
東京マラソン2026が3月1日、東京都庁前をスタートして水道橋、上野広小路、神田、日本橋、浅草雷門、両国、門前仲町、銀座、田町、日比谷を巡り、東京駅前の行幸通りでフィニッシュする42.195kmのコースで行われました。世界的に名高い7つの大規模マラソン大会で構成される「アボット・ワールドマラソンメジャーズ(AbbottWMM)に属する本大会。男女エリートの部は今年も年間総合成績を決めるAbbottWMMシリーズⅩⅧ(18)の第1戦として行われ、海外から数多くのトップランナーがレースに臨みました。
男子は、本来第1グループで進むはずだった海外有力勢が、外国人ペースメーカーを含めて様子見の展開を選択。これによって2位集団としてレースを進め、26km過ぎでようやくトップに浮上することとなりました。その後、36km付近で絞られた4選手による先頭争いが最後まで続き、残り200mを切ったところからのスパート合戦を制したタデセ・タケレ選手(エチオピア)が2時間03分37秒で2連覇を果たしました。また、日本国内最高記録でもある大会記録(2時間15分55秒、2024年)保持者で大会2連覇中のストゥメ・アセファ・ケベデ選手(エチオピア)と、元世界記録保持者のブリジット・コスゲイ選手(ケニア、2時間14分04秒=2019年)を中心に序盤からハイペースで進んだ女子は、30kmを迎える前に両者の一騎打ちとなりましたが、コスゲイ選手が30~35kmを15分47秒に引き上げてケベデ選手を突き放すと、次の5kmも15分48秒、最後の2.195kmを7分01秒でカバーする圧巻の走りを披露。パフォーマンス世界歴代7位となる2時間14分29秒の日本国内最高記録・大会新記録を叩きだし、4年ぶり2回目の優勝を遂げました。

日本勢にとってこの大会は、日本陸連が実施するマラソン年間王者を決める「MGCシリーズ2025-26」において、男女ともにG1(グレード1)に位置づけられています。今回、男子はシリーズ最終戦(第9戦)、女子は第6戦(全7戦)として行われました。以下、総合得点によって競われる年間チャンピオン(第109回日本選手権者)、今年の秋に名古屋で開催されるアジア大会日本代表、さらにはロスオリンピック代表選考レースとして2027年10月3日に名古屋での開催が決定しているMGCの出場権獲得を懸けてレースに臨んだ日本選手の戦いぶりをレポートします。
※本文中における5kmごとの通過タイムとラップは公式発表のデータを、5kmごとの通過順位および1kmごとのラップは、大会中の速報を採用。
快晴のなか夜明けを迎えた当日は、春を思わせる暖かさが感じられる一方で、風の強さが気になる朝となりました。エリートの部は、午前9時10分に号砲が鳴り、天候晴れ、気温16.6℃、湿度32.0%(主催者発表の情報による。風は未発表)という気象条件のもと、ランナーたちが東京都庁前をスタートしました。

一般参加の橋本、26km過ぎまでトップを独走
今大会の男子では、予想フィニッシュタイムに応じて、設定ペースを3段階に分けてペースメーカーが用意されました。日本国内最高記録でもある大会記録(2時間02分16秒、ベンソン・キプルト、2024年)更新を想定した第1グループは1km2分53~54秒(フィニッシュ予想タイム:2時間1分台、以下同じ)ペース、日本記録(2時間04分55秒、大迫傑、2025年)更新およびMGCファストパス設定記録(2時間03分59秒。※ロスオリンピックにおいてメダルを狙える最速の日本代表を輩出するために設けられた選考枠で、対象期間中に突破した記録最上位者が代表に内定する)突破を想定した第2グループは1km2分56~57秒(2時間3分台)ペース、そしてMGC参加標準記録(2時間06分30秒)クリアを想定した第3グループは1km2分58~59秒(2時間5分台)ペースという設定です。レースは、最初の1kmが2分57秒の入りになったことで、大きな集団のままで動いていく滑りだしとなりました。その後、第1グループのペースメーカーの一人であった中村大聖選手(ヤクルト)のみが2km以降からペースを上げてトップに立ちますが、ほかの外国人ペースメーカーは前に出る気配がなく、海外トップ勢も風の影響や牽制もあってか動きを見せません。このため、一般参加の橋本龍一選手(プレス工業)のみが中村選手につき、そこからは、橋本選手、海外トップ勢で形成する第2集団、日本人有力候補を含む第3集団の3つに分かれてレースが進むことになりました。
橋本選手は、5kmを14分34秒、10kmは29分02秒で通過。中村選手がペースメーカーの役目を終えた10km以降は、単独でレースを進める形となりましたが、43分25秒で通過した15kmでは、14人になった第2集団との差は43秒、第3集団とは1分10秒まで差を広げていきます。その後もフィニッシュ予想2時間3分台のペースを刻んでいきましたが、さすがに20kmを過ぎたあたりからは、2位集団との差が少しずつ縮まっていきます。1時間13分08秒での通過となった25kmでは、10人となった第2集団との差は12秒に、そして26.5km付近でとうとう吸収される形となりました(なお、橋本選手は最後まで走りきり、2時間11分21秒・37位でレースを終えています)。
大迫、熟練の走りで日本人トップに
さて、第3集団は、日本人有力選手と海外選手とで形成。ここでは、昨年12月のバレンシアマラソンを2時間04分55秒でフィニッシュして、自身3回目となる日本新記録を叩きだし、日本記録保持者に返り咲いたばかりの大迫傑選手(LI-NING)、前日本記録保持者(2時間04分56秒、2021年)で昨年10月からプロ選手としてスタートを切った鈴木健吾選手(横浜市陸協)、2時間05分39秒(日本歴代5位)の自己記録を持つ東京世界選手権代表(11位)の近藤亮太選手(三菱重工)、太田蒼生選手(GMOインターネットG)、高田康暉選手(住友電工)、髙久龍選手(ヤクルト)、工藤慎作選手(早稲田大学)が海外選手らとともにレースを進めていきまました。集団は中間点の付近から縦に長くなり、髙久・高田の2選手が後れてしまいます。25kmは日本記録のペースから5秒遅れの1時間13分22秒で通過。1時間29分17秒での通過となった30kmでは、日本人トップの橋本選手との差が26秒まで縮まりました。ペースメーカーの離脱と直後の給水で集団にばらつきが生じるこのタイミングで、中国のフェン・ペイヨウ選手が前へ。すかさず鈴木選手が集団から抜けだして単独でフェン選手を追走にかかり、そのなかで橋本選手をかわして、32km過ぎで日本人トップに立ちます。これに食らいつくことができたのは大迫・工藤・近藤の3選手。32.4km付近で橋本選手をかわすと、海外3選手と6人で集団をつくり、いったんは大きく先行した鈴木選手に34km過ぎで追いつきます。35kmは、大迫選手が1時間44分19秒(15位)で通過、1秒差で工藤・鈴木・近藤選手が続く展開となりました。
動きが生じたのは36km過ぎ。大迫選手が仕掛けると集団は縦長になり、鈴木選手、日本の実業団(ロジスティード)に所属するキムニャン・リチャード選手(ケニア)、キャメロン・レビンス選手(カナダ)が大迫選手につき、少し後れてスルダン・ハサン選手(スウェーデン)と近藤選手、ここで取り残された工藤選手が続く隊列へと変化しました。その後、近藤選手も突き放され、日本人トップ争いは大迫選手と鈴木選手のマッチレースに。ともに40kmを1時間59分29秒で通過したあとは、40.2kmでいったん鈴木選手がリードを奪う場面もありましたが、41kmで大迫選手が再逆転すると、鈴木選手に10秒の差をつけ、12位・2時間05分59秒でフィニッシュ。日本人トップの座を占めました。
日本記録を更新した前回レースから3カ月のスパンでマラソンを走る経験は、大迫選手にとっても初めてのこと。レース後、「明確な狙いは決めていなくて、シンプルに、3カ月のなかでどれだけ仕上げてこられるかというチャレンジだった」と出場の意図を話した大迫選手は、「比較的、走れたなというのはあるが、心身ともに…ということでは半年以上空けたほうがフレッシュな気持ちで臨めるのかな」と、その印象を述べました。また、海外トップ勢の集団でなく、当初の第2グループ(実際には第3集団)でのレースを選択したことについては、「僕としてはちょうどいいペースで進むことができた」とコメント。鈴木選手とのマッチレースとなった終盤の“新旧日本記録保持者対決”の感想を求められると、「走っていて、“きっとみんな(新旧対決と言って)盛り上がっているんだろうな”と思っていた」と話して報道陣を笑わせたあと、「対決というよりはサバイバル。(ペースを)上げるというよりは落ち幅をどれだけ少なくするかみたいな感じで、今回はちょっとだけ僕のほうに耐久力があったというだけの話」と振り返りました。
また、レース後の記者会見では、「海外勢との差を、日本が縮めていくためには何が必要と思うか?」という問いに対して、「僕も基本的に海外を拠点でやっているので、“海外勢”という言い方が正しいかわからないが、そこで一緒になってトレーニングしていくことが大事なのかなと思う」と回答。「もちろん、今の日本の長距離、マラソンはボトムアップしていると思うが、“もう一歩”というところで言うと、所属や国の垣根を越えて、一緒になってやっていくような取り組みが必要。“海外勢”とか“日本人トップ”とか言っているうちはまだまだ。ここからそれを取っ払って、鈴木健吾選手をはじめ、ほかの若い世代も含めてやっていければと思う」と話しました。次戦については、まだ決まっていない状況。「まずは、しっかりと休んで、リフレッシュしてから、秋のレースに向けて取り組んでいく」予定です。
日本人2位はプロ転向初レースの鈴木
全5選手が新たにMGC出場権を獲得
大迫選手に突き放される形となった鈴木選手も、最後までよく粘り、2時間06分09秒・13位でフィニッシュ。のちに、仕上がりとしては60%の状態であったことを明かしましたが、プロアスリートとなって最初のマラソンをサードベストで終えるとともに、参加標準記録をクリアしてのMGC出場権獲得を果たしました。2時間06分58秒をマークして日本人3番目の15位でフィニッシュしたのは、前回大会で日本人トップを占めている市山翼選手(サンベルクス)です。大迫選手らと同じ日本人2位集団に位置するつもりだった序盤を、もう一つ後ろの集団でレースを進める想定外の状況となったなか、着実に順位を上げていく得意のレースパターンを展開。最終盤で近藤選手を逆転しました。その近藤選手は、2時間07分06秒で17位。また、20位(日本人5位)でフィニッシュした工藤選手は、学生歴代4位となる2時間07分34秒で初マラソンを終えました。このほか、日本人6位となる26位には、市山選手同様に徐々に順位を上げた藤村共広選手(スズキ)が自己新の2時間08分49秒でフィニッシュ。この結果、2時間09分00秒以内で日本人6位以上の成績を収めた市山・近藤・工藤・藤村の4選手もMGC出場権を獲得。新たに5名の選手がMGCファイナリストに名を連ねる結果となりました(MGC獲得者のコメントは、こちらをご参照ください)。

なお、男子は最終戦を終えたことで、MGCシリーズ2025-26のチャンピオンも確定。名称が変わって初めてとなるチャンピオンの座は、ここまでに2682ポイントを獲得していた吉田祐也選手(GMOインターネットGrp)のものに。吉田選手は、初の日本選手権優勝を果たすとともに、アジア大会男子マラソン代表内定の条件を満たしました。また、アジア大会代表のもう1枠は、MGCシリーズ2025-26において最も良い記録をマークした大迫選手が、優先順位で吉田選手に続くこととなりました。アジア大会代表は、今後、両選手の意向も確認したうえで、3月27日に行われるMGCアワード終了後に発表されます。
女子の日本人最上位は細田
2時間23分39秒・10位で自らの花道を飾る
女子のエリートには、日本歴代8位の自己記録(2時間20分31、2024年)を持つ細田あい選手(エディオン)と、2時間25分20秒の自己記録(2023年)を持つ𠮷川侑美選手(キヤノン九州)の2名が国内招待選手として出場。今年1月に本年度限りで引退することを表明していた細田選手にとっては最後のメジャーマラソンに、また、2025年のマラソン2戦では2時間30分を切ることができていない𠮷川選手にとっては、MGC参加標準記録の2時間23分30秒も視野に入れた自己記録の更新、あるいはMGC出場資格を得られる2時間27分00秒をクリアしての日本人6位以内でのフィニッシュに挑むレースとなりました。
海外トップ勢が、国内日本最高記録を上回るペースで飛ばしていったなか、細川選手は𠮷川選手らとともに第2集団でレースを展開。𠮷川選手が後れ始めた25kmを1時間24分51秒で通過してからも、以降の各5kmを17分04秒、16分59秒、17分10秒と刻み、最後の2.195mを7分35秒でカバー、自己4番目となる2時間23分39秒・10位の日本人最高位でフィニッシュしました。大会前の会見で12月に右足首とふくらはぎを痛めたことを明かすなど、不安要素も持ちながらのレースでしたが、目標に掲げていた前回大会(2時間27分43秒、17位)を出すこと)以上の結果を大きく上回ってレースを終え、自ら花道を飾りました。レース後、「いつもよりもあっという間に終わったマラソンだった」とまず振り返った細田選手は、「ただ走るだけで終わりたくなかったので、できる限りの準備をして臨んだ。ベストまでには行かなかったけれど、昨年以上の走りができたことが嬉しかったし、納得して終わることができた。やりきったという気持ち」とコメント。レース中には、沿道の各所に散らばったチームメイトや友人をはじめとして、「本当に沿道のいろいろなところから声をかけていただいた」と述べ、「それが本当に嬉しかった」と瞳を潤ませながら感謝する場面も見られました。
細田選手に続く日本人2位には𠮷川選手が14位でフィニッシュ。セカンドベストの2時間27分21秒をマークしましたが、条件をクリアする2時間27分00秒には21秒及ばず、MGC出場資格の獲得は、次戦に持ち越される結果となりました。また、日本人3位となる17位でフィニッシュしたのは5000mや3000m障害物などトラックで数多くの実績を残している森智香子選手(積水化学)。初マラソンを2時間29分22秒で終えました。

文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真:フォート・キシモト/アフロスポーツ
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