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2024.08.07(水)

【記録と数字で楽しむパリオリンピック】男子4×100mリレー:8年ぶりの五輪メダルに挑む



8月1日(木)から11日(日)の11日間、フランスの首都パリを舞台に「第33回オリンピック」が開催される。

日本からは、24種目に55名(男子35名・女20名)の代表選手が出場し、世界のライバル達と競い合う。

現地に赴く方は少ないだろうがテレビやネットでのライブ中継で観戦する方の「お供」に日本人選手が出場する全24種目に関して、「記録と数字で楽しむ2024パリオリンピック」をお届けする。

なお、これまでにこの日本陸連HPで各種競技会の「記録と数字で楽しむ・・・」をお届けしてきたが、過去に紹介したことがある同じ内容のデータや文章もかなり含むが、可能な限りで最新のものに更新した。また、記事の中では世界選手権についても「世界大会」ということで、そのデータも紹介している。

記録は原則として7月21日判明分。ただし、エントリー記録などは五輪参加標準記録の有効期限であった24年6月30日現在のものによった。
現役選手の敬称は略させていただいた。

200mから1500mにおいて、予選で落選した選手による「敗者復活戦」が導入され、これによって予選で敗退した何人かが復活して準決勝に進出できることになった。
ただ、各種目での敗者復活戦の組数や何人が準決勝に出場できるのかなどの条件がこの原稿執筆時点では明確にされていない。よって、トラック競技の予選・準決勝の競技開始時刻のところに示した通過条件(○組○着+○)は、「敗者復活戦」がなかったこれまでの世界大会でのものを参考に記載したため、パリではこれとは異なる条件になるはずだ。

日本人選手の記録や数字に関する内容が中心で、優勝やメダルを争いそうな外国人選手についての展望的な内容には一部を除いてほとんどふれていない。日本人の出場しない各種目の展望などは、陸上専門誌の8月号の「パリ五輪観戦ガイド」や今後ネットにアップされるであろう各種メディアの「展望記事」などをご覧頂きたい。

大会期間中は、日本陸連のSNS(=旧Twitter orFacebook)で、記録や各種のデータを可能な範囲で随時発信する予定なので、そちらも「観戦のお供」にしていただければ幸いである。

現地と日本の時差は、7時間で日本が進んでいる。競技場内で行われる決勝種目は、日本時間の深夜から早朝にかけての競技である。
猛暑の中での睡眠不足にどうぞご注意を!



男子4×100mリレー

(実施日時は、日本時間。カッコ内は現地時間)
・予選 8月8日 18:35(8日 11:35) 2組3着+2
・決勝 8月10日 02: 47(9日 19: 47)


8年ぶりの五輪メダルに挑む

日本は5月4日の世界リレー(バハマ・ナッソー)でアメリカ・カナダ・フランスについで4位となって出場権を獲得。
08年北京五輪と16年リオデジャネイロ五輪で「銀」。21年東京五輪は悲願の「金」を目指したが決勝でバトンが渡らず途中棄権。
世界選手権でも17年ロンドンと19年ドーハで連続の「銅」。
「今度こそ」である。

100m代表3名とリレーにエントリーしている2名、さらには200m代表3名の2024年ベストと自己ベストは以下の通り。

サニブラウンアブデルハキーム(東レ/9秒96。9秒96=24年)
坂井隆一郎(大阪ガス/10秒10。10秒02=22年)
東田旺洋(関彰商事/10秒14。10秒10=23年)
栁田大輝(東洋大・3年/10秒02。10秒02=23・24年)
桐生祥秀(日本生命/10秒20。9秒98=17年)
(200m代表)
鵜澤飛羽(筑波大・4年/10秒69。10秒30=21年)
上山紘輝(住友電工/10秒47=23年。10秒31=22年)
飯塚翔太(ミズノ/10秒28。10秒08=17年)


◆五輪&世界選手権での成績◆

<戦前の五輪入賞>
1932五輪 5位○41.3  ・日本記録(41.6)を上回ったが「日本記録変遷史」には未収録

<1983年以降の世界選手権&五輪での成績>
世界選手権が始まった1983年以降の「世界選手権」と「五輪」での日本の成績をまとめると以下の通りだ。
「◎」はメダル獲得、「〇」は入賞。

1983不出場  
1984五輪不出場  
1987準落39.71 
1988五輪準落38.90=アジア新
1991予落39.19 
1992五輪6位〇38.77=アジア新
1993準落39.01 
19955位〇39.33(予選で38.67のアジア新)
1996五輪予落失格 
1997準落38.31=アジア新
1999不出場  
2000五輪6位〇38.66(準決で38.31のアジアタイ)
20014位〇38.96/注 
20036位〇39.05/注 
2004五輪4位〇38.49 
20058位〇38.77 
20075位〇38.03=アジア新
2008五輪2位◎38.15/注 
20094位〇38.30 
2011予落38.66 
2012五輪4位〇38.35 
20136位〇38.39 
2015予落38.60 
2016五輪2位◎37.60=アジア新
20173位◎38.04 
20193位◎37.43=アジア新
2021五輪決勝途中棄権 
2022予落失格(4着38.78でフィニッシュ後に失格)
20235位○37.83 
・「注」=上位国のドーピング違反で順位が1つ繰り上がった。

世界選手権が始まった1983年以降で「不出場」だった3回(83・84五輪・99年)を除き、87年の世界選手権からと88年以降の五輪には計26回出場し、メダルが4回、8位以内入賞は16回を数え「メダル獲得率15.4%」「入賞率61.5%」だ。
2000年以降に限れば18回中の「メダル獲得率22.2%」。14回が入賞で「入賞率77.8%」になる。2000年から09年には、五輪と世界選手権で8大会連続入賞を果たしている。16年から19年にかけては3大会連続でメダルを獲得したが、21年東京五輪、22年オレゴンではバトンミスがあって結果を残せなかった。

「五輪」は88年以降に9回出場し、メダルが2回で「メダル獲得率22.2%」。6回入賞で「入賞率66.7%」。
ただ、「金メダル」を目指した東京五輪では、決勝でバトンがつながらず「途中棄権」。最後までつなげられていれば、入賞回数が7回(入賞率77.8%)になるところだった。

「世界選手権」は、出場した17大会中メダルは2回で「メダル獲得率11.8%」。10回入賞で入賞率は「58.8%」。21世紀以降では12回中9回入賞で入賞率は「75.0%」だ。


◆世界選手権&五輪での国別入賞回数トップ10◆

世界選手権と五輪での国別8位以内の回数は、以下の通り。なお、1980年までは6位までが入賞で、84年から8位まで入賞となったが、ここでは80年以前の五輪の7・8位もカウントした。

<五輪での国別8位以内回数トップ10/1912~2021年大会終了時>
・6位まで入賞だった1980年以前も8位以内でカウント
1)17アメリカ
2)16イギリス
3)15ドイツ
4)13フランス、イタリア
6)10カナダ
7)9ソ連
8)8ポーランド、ジャマイカ
10)7日本、ブラジル

<世界選手権での国別入賞回数トップ10/1983~2023年大会終了時>
・世界選手権は1983年から開催で当初から8位までが入賞
1)12ジャマイカ、アメリカ
3)11イギリス
4)10日本
5)9カナダ
6)8ドイツ、ブラジル、フランス
9)7イタリア
10)5トリニダードトバゴ、ポーランド

アメリカは、どの大会でも個々の走力からして「普通に走れれば、メダル獲得率100%」であるのだが、バトンパスに難があったり、後にメンバーのドーピング違反が発覚して失格となったりで、世界選手権は19回のうち7回が「失格(3回)」や「途中棄権(4回)」。五輪も25回のうち8位以内は17回(68.0%)にとどまっている。


◆4×100mリレー出場国の2024年100mベスト上位4名の合計記録◆

「表1」は、400mRに出場する16カ国について、リレーにエントリーしている各国5名の今回の五輪の100m決勝終了時点(8月4日)での2024年のシーズンベストを調べ、「上位4名の合計タイム」の順に並べたものだ。参考までに5番目の選手、2024年の各国のそれ以下の層の厚さをうかがうため「10位」の記録も付記した。なお、リレーにエントリーしている4番目や5番目の選手よりも「2024年10位」の記録が上回っているという国もある。

本番では、リレーにエントリーしている5名以外の他種目(200m、400m、110mH、走幅跳など)の選手もリレーに起用できる。よって、特に選手層の厚い国では5名以外から強力な選手が加わってくる可能性もある。
実際にはあり得ないが、マラソンや競歩にエントリーしている選手をリレーに起用してもルール上は問題はない。

【表1/2024年100mベストによるリレーエントリー5名の上位4名の合計および国内10位記録】
国名順)合計記録1位2位3位4位5位10位記録
USA1)39.339.799.819.869.879.971)9.95
JAM2)39.549.779.819.9210.0410.052)10.05
RSA3)39.739.829.8610.0210.0310.136)10.22
NGR4)39.989.949.9910.0010.0510.083)10.12
ITA5)40.019.859.9610.1210.1810.1911)10.28
GBR6)40.089.959.9710.0010.1610.204)10.17
CAN7)40.159.9810.0310.0410.1010.158)10.25
GER8)40.219.9910.0010.0610.1610.247)10.24
JPN9)40.229.9610.0210.1010.1410.205)10.19
GHA10)40.3510.0210.0510.1310.1510.2513)10.30
FRA11)40.479.9810.1110.1510.2310.259)10.26
CHN12)40.5810.0610.0810.1910.2510.2710)10.27
BRA13)40.5910.0510.1210.1610.2610.2914)10.34
AUS14)40.6610.1410.1510.1710.2010.2912)10.29
NED15)40.8310.0910.1810.2510.3110.6216)10.43
LBR16)41.259.9110.0010.2710.4110.5914)10.34

上記の通り、「2024年上位4名の合計記録」では、アメリカ・ジャマイカ・南アフリカ・ナイジェリアの順でここまでが合計タイム39秒台。
9秒8台までで4人を揃えられるアメリカの優位は動かず、このところの世界大会と同様にジャマイカがその対抗。

日本は、「40秒22」で9番目。
アメリカ、ジャマイカ、南アフリカには個々のタイムの合計で少々水をあけられている。が、ナイジェリア、イタリア、イギリス、カナダ、ドイツとは距離にすれば10cmから2mちょっとくらいの差。一カ所のバトンのちょっとした出来不出来ですぐに順位が入れ替わる。
21年東京五輪ではバトンミスをしてしまったが、今回はそのリベンジマッチとなる。

「表2」は、日本が銀メダルを獲得した2016年・リオ五輪とアジア新の37秒43で銅メダルを獲得した19年ドーハ世界選手権の決勝を走った8チームの各走者のリレー直前までの100mのシーズンベストの合計と実際のリレーのタイムを比較したものだ。
なお、「失格」となったチームのリレーのタイムも参考までに記載した。

【表2/2016年リオ五輪と19年ドーハ世界選手権の記録とリレー直前シーズンベストの合計タイムの比較】
<2016年リオ五輪>
順)記録国名100m合計(差)1走2走3走4走
1)37.27JAM2)39.60(2.33)9.929.939.949.81
2)37.60JPN6)40.52(2.92)10.0510.3610.0110.10
3)37.64CAN5)40.37(2.73)10.169.9610.349.91
4)37.90CHN7)40.70(2.80)10.3010.0810.0810.24
5)37.98GBR4)40.32(2.34)10.0110.0810.0410.19
6)38.41BRA8)40.86(2.45)10.2110.1110.2810.26
DQ(37.62)USA1)39.58(1.96)9.979.809.979.84
DQ(38.09)TTO3)40.22(2.13)10.079.9910.199.97

<2019年ドーハ世界選手権>
順)記録国名100m合計(差)1走2走3走4走
1)37.10USA1)39.46(2.36)9.769.879.979.86
2)37.36GBR3)40.33(2.97)10.049.9510.2310.11
3)37.43JPN2)40.29(2.86)10.1210.1910.019.97
4)37.72BRA5)40.37(2.65)10.1010.0710.1810.02
5)37.73RSA4)40.36(2.63)10.0810.0510.319.92
6)38.07CHN8)40.91(2.84)10.0510.1210.1210.62
DNF(**.**)FRA7)40.90(*.**)10.2110.0210.4010.27
DQ(**.**)NED6)40.71(*.**)10.1610.1210.2410.19

上記の通り、100mのシーズンベストの合計で16年のリオでは日本は6番目。しかし、見事なパスワークで100mの走力の劣勢をカバーして「銀メダル」を手にした。また、19年ドーハでは2番目の合計タイムで「銅メダル」だからひとつ下がったことになるが、ほぼ実力通りの力を出したといえよう。

注目すべきは、100mの合計タイムと実際のリレーのタイムの差だ。
日本は、リオでは「2秒92」で8チームのトップ。ドーハの「2秒86」もイギリスの2秒97に次いで2番目だ。これこそ、日本の面目躍如といえる。
両大会で「9秒台4名」を揃えて優勝したジャマイカとアメリカのバトンパスによる短縮タイムは2秒3台。日本は、個々の走力の差をバトンパスで0秒5~6カバーしてのメダル獲得だったのだ。

今回のパリでの個々のタイムの合計ではアメリカと0秒89、ジャマイカと0秒68、南アフリカと0秒49の差がある。9秒7台と8台までで4人を揃えるアメリカとの差は大きいが、ジャマイカや南アフリカとは、パスワークでギリギリでカバーできそうな差といえる。
リオの時のフラットの合計は「40秒52」でリレーは「37秒60」。ドーハが「40秒29」で「37秒43」だった。今回の100m合計はそれを上回る「40秒22」だ。つまり、37秒2~3台あたりで走れる可能性があるということになる。

2007年大阪世界選手権で38秒03の日本新記録(アジア新)をマークして5位だった時のリレー直前までの4名の100mシーズンベストの合計は「41秒15」でその差「3秒12」。
2008年北京五輪で銀メダル(38秒15)の時は、「合計41秒17」でその差「3秒02」。
このように、日本は15年以上前から素晴らしいパスワークで3秒0前後タイムを短縮し、メダルや入賞につなげてきたのだ。

これらと同じく3秒0か3秒1くらいを稼ぐことができれば、今回は37秒0台か1台で走れても不思議ではないという計算になる。

「メダル・ライン」ということで、21世紀になってからの世界選手権と五輪の1~4番目でフィニッシュしたチームのタイムは下記の通り。
カッコ内は、のちにドーピングで失格となったチームの記録だが、その時点では順位が認められメダルも授与されたのでそのまま残した。

1位2位3位4位
2001(37.96)38.4738.5838.96
200338.06(38.08)38.2638.87
2004五輪38.0738.0838.2338.49
200538.0838.1038.2738.28
200737.7837.8937.9037.99
2008五輪37.1038.0638.1538.24
200937.3137.6238.0238.30
201137.0438.2038.4938.50
2012五輪36.8437.04(38.07)38.12
201337.3637.66(37.80)37.92
201537.36(37.77)38.0138.13
2016五輪37.2737.60(37.62)37.64
201737.4737.5238.4338.34
201937.1037.3637.4337.72
2021五輪37.50(37.51)37.7037.79
202237.4837.5537.8338.06
202337.3837.6237.7637.80
     
最高記録36.8437.0437.4337.64
五輪最高36.8437.04(37.62)37.64
世選最高37.1037.3637.4337.72

このデータからすると、アメリカやジャマイカに「36秒台」で走られると厳しいが、今回のフラットの合計タイム「40秒22」の日本チームが07年・大阪世界選手権や08年・北京五輪並みの「3秒0~1」をパスワークで稼げれば「37秒台ちょっと」の可能性があり、上記のデータからして「金メダル」の可能性もある。

「21世紀以降の決勝進出の最低ライン(通過最低記録)」と「決勝に進めなかった最高タイム(落選最高記録)」を示したのが下記だ。
これまでで最もハイレベルだった19年ドーハ世界選手権では、カナダが37秒91で走ったが落選ということもあった。
ちょっとしたミスが命取りになるのだ。

通過最低落選最高
200138.9738.71
200338.6338.66
2004五輪38.6438.64
200538.6538.67
200738.7038.73
2008五輪39.1339.40
200938.7238.93
201138.4738.66
2012五輪38.2938.31
201338.4138.46
201538.5738.41
2016五輪38.1938.26
201738.4838.61
201938.0337.91
2021五輪38.1638.10
202238.5838.70
202338.1938.20
   
最高記録38.0337.91
五輪最高38.16(2021)38.10(2021)
世選最高38.03(2019)37.91(2019)

決勝での世界選手権と五輪での「着順別最高記録」は、以下の通り。
順)世界選手権 五輪 
1)37.042011=JAM36.842012=JAM
2)37.362019=GBR37.602016=JPN
3)37.432019=JPN37.642016=CAN
4)37.722019=BRA37.842021=JAM
5)37.732019=RSA37.982016=GBR
6)38.062023=FRA38.412016=BRA
7)38.252022=BRA38.602004=TRI
8)38.772005=JPN38.672004=BRA

東京五輪での口惜しさを一気に払拭するようなレースをしてもらいたい。
それが、地元開催の25年東京世界選手権につながっていく。


野口純正(国際陸上競技統計者協会[ATFS]会員)


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