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2026.02.06(金)委員会

【U20オリンピック育成競技者研修合宿】研修合宿/指導者研修会「あなたのコーチングしている選手の夢を語る」公開レポート(2026.1.12~15)



日本陸連では、U20カテゴリーを代表する競技者とその指導者を対象に、U20オリンピック育成競技者研修合宿を実施しています。これは、今後、対象者が国際的に活躍する競技者および指導者になるうえで重要な教養を身につけることを目的に、鍛錬期となる冬場を利用して継続的に実施しているもので、今年度は昨年12月に第1回が行われたほか、1月に第2回が、そして2月には海外での研修合宿が組まれています。
1月12~15日には、2回目となる研修合宿が、東京・北区の味の素ナショナルトレーニングセンターで行われました。この合宿には、67名のU20オリンピック育成競技者とその指導者に加えて、U16年代の競技者23名も参加。有望競技者の新しい能力の発掘、オリンピック育成競技者としての自覚や国際的な視野を育むことに加え、来年度以降に開催されるU20カテゴリーの国際競技会でより多くのメダル獲得者を輩出することを目的に、U20/U16カテゴリーの競技者の成長過程に準じたトレーニングを実施されたほか、栄養、コンディショニング、語学などトップアスリートとして必要になる知識の研修が行われました。
また、この合宿では、指導者の資質向上を期した研修も実施。今回も、U20/U16カテゴリー年代競技者指導の基盤となる競技者育成指針( https://www.jaaf.or.jp/development/model/)に則ったプログラムが用意されました。
ここでは、取材日としてメディアに公開された合宿2日目の模様をご紹介します。


【指導者研修会レポート】



今回のレポートでは、指導者研修について、詳しくお伝えしていきます。メディア公開日となった合宿2日目の1月13日午後、参加しているオリンピック育成競技者の指導者を対象とする研修が行われました。
日本陸連は、昨年末に、時間をかけて策定を進めてきた「育成年代における競技会ガイドライン」( https://www.jaaf.or.jp/pdf/about/guidelines/youth_competition.pdf )を公表しました。また、2025年は、これに先駆ける形で競技者に深刻なダメージを及ぼす暑熱問題の具体的な対策に乗りだし、育成年代の代表的な競技会であるインターハイについても、会期見直しを含む改善に向けた協議を進めています。
競技者育成指針( https://www.jaaf.or.jp/development/model/ )に基づく、こうしたアクションと並行して取り組んできたのが、その重要性を広く知らしめることです。指導者はじめ、現場の最前線で陸上を支えている関係者に向けて丁寧に説明し、認識を深めてもらう機会を、さまざまな場面で設けてきました。
今回の合宿では、まず、山崎一彦強化委員長が、「あなたのコーチングしている選手の夢を語る」と題して講義を実施。近年の傾向やエビデンスなども共有されたうえで、個人ワークに取り組んだのちにグループワークでディスカッションが行われ、世界で活躍する競技者を育てるために求められる育成年代の指導や競技環境を考えました。


講義「あなたのコーチングしている選手の夢を語る」



講師として登壇した山崎委員長は、冒頭で「ここにいる皆さんは、オリンピック育成競技者の指導に当たっている方々。コーチングをしていくうえで、指導する選手に対する夢――“オリンピックでメダルを取る姿が見えるかどうか”“入賞できるかどうか”“オリンピックに行けるかどうか”とか、あるいは“オリンピックには行けないかもしれないけれど、こういう人になってほしい”とか、そういう思いを持っておられると思う。私たちが進めている取り組みも、実はそこが原点。それを実現できるようにシステムを変えていこうとしている。今回は、そうした夢を、皆さん個々に当てはめてもらって、想像してもらう作業をしていきたい」と話を切りだしました。


◎世界における日本陸上界の今
最初に説明したのが、世界における日本陸上界の位置の現状です。山崎委員長は、U20世界選手権、オリンピック、世界選手権における近年のプレイシングテーブル(1位8点、2位7点、3位6点…と、入賞の8位までを得点化し、その合計得点で国・地域別を順位づけるもの)を示し、以下のように説明しました。
・シニアの世界大会におけるプレイシングテーブルは、2012年ロンドンオリンピック(21位)から20位台に位置していたが、現在は世界選手権も含めて11~16位に上がっている。この背景に挙げられるのは、今までマラソン、競歩、リレーという種目での獲得だったメダルや入賞が、少しずつそれ以外の種目から出てきている点。これはU20からシニアにかけての成績が上がっていることを示している。
・U20世界選手権での成績をプレイシングテーブルに当てはめると、最高成績は4位が2回(2014年オレゴン大会、2018年タンペレ大会)。日本は世界においてトップクラスの強豪校とみなされている。しかし、コロナ禍以降は、順位が落ちており(2022年カリ大会10位、2024年リマ大会11位)、2026年に行われるオレゴン大会での活躍を期待している。
・これまで、U20世界選手権に出場してメダル圏内や上位入賞を果たした選手は、高い確率で、その後、シニアでも日本代表に選出されている。また、代表になったあとに、入賞やメダル獲得を果たす者も出ており、好循環が生まれているといえる。
・U20世界選手権はインターハイと日程が重なることが多く、2026年も現状では重なっている(U20世界選手権8月5~9日、インターハイ7月30日~8月3日)。また、コロナ禍以降、目線が国内志向になっている状況にある。しかし、日本陸連としては、U20世界選手権で成績を残せる可能性がある選手たちには、ぜひU20世界選手権にチャレンジし、その後のオリンピックや世界選手権につなげられるようにしてほしいと考えている。


◎世界で戦おうとしたときに生じた疑問
続いて、山崎委員長は、「私見になってしまうが」と前置きしたうえで、自身が世界を目指して競技に取り組んできたなかで、「日本は、なぜ、こうなのだろうと、“?”がつくところがあった」として、世界で戦おうとしたなかで覚えた問題意識として、次の点を挙げました。
・日本は世界でジュニア期は強いが、シニア期に勝てないのはなぜ?
・インターハイの勝ち方と世界の勝ち方の違いがあるのはなぜ?
・日本での記録を海外で出せないのはなぜ?
・日本人競技者が短命に終わるのはなぜ?
・日本人の練習量が多いわりに成績が出ていないのはなぜ?
・世界大会出場と世界大会活躍の違いはなぜ?
・日本の陸上競技者は経済的自立ができない?
そのうえで、男子マラソン日本記録保持者の大迫傑選手(LI-NING)がインタビュー記事で“箱根にはエベレストはない”と発言した話題に触れ、「厳しい発言であり、彼に批判を浴びせる人もいるのかもしれないが、私は共感を覚える言葉だった」とコメント。そして、「陸上に取り組んでいくなかでは、国内でトップを決めるインターハイやその他の試合が、一つの山として(世界とつながっていて)、その後も山を積み上げて登っていけるものであることが理想。それができるような育成…登った山を降りることなく、さらに次の山を積み上げていくことができるような育成を考えていくことが求められるわけだが、残念ながらそういうシステムができていないのが現状」と述べ、「こうした山の積み上げ方のできるシステムを、これからみんなでつくっていけるようにしたいし、そのシステムができていない今は、みんなで同じ考え方を共有して、一緒に山を登っていけるようにしたい。それが今日の一番の趣旨」と説明しました。
さらに、現在、日本陸連が検討を進めている“目指すべき競技会システムの在り方”について、「国際競争に合った競技運営、競技施設、強化育成の仕組みに整えていく」として、現在、日本で生じている国内競技会の問題点と、これらの解消に向けて目指していこうとしている改善の具体的な方向性なども示しながら、「(システムを変えていくためには)これらも含めて、たくさんのことを考えていく必要があるが、今日はまず、すべて、自分自身のことに置き換えて考えを進めてもらいたい。優秀なタレント(高い能力や資質を持つ選手)を預かっている指導者が、その選手に対して、どうやって未来を語るのか。また、そのあとどう送りだすのかについて、一緒に考えていきたいと思う」と呼びかけました。


◎あなたの指導する競技者がオリンピックでメダル獲得・入賞するためには
その後、山崎委員長は、各受講者が「自身が指導する競技者が世界大会でメダル獲得や入賞が可能な選手へと育つために、育成年代でどんな指導や競技環境が望ましいかを考えていく」ための重要な観点を、いくつか示していきました。まずは、日本の高校陸上界で課題となっている事柄と、その対策を考えるうえで必要になってくる視点です。日本の高校陸上界の現状は、「世界有数の登録者数」を誇り、「世界一の練習量、世界一の競技会数」を行っていることや、「海外および国際競技会の方法と日本の方法が異なる」ことから、国際舞台に進んだときに大きな成長を阻む要因となっていることを示唆。そして、対策として考えておきたい事柄と検討を進める際の着眼点として、次の4つを説明しました。

①高校時の種目専門的準備期間は?
高校時代の、その種目の専門的な準備期間は、どのくらい必要かを考える。準備期間を長くとって取り組むほど高精度化し、「やりすぎ」「行きすぎ」を招く。では最低限必要なのは、どのくらいの期間なのか?それ以上やった場合に、「高校で結果が出せても、将来的にどうなのか」を考える。

②どのくらいの練習量にして、どの程度の技術を習得するか?
高校時代の練習量も非常に大事な観点。実は、早期にやりすぎていたことが影響していて、そのために(シニア期に世界で戦うようになって)「今、もう少しできたら」と思うときに、脚が動かないとか、ケガが多くなるとか、オーバーユースになっているなどの状態に陥っていることが考えられる。また、技術の習得も、育成期では「やったほうがいい」ことと、「今、やらなくてもいいもの」に分かれる。「どこまでやったほうがよくて、やらなくてもいいのは、どこからなのか」を、しっかり考えてみることが大切。

③インターハイとオリンピックで通用する技術・戦術(レースペース)の違い
インターハイで通用する技術や戦術とオリンピックで通用する技術や戦術を考えてみる。「インターハイで通用しているこの技術や戦術は、オリンピックで通用するのか」「インターハイを経ることで、オリンピックでより良くなる可能性があるのではないか」あるいは「オリンピックでは通用しない技術や戦術なのではないか」。そういった観点で技術や戦術をピックアップし、その違いを考えることに取り組んでもらいたい。
育成年代の競技活動は、「成熟したからいい」というわけでもないし、「全くやらないからいい」というわけでもない、すごく難しい問題。正解があるかどうかもわからないが、それを「考えていくこと」が非常に大事。「できる、できない」は別として、少なくともその違いがなんなのかを常に想像していきたい。

④体力や技術の頭打ちとは?いつ来るのか?いつ来させるのか?
体力や技術は、競技を続けていくと、必ず頭打ちが来たり、その後、うまくいかなくなったりするときが来る。最後までやりきったトップ選手であれば、自身の例をすぐに言えると思う。しかし、「どの時期に来たのか、そのときにどうしたか」は伝わっておらず、また検証もできていない。検証自体ができない可能性もあるが、少なくとも検討することはできる。「それ(頭打ち)がどんなものなのか、いつ来るのか」を考えるとともに、「来させたほうがいいのか。それはいつがいいのか」ということも考えてみたい。


◎「なぜ育成期に競技会数や高精度化を進めないほうがよいか」の背景にあること
次に、競技者育成指針をはじめとして、日本陸連が方針に掲げる「育成期に競技会数や高精度化を進めない」理由として、次の点が示されました。
・統計上、育成期に日本記録に近いと、早く頭打ちが到来する。
・若年層で成功体験が多くなりすぎてしまう。この年代で負ける経験、失敗する経験をしておくことが必要。
・シニア期に失敗してしまえば、やり直しはきかない。
・インターハイの成功体験は、世界大会の成功体験に類似しにくい。
・育成期の準備期間が長いと高精度化が起こり、その後の大きな成長のうねりを阻む恐れがある(冬期練習から8月まで勝てるターゲット種目を決めて取り組むやり方は育成期には長すぎる)。
・育成期の技術的取得による精度と、シニア期の技術的精度の成功要因は異なることが多い。
また、ここで山崎委員長は「育成期に高精度化したなかで得た技術で日本ではうまく行き、それを“日本人に合った技術”と評価していたが、いざ世界大会に出てみたときに、世界のトップ選手たちとの身体つきや技術の内容が全然違っていることに気づく。“これでは勝てない”と方向転換しても、それでは遅いという事態が起きた」という、あるオリンピアンの談話を紹介。さらに、自身が指導にかかわり、シニア期に入って男子110mハードルで世界水準へのステップアップを果たした泉谷駿介選手(住友電工)、村竹ラシッド選手(JAL)、阿部竜希選手(順天堂大)の経歴や特徴を例に挙げ、「3人に共通しているのは、全日本中学に出場できるレベルではなかったこと、高校時代にハードルを専門的にやらなかったこと――もしかしたら、(筋力・体力的に)“やれなかったこと”なのかもしれないが――、がけっこうあったということ」と述べ、育成年代に高精度化することのない形で競技に取り組めていたことが、現在の躍進に影響しているという見解を示しました。そのうえで、このあと実施する個人ワークについて、「(将来的に世界水準に)対応するために、どこまで高精度化して、どこでやめておくのか。そして、必要な技術は、体力がついたときに獲得できるようになるのかを、ここで想像してもらいたい。“これが正解”というものがないことなので、とにかく想像しておくことが大事。それができていれば、次のコーチに託すことになったときにも、その視点も共有することができるので、うまくいく可能性が大きくなると思う」と呼びかけました。


個人ワークとグループワーク「あなたの指導する競技者が、オリンピックでメダル・入賞するために考えよう」

◎個人ワーク
山崎委員長の講義で、考え方のヒントといえる事柄が共有されたうえで、研修は、次のステップへ。「あなたの指導する競技者が、オリンピックでメダル・入賞するために考えよう」というテーマで、まず、個人ワークを行い、その後、グループワークで考えを共有したりディスカッションしたりしていく時間が設けられました。
各参加者が、自身の指導するオリンピック育成競技者について考えをまとめ、記述に取り組んだのは、次の事柄です。テーマ1で大まかな将来像を描き、テーマ2では、その将来像を達成するために、各年代(特に育成年代)で、どういう点に留意して取り組んでいくとよいかを具体的に書きだしていく作業に取り組みました。

<テーマ1>
・現在、指導しているオリンピック育成競技者は、将来、どの程度の記録水準に到達すると考えているか。
・どのような競技成績を獲得し、どのような競技キャリアを歩んでいける(いってほしい)と考えているか。
・何歳あたりで最高成績(競技成績、記録)に到達して、何歳まで競技を継続できると思うか。

<テーマ2>
・高校時代にやっておくこと、やらなくていいこと。
①現在指導しているオリンピック育成競技者について、今後の記録の変遷、日本代表選出、世界選手権・オリンピックに出場・入賞・メダル獲得やダイヤモンドリーグ転戦、海外拠点でトレーニングなど、これからどんな競技キャリアを描いていくと考えているかを、年齢ごとに競技成績(%)で図示する。
→10~40歳を想定して、何歳で100%の競技成績を収めるか。また、それを達成するために、育成の過程では、どのくらいの年齢で、どのくらいの競技成績を収めておくのが理想であるかを考え、グラフ化してみる。
②①のグラフに対応させて、マイルストーン(到達目標)、トレーニング(体力、技術、量、強度)・トレーニング環境・コーチング、試合計画(具体的に参加する国内・国外競技会)について、各年齢で達成しておくべきこと、やらずに後の年代で達成すべきことを書きだす。
→マイルストーンとしては、それぞれの年齢ごとに到達したい目標を記載する。トレーニングについても、各年齢で達成しておきたいことを、体力・技術、量や強度などの面から考えて書きだしてみる。また、トレーニング環境(海外を拠点にするなど)や、その時々で受けるコーチングなどについても考えてみる。試合計画では、具体的に出場する大会名を記載する。また、対象競技者が将来的に現在とは別の種目に取り組んでいくことをイメージしている場合は、そこも含めて、現在の自身の考えを記入する。


◎グループワーク


各自が30分の個人ワークで、自身が指導に当たっている競技者のケースを書きだしたあとには、グループワークが行われました。指導する競技者が現在取り組む種目のブロック内で、受講者およびその種目の指導にあたる強化育成部スタッフでつくる4~6人のグループに分かれて、個人ワークで書いた内容を共有したのちにディスカッションを展開。ちなみに、「自身が担当する種目で、将来的にオリンピックや世界選手権でメダル獲得や入賞を果たす競技者を出すために、育成年代でどんな指導や環境が必要か」をいう視点で、参加した指導者と同じ個人ワークを実施。そのうえで、15に分かれた各グループに1~2名が入って、意見交換に臨んでいます。
また、ディスカッションを始めて20分ほど経ったタイミングでは、「議論をさらに推し進めていくための情報提供」として、強化委員会の遠藤俊典コーディネーターが、国内外の知見や世界大会の近年の傾向など、以下の3項目を紹介・解説しました。

<情報提供項目>
・世界のトップレベルに至った人々のパフォーマンス発揮について
→一流男子100m選手について、世界と日本における歴代20傑競技者の自己記録達成率を比較したデータから、高校生年代では日本が世界に比べて高い記録達成率を示しているが、その傾向は、23歳くらいを境に逆転する。また、日本がその後、低下するのに対して、世界では高い記録達成率を示す状態が長く続く。
→2025年に世界的に著名な研究誌に掲載された陸上競技やチェス、学術・音楽などの分野を対象とした調査で、①各分野で世界トップクラスに至った人は、若年期は幅広く多分野にわたる練習をしており、初期では緩やかな発達を見せていたこと、②非世界トップクラスの人は、若年期に特定の分野に特化した集中的な練習を行い、初期で加速した発達を見せていたこと、が示された。また、世界トップクラスに至った者のうち、初期に緩やかな発達の曲線を描いていた人(①)は全体の90%で、残る10%は②の曲線を描いていても世界トップクラスに到達していることもわかっている。
・シニア期におけるパフォーマンスの向上と若年期のトレーニングの関係について(ドイツでの研究結果)
→ドイツ代表として陸上の国際大会で活躍する成績を収めたグループと、ドイツ国内トップレベルにとどまったグループで、18歳までの練習時間を比較した研究で、①18歳までに他のスポーツの練習量が多かった者は、将来の伸びが大きい、②18歳までの専門練習(陸上)時間が多くても、他スポーツの経験が乏しければ、将来の伸びは大きくない、③18歳の専門練習時間が累積40000~5000時間に到達すると、将来の伸びを小さくする、の3つが報告され、この結果からシニア期にパフォーマンスを向上させるために推奨される練習時間の上限と下限が示された。例えば、17~19歳では、上限が2時間×週4日×48週、下限が1.5時間×週3日×48週。これが国際的に活躍する選手に育ったドイツの競技者を調査したなかで出てきた練習時間の目安であると報告されている。
・世界大会における入賞・メダル、出場の指標となる記録について
→至近3世界大会(2023年世界選手権、2024年パリ五輪、2025年東京世界選手権)におけるデータ(①全種目の入賞者の平均値、②全種目優勝者のリザルトスコアおよびプレイシングスコア)を提示。①を見ると世界大会で入賞するために必要となる記録が、②からは優勝するためにワールドランキングで必要となる水準を把握することができる。
→なお、出場するレベルの記録を考えるうえでは、参加標準記録がまず目安となる。また、ワールドランキングでの出場を目指す場合は、(大半の種目で必要な)5つの記録が参加標準記録の-3%前後くらいの記録で平均がとることが指標となることが試算されている。
これらの情報を述べた遠藤コーディネーターは、「ここで紹介した検討材料を参考にして、個人ワークで記載した記録の水準を再検討してみたり、練習量について“諸外国のデータはこうだが、国内あるいは自分たちはどうなのか”などをグループで話し合ったりして、今日の時点での最終的な書面を完成させていただきたい」とリクエスト。受講者たちは、これらの点も考慮しながら、さらに約20分の議論を行いました。


◎発表
各グループで、活発な意見交換が行われたのち、発表の時間が設けられました。オリンピック育成競技者のコーチとして2名が発表。ここでは、以下のようなコメントが上がりました。
・学校は県内で進学校として知られており、環境も整っておらず、練習も2時間程度。その時間のなかでできることをやっている。
・今は、土台つくりとして、身体を使ういろいろなトレーニングを実施している。高校の後半から専門的なトレーニングに移り、次のカテゴリーにつなげていき、そこで大きく羽ばたいていけるよう、次の指導者に育ててもらえたらと思っている。
・私たちのグループでは、「練習時間が少ない」「オフをかなりとっている」という指導者が多かった。また、オフを入れるタイミングについても、選手の自主性も考え、精神疲労しないようにしているという声があった。
・自チームでは3勤1休か2勤1休がベース。また、練習時間も2時間半で終わらないときは「テンポが悪い」という評価基準。生徒にも、常に時間に対する意識や精神疲労しない意識を話している。
・自身は、インターハイ至上主義にならないような指導を心掛けている。疲弊しないような競技の臨み方、満足感をマックスにしない取り組みを進めている。また、技術については、理想とするものより下げたところの完成度を上げることに目を向けて指導している。
・ネットなどによる情報過多や部活動の地域展開など日々が大きく変化する現代社会で、競技者育成を考えるときは、「時間の使い方や練習の本質の見極め」が重要になるのではないかという話になった。
・この合宿に参加している選手は、世界を目指していくために、とにかくスケールを大きくしたいという点で考えが一致。そのためにも目先の練習や勝利だけでなく、その先につながる育成が必要という議論が進んだ。
また、ディスカッションに加わった強化育成部のスタッフ陣からは、その代表として、混成競技の中村明彦氏が指名されました。強化育成部の立場で、「将来的に世界大会でメダル獲得や入賞を果たすために必要なこと」を、混成競技で検討するという“お題”に対して、中村氏は、「現状で、日本の混成競技は、世界大会でのメダル獲得や入賞との差が非常に大きく、厳しいものになっている」としたうえで、そこに近づいていくためのアクションとして、「トランスファー」という言葉を挙げて、次のように提案しました。
・他のスポーツ種目からトランスファー:七種競技の場合では、ハンドボールやバスケットボール、バレーボールなど、そのスポーツでは長身とはいえないけれど、陸上では長身とされる身長175cm前後の選手や、身体能力は高いが球技に求められる器用さに欠ける選手、個人競技が向いている選手とかをリクルートしてはどうか。陸上に転向して、さまざまな種目にチャレンジしてみるなかで、大学からしっかりと混成競技にチャレンジする。
・世界で戦っていくようになるためには、混成競技だけでなく、単独種目でも日本選手権で戦っていける種目を多く持つ選手になることが資質として必要。また、体力テストやコントロールテストが強く、そうしたフィジカル面を備えたうえで勝負勘を持ち、試合の流れを読んでパフォーマンスしていける選手、各種目の技術レベルはそんなに高くないが、フィジカル面の高い選手を混成で育てていくのが日本ではよいのではないか。
・育成年代においては、現状で、インターハイでの実施をどうするかも取り沙汰される立ち位置。暑熱対策と相反する競技性を持っている種目でもある。また、U20年代の選手に将来を聞いてみると、「将来的には、1つの種目に絞る」という声も多い。種目間トランスファーで、他種目のスペシャリストへと飛び立っていくという意味では、混成は日本の陸上界に役立っているのかもしれないが、タレントの流失がとても激しく、かつ入り口は狭い種目といえる。
・現場の指導者の皆さんには、「リトランスファー」を提案したい。混成競技から、いろいろな種目にトランスファーした選手が、必ずしも日本のトップに行くとは限らない。トランスファーして突き抜けられなかった選手を、もう一度、トランスファーで混成競技に戻すことを選択肢に入れてほしい。そのリトランスファーによって、さまざまなタレントを持つ競技者が増えることで、混成競技を盛り上げていくことができたらと考える。


“次”を考えたときに何をするか、選手にどんな未来を約束できるか、ともに考える



こうして、2時間半を超えるボリュームとなったなか、指導者研修は予定していたプログラムをすべて終了。最後に、強化委員会で強化育成部の統括を担当する杉井將彦シニアディレクターが挨拶に立ちました。
「ここに集まっている先生方は、既存の日本の育成世代の競技会において、指導実績を挙げている方々。そういうなかで、今日、山崎強化委員長や遠藤コーディネーターから紹介された内容は、私も含めて耳の痛い内容だったのではないかと思う」という言葉から話を始めた杉井シニアディレクターは、「 私自身も高校の指導者として、30数年間指導してきたなかで、自分の目の前にある目標に向かって頑張ってきたが、今、こうしていろいろと勉強していることを踏まえると、皆さんにお話しできる内容ではなくなっている。しかし、その目標に向けて、本当に真摯な思いで頑張ってきたというところは、否定されるものではないと思っている」と述べたうえで、「ここから“次”を考えたときに何をしなくてはならないかは、今日、長い時間をかけて皆さんがまとめた内容を、頭のどこかに置いて、これから指導していくことなのかなと思う。もしかしたら、少し遠回りになるかもしれないが、私たちが指導する選手が将来、国際大会でメダルを取って、メディア等の発信するニュースで大きく取り上げられる日が、一人でも多くやってくることを期待したい」とコメント。最後に、日本陸連が取り組んでいる育成年代の競技会システムの改革について、「もう一度、しっかりと見直して、皆さんの目標となるところが、そのまま将来の結果につながるようになることを目指して取り組んでいる」ことに触れたうえで、今回の研修が「私たちが何をしようとしているかを知っていただき、これから選手にどんな未来を約束できるかを、ともに考える時間になっていればと思う」と呼びかけ、研修を締めくくりました。


【トレーニングレポート】



取材日となった1月13日には、研修合宿に参加した選手たちに向けたトレーニングも、メディア公開のもと実施されました。冒頭でも触れたように、この研修合宿では、U16・U20年代の発育発達の個人差や将来的な種目選択などに配慮したプログラムが組まれていることが大きな特徴となっています。今回は、2日目の午前に行われた「傷害予防研修」と「トランスファートレーニング」の模様が、メディアに公開されました。


傷害予防研修

「ケガをしない、予防するためのセルフコンディショニング」

傷害予防研修の講師を務めたのは、日本陸連医事委員会トレーナー部の五味宏生委員。選手の身体ケアやコンディショニング、ケガからのリハビリ、さらには身体つくりのトレーニングの指導など、幅広い領域から総合的にサポートするアスレティックトレーナーとして知られ、陸上界では多くのトップアスリートのトレーナーも務めています。
「人間の身体は、たくさんの関節でつながっているので、これらに動かないところがあるともったいない。一方で、動きすぎるところがあっても、いつかそれが壊れてしまう。なので、ケガの予防という意味では、均等に使えるようにしておいたほうがいい。また、競技力を上げるという面でも、同じ関節だけで出力を上げ続けていると、それがケガにつながり、最終的に引退の要因にもなる」と説明したうえで、こうしたケガを防ぐために、骨や関節の動き、筋肉のつき方などを踏まえて、自分の身体を適切に、効率よく動かしていけるようになるための運動を多数紹介しました。
選手たちは、五味委員が提示するさまざまな運動に挑戦していくなかで、日常のトレーニングで実施している腹筋運動や腕立て伏せも、身体のどの部分に意識を置いて実施するかで、鍛えられる箇所や得られる効果が変わってくることや、逆に、何を目的として実施するかによって身体の動かし方も変わってくることを理解。また、一つ一つの運動に取り組むごとに、その動きや力発揮の仕方が、実際の競技のどの部分で生かされるかまでレクチャーされたことによって、「自分の身体を、思う通りに操れるようになること」「思い通りに動かせる身体を使って、目的に沿って動きをコントロールできるようになること」が、競技パフォーマンスの発揮に大きく影響し、最終的にはケガのリスクを下げることを学びました。


トランスファートレーニング「競歩」

この研修合宿では、「トランスファートレーニング」が取り入れられています。これは、育成年代からシニア年代へと競技を続けていくなかで種目の変更(トランスファー)がスムーズにできる状況にしておくことのほか、育成年代に重要とされている、「さまざまな動きを経験していくなかで、身体能力を全体的にバランスよく高めていくこと」を期して、参加する選手たちがブロックの垣根を越えて、全員で、各種目の基礎トレーニングに取り組んでいくものです。今回の合宿でも、短距離・ハードル、跳躍、投てき、競歩のトランスファートレーニングが日程に盛り込まれ、2日目の午前には、競歩のトランスファートレーニングが行われました。
指導に当たったのは、強化育成部で競歩を担当する塚田美和子氏と石田大介氏の2人。最初に「今日やる内容は、皆さんの種目の練習のなかで、あるいは動きのなかで生かしてもらえたらというのが一番の思い。“競歩を覚える”というよりは、“競歩の動きを自分たちの種目のなかに生かす”という考え方で取り組んでもらいたい」と話した塚田氏が、競歩のイメージやルールを簡単に説明したうえで、「骨盤まわりを大きく動かして、身体を前方へ移動させていく競技」であると説明しました。さらに、「競歩以外の種目でも、“もっと骨盤を動かそう”と指導されることがあるはず。今日のトランスファートレーニングでは、どうやれば骨盤を動かしていけるのかに取り組んでみよう」と述べ、ウォーミングアップとして、仰臥や長座、そして立位の状態で、骨盤を動かしていくことからスタートしました。そこから歩行へと移っていくなかで、選手たちは、骨盤をどのようなイメージで動かすと、うまく前進できるのか、1歩の歩幅を大きくすることができるのかなどの感覚を理解しました。
続いて、石田氏が、実際の競歩の歩き方を紹介していきました。まず、「重心の移動の仕方」を意識する運動を実施。続いて、「競歩において非常に重要なのは、上半身と下半身の連動性」と述べ、その理由として、上半身にあたる肩甲骨付近を、腕振りによって大きく動かすことで、下半身にあたる骨盤が自然と動き、骨盤が動くことで大きな歩幅を出すことができるという動きのメカニズムを説明しました。
続いて、片腕を回しながら前進する、両腕を交互に回しながら前進するなど、実際に競歩選手が実施するドリルを実施。1歩進むときに回している手がどの位置にあるかを意識するなかで、腕と足の連動を確認しながら前進していくことに取り組みました。
最後に石田氏は、「“歩く”という行動は、皆さんが生活のなかで必ずやっていること。練習のなかでも、走ったあとやドリルをやったあとには必ず歩いて戻っているはず。そのときに、かかとから着地して、姿勢を正して、しっかりと歩くことを意識するのはとても大切。また、普段の学校生活でも歩く姿勢や、1歩1歩をどれだけ意識して毎日過ごすかは、自分が取り組んでいる種目に生きてくる。“骨盤の動かし方”“上半身との連携”を意識して歩くことを心掛けてほしい」と呼びかけて、トランスファートレーニングを終了しました。
合宿に参加している清水空跳選手(星稜高校、男子100m)は、トランスファートレーニングについて、「普段やっていること違った動きではあるけれど、メイン種目につながってくるところがあると思う。そういうところを探しつつ取り組んでいくことは良い刺激になる」とコメント。また、ダイヤモンドアスリートNextageの後藤大樹選手(洛南高校、男子400mハードル)は、「最初は、“競歩と400mハードルって、何がつながるんだろう?”というイメージだったのだが、実際にやってみると、骨盤の使い方だったり肩甲骨から連動させていくことだったりが同じことに気づき、違うアプローチが、自分のメイン種目につながっているのはすごく面白いなと思った。いい収穫になった」と、この日の“競歩体験”を振り返っていました。

文・写真:児玉育美(JAAFメディアチーム)


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