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2026.02.06(金)大会

EKIDEN NEWSが語る、競歩の魅力― 競歩という世界への入り口『今年もいそいそと神戸競歩へ』

「あれ、EKIDEN NEWSさん。今日は競歩ですか?」とツッコまれながらも、毎年2月はいそいそと神戸競歩にむかう。「何言ってるんですか競歩に決まってるでしょう!」と答えると、皆、うれしそうに笑ってくれる。「俺も好きだが、お前もよく来たな」と言わんばかりに。「来るものを拒まず去る者を追わず」。日本の競歩界は、出入り自由な宗教みたいなところがある。選手も、指導者も、監督も。皆、とても家族的だ。神戸競歩(日本選手権ハーフマラソン競歩)が開催される日、同じ関西、長居公園では全国大学対抗男女混合駅伝がある。「EKIDEN NEWSなのにこっちに?」学生駅伝の現場では「ピリッ」とした雰囲気を漂わせている東洋大酒井俊幸監督からも、そうツッコまれた。「いやいや、酒井監督あなたこそ、神戸競歩に来ているじゃないですか」と、ツッコミ返しをするのが恒例だ。そんなこともあって、酒井監督とは主に競歩の話しかしたことがない。EKIDEN NEWSのくせに笑

港町、異国情緒と坂道、中華街。おしゃれなカフェに、焼き立てのパンとドリップコーヒー。
そして神戸牛。街歩きが楽しい街。それが神戸だ。しかし、「なんだか楽しそう」
そう思って神戸競歩にやってくると、大火傷をする。これらのすべてがない。それが神戸競歩。

神戸競歩が行われるのは、皆がイメージする神戸・三宮から少し離れた人工島、六甲アイランドである。周囲は物流拠点や六甲ライナーの基地。少々ディストピア感のある、超フラットで、ほぼ一直線の6車線の周回コース。無駄を削ぎ落としすぎた、競歩オリエンテッドなコースだ。だからこそ、タイムが出る。(風さえなければ)神戸競歩とは、そういう大会である。そこまでして神戸競歩に行く理由。ここが、世界への入り口だからだ。

このクソ寒い時期、世界の競歩はだいたいオフシーズンだ。日本だけがトップシーズンに突入する。イタリアのマッシモ・スタノ選手(東京五輪男子20km競歩金メダル)が来日。年末年始に山西利和選手と練習してたときのこと。「彼らがじっくり距離を踏んで土台を作っている時期に、ぼくらが神戸競歩を想定して薄着で世界記録ペースで歩いているのをみて、クレイジーだ!と呆れてました」と明かしてくれた。新たな競技として加わる「マラソン・ハーフマラソン競歩」。世界の競歩が動き出すのは春以降。海外の競歩関係者たちはいち早くシーズンが始まる神戸・能美の結果を注視している。世界トップ争いに絡む日本人選手たちが、ここでどれくらいのタイムで歩くか?が、これからの世界基準となるからだ。

「競歩のルールがよくわからなくて」と言われることがある。正直に言うと、知らなくてもまったく問題ない。何年も競歩のレースに通っているが、いまだによくわかっていない。でも、大丈夫だ。競歩は、出入り自由な宗教である。気がつくと、周囲にいる人たちが、今なにが起きているかを説明してくれる。しかも、その説明役が元日本代表だったり、ナショナルチームのコーチだったりする。だいたい、こちらが聞く前に始まる。東京世界陸上でメダルを獲ったのが競歩だけだったこともあって、界隈は今、わりと浮き足立っている。競歩ファンを増やす気、満々だ。なので、構えなくていい。神戸競歩は、ふらっと来ても、あなたをちゃんと受け止めてくれる。

とはいえ、なにかとっかかりが必要だろう。いくつか挙げていくとなると、まずは東京世界陸上男子20km競歩で28位に終わってしまった山西利和だ。東京世界陸上の沿道で満を持して山西が先頭にたったのを見届けると私は国立競技場へと移動した。「よし、これで山西は金メダルだ」と確信して。しかし、競技場に戻ると、ビジョンにはペナルティゾーンで2分間待機をする山西が映し出されていた。レース終盤での2分間のペナルティは事実上、メダル争いからの終戦を意味する。結果は28位。その山西が世界陸上以来のレースに復帰する。しかも、ここに山西を破って金メダルをとった(35km競歩では銀メダル)ブラジルのカイオ・ボンフィムが参戦。事実上、世界最強の再戦が神戸で行われる。このマッチメイクをした陸連の人。偉いです。東京世界陸上のレース中、結婚指輪をなくしたことで話題になったボンフィムには沿道から「指輪無くすなよー」と大きな指輪キャンディーをつけて声援を送るファンが出てくるはず。

東京世界陸上の男子35km競歩銅メダルによって知名度が500%アップした(当社比)勝木隼人選手も神戸競歩に参戦だ。とはいえ、彼が目指すのはマラソン競歩での代表であるので、今回のハーフマラソン競歩は鼻息荒く優勝を狙うものではなく、スピード練習を兼ねたものとなる。昨年10月の高畠競歩ではマラソン競歩でサブ3を達成。市民ランナーの間には「歩いてサブ3とは?!」と衝撃が走った。勝木選手の本命は3月の能美競歩マラソン競歩となるが、その直前の東京マラソンでの「競歩でのペースメーカー」が決定している。設定は3時間07分。ポイント練習をしながら、競歩PRもできるという一石二鳥トレーニング。神戸に来ることができない人は東京マラソンで歩く勝木選手にぜひ、「やる気・元気・勝木」と声援を送ってもらいたい。この神戸競歩でも前半の3kmくらいまでは「やる気・元気・勝木」コールに応えてくれるらしいので、皆で大いに盛り上がりましょう。

女子ハーフマラソン競歩は男子がスタートした1分後の8時51分にスタートする。東京世界陸上20km競歩銅メダル藤井菜々子選手のエントリーがないのが残念であるが、ブダペスト・東京世界陸上、パリ五輪代表の柳井綾音選手の実力が頭ひとつ抜けている。今シーズンのアジア大会も控えている。おそらく単独歩で記録とのチャレンジとなるはずだ。いくら先頭とはいえ、単独歩はなかなかに心が折れる。「柳井ちゃん!」と声援をかけ続けてほしい。沿道からの声援が心の支えとなる。春からは富士通で競技を継続するため、立命館大ユニフォームで関西を歩くのは、これが最後となるのかな。

好き嫌いはあるかもしれないが、競歩選手の中で一番好きなユニフォームは「田中競歩軍」だ。田中達也さんという、少々、ずんぐりむっくりした選手なのだが、漆黒に白の筆文字で胸に描かれた「田中競歩軍」というユニフォームがしびれる。軍といってるが、他の兵隊はいないようだ。ひとり軍隊なのである。大阪大医学部出身の医者でもある。決して速くはない。しかし、高畠・神戸・能美と日本選手権に出続けているうちに、次第に競技力も安定してきてるのがすごい。競歩の景色には欠かせない存在である。田中競歩軍の隠れファンは意外にも多い。前述の東洋大酒井監督も田中競歩軍のファンの一人だ。輪島競歩を翌日に控えた早朝。酒井監督がコースに散歩にでかけると、距離計測のコロコロを転がす田中さんの姿があったという。「周回コースだから、距離もわかるはずじゃないですか。それなのに独自で計測している田中さんが気になって、いてもたってもいられなくて声をかけちゃいました」GPSウォッチで距離も心拍もわかる時代に、自ら距離計測を行い、腕にはセイコー・スーパーランナーズをつけて歩きつづけるドクター。それが田中競歩軍。ふと思ったのだが、田中さん、何科なんだろう?神戸で聞いてみようと思う。

最後はギアの話だ。毎年、箱根駅伝のシューズチェックを行ってはいるが、シューズと競技のマッチングが重要視されるのは、競歩のほうがシビア。2023年ブダペスト世界陸上。日本競歩陣に「厚底ショック」という事件が起こる。それまで薄くて軽いほうがいい。と言われていた競歩シューズに一気に厚底旋風が起こったのである。多くのメダリストたちが履いていたのは、アシックス・メタスピード。「マラソンシーンで席巻するつもりが、まさか競歩でとは?」これにはアシックス社員も驚いた。(ちなみに東京世界陸上の男女マラソンでのNO.1着用シューズはアシックスである。)レース終盤まで足が残り、カーボンの反発でストライドが伸びるという厚底シューズの特性を活かした歩きに日本勢はこれまで得意としてきた先行逃げ切りのレースパターンを崩される。ブダペスト以降、日本勢は厚底シューズへの対応に追われた。硬いカーボンの反発をもらうには厚底を踏み抜く強靭な脚力が必要であり、反発で浮いた身体を抑え込む上半身の強化も必要となる。アジャストの過程で、それまで培ってきた歩型をいったん分解して新たなフォームを作り直す必要があった。ここに2年の歳月が費やされた。いまではほぼ全ての選手が厚底シューズでの競歩に対応。選手の体型にあわせたメーカーのシューズをチョイスしてきている。薄底で歩いている選手は私が知るかぎり、田中競歩軍(アシックス・ソーティー)を筆頭に数えられるほどだ。秋・冬のトレーニング期を経て、それぞれの選手がどういうシューズを選択してきたか?そのお披露目もこの神戸競歩となる。そうやって何年も神戸競歩に通っていると、最近は選手たちが「西本さん、今日はこれでいきます」とシューズを見せてくれるようになった笑 接地とシューズセレクトの相性を観るという、非常にマニアックな世界もある。

朝早くきて、お昼に終わる神戸競歩。終わったら、三宮に移動して本来の神戸を楽しんで家路へというのがゴールデンコースだ。


西本 武司/EKIDEN NEWS主宰
X・Instagramアカウント『EKIDEN NEWS』の中の人。
吉本興業、ほぼ日刊イトイ新聞を経て、一般社団法人OTT代表理事。
文章を書いたり、写真を撮ったりしながら、
「オトナのタイムトライアル」など新しいレースも企画する。
国内外を飛び回り、レースを走ること、見ること、作ることと多角的にマラソン・陸上競技を楽しむ。
Instagram:ekiden_news
X:@EKIDEN_News
note:https://note.com/ekiden_news/




▼第109回日本陸上競技選手権大会・ハーフマラソン競歩
https://www.jaaf.or.jp/competition/detail/2005/
▼【競歩特設サイト】Racewalking Navi
https://www.jaaf.or.jp/racewalking/
▼愛知・名古屋2026アジア競技大会日本代表選手選考要項
https://www.jaaf.or.jp/files/upload/202508/25_123204.pdf
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