2023.05.05(金)
【GPシリーズ 静岡国際】大会レポート:秦澄美鈴が日本記録に迫る6m75で自己記録を更新、鵜澤飛翔は追い風参考ながら20秒10で初優勝!
日本グランプリシリーズグレード1「第38回静岡国際陸上」が5月3日、WA(ワールドアスレティックス)コンチネンタルツアーブロンズ大会を兼ねて、静岡県袋井市の小笠山総合運動公園静岡スタジアム(エコパスタジアム)において開催されました。
この大会では、男女各6、計12のグランプリ種目を実施。ブダペスト世界選手権に向けての新たな参加標準記録突破者は出なかったものの、好天に恵まれて多くの選手が自己記録を更新。今後の大会に向けて勢いを加速する成績を残しています。
静岡国際は、今年も朝から青空が広がり、絶好のコンディションといえるなかでの開催となりました。
ホームストレートの跳躍ピットで行われた女子走幅跳では、近年著しい成長を遂げている秦澄美鈴選手(シバタ工業)がビッグジャンプを連発。正面スタンドを埋めた大勢の観客を魅了しました。1回目はファウルとなったものの、2回目に6m68(-0.1)を跳んで、昨年の全日本実業団で出した6m67の自己記録を更新すると、3回目には、それをさらに上回る6m75(+2.0)の跳躍を繰りだし、場内を大きくどよめかせます。4回目は6m58(+1.2)、5・6回目はともにファウルと、後半の試技は記録の更新に結びつきませんでしたが、池田久美子選手(当時、スズキ)が日本記録(6m86)を樹立する3日前の2006年5月3日に、この大会でマークしていた6m75の大会記録に並びました。
2回の試技で自己記録を塗り替えたものの、どちらも「感覚はあまり良くなかった」と秦選手。6m68は「“ああ、これ、失敗ジャンプ”と思った」なかでの記録で、6m75についても、「(自分の)持ち味の、少し高さのある跳躍ではなかった。滞空時間があまりなかったので、たぶん踏み切りがバチッと合ってはいなかったのだと思う」と振り返る内容でしたが、どちらも飛び終わったあとに「意外と距離が行っていた」と言います。2月のアジア室内でも、「全体を通して、“跳んだ!”という感覚を持った跳躍が1本もなかった」という状況ながら、6m60台に2回乗せて6m64の室内日本新記録で金メダルを獲得しており、会心のパフォーマンスでなくても出せる記録の水準と安定感が、昨シーズンよりもさらに引き上げられている様子がうかがえます。
その土台となっているのは、ここ1~2年かけて強化に取り組んできたというフィジカル面で成果が出てきていること。ウエイトトレーニングの重量だけでなく、速い挙上スピードで扱える重量も高まったことで、「今までは脚を回して上げていた助走のスピードを楽に上げられる」「6本(の試技)をしっかり跳べる」などの変化を、すでに実感できているそう。このあと控えるセイコーゴールデングランプリ、日本選手権に向けて、今後は、「それを、実際の跳躍に摺り合わせていく作業に入っていく」段階に入っていきます。
「今日の跳躍をアベレージで出せるようにしたい。もう少し6m60~70台をコンスタントにポンポン跳べるようになれば、6m86(日本記録)、6m90台が見えてくる」と秦選手。昨年は、WAワールドランキングにより出場権を獲得し、初めて世界選手権に挑みましたが、今季は、参加標準記録(6m85)を上回る日本記録を更新して世界選手権に駒を進め、決勝の舞台で戦うことが目標。「日本記録、(世界選手権)参加標準記録は射程圏内。セイコーGGP、日本選手権で、攻めていく。突破の楽しみは、お預けというところで(笑)」と、頼もしい言葉を聞かせてくれました。
男子200mでは、ホームストレートが追い風基調となったこともあり、予選から好記録が続出し、3着以降で決勝に進める「プラス2」のボーダーは20秒54に。20秒58で走っても予選落ちとなるレベルの高さとなりました。
昨年のオレゴン世界選手権に出場した飯塚翔太選手(ミズノ)や上山紘輝選手(住友電工)も顔を揃えた決勝を制したのは、予選で全体のトップタイムとなる20秒38(+1.1)をマークして、昨年の日本インカレを制した際に出した20秒54の自己記録を更新していた鵜澤飛翔選手(筑波大)でした。鵜澤選手は、コーナーを抜けてホームストレートに入ったところで首位に立つと、そこからリードを奪い、追う楊俊瀚選手(チャイニーズタイペイ)や終盤で順位を上げてきた上山選手を寄せつけずにフィニッシュ。追い風2.6mで、残念ながら参考記録の扱いとなったものの、フィニッシュタイムの20秒10は、ブダペスト世界選手権参加標準記録(20秒16)を上回り、日本歴代3位に相当する好記録。20秒32・20秒33で続いた上山選手・楊選手らに0.2秒以上の差をつけての勝利でした。
鵜澤選手といえば、築館高で本格的に陸上に取り組み始めて2年目となる2019年沖縄インターハイで、追い風参考記録ながら100m10秒19(+2.9)・200m20秒36(+2.1)という出色のタイムを叩きだし、2年生ながら2冠を達成したことで、一躍注目を集めることになった選手。しかし、そのポテンシャルの高さは、身体が耐えられる以上の力を引きだし、大きなケガに苦しむ要因ともなっていました。筑波大入学直後の関東インカレ100mでは、レース中に左ハムストリングスの付け根部分に肉離れ。走れるようになるまで4~5カ月を要するほど重度の負傷で、その影響はまだ残っていると言います。
以降は、「これ以上、ケガはしたくない」という思いから、走練習よりも、まず身体づくりを優先。姿勢から見直して、丸まってしまう肩や背中を正しい位置、適切な位置で使えるよう地道なトレーニングを継続してきました。この冬も、その取り組みを「もっと細かなところまで、しっかりやる」ことに注力。走るトレーニングは、「3月にオーストラリアに行ったあたりから、やっと始めたくらい。まだまだ少ない」という状況で、この大会を迎えていました。
「今回は、(ウォーミングアップでの)練習でも、進むとかスピードが乗っているとかいう感覚はなかったので、予選で自己新が出てびっくりした。ただ、動画を見返したら、200mのためという感じの風が吹いていたので、本当に運が味方してくれたなという感じ。タイムは出せるときに出しておければと思うし、1本目から、ちゃんと走れたことは自信にもなった」と笑顔を見せました。
次戦は、中3日空けて臨むことになる木南記念の200m。「この静岡も合わせていたけれど、本命は木南のつもりでいた」と言う鵜澤選手ですが、今大会が予想以上の走りとなったことで、「このあと、しっかりケアして、身体の状態を整えて臨みたい。もう、今日のようなタイムは出ないと思うので(笑)、勝ちを狙いにいくような走りができれば…」とコメント。慎重に身体の声を聞きつつ、レースを重ねていくなかで、出場を目指しているブダペスト世界選手権での200m日本代表の座を狙っていくつもりです。
2位でフィニッシュした上山選手は、「調子は良かったので、自分の得意とする“しっかりスタートから出て、コーナーの出口で身体一つ分抜けだし、そのまま突き放す”走りをしようと思っていたのだが、予選はスタートが良かったが出口はダメ、決勝は出口からの流れは悪くなかったがスタートがダメ。そのダメだった部分で差が広げられてしまった」と、思い描いたレースプランで走れなかったことに悔しさが残った様子。昨年、初優勝を果たして、オレゴン世界選手権出場への道を拓いた日本選手権に向けては、「日本選手権で勝てれば、タイムもついてくると思っている。今回は、100mの前に200mが行われる日程に変わったので、みんなフレッシュな状態で臨んでくる。そこでしっかり戦えるように、つなげていきたい」と話しました。
予選を20秒45(+2.3)で通過していた飯塚選手は、決勝も同じく20秒45(+2.6)をマークしましたが、同記録でのフィニッシュとなった4位の水久保漱至選手(第一酒造)と着差ありで5位。「狙いに行きすぎたな、という感じ。最初から行きすぎて、(ホームストレートで)力が残っていなくて、そのまま終わってしまった。みんなが速かったというのもあるけれど、まず、いい(レース)パターンに持っていけなかったことが、自分としての課題」と振り返りました。
右膝に古傷ともいえる痛みを抱える影響で、冬場はコーナーを走らず、100mの練習を中心とした内容に。しかし、「それがかえって良くて、スピードが上がったことで、(200mの)前半を楽に走れるようになった」と言います。今後は、レースを重ねるなかで「200mのリズムを体現できるようにしていく」プラン。「まだまだ上げていける感じがある」と自信を見せました。
追い風参考とはいえ20秒10と、若手の鵜澤選手が、自身のパーソナルベスト(20秒11)を上回るタイムで走ったことで、「これで刺激が入った」とスイッチが入った様子。「鵜澤くんはもともと力のある選手で、これから短距離を盛り上げていってくれる1人。次は、自分も競り合って走れるように準備したい」と、力強い言葉を聞かせてくれました。
3組タイムレース決勝で実施された男子400mと男子400mハードルは、どちらも記録上位者が入る3組目以外から優勝者が出る結果となりました。
男子400mを制したのは、2組で1着となった佐藤拳太郎選手(富士通)。前半からリードを奪っていく展開で、日本歴代7位となる45秒31をマークしました。佐藤選手は45秒58まで記録を伸ばした城西大3年の2015年に急成長を見せ、同年の北京世界選手権以降、日本のマイル(4×400mリレー)メンバーに欠かせない存在としてチームを牽引したきた選手。しかし、ケガに苦しむシーズンも多く、昨年は日本選手権で予選敗退の成績に終わっていました。「もう無理かもしれない」という思いがよぎった時期もあったそうですが、そんななかオレゴン世界選手権で、ともに戦ってきた仲間たちがアジア新記録をマークし、4位の成績を収めた姿を見て、「自分も、世界で戦いたい」という気持ちに。再び心に火が点き、充実したトレーニングを積んで、今シーズンを迎えていました。45秒31は、実に8年ぶりとなる自己新記録。ベテランと呼ばれる年代となった今年は、400mの参加標準記録(45秒00)はもちろん、日本人2人となる44秒台突入、そして1991年から更新されていない日本記録(44秒78、髙野進)を狙うシーズンにすることを期しています。
この種目の最終3組目を1着でフィニッシュしたのは、オレゴン世界選手権男子4×400mリレーでアンカーを務めた中島佑気ジョセフ選手(東洋大)。優勝は逃しましたが、昨年8月に出した自己記録(45秒51)を更新する45秒46をマークしました。この冬は、個人種目(400m)での世界選手権決勝進出を目標に掲げ、「そのためには、自己記録を1秒縮めなければならない」とトレーニング。そこで培われた自信から、「44秒台は壁じゃない」という意識でシーズンに臨めていると言います。自己新をマークしたにもかかわらず、レース後は思い描いた走りができなかったことを強く悔しがっていたことが印象的でした。個人種目での次戦は、5月21日のセイコーGGP。44秒03の自己記録を持ち、2021年のダイヤモンドリーグファイナル優勝実績を持つマイケル・チェリー選手(アメリカ、東京オリンピック400m4位)らの胸を借りて、記録を狙っていく計画です。
児玉選手は、法政大を卒業して、今年度から陸上選手を採用して業務と競技の両立を支援する取り組みをスタートさせたノジマで、新たな生活をスタートさせたばかり。ノジマのユニフォームで臨む最初のレースで、大学3年時に出した自己記録(50秒16)を一気に1秒以上も更新し、「まだ突破していなかったのでホッとした」と、日本選手権の資格記録(50秒25)を大きくクリア。さらに並みいる日本代表経験者を抑えてのグランプリ初優勝に、「ノジマ陸上部の1期生として結果を出せて嬉しい」と声を弾ませました。
「もともと後半を得意とするタイプ。去年までは前半で後れてしまうことが多かったけれど、(ハードル間のインターバルで)13歩を使うようになって、やっと形になってきた」と言います。名ハードラーとしても活躍した苅部俊二監督の指導のもと、法政大の後輩となる黒川選手や、OBで長年トップランカーとして活躍してきた岸本鷹幸選手(富士通)など、錚々たる面々と練習に取り組んでいますが、この冬のトレーニングで、「僕も世界陸上を目指せる位置と環境にいることが意識できるようになってきた」そう。「2025年の東京世界陸上には、ノジマの名前でぜひ出たい」と言う児玉選手ですが、今回の結果で、ブダペスト世界選手権の参加標準記録(48秒70)も視野に入ってきた様子。「日本選手権で、ダークホースになれるように、このまま波に乗っていけたら」と意欲を見せていました。
一方、好調でこの大会を迎え、「ここで参加標準記録(48秒70)を突破するつもりだった」という黒川選手は、「なんか浮いているような感覚というか、VR(バーチャルリアリティ)で見ているような感じだった」とレースを振り返り、「意識していないつもりだったけれど、今思うと、周りを見ながら走った感がある。やはり自分のレースをしないと…」と反省することしきり。それでも、「49秒0台なので、タイム自体は悪くない。去年だったら、めっちゃ喜んでいるはずで、それだけ目指すところが変わったということ。今日でいい刺激が入ったので、木南で目指したい」と、気持ちを切り替えていました。
男子ハンマー投は、1回目に72m92を投げて、トップに立った柏村亮太選手(ヤマダホールディングス)が、その後も安定した投てきを見せて快勝。昨年の日本選手権を制した際にマークした自己記録(72m77)を更新し、このときに浮上した日本歴代4位の記録も引き上げました。男子800mは、昨年のこの大会でマークした自己記録(1分46秒73)に迫るセカンドベストの1分46秒78でフィニッシュした根本大輝選手(順天堂大)が、嬉しいグランプリ初優勝。また、男子走高跳は、アジア室内で屋外の自己記録と並ぶ2m28を跳んで金メダルを獲得している赤松諒一選手(アワーズ)が2m24で制しました。
女子200mは、予選を23秒37(+0.3)で通過した鶴田玲美選手(南九州ファミリーマート)が、0.4mの向かい風となった決勝を23秒68で走り、外国人招待のライリー・デイ選手(オーストラリア)に次ぐ2位でフィニッシュ。4月29日の織田記念100mに続いて、再び日本人最上位の座を占めました。なお、この種目で注目を集めたのは、高校2年の小針陽葉選手(富士市立高)。予選で高校歴代3位となる23秒52(+0.3)をマークすると、決勝では日本勢2番手の4位(23秒85)に食い込む健闘を見せました。高校生では山形愛羽選手(熊本中央高)も、追い風参考記録ながら予選で23秒57(+2.6)の好タイムを出しています。
女子400mは、2021年シーズンから本格的にこの種目に参戦してきた久保山晴菜選手(今村病院)が、従来とは異なる前半のペースをやや抑えて入るレースパターンを展開。53秒13の自己新記録をマークして、日本人最上位(2位)でフィニッシュしました。3組タイムレース決勝で行われた女子400mハードルを制したのは、2組目で1着となった川村優佳選手(早稲田大)。優勝タイムの58秒12は、前戦の日本学生個人選手権(58秒18、3位)に続いての自己新記録です。このほか、海外招待選手が優勝を果たした女子800mは池崎愛里選手(ダイソー、2分04秒93)が、女子円盤投は齋藤真希選手(東海大、55秒79)が、それぞれ2位となり、日本人トップに収まりました。
文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真:アフロスポーツ
ポイントの集計方法が新しくなり、種目の垣根を越えてランキングを争い「陸上界で最も強いアスリート」が決定します!陸上界最強に輝くのは誰か。是非シリーズを通して選手たちの活躍にご注目ください!
今大会は、初開催となる「日産スタジアム」を舞台に世界のトップアスリートが集結し、熱い戦いを繰り広げます。
王者誕生の瞬間に是非ご注目ください!
この大会では、男女各6、計12のグランプリ種目を実施。ブダペスト世界選手権に向けての新たな参加標準記録突破者は出なかったものの、好天に恵まれて多くの選手が自己記録を更新。今後の大会に向けて勢いを加速する成績を残しています。
女子走幅跳では秦が6m75!日本記録&標準記録突破に迫る
静岡国際は、今年も朝から青空が広がり、絶好のコンディションといえるなかでの開催となりました。
ホームストレートの跳躍ピットで行われた女子走幅跳では、近年著しい成長を遂げている秦澄美鈴選手(シバタ工業)がビッグジャンプを連発。正面スタンドを埋めた大勢の観客を魅了しました。1回目はファウルとなったものの、2回目に6m68(-0.1)を跳んで、昨年の全日本実業団で出した6m67の自己記録を更新すると、3回目には、それをさらに上回る6m75(+2.0)の跳躍を繰りだし、場内を大きくどよめかせます。4回目は6m58(+1.2)、5・6回目はともにファウルと、後半の試技は記録の更新に結びつきませんでしたが、池田久美子選手(当時、スズキ)が日本記録(6m86)を樹立する3日前の2006年5月3日に、この大会でマークしていた6m75の大会記録に並びました。
2回の試技で自己記録を塗り替えたものの、どちらも「感覚はあまり良くなかった」と秦選手。6m68は「“ああ、これ、失敗ジャンプ”と思った」なかでの記録で、6m75についても、「(自分の)持ち味の、少し高さのある跳躍ではなかった。滞空時間があまりなかったので、たぶん踏み切りがバチッと合ってはいなかったのだと思う」と振り返る内容でしたが、どちらも飛び終わったあとに「意外と距離が行っていた」と言います。2月のアジア室内でも、「全体を通して、“跳んだ!”という感覚を持った跳躍が1本もなかった」という状況ながら、6m60台に2回乗せて6m64の室内日本新記録で金メダルを獲得しており、会心のパフォーマンスでなくても出せる記録の水準と安定感が、昨シーズンよりもさらに引き上げられている様子がうかがえます。
その土台となっているのは、ここ1~2年かけて強化に取り組んできたというフィジカル面で成果が出てきていること。ウエイトトレーニングの重量だけでなく、速い挙上スピードで扱える重量も高まったことで、「今までは脚を回して上げていた助走のスピードを楽に上げられる」「6本(の試技)をしっかり跳べる」などの変化を、すでに実感できているそう。このあと控えるセイコーゴールデングランプリ、日本選手権に向けて、今後は、「それを、実際の跳躍に摺り合わせていく作業に入っていく」段階に入っていきます。
「今日の跳躍をアベレージで出せるようにしたい。もう少し6m60~70台をコンスタントにポンポン跳べるようになれば、6m86(日本記録)、6m90台が見えてくる」と秦選手。昨年は、WAワールドランキングにより出場権を獲得し、初めて世界選手権に挑みましたが、今季は、参加標準記録(6m85)を上回る日本記録を更新して世界選手権に駒を進め、決勝の舞台で戦うことが目標。「日本記録、(世界選手権)参加標準記録は射程圏内。セイコーGGP、日本選手権で、攻めていく。突破の楽しみは、お預けというところで(笑)」と、頼もしい言葉を聞かせてくれました。
鵜澤、追い風参考ながら20秒10!オレゴン代表勢を突き放す快走で勝利
男子200mでは、ホームストレートが追い風基調となったこともあり、予選から好記録が続出し、3着以降で決勝に進める「プラス2」のボーダーは20秒54に。20秒58で走っても予選落ちとなるレベルの高さとなりました。
昨年のオレゴン世界選手権に出場した飯塚翔太選手(ミズノ)や上山紘輝選手(住友電工)も顔を揃えた決勝を制したのは、予選で全体のトップタイムとなる20秒38(+1.1)をマークして、昨年の日本インカレを制した際に出した20秒54の自己記録を更新していた鵜澤飛翔選手(筑波大)でした。鵜澤選手は、コーナーを抜けてホームストレートに入ったところで首位に立つと、そこからリードを奪い、追う楊俊瀚選手(チャイニーズタイペイ)や終盤で順位を上げてきた上山選手を寄せつけずにフィニッシュ。追い風2.6mで、残念ながら参考記録の扱いとなったものの、フィニッシュタイムの20秒10は、ブダペスト世界選手権参加標準記録(20秒16)を上回り、日本歴代3位に相当する好記録。20秒32・20秒33で続いた上山選手・楊選手らに0.2秒以上の差をつけての勝利でした。
鵜澤選手といえば、築館高で本格的に陸上に取り組み始めて2年目となる2019年沖縄インターハイで、追い風参考記録ながら100m10秒19(+2.9)・200m20秒36(+2.1)という出色のタイムを叩きだし、2年生ながら2冠を達成したことで、一躍注目を集めることになった選手。しかし、そのポテンシャルの高さは、身体が耐えられる以上の力を引きだし、大きなケガに苦しむ要因ともなっていました。筑波大入学直後の関東インカレ100mでは、レース中に左ハムストリングスの付け根部分に肉離れ。走れるようになるまで4~5カ月を要するほど重度の負傷で、その影響はまだ残っていると言います。
以降は、「これ以上、ケガはしたくない」という思いから、走練習よりも、まず身体づくりを優先。姿勢から見直して、丸まってしまう肩や背中を正しい位置、適切な位置で使えるよう地道なトレーニングを継続してきました。この冬も、その取り組みを「もっと細かなところまで、しっかりやる」ことに注力。走るトレーニングは、「3月にオーストラリアに行ったあたりから、やっと始めたくらい。まだまだ少ない」という状況で、この大会を迎えていました。
「今回は、(ウォーミングアップでの)練習でも、進むとかスピードが乗っているとかいう感覚はなかったので、予選で自己新が出てびっくりした。ただ、動画を見返したら、200mのためという感じの風が吹いていたので、本当に運が味方してくれたなという感じ。タイムは出せるときに出しておければと思うし、1本目から、ちゃんと走れたことは自信にもなった」と笑顔を見せました。
次戦は、中3日空けて臨むことになる木南記念の200m。「この静岡も合わせていたけれど、本命は木南のつもりでいた」と言う鵜澤選手ですが、今大会が予想以上の走りとなったことで、「このあと、しっかりケアして、身体の状態を整えて臨みたい。もう、今日のようなタイムは出ないと思うので(笑)、勝ちを狙いにいくような走りができれば…」とコメント。慎重に身体の声を聞きつつ、レースを重ねていくなかで、出場を目指しているブダペスト世界選手権での200m日本代表の座を狙っていくつもりです。
2位でフィニッシュした上山選手は、「調子は良かったので、自分の得意とする“しっかりスタートから出て、コーナーの出口で身体一つ分抜けだし、そのまま突き放す”走りをしようと思っていたのだが、予選はスタートが良かったが出口はダメ、決勝は出口からの流れは悪くなかったがスタートがダメ。そのダメだった部分で差が広げられてしまった」と、思い描いたレースプランで走れなかったことに悔しさが残った様子。昨年、初優勝を果たして、オレゴン世界選手権出場への道を拓いた日本選手権に向けては、「日本選手権で勝てれば、タイムもついてくると思っている。今回は、100mの前に200mが行われる日程に変わったので、みんなフレッシュな状態で臨んでくる。そこでしっかり戦えるように、つなげていきたい」と話しました。
予選を20秒45(+2.3)で通過していた飯塚選手は、決勝も同じく20秒45(+2.6)をマークしましたが、同記録でのフィニッシュとなった4位の水久保漱至選手(第一酒造)と着差ありで5位。「狙いに行きすぎたな、という感じ。最初から行きすぎて、(ホームストレートで)力が残っていなくて、そのまま終わってしまった。みんなが速かったというのもあるけれど、まず、いい(レース)パターンに持っていけなかったことが、自分としての課題」と振り返りました。
右膝に古傷ともいえる痛みを抱える影響で、冬場はコーナーを走らず、100mの練習を中心とした内容に。しかし、「それがかえって良くて、スピードが上がったことで、(200mの)前半を楽に走れるようになった」と言います。今後は、レースを重ねるなかで「200mのリズムを体現できるようにしていく」プラン。「まだまだ上げていける感じがある」と自信を見せました。
追い風参考とはいえ20秒10と、若手の鵜澤選手が、自身のパーソナルベスト(20秒11)を上回るタイムで走ったことで、「これで刺激が入った」とスイッチが入った様子。「鵜澤くんはもともと力のある選手で、これから短距離を盛り上げていってくれる1人。次は、自分も競り合って走れるように準備したい」と、力強い言葉を聞かせてくれました。
佐藤が8年ぶりの自己新で男子400mを制する!
3組タイムレース決勝で実施された男子400mと男子400mハードルは、どちらも記録上位者が入る3組目以外から優勝者が出る結果となりました。
男子400mを制したのは、2組で1着となった佐藤拳太郎選手(富士通)。前半からリードを奪っていく展開で、日本歴代7位となる45秒31をマークしました。佐藤選手は45秒58まで記録を伸ばした城西大3年の2015年に急成長を見せ、同年の北京世界選手権以降、日本のマイル(4×400mリレー)メンバーに欠かせない存在としてチームを牽引したきた選手。しかし、ケガに苦しむシーズンも多く、昨年は日本選手権で予選敗退の成績に終わっていました。「もう無理かもしれない」という思いがよぎった時期もあったそうですが、そんななかオレゴン世界選手権で、ともに戦ってきた仲間たちがアジア新記録をマークし、4位の成績を収めた姿を見て、「自分も、世界で戦いたい」という気持ちに。再び心に火が点き、充実したトレーニングを積んで、今シーズンを迎えていました。45秒31は、実に8年ぶりとなる自己新記録。ベテランと呼ばれる年代となった今年は、400mの参加標準記録(45秒00)はもちろん、日本人2人となる44秒台突入、そして1991年から更新されていない日本記録(44秒78、髙野進)を狙うシーズンにすることを期しています。
この種目の最終3組目を1着でフィニッシュしたのは、オレゴン世界選手権男子4×400mリレーでアンカーを務めた中島佑気ジョセフ選手(東洋大)。優勝は逃しましたが、昨年8月に出した自己記録(45秒51)を更新する45秒46をマークしました。この冬は、個人種目(400m)での世界選手権決勝進出を目標に掲げ、「そのためには、自己記録を1秒縮めなければならない」とトレーニング。そこで培われた自信から、「44秒台は壁じゃない」という意識でシーズンに臨めていると言います。自己新をマークしたにもかかわらず、レース後は思い描いた走りができなかったことを強く悔しがっていたことが印象的でした。個人種目での次戦は、5月21日のセイコーGGP。44秒03の自己記録を持ち、2021年のダイヤモンドリーグファイナル優勝実績を持つマイケル・チェリー選手(アメリカ、東京オリンピック400m4位)らの胸を借りて、記録を狙っていく計画です。
男子400mハードルは“ブレイク前夜”の児玉がグランプリ初優勝
男子400mハードルでは、第1組をトップでフィニッシュした児玉悠作選手(ノジマ)が49秒01をマーク。2組1着の出口晴翔選手(順天堂大、ダイヤモンドアスリート修了生)が50秒00、3組1着の黒川和樹選手(法政大)が49秒06と、続く2組ともにこの記録を上回れず、児玉選手が優勝を果たしました。児玉選手は、法政大を卒業して、今年度から陸上選手を採用して業務と競技の両立を支援する取り組みをスタートさせたノジマで、新たな生活をスタートさせたばかり。ノジマのユニフォームで臨む最初のレースで、大学3年時に出した自己記録(50秒16)を一気に1秒以上も更新し、「まだ突破していなかったのでホッとした」と、日本選手権の資格記録(50秒25)を大きくクリア。さらに並みいる日本代表経験者を抑えてのグランプリ初優勝に、「ノジマ陸上部の1期生として結果を出せて嬉しい」と声を弾ませました。
「もともと後半を得意とするタイプ。去年までは前半で後れてしまうことが多かったけれど、(ハードル間のインターバルで)13歩を使うようになって、やっと形になってきた」と言います。名ハードラーとしても活躍した苅部俊二監督の指導のもと、法政大の後輩となる黒川選手や、OBで長年トップランカーとして活躍してきた岸本鷹幸選手(富士通)など、錚々たる面々と練習に取り組んでいますが、この冬のトレーニングで、「僕も世界陸上を目指せる位置と環境にいることが意識できるようになってきた」そう。「2025年の東京世界陸上には、ノジマの名前でぜひ出たい」と言う児玉選手ですが、今回の結果で、ブダペスト世界選手権の参加標準記録(48秒70)も視野に入ってきた様子。「日本選手権で、ダークホースになれるように、このまま波に乗っていけたら」と意欲を見せていました。
一方、好調でこの大会を迎え、「ここで参加標準記録(48秒70)を突破するつもりだった」という黒川選手は、「なんか浮いているような感覚というか、VR(バーチャルリアリティ)で見ているような感じだった」とレースを振り返り、「意識していないつもりだったけれど、今思うと、周りを見ながら走った感がある。やはり自分のレースをしないと…」と反省することしきり。それでも、「49秒0台なので、タイム自体は悪くない。去年だったら、めっちゃ喜んでいるはずで、それだけ目指すところが変わったということ。今日でいい刺激が入ったので、木南で目指したい」と、気持ちを切り替えていました。
男子ハンマー投は柏村が自己新の72m92でV
男子ハンマー投は、1回目に72m92を投げて、トップに立った柏村亮太選手(ヤマダホールディングス)が、その後も安定した投てきを見せて快勝。昨年の日本選手権を制した際にマークした自己記録(72m77)を更新し、このときに浮上した日本歴代4位の記録も引き上げました。男子800mは、昨年のこの大会でマークした自己記録(1分46秒73)に迫るセカンドベストの1分46秒78でフィニッシュした根本大輝選手(順天堂大)が、嬉しいグランプリ初優勝。また、男子走高跳は、アジア室内で屋外の自己記録と並ぶ2m28を跳んで金メダルを獲得している赤松諒一選手(アワーズ)が2m24で制しました。
女子200m・400mは、鶴田・久保山が日本人最上位
女子200mは、予選を23秒37(+0.3)で通過した鶴田玲美選手(南九州ファミリーマート)が、0.4mの向かい風となった決勝を23秒68で走り、外国人招待のライリー・デイ選手(オーストラリア)に次ぐ2位でフィニッシュ。4月29日の織田記念100mに続いて、再び日本人最上位の座を占めました。なお、この種目で注目を集めたのは、高校2年の小針陽葉選手(富士市立高)。予選で高校歴代3位となる23秒52(+0.3)をマークすると、決勝では日本勢2番手の4位(23秒85)に食い込む健闘を見せました。高校生では山形愛羽選手(熊本中央高)も、追い風参考記録ながら予選で23秒57(+2.6)の好タイムを出しています。
女子400mは、2021年シーズンから本格的にこの種目に参戦してきた久保山晴菜選手(今村病院)が、従来とは異なる前半のペースをやや抑えて入るレースパターンを展開。53秒13の自己新記録をマークして、日本人最上位(2位)でフィニッシュしました。3組タイムレース決勝で行われた女子400mハードルを制したのは、2組目で1着となった川村優佳選手(早稲田大)。優勝タイムの58秒12は、前戦の日本学生個人選手権(58秒18、3位)に続いての自己新記録です。このほか、海外招待選手が優勝を果たした女子800mは池崎愛里選手(ダイソー、2分04秒93)が、女子円盤投は齋藤真希選手(東海大、55秒79)が、それぞれ2位となり、日本人トップに収まりました。
文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真:アフロスポーツ
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2023年のテーマは『全員と闘え。』~種目を超えた、陸上競技の新たなる闘い~ポイントの集計方法が新しくなり、種目の垣根を越えてランキングを争い「陸上界で最も強いアスリート」が決定します!陸上界最強に輝くのは誰か。是非シリーズを通して選手たちの活躍にご注目ください!
【セイコーGGP】5月21日(日)横浜で開催!
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「セイコーゴールデングランプリ陸上」は、2011年から始まり今年で12回目を迎えます。今大会は、初開催となる「日産スタジアム」を舞台に世界のトップアスリートが集結し、熱い戦いを繰り広げます。
【日本選手権】6月1日(木)~4日(日)大阪で開催!
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日本の王者が決まる日本選手権。本大会は「オレゴン2023世界陸上競技選手権大会」「バンコク2023アジア陸上競技選手権大会」「杭州2022アジア競技大会」の日本代表選手選考競技会を兼ねており、王者誕生と同時に頂点の先にある「世界」への挑戦が始まります。王者誕生の瞬間に是非ご注目ください!
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