◆世界の9秒台選手の特徴
「9秒台」で走った125選手の各種の「平均値と標準偏差」は「表7」の通り。なお、「BMI」は、「Body Mass Index(ボディー・マス・インデックス)」の略で、
[体重(kg)]÷[身長(m)の二乗]
で算出される国際的に用いられている体格指数である。
ただ、身長・体重は年や資料によって違いがあるが、ここでは自己ベストを出した時の国際陸上競技統計者協会(ATFS)のデータを基本とした。
【表7/9秒台選手の各種の平均値】
平均値 | 標準偏差 | 最小値~最大値 | |
---|---|---|---|
ベスト記録 | 9.922 | 0.07 | 9.58~9.99 |
ベスト記録時の年齢 | 24.82 | 3.18 | 19.96~40.15 |
ベスト記録時の身長 | 179.6 | 6.1 | 168~196 |
ベスト記録時の体重 | 75.4 | 6.7 | 60~98 |
ベスト記録時のBMI | 23.35 | 1.54 | 19.5~27.0 |
初9秒台記録 | 9.962 | 0.031 | 9.76~9.99 |
初9秒台の年齢 | 23.75 | 2.54 | 18.93~30.60 |
個人10位記録 | 10.079 | 0.115 | 9.79~10.59 |
個人10傑平均 | 10.02 | 0.09 | 9.723~10.309 |
「初9秒台」を最も若くしてマークしたのは、18歳11カ月12日(6913日)のトレイボン・ブロメル(アメリカ)で9秒97(自己ベストは9秒84=2015年)。最年長は30歳2カ月3日(11178日)にして9秒93で走ったパトリック・ジョンソン(オーストラリア。自己ベストも同じ)だ。
現時点での自己ベストを出した時の年齢が最も若いのは、初9秒台と同じくブロメルで19歳11カ月15日。初9秒台の9秒97からほぼ1年で9秒84に縮めた。
最年長での自己新は、キム・コリンズ(セントキッツ・ネビス)の40歳1カ月24日(14664日)だ。初9秒台(9秒98)を出したのが2002年7月27日で、26歳3カ月22日の時。それから10年7カ月7日ぶりに37歳2カ月29日で9秒97の自己新を出し、その翌年は9秒96に、そして「不惑」にして9秒93まで記録を伸ばした。
9秒台で走った125人の身長と体重の平均値は「表7」の通り、「179.6cm(±6.1)」と「75.4kg(±6.7)」。「BMI」の平均は、「23.35(±1.54)」となる。
身長が最も高いのはウサイン・ボルト(ジャマイカ/9秒58=2009年)の196cm(88kg)、最も低いのはコビー・ミラー(アメリカ/9秒98=2000年)とビージェイ・リー(アメリカ/9秒99=2017年)の168cmで日本の高校3年生の平均170.7㎝(2016年度)よりも低い。体重は68kgと72kgで高校生の平均(62.5kg)よりもがっちりしている。
体重が最も重いのは、ライアン・ベイリー(アメリカ/9秒88=2010年)の98kg(193㎝)。最軽量は、シルビオ・レオナルド(キューバ/9秒98=1977年)の60kg(173cm)だ。
「BMI」が最も大きいのは、「26.99」のオルソジ・ファスバ(ナイジェリア/9秒85=2006年)で170cm・78kg。最も小さいのが「19.53」のジャイスマ・サイディー・ドゥレ(ノルウェー/9秒99=2011年)で192cm・72kgである。
桐生選手が9秒98で走った時は、21.74歳、身長176㎝・体重70㎏、BMI22.6。
年齢は125人の平均値(23.75歳±2.54)よりも2歳あまり若く、若い方から28番目だったが、標準偏差の範囲内。また176㎝・76㎏の体格(BMI22.6)は平均値(179.6㎝・75.4kg。23.38)よりもひと回り小柄だが、こちらも標準偏差の範囲内。
「初9秒台」を出した125人の平均年齢は23.75歳だが、その1歳ごとの分布とタイムの範囲および平均(±標準偏差)は、「表8」のようになる。
【表8/初9秒台の年齢分布】
年齢 | 人数 | 記録の範囲 | 平均と標準偏差 |
---|---|---|---|
18歳 | 1人 | 9.97 | |
19歳 | 1人 | 9.97 | |
20歳 | 10人 | 9.95~9.99 | 9.972±0.014 |
21歳 | 24人 | 9.76~9.99 | 9.957±0.045 |
22歳 | 26人 | 9.87~9.99 | 9.957±0.027 |
23歳 | 15人 | 9.88~9.99 | 9.959±0.032 |
24歳 | 13人 | 9.93~9.99 | 9.968±0.019 |
25歳 | 13人 | 9.91~9.99 | 9.956±0.025 |
26歳 | 3人 | 9.98~9.99 | 9.983±0.005 |
27歳 | 8人 | 9.92~9.99 | 9.971±0.022 |
28歳 | 7人 | 9.90~9.99 | 9.970±0.030 |
29歳 | 1人 | 9.99 | |
30歳 | 3人 | 9.89~9.99 |
以上の通りで、21~22歳で全体の40.0%を占めている。
125人の「初9秒台」のタイムの分布は「表9」の通り。
その平均と標準偏差は「9秒962(±0.031)」だ。1000分の1秒の単位を切り上げて100分の1秒単位にすると「9秒97」である。
「初9秒台」が、「9秒94以内」は125人中の28人(22.4%)。残る97人(77.6%)は、9秒9台後半の「9秒95~99」。さらに「9秒97~99」が半数以上の69人となる。なお、「初9秒台」からその後にタイムを伸ばした「ベスト更新者」の人数とその記録の範囲も示した。
【表9/初9秒台の記録分布とその後の記録更新者数と記録の範囲】
初9秒台記録 | 人数(累計) | ベスト更新者 | →PBの範囲 |
---|---|---|---|
9秒76 | 1人(1人) | 1人(100.0%) | →9.58 |
9秒87 | 1人(2人) | なし | |
9秒88 | 1人(3人) | 1人(100.0%) | →9.69 |
9秒89 | 1人(4人) | なし | |
9秒90 | 1人(5人) | 1人(100.0%) | →9.80 |
9秒91 | 1人(6人) | なし | |
9秒92 | 2人(8人) | なし | |
9秒93 | 13人(21人) | 6人(46.2%) | →9.82~9.91 (9.863±0.027) |
9秒94 | 7人(28人) | 4人(57.1%) | →9.85~9.93 (9.885±0.036) |
9秒95 | 12人(40人) | 5人(41.7%) | →9.82~9.93 (9.872±0.035) |
9秒96 | 16人(56人) | 6人(37.5%) | →9.69~9.94 (9.855±0.088) |
9秒97 | 19人(75人) | 14人(73.7%) | →9.74~9.96 (9.892±0.059) |
9秒98 | 17人(92人) | 7人(41.2%) | →9.78~9.95 (9.899±0.055) |
9秒99 | 33人(125人) | 17人(51.5%) | →9.72~9.98 (9.915±0.061) |
125人のうち62人が「初9秒台」のあとに自己ベストを更新している。ということは、残る63人は「初9秒台が自己ベストのまま」ということになる。といっても、この63人には桐生選手のようにまだまだ「現役」という選手も多く、来シーズンの2018年8月末時点の年齢で25歳以下の選手が63人中11人(17.5%)、29歳以下なら28人(44.4%)になる。
125人の2017年シーズン終了時点での「自己ベスト」の平均タイムは、「表7」に示した通り「9秒922(±0.070)」で平均年齢は「24.82歳(±3.18)」。「初9秒台」の平均が「9秒962(±0.031)」で「23.75歳(±2.54)」だから、平均的には約1年後に「0秒04短縮」したことになる。
しかし、この中には、「初9秒台=自己ベストのまま」という63人も含まれている。そこで、「初9秒台」以降に記録を更新した62人に加え、すでに「現役を引退している」、あるいは「初9秒台」が自己ベストのままの63人のうち2018年8月末時点で30歳を超え「今後の自己ベストの更新は厳しそう」と考えられる35人を加えた計97人について計算してみた。
すると、「初9秒台」は「23.94歳(±2.67)」で「9秒962(±0.034)」。それから約1年5カ月後の「25.32歳(±3.31)」の時に「9秒910(±0.075)」を出して「0秒052(±0.062)」縮めた計算になる。
なお、「30歳を超えてベストの更新は厳しそう」と書いたが、現実には26歳で初めて9秒台をマークしてから14年後の「40歳」になってもベストを更新したキム・コリンズ(セントキッツ・ネビス)のような選手もいるのではあるけれども……。
「初9秒台」からタイムを更新した62人のみに限れば、「初9秒台」が「23.18歳(±2.31)」の時で「9秒962(±0.035)」。そして約2年2か月後の「25.34歳(±3.59)」に初9秒台を「0秒082(±0.060)」上回る「9秒881(±0.076)」をマークしたことになる。
「表10」には、「初9秒台」のタイムを更新した62人について年齢別の分布をまとめた。
【表10/「初9秒台」から記録を伸ばした62人の年齢分布とその後】
初9秒台をマークした時 | 自己ベストをマークした時 | |||
---|---|---|---|---|
年齢 | 人数 | 記録の範囲 | 自己ベスト (平均) | 自己ベストの年齢 (平均) |
18歳 | 1人 | 9.97 | 9.84 | 19.96歳 |
19歳 | 1人 | 9.98 | 9.92 | 20.70歳 |
20歳 | 7人 | 9.95~9.99 | 9.69~9.98 (9.883±0.091) | 20.72~24.22歳 (22.01±0.86) |
21歳 | 14人 | 9.76~9.99 | 9.58~9.97 (9.844±0.096) | 21.38~33.26歳 (24.26±3.41) |
22歳 | 10人 | 9.93~9.99 | 9.78~9.95 (9.874±0.059) | 22.37~29.04歳 (24.85±1.90) |
23歳 | 10人 | 9.88~9.99 | 9.69~9.98 (9.901±0.081) | 23.59~28.75歳 (25.17±1.79) |
24歳 | 8人 | 9.94~9.99 | 9.85~9.96 (9.913±0.036) | 24.25~28.09歳 (25.81±1.17) |
25歳 | 4人 | 9.94~9.99 | 9.88~9.92 (9.905±0.015) | 25.51~28.76歳 (27.41±1.39) |
26歳 | 1人 | 9.98 | 9.93 | 40.15歳 |
27歳 | 2人 | 9.98&9.99 | 9.84&9.95 (9.895±0.055) | 27.89&28.61歳 (28.25±0.36) |
28歳 | 3人 | 9.90~9.97 | 9.80~9.87 (9.837±0.029) | 28.51~33.37歳 (31.33±2.06) |
29歳 | 1人 | 9.99 | 9.96 | 29.76歳 |
★<第6回>
・「9秒台」の時の「風速」
に続く...
※記録情報は2017年12月31日判明分
文:野口純正(国際陸上競技統計者協会[ATFS]会員)
写真提供:フォート・キシモト
記録と数字からみた「9秒98」や「9秒台」についての“超マニアックなお話”
▼第1回「世界記録と日本記録の進歩は?」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11324/
▼第2回「桐生選手のトップスピードは時速42.0㎞」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11327/
▼第3回「桐生選手のピッチ、ストライドの年別の変化/日本歴代上位選手とのピッチ・ストライドの比較」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11337/
▼第4回「「初9秒台」の以前とその後」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11338/
▼第5回「世界の9秒台選手の特徴」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11367/
▼第6回「「9秒台」の時の「風速」」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11366/
▼第7回「桐生選手に続く日本人選手の「9秒台」の可能性」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11368/
▼第8回「五輪&世界選手権の「ファイナリスト」への条件」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11369/
▼第1回「世界記録と日本記録の進歩は?」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11324/
▼第2回「桐生選手のトップスピードは時速42.0㎞」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11327/
▼第3回「桐生選手のピッチ、ストライドの年別の変化/日本歴代上位選手とのピッチ・ストライドの比較」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11337/
▼第4回「「初9秒台」の以前とその後」
http://www.jaaf.or.jp/news/article/11338/
▼第5回「世界の9秒台選手の特徴」
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▼第6回「「9秒台」の時の「風速」」
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▼第8回「五輪&世界選手権の「ファイナリスト」への条件」
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▼2018年4月~「日本グランプリシリーズ」が始まります!
http://www.jaaf.or.jp/gp-series/
▼5月20日(日)「セイコーゴールデングランプリ陸上2018大阪」開催!
http://goldengrandprix-japan.com
▼6月24日(金)~26日(日)「第102回日本陸上競技選手権大会」開催!
http://www.jaaf.or.jp/jch/102
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