
全日本実業団対抗陸上競技選手権大会(全日本実業団)が9月11~13日、京都市の西京極陸上競技場(たけびしスタジアム京都)で開催されました。実業団日本一を決する大会として、例年、秋に実施されているこの大会。今回は、9月23日から名古屋で行われるアジア競技大会(アジア大会)に出場する日本代表選手たちも多数エントリーし、今季シーズン一番の大勝負となる名古屋での決戦に向けて、自身の状態を確認しました。
そのなかでも、大きな弾みとなる好パフォーマンス誕生となったのが、大会2日目に行われた女子棒高跳。今年5月、すでに自身の日本記録を更新している諸田実咲選手(アットホーム)が、今季2回目の更新となる4m51を1回で成功させたのです。諸田選手は、さらに日本の女子ボウルターとして初めてバーを4m60台に上げての試技にも挑戦。アジア大会への期待をいっそう高める素晴らしい跳躍も披露しました。
諸田、“夢の4m60台攻略”に肉薄!
4m51は今季2回目、通算4回目の日本新

「まさか、このタイミングで、4m60台への挑戦を見ることができるなんて!!!」
全日本実業団の大会2日目。午前10時にスタートした女子棒高跳決勝は、開始からもうすぐ3時間になろうというところで、歴史的な瞬間を迎えていました。4m20で優勝を決めていた日本記録保持者の諸田実咲選手(アットホーム)が、続く4m35を1回で成功させたのちに、5月の木南記念で更新した5m50を1cm上回る5m51にバーを上げる日本新記録に挑戦。これをあっさりと1回で成功させると、その次の試技として、なんと4m61の高さを指定したのです。アジア人女子でこの高さを攻略しているのは、数多くのトップボウルターを輩出している中国の4選手のみ。もちろん、日本の女子ボウルターとしては、初めての挑戦です。競技終了直前となった13時時点の気象コンディションは、天候晴れ、気温29.9℃、湿度52%。じっとしていても汗が噴きだしてくる蒸し暑さのなか、日陰のないバックスタンド席で朝から観戦していた人々は、思いがけず遭遇することになった歴史的瞬間の結末を、ワクワクしながら見守りました。
1回目と2回目の試技は、踏み切ったあとに身体を浮き上がらせることができずに失敗。その段階では、「(4m)61は、ちょっと厳しいかな」というのが正直な印象でした。しかし、「意識するポイントは変えることなく臨んだ。3本目は、1・2本目よりも強めの追い風が吹いてくれて、それが味方してくれたように思う。身体の真下に足を下ろせる自然な助走が、力感なくできた」と諸田選手。迎えた最後の試技は、リズミカルな助走から力強く踏み切ると、現時点でのマックスポール(145フィート・155ポンド)の反発を得て大きく身体を浮き上がらせ、地上から4m61cmの空間にかけられたバーを越えていきました。
ずっとバーの様子を見やりながらマットに着地した諸田選手も、そして観戦していた人々も、まさに「跳べた!」と思ったその直後に、しかし、バーは無情にもあとからポロリ。空中で「あ、跳んだ!」と思ったという諸田選手が、「たぶん(クリアランスで)身体が少し触れていたのと、あと、けっこういい風が吹いてくれてしまった(笑)ので、それで(バーが)コロッと落ちちゃったのかなと思う」と、のちに振り返ったほど、本当に惜しい跳躍でアジア大会前最後の試合を終えることとなりました。
こういう経緯で、4m61は残念ながら攻略は叶いませんでしたが、1回で見事に成功した4m51は、今季2回目、通算4回目となる日本新記録。しかし、諸田選手自身は、実は「記録を狙う意識はなかった」と言います。「2週間くらい前にヨーロッパ遠征に行ってきたが、そこでなかなか自分のつくりたい動きができなかったので、今回は、アジア大会に向けて、その修正ができればいいと思って臨んでいた」そう。4m51の試技について感想を求められると、「正直、“あんなので跳べちゃった”という感じ。助走から踏み切りもそこまで良くなくて、そのなかで、“あ、あれ?(跳べちゃった)”という感じだったので…」と笑いながら振り返り、「これで助走とか踏み切りが改善されていったら、もっといい跳躍につながっていくと思うし、さらに硬いポールにチャレンジしていけるので、まだ伸びしろがある」とコメント。諸田選手は、木南記念で4m50を跳んだ際に「まだ使ったことのない14フィート・160ポンドのポールが使えるようになったら4m60は跳べる。でも、今日使ったポール(14フィート・155ポンド)でも、もっと曲げ込んで反発を得ることができそうに感じたので、もう少し行けそうな気がする」とコメントしていました( https://www.jaaf.or.jp/asian-games/2026/news/article/23413/ )が、今回の跳躍は、そこでの言葉の通りに仕上がってきている様子がうかがえる内容でした。

2回目の出場となる名古屋アジア大会で、「金メダル獲得」を目標に掲げている諸田選手。前回の杭州大会(2023年)では、同年春にマークしていた4m41の日本記録を7cm更新する4m48に成功。当時アジア記録保持者(4m72、2019年)であった李玲選手、同年4m62まで記録を伸ばしてきた牛春格選手の2強に割って入り、李玲選手に次ぎ銀メダルを獲得する大健闘をみせました。今回、中国の女子棒高跳は牛春格選手のみのエントリーですが、その牛選手は、今年5月31日に4m73のアジア新記録を樹立。本番でも諸田選手の前に立ちはだかってくることが予想されています。
しかし、ここで4m61の跳躍を経験したことで、諸田選手も「今日使ったポールの1つ上の硬いポールが使いこなせれば、もっと浮きが出る。(4m)65とか70が見えてくるといいなと思っている」と、いっそう自信を深めた様子。アジア大会の女子棒高跳決勝は、大会3日目の9月25日、イブニングセッション(20時03分開始)に予定されていますが、「アジア大会では、自分のベストパフォーマンスをしっかり発揮するだけ。ここから、しっかりピーキングを合わせてベストの状態に持っていきたい。大会までに跳躍練習をあと2回くらいやると思うので、そこの練習でいい感覚をつかんで、アジア大会に入りたい」ときっぱり。アジア大会では、今年3回目となる日本記録更新とハイレベルなメダル争いを見ることができるかもしれません(諸田選手のコメントは、別記、ご参照ください)。
【日本新記録樹立者コメント】
女子棒高跳 諸田実咲(アットホーム)優勝 4m51 =日本新記録

そんなに調整もしていなかったので、まさかここまで跳べるとは思っていなかった。2週間ほど前にヨーロッパ遠征に行ってきたが、そこでなかなか自分のつくりたい動きができなかったので、アジア大会に向けて、その修正ができればいいと思って臨んでいた。記録を狙うつもりではなかったし、動きも100%良かったわけではない。でも、(結果が)記録につながっているという面で、少しは修正できていると体感することができた。
修正したかったのは、これまでもずっと課題であった助走から踏み切りにかけての部分。自分で走ろうとしすぎて助走が間延びし、うまく踏み切りにつながらず、ポールに力を加えることができない状態になってしまうことである。今回は、とにかく真下に足を下ろして理想の助走に近づけられるように意識して臨んでいた。
(4m51の跳躍は)正直、「あんなので跳べちゃった」という感じ。助走から踏み切りの部分もそこまで良くなくて、でも、良くないなかで、「あ、あれ?(跳べちゃった)」と…(笑)。「良くなくても跳べるんだ」という感想を持った。今回(4m)51を跳んだポールは、前回の木南で(4m)50を跳んだときと同じポール。あのポールをある程度曲げ込めれば、(4m)50くらいの高さは出てくるのだと再確認できた。と言っても、木南で(4m)50を跳んだときほど曲げ込めていたわけではなかったので、「それでも跳べちゃうんだ」という感じである。ただ、これで助走とか踏み切りが改善されていったら、もっといい跳躍につながっていくと思うし、さらに硬いポールにチャレンジすることができるので、むしろポジティブに捉えていっていいのかなと思っている。
(あとからバーが落ちて失敗に終わった)4m61の3回目は、「あ、跳んだ!」と思った。たぶん身体が少し触れていて、あとけっこういい風が吹いてくれてしまった(笑)ことで、(バーが)コロッと落ちてしまったのだと思う。ただ、ほぼ跳べていたのかなと思うくらいに惜しかったので、「(4m)60は跳べるな」と感じることができた。今日、使ったポール(14フィート・155ポンド)の1つ上の硬いポール(14フィート・160ポンド)が使いこなせるようになれば、もっと浮きが出てくる。アジア大会で(4m)65とか70が見えてくるといいなと思っている。
(14フィート・160ポンドのポールは、ヨーロッパから帰ってきたあとの跳躍練習で、背中を押してもらって1回使っている。本当に硬かった(笑)けれど、かなり反発力あるという感覚があったので、曲げ込めたときがすごく楽しみだし、アジア大会で使えたら、優勝争いも見えてくる。「160ポンドまで行くんだぞ」ということを、しっかり頭の中に入れて、ここから準備を進めていきたい。
アジア大会では、自分のベストパフォーマンスをしっかり発揮するだけ。ここから、しっかりピーキングを合わせてベストの状態に持っていきたい。大会までに跳躍練習をあと2回くらいやると思うので、そこの練習でいい感覚をつかんで、アジア大会に入りたい
文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真提供:アフロスポーツ
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愛知・名古屋2026アジア競技大会(第20回アジア競技大会)
開催日:2026年9月23日(水・祝)~29日(火)会場:愛知・名古屋市瑞穂公園陸上競技場
特設サイト:https://www.jaaf.or.jp/asian-games/2026/
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