと落選者最高記録】
・1968年のメキシコ五輪は、当時のルールで電動計時の100分の1秒単位を四捨五入して10分の1秒単位にしたものが正式記録とされた。また、当時のルールでは、手動計時との差を考慮して、電動計時を「0秒05遅れ」で作動させていたが、ここでは現行ルールの通りにその「0秒05」を加算したタイムで示した。
・「五」は、オリンピック。他は世界選手権を示す。
| 年 | 通過 | 落選 |
|---|---|---|
| 1968 五 | 10.26 | 10.22 |
| 1972 五 | 10.48 | 10.42 |
| 1976 五 | 10.37 | 10.33 |
| 1980 五 | 10.45 | 10.44 |
| 1983 | 10.39 | 10.40 |
| 1984 五 | 10.52 | 10.34 |
| 1987 | 10.37 | 10.24 |
| 1988 五 | 10.24 | 10.31 |
| 1991 | 10.13 | 10.17 |
| 1992 五 | 10.33 | 10.34 |
| 1993 | 10.15 | 10.20 |
| 1995 | 10.17 | 10.20 |
| 1996 五 | 10.11 | 10.13 |
| 1997 | 10.22 | 10.18 |
| 1999 | 10.14 | 10.13 |
| 2000 五 | 10.20 | 10.25 |
| 2001 | 10.29 | 10.26 |
| 2003 | 10.27 | 10.22 |
| 2004 五 | 10.22 | 10.12 |
| 2005 | 10.13 | 10.08 |
| 2007 | 10.21 | 10.19 |
| 2008 五 | 10.03 | 10.05 |
| 2009 | 10.04 | 10.04 |
| 2011 | 10.21 | 10.14 |
| 2012 五 | 10.02 | 10.04 |
| 2013 | 10.00 | 10.00 |
| 2015 | 9.99 | 10.00 |
| 2016 五 | 10.01 | 10.01 |
| 2017 | 10.10 | 10.12 |
五輪・世界選手権の世界大会の「男子100mファイナル」のスタートラインに日本人スプリンターが立てば、2019年ドーハ世界選手権ならば1932年ロス五輪の吉岡さん以来87年ぶり、2020年東京五輪ならば88年ぶりとなる。
そして、めでたく「ファイナリスト」となって、決勝で史上最高のハイレベルなレースが展開された場合にどれくらいの順位が見込まれるのかというデータを「表19」に示した。
【表19/五輪&世界選手権の決勝での着順別最高記録】
・「◎」は、他のすべてのレースを含めての着順別最高記録を示す。
| 着順 | オリンピック | 世界選手権 | 五輪&世界選手権以外での最高 |
|---|---|---|---|
| 1着 | 9.63 1.5(2012) | 9.58◎ 0.9(2009) | |
| 2着 | 9.75 1.5(2012) | 9.71◎ 0.9(2009) | |
| 3着 | 9.79◎ 1.5(2012) | 9.84 0.9(2009) | |
| 4着 | 9.88◎ 1.5(2012) | 9.92 1.2(1991) | |
| 5着 | 9.94 0.6(2004) | 9.93◎ 0.9(2009) | |
| 〃 | 9.94 1.5(2012) | ||
| 6着 | 9.96◎ 0.2(2016) | 9.96◎ 1.2(1991) | |
| 7着 | 10.00◎ 0.0(2008) | 10.00◎ 0.9(2009) | 10.00◎ 0.9(2010) リエティ |
| 〃 | 10.00◎ -0.5(2015) | ||
| 8着 | 10.03 0.0(2008) | 10.00◎ -0.5(2015) |
以上の通りで、これまでの「史上最高レベル」は、トータルでは五輪が2012年ロンドン大会、世界選手権は2009年ベルリン大会と言えそうだ。
しかし、四半世紀以上も前の1991年東京世界選手権も当時としては史上最高レベルで、優勝したカール・ルイス(アメリカ)が9秒86の世界新、以下2~6着と8着が着順別の世界最高で、6人が9秒台で走った史上初のレースだった。
以上、8回にわたっての桐生選手の「9秒98」や「9秒台」についての“超マニアックな話”を紹介してきたが、今後の日本人スプリンターの活躍を祈りつつ連載を終わりたい。
※記録情報は2017年12月31日判明分
文:野口純正(国際陸上競技統計者協会[ATFS]会員)
写真提供:フォート・キシモト

記録と数字からみた「9秒98」や「9秒台」についての“超マニアックなお話”
▼第1回「世界記録と日本記録の進歩は?」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11324/
▼第2回「桐生選手のトップスピードは時速42.0㎞」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11327/
▼第3回「桐生選手のピッチ、ストライドの年別の変化/日本歴代上位選手とのピッチ・ストライドの比較」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11337/
▼第4回「「初9秒台」の以前とその後」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11338/
▼第5回「世界の9秒台選手の特徴」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11367/
▼第6回「「9秒台」の時の「風速」」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11366/
▼第7回「桐生選手に続く日本人選手の「9秒台」の可能性」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11368/
▼第8回「五輪&世界選手権の「ファイナリスト」への条件」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11369/
▼第1回「世界記録と日本記録の進歩は?」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11324/
▼第2回「桐生選手のトップスピードは時速42.0㎞」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11327/
▼第3回「桐生選手のピッチ、ストライドの年別の変化/日本歴代上位選手とのピッチ・ストライドの比較」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11337/
▼第4回「「初9秒台」の以前とその後」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11338/
▼第5回「世界の9秒台選手の特徴」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11367/
▼第6回「「9秒台」の時の「風速」」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11366/
▼第7回「桐生選手に続く日本人選手の「9秒台」の可能性」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11368/
▼第8回「五輪&世界選手権の「ファイナリスト」への条件」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11369/
▼2018年4月~「日本グランプリシリーズ」が始まります!
http://www.jaaf.or.jp/gp-series/
▼5月20日(日)「セイコーゴールデングランプリ陸上2018大阪」開催!
http://goldengrandprix-japan.com
▼6月24日(金)~26日(日)「第102回日本陸上競技選手権大会」開催!
http://www.jaaf.or.jp/jch/102
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