
日本陸上競技連盟は3月2日、2025年度全国指導者養成担当者会議をオンライン形式で開催しました。
この会議は、都道府県陸協の指導者養成担当者(指導者養成委員長など)やそれぞれの陸協に所属する「JAAFエデュケーター(本連盟が認定するコーチ養成者)」に対し、指導者養成の現状と課題の確認、今後の方向性について検討していく場として開催しています。
会議は冒頭、本連盟・田﨑博道専務理事から「今日は指導者養成の本質を正しく共有し、共に実現に向けて決意をしていく。そういった対話の場にしていければと思います」という挨拶とともに、「日本陸連が目指す人材育成」についての説明から始まりました。
1 日本陸連が目指す人材育成 専務理事 田﨑 博道
日本陸連は昨年、創設100周年という大きな節目を迎えました。この先の100年を皆様とともに作り上げていく決意として、日本陸連はスポーツと社会をつなぐ「人材育成ビジョン」を宣言しました。その根幹にあるのは陸上にかかわるすべての人々が自らを輝かせ、社会を照らし、人生を豊かにしていくという姿です。また、このビジョンは陸連が一方的に宣言するものではなく、実際に陸上の現場を支えるみなさんと共に歩むための指針だと考えています。私たち日本陸連は2040年に向け、2つの大きなミッションを掲げています。
1つはアスリートが世界で輝きを放ち、社会に夢を届ける「国際競技力の向上」。つまり、トップアスリートの育成です。具体的にはプレイシングテーブルでアジアナンバーワン、さらには世界のトップ3という高い頂を目指しています。
もう1つはあらゆるステージで、誰もが陸上を楽しめる環境を作っていくこと。「ウェルネス陸上の実現」です。日本中のさまざまな場所で2000万人の人々が陸上を愛し、楽しんでいる、そういう日本を目指すという壮大な挑戦です。
これらを達成するための最大のカギこそが「人材育成」であり、今回参加された皆様が担う「指導者養成」に他ならないと考えています。
中学部活動の地域展開が進む中で、これまでの学校教育システムに支えられてきた当たり前だった環境が、今、大きく揺らいでいます。展開先としての受け皿の確保、指導者の不足、クラブ化による勝利至上主義への懸念、他競技への選手の流出。こういった不安の声が上がっています。
しかし、私はこの環境の変化を、これまでの学校教育の枠組みを越えて、これからの時代に即した最強のコーチ養成制度へと、私たちの手で進化させる好機だとポジティブに捉えています。
ここで私は、皆様に、指導する立場、役割や責任の重さを改めて問いかけたいと思います。
私たちが向き合っているのは、単なる競技の結果ではありません。かけがえのない子供たちの人生そのものです。残念ながら現在、スポーツ界や教育現場におけるハラスメントが、社会から非常に厳しい目で見られています。日本スポーツ協会(JSPO)、日本陸連がともに設置している相談窓口への相談件数の増加には、驚くばかりです。暴力や暴言、あらゆるハラスメントは断じて許せません。
インテグリティとは、社会からの期待に応えること、そして誠実であることです。競技者に最も近い存在である皆様が、自らの役割と責任をしっかりと果たし、高い倫理観を示すこと。その姿こそが、社会の中で陸上の価値を高める絶対条件です。
私たちが目指すところは、指導者が単なるボランティア精神で、身を削る世界ではありません。高い志を持って社会的責任を果たし、子供たちに最高の価値を提供していく。その結果として指導者自身が成長し、活躍の場が劇的に広がっていく。そしてそれが、確かな経済的基盤や社会的地位の確立に直結する。プロフェッショナルとして正当に評価をされ、誇りを持って自立できる構造を、私たちはみなさんとともに作り上げないといけないと考えています。
その第一歩として、4月からコーチ資格の名称を刷新し、2027年度には公認コーチの受講条件も大幅に変更します。これは制度を体系的にわかりやすくするだけではなく、指導者、コーチとしての次世代の担い手を迎え入れていこうという、未来への投資です。「あのコーチのようになりたい」とあこがれられるスターコーチを養成し、指導者自らも受講して良かった、また学びたいと思える学びの循環を作っていきたい、ということです。
一人の優れたコーチが誕生すれば、何十人、何百人もの競技者が覚醒していきます。それが陸上を愛する仲間、アスレティックファミリーの拡大を呼び起こし、地域の活動基盤を安定させていくサイクルを生み出すはずだと考えます。
陸上の指導者は圧倒的にクオリティが高くて誠実だ、あのチームに行けば充実した活動ができる、あのようなコーチになりたい。そういった声があちこちで聞こえてくる。陸上のコーチが社会から信頼され、頼られる存在になる。皆様と共にそういった「女神のスパイラル」を作っていきたいのです。
この挑戦は、陸連だけのものではありません。指導者養成に関わる皆様と知恵を出し合い、変化を恐れずに進んでいく。共に作るという意味での「共創」の取り組みだと思います。
2 指導者養成の現状と課題 指導者養成委員長 山本 浩

次に、指導者養成委員会の山本浩委員長が、「指導者養成の現状と課題」について以下の3点を挙げて説明しました。
①指導者養成の対象をこれまでよりも広げたいという思いを前面に押し出しながら進める
その対象としては、楽しみで陸上に取り組む「ウェルネス陸上」、さらにはより若い世代へのアプローチを、「視野を広げながら、新しい道を探りたい」。
②指導者の資格について哲学の見直し
指導者資格を「車の免許」に例え、「車の免許のように多くの人が陸上の指導者資格を持ってくれるような時代がこないものか」と考える。車と同様に安全を大前提にしていること、車のようにどんどん進化する選手に、指導者も対応していく必要がある点でも似ている。
③エデュケーターへの期待
ベテラン時計職人を例に、「我々が知らないようなことを、さも平然と語る。当たり前に知っているはずのものの、一つ間違っているところを矯正し、気持ち良く腕時計をはめさせてくれる。こういう人が腕の立つコーチではないかと考えます」と話し、各地域においてエデュケーターが中心となって進められる指導者養成への理想と期待を込めました。
3 公認コーチ資格保有者の養成状況

指導者養成委員会の山元康平委員からは、「有資格者の養成状況」について、2020年度以降の登録者数の推移を基に報告がされました。
2020年度から2025年度までの各年度における資格保有者はコロナ禍を経て着実に増え、2025年度は8272人となっています。2024年度から25年度では1087名と、増加幅がはじめて1000人を超えました。
カテゴリー別では、2022年度から始まったスタートコーチが1584人(24年度から599人増/1.61倍)、ジュニアコーチは5142人(同416人増/1.09倍)、公認コーチは1340人(同83人/1.07倍)となりました。ジュニアコーチが全体の6割程度を占めるとともに、スタートコーチの養成も順調に進んでいます。
男女比については、2025年度は男性6792人、女性1480人で、女性の割合は17.9%。2020年度(16.5%)から微増となりました。男女それぞれの増加率については、男性1.15%、女性1.16%とほぼ同等となっています。
都道府県別の資格保有者の養成状況については、陸連登録者数あたりの保有者で示されました。100人あたりの割合では、4.05の山形県がトップ。3.67の大分県が2位、3.65の福井県が3位に続きます。2020年から25年の5年間における増加比では、2.33の岐阜県がトップ。2.21の栃木県、2.19の愛知県が3位となっています。
山元委員は、これまでは量的な「増加」を主眼に置いていた取り組みを、次のフェーズとして「講習会や更新研修の質を高めていくこと」を目指す必要性を伝えました。
今後は、2027年度からの指導者資格義務化に関連して、「登録団体数に対する充足率についても確認していく必要がある」という考えも示しています。
4 公認コーチ資格制度の改定
指導者養成委員会の沼澤秀雄副委員長からは、2026年度に行われる「公認コーチ資格制度の改定」について、大きな変更のある2点について説明がありました。①資格名称の変更
公認コーチ資格の種類や役割を明確化するために、2026年4月1日より、以下の名称に変更されます。
JAAF公認コーチ→JAAF公認A級コーチ
JAAF公認ジュニアコーチ→JAAF公認B級コーチ
JAAF公認スタートコーチ→JAAF公認C級コーチ
②公認コーチ資格概要の改定(2027年度より)
若い指導者が早期に高度な専門知識とスキルと取得し、現場で活躍できるようにするために、2027年度より公認A級コーチ(現・公認コーチ)の受講条件が変更されます。
現行の受講条件は、受講年度の4月1日時点で満27歳以上、都道府県陸協や日本陸連の推薦が必要とされ、日本陸連登録者、B級コーチ(現・ジュニアコーチ)資格を有するとされています。
今回の改定では、「B級コーチを取得後、現場での指導実績を通算2年以上有する者」、「都道府県陸協および日本陸連の推薦のほか公募による募集」、「日本陸連登録者」という条件となります。
これによって、「最短で24歳でA級コーチ資格受講が可能になります」と沼澤副委員長は説明しました。
5 JAAFエデュケーターの養成
指導者養成委員会の森健一シニアフェローからは、指導者を養成する「JAAFエデュケーター」の役割と、その認定の流れについて説明されました。認定条件は以下の4通りです。
①公認コーチ資格(公認A級コーチ)を保有していること
②エデュケーター養成講習会(CE)を修了していること
③公認C級コーチ(旧スタートコーチ)養成講習会(SC)の統括講師として1会場以上、担当すること
④SCの報告書、CEの評価などを基に、日本陸連が認定。
JAAFエデュケーターは2025年度内にほぼすべての都道府県への配置が完了する予定。すでに複数配置できている都道府県もあるなど、着実に広がりつつあります。
2026年度のエデュケーター養成については、新規養成講習会は2027年2月に実施される予定です。ただ、「カリキュラムの中身をマイナーチェンジ、アップデートしており、それを実際に受講生に伝えるエデュケーターのスキルアップも求められます」森シニアフェロー。そのため、エデュケーターのスキルを高める「スキルアップ研修」も実施予定となっています。
また、4月3日に都道府県の指導者養成担当者やエデュケーターなどに向けた、B級・C級コーチ養成講習会の会場担当者説明会が実施され、今年度のカリキュラム変更等の情報が共有される予定です。
6.「Diversity & Inclusion」
ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)研修の一環として、強化部指導者養成課長の田中悠士郎課長により実施されました。より広く、多くの方々にこの陸上競技が愛され、より親しまれるために、陸上競技ではなく「陸上」への思いをより強く表現した「ウェルネス陸上」。前述した日本陸連が掲げる二本柱のうちの一本を実現するために、大切な考えとしてD&Iがある。
D&Iは、ダイバイーシティ(Diversity/多様性)、インクルージョン(Inclusion/包摂)を合わせたもので、人の多様性を認め、受け入れて、それぞれの個性を輝かせるという考え方。D&Iを基に行動することで、相手だけでなく、結果として自分自身にも戻って、個性を輝かせてくれることにつながる。
①人権ポリシーとインテグリティ行動指針策定の背景
公益財団法人である日本陸連は、国際的なスポーツ界における立場としては日本代表の派遣、国際大会の開催などがあり、国際的な人権基準に則った活動が求められます。
また、社会においては「ウェルネス陸上を掲げた陸連」という立場から、人権の尊重と保護の取り組みが社会にどのような影響を与えるのか、与えうるのかを考えていく必要がある。
これらを背景に鑑みた時に、「世界陸連(WA)のように理念から現場レベルまで、具体的な行動指針が定められた理想的な国際基準となるよう、2025年8月に「人権ポリシー」と「インテグリティ行動指針」が策定された。
②インテグリティの本質と価値観を共有することの重要性
ハラスメントやチームのモチベーションを下げる行動といった目に見える問題行動が表出した場合、それらはあくまでも氷山の一角です。何が問題行動だったのかについての認識の共有、インテグリティ行動指針の周知と共有、組織としての責任の明確化・精度化、啓発・研修による予防的対応を重ねることで、氷山の見えない部分である“負”の部分を小さくしていく必要がある。
日本陸連は、尊重すべき人権の主体はアスリートをはじめ、団体職員、審判、指導者、その他スタッフだけではなく、関係企業や競技関係者、観客、さらには地域住民や社会全体、もっと言えば未来の社会に対して、指導などの現場、競技会場など日常業務のすべてのプロセスに関わる関係者全員を尊重すべきと考える。
上記2点の説明がされた後にインテグリティの本質を捉えるためのグループワークが行われました。考え方は人それぞれ違う中で、いかに価値観を共有し、お互いに心地良い関係、良い環境を築いていけるかを確かめる場となりました。
最後に参加者に向けて人権ポリシーとインテグリティ行動指針を読んで内容を理解促すとともに、陸協内での周知を依頼しました。
7.2025年度事業報告
引き続き指導者養成課から2025年度実施事業の報告がなされました。公認ジュニアコーチ養成講習会(実施時の名称)は会場こそ前年度(34)から3会場減の31会場となったものの、参加者数は前年度と同数の736人を確保。公認スタートコーチ養成講習会(同)は前年度から会場数(42→52)、参加者数(652→1020)ともに増加しました。
8.2026年度事業計画
続いて2026年度の事業計画について、新規養成講習会(B級、C級)の開催については、都道府県陸協からの開催希望を受けて最終調整を行っていることが説明されました。また、研修・研鑽の機会について、エデュケーター養成講習会、エデュケータースキルアップ講習会、コーチニングクリニック、コーチングクリニック+(プラス)などを計画中であることが共有されました。その他、日本陸連登録における団体設立要件の条件達成に向けた資格取得スケジュールの確認、公認コーチ資格(B級、C級)会場担当者説明会の開催についてなどの諸連絡が行われ、会議は終了となりました。
文/月刊陸上競技
【指導者養成委員会】
https://www.jaaf.or.jp/about/resist/fukyu/



























