
第110回日本選手権混成競技(日本選手権混成)が6月6~7日、9月に行われる愛知・名古屋2026アジア競技大会(以下、アジア大会)の日本代表選考会を兼ねて、岐阜・岐阜メモリアルセンター長良川競技場で開催される。例年同様、U20日本選手権混成競技との併催だ。
この大会は、混成競技のアジア大会代表選考において最重要競技会に位置づけられており、ここで優勝し、大会終了時点で日本陸連が独自に定めるアジア大会派遣設定記録を突破している競技者は、代表に即時内定する。東京世界選手権入賞者以外のトラック&フィールド種目において、このタイプの内定切符を得ているのは、男子10000mの鈴木芽吹(トヨタ自動車)のみ。翌週に控える日本選手権(6月12~14日、名古屋)に先駆けて、2人目・3人目の内定者が誕生するかという点も、大きな見どころとなりそうだ。十種競技、七種競技それぞれで活躍が期待される選手をご紹介しよう。
※エントリー状況および掲載内容は、5月28日時点の情報に基づき構成。
文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真:フォート・キシモト、アフロスポーツ
【男子十種競技】
新日本記録保持者・丸山は不在
丸山より先に内定切符を得る選手は現れるか!?
男子十種競技では、今年、新たな歴史が刻まれた。4月15・16日にアメリカで開催されたマウントサックリレーで、丸山優真(住友電工)が8321点をマーク。右代啓祐(国士舘クラブ)が2014年に樹立した日本記録(8308点)を12年ぶりに塗り替えたのだ。出場していれば、当然、優勝候補の筆頭に上がるところだが、その丸山は不出場。大会1週間前にオーストラリアで開催されるハイポミーティング(WA混成ツアーでゴールドに位置する混成競技世界最高峰の競技会)への参戦が決まったことで、連戦を避け、エントリー自体を見送っている。
アジア大会の代表選考要項における優先順位は、派遣設定記録を突破しての日本選手権優勝者が最上位(すでに内定済みの東京世界選手権入賞者を除く)。このため、派遣設定記録の7918点を上回って今回の日本選手権を勝ち取れば、丸山より先に代表内定を手にすることができる状況だ。
達成可能な実績を備えているのは奥田啓祐(ウィザス)だろう。2022年日本選手権の優勝者で、同年の秋に8008点をマークし、日本人3人目の8000点デカスリートとなった選手。その後、疲労骨折の影響で低迷したが復調し、昨年、クミ(韓国)で行われたアジア選手権では銅メダルを獲得している。一方で、ケガとの戦いが課題となっており、アジア選手権メダリストとして臨んだ前回大会は、第1種目の100mで肉離れを起こして無念の戦線離脱。今季も十種競技初戦となったマウントサックリレーは100mを終えたところで棄権し、以降は競技会に出場していない。万全の状態で臨めているかどうかで、上位争いは大きく変わってきそうだ。

実績で見ると、ここに続くのは、森口諒也(オリコ)・佐田征義(渡辺パイプ)あたり。丸山と同学年の森口は、出身も同じ大阪で、高校時代から丸山と競い合ってきた。恵まれた体格とポテンシャルの高さは、丸山とともに当時から期待を集めてきた存在だ。じっくりと力をつけてきており、2022年のこの大会で7482点の自己記録をマークすると、昨年も7423点のシーズンベストを筆頭に、7400点台を4回残し、安定感を印象づけた。日本選手権での成績は、初めてメダルを手にした2023年以降、2位・3位・2位。初優勝の好機ともいえる状況だが、今季はアジア大会選考競技会として実施され、自身2連覇中でもあった東京選手権を欠場。コンディションを、どこまで整えてくることができるか。

前回の日本選手権で、優勝した右代啓欣(エントリー、今大会不出場)や2位の森口以上に見せ場をつくったのが佐田だ。順天堂大3年の2021年の関東インカレを7217点で優勝し、注目を集めた選手。その後は、安定感に課題を残すとともにケガもあって伸び悩んでいたが、昨年は得意の走高跳(2m03)をはじめとして、春先から複数種目で自己記録を更新。それが十種競技にも反映された格好だ。今季は東京選手権で7179点をマーク。前回のような戦い方ができると勝機も見えてくる。

社会人たちが足踏みするようだと、学生デカスリートが機先を制する可能性もある。昨年、6月に行われた日本インカレで7508点を叩きだし、自己記録(7019点)を大きく更新して優勝した松下怜(順天堂大)は、その勢いのまま迎えた前回大会は、走高跳で脚を痛めて途中棄権。大学最終学年でのさらなる躍進を狙っているだろう。

もう一人、大躍進の可能性を秘めるのが山本湧斗(大阪体育大)。昨年の日本インカレで7319点をマークして松下に続き2位を占めている選手だが、今季も春から好調を維持。5月の関西インカレでは、10種目中6種目で自己記録(およびタイ記録)を残し、7468点まで記録を伸ばしてきた。ベースが底上げされている印象があり、初入賞(7位)を果たした前回以上の成績は確実に狙っていけそうだ。同学年のこの2選手が火花を散らすようだと、揃っての7600点台到達も見られるかもしれない。

忘れてはならないのが、日本が誇るキング・オブ・アスリート、右代啓祐の存在だ。日本記録保持者の肩書に「前」がつくこととなったが、7月24日に40歳を迎える大ベテランは、今年もきっちりエントリーしてきた。厳しい暑さに見舞われた前回大会では、WBGT31度を超えたためにタイムテーブルが大幅に変更となる非常にタフな戦いとなったなか、3種目での種目優勝を筆頭に、随所で大いに存在感を示した。年次ベストで20年連続7000点越えとなる7234点を獲得して5位入賞を果たしている。昨年同様に十種競技は、日本選手権が今季初戦となるが、単独種目では棒高跳と円盤投で4m50・45m79の記録を残している。自国開催のオリンピックへのチャレンジを終えた2022年以降の日本選手権での成績は、7368点・5位(2022年)、6956点・9位(2023年)、7204点・7位(2024年)、7234点・5位(2025年)。さて、今回は、どんな戦いを見せてくれるだろうか。

【女子七種競技】
前回覇者の田中が好調
6000点突破&アジア大会内定に挑む!
前回は、社会人ルーキーだった田中友梨(スズキ)が、春先からの好調をもう一段階引き上げるパフォーマンスで日本歴代5位(当時)となる5782点の自己新記録で初優勝を飾った。今季はさらにグレードアップしている。今年は、2月に天津(中国)で行われたアジア室内に、シニアとして初の日本代表に選出され、女子五種競技に出場(6位・3833点)。屋外シーズンは、個人種目で出場した3月の記録会2戦を経て、4月初旬の梅村学園競技会で七種競技の初戦を迎えると、日本人5人目の5800点越えとなる5807点の自己新記録を叩きだし、自身が持つ日本歴代5位記録を更新した。4月下旬にアジア大会参考競技会として行われた東京選手権でも5651点の大会新で優勝と、順調な足取りを見せている。女子七種競技のアジア大会派遣設定記録は、日本記録(5975点、山﨑有紀、2021年)を上回る6019点。つまり、田中が日本選手権で内定を勝ち取るためには、日本人初の6000点到達となるこの記録を上回る日本新記録を樹立したうえでの優勝が求められる。愛知県名古屋市出身の田中にとっては、今年のアジア大会は、地元中の地元での開催だけに、出場に懸ける想いは強いはず。そう簡単ではないチャレンジだが、ぜひとも実現させたいところだろう。

地力はしっかりついている。この冬、スズキアスリートクラブで一般種目のヘッドコーチを務めるかつての名デカスリート・中村明彦コーチのもとで、ヘプタスリートの核となる土台つくりに取り組んだ。その成果もすでに出ていて、100mハードルでは13秒台に突入(13秒99)、200mでも25秒42のベストをマークするなどスピードが向上。さらに走高跳、砲丸投、800mでも自己タイあるいは自己記録に近い結果を残している。6000点台突入ということでは、まずは躍進している種目が並ぶ1日目で大きく勢いをつけたい。そのうえで記録にややムラのある走幅跳で自己記録(5m71)更新ができるようだと、続くは昨年の日本選手権で54m32の好投を見せた得意のやり投。ここまでくれば、今季もセカンドベスト(2分12分99)をマークしている最終種目の800mでも、2分10秒を切る快走が見られるかもしれない。
日本歴代6位の5750点の自己記録を持ち、前々回の日本選手権獲得者である熱田心(岡山陸協)は今季休養を発表。現状では、田中が頭一つ抜け出た感もあるが、これを阻む有力候補を挙げるとしたら、まずは大玉華鈴(日体大SMG)と梶木菜々香(ノジマT&FC)だろう。5720点(2023年、日本歴代7位)の自己記録を持つ大玉は、日本代表経験(アジア選手権4位・アジア大会6位、ともに2023年)も持つ選手。2024年以降は、ケガなどもあって、万全といえないなかでの戦いが続いているが、得意の走高跳では単独種目としても日本選手権で戦える1m78の自己記録を持つ一方で、投てき種目も強い点が武器といえる。今季は東京選手権で5444点(3位)とまずまずの滑りだし。得意種目が集まる初日で、どのくらい得点を重ねることができるかで、戦況が変わってきそうだ。

梶木は、昨年・今年と躍進を見せている選手。前回大会では、初日からトップに立つと最終種目の800mまでその位置をキープ。最後に田中の大逆転を受け、逃げ切ることは叶わなかったものの、自己記録を187点も更新する5693点をマークし、自身日本選手権最高順位となる2位の座に収まっている。得意とするのは、なんといっても13秒33の自己記録を持つ100mハードル。昨年は単独種目で日本選手権に出場し、ハイレベルの活況にあるこの種目で準決勝に進んでいる。今季も、東日本実業団で単独種目に出場し、13秒39(+1.9)をマーク。昨年同様に、第1種目からの“ロケットスタート”でリードを奪う可能性は十分にある。今季は、東京選手権に出場して5511点で2位。最終種目までトップを維持していたが、前回の日本選手権同様に800mで田中に逆転され惜敗した。“同じ轍は踏むまい”“今度こそ”という思いで臨んでくるはずだ。

このほかでは、2017年に日本歴代3位の5907点をマークしているヘンプヒル恵(アトレ)に注目したい。中学時代から混成競技で第一人者として活躍し、七種競技ではU18日本記録(5454点、2013年)、高校記録(5519年、2014年)、U20日本記録(5678点、2015年)、学生記録(5907点、2017年)と各年代の日本記録を樹立。日本選手権は4回(2015~2017年、2022年)の優勝実績を持っている。2017年以降は手術を伴う大きな膝のケガに何度も見舞われた影響もあって、思うような結果には届いていないが、その秘めたポテンシャルの高さは誰もが認めるところ。今季は、東京選手権で5272点(5位)で七種競技シーズンイン。2年ぶりの日本選手権復帰となる。どこまで調子を上げてくるかに期待したい。

2024年大会で5540点をマークして4位となっている萩原このか(RUN'S)も、当時の状態に近いコンディションで臨むことができれば、上位争いに絡んでくることは可能だろう。また、若手では、昨年のU20チャンピオン、仮屋愛優(日本体育大)がエントリーした。5月23~24日に行われた関東インカレでは、5359点の自己新記録をマークし、追い風参考記録ながら5365点で制した前回に続く優勝を果たしている。その勢いのまま、さらなる躍進を見せる可能性もありそうだ。
【大会概要】
大会名 :第110回日本陸上競技選手権大会・混成競技開催日程:2026年6月6日(土)7日(日)
開催会場:岐阜メモリアルセンター長良川競技場
主 催 :日本陸上競技連盟
主 管 :岐阜陸上競技協会
ハッシュタグ:#日本選手権混成
▼愛知・名古屋2026アジア競技大会 日本代表選手選考要項
https://www.jaaf.or.jp/files/upload/202508/25_123227.pdf
▼愛知・名古屋2026アジア競技大会 トラック&フィールド種目 派遣設定記録
https://www.jaaf.or.jp/files/upload/202511/11_092940.pdf
▼愛知・名古屋2026アジア競技大会 トラック&フィールド種目 参考競技会
https://www.jaaf.or.jp/files/upload/202512/25_095606.pdf
【第109回日本選手権混成 アーカイブ】
▼第109回日本選手権混成 特設サイト
https://www.jaaf.or.jp/jch/109/combined-events/
▼第109回日本選手権混成 大会レポート
https://www.jaaf.or.jp/news/article/22192/




























