2025.10.31(金)大会

【第62回高畠競歩レポート】日本初のマラソン競歩実施!勝木・内藤が初代王者に



第62回全日本競歩高畠大会が10月26日、山形県高畠町の「高畠まほろば競歩路・日本陸連公認競歩コース」(1周1kmの周回路)で行われました。競歩の国内ロードシーズン開幕戦に位置づけられるこの大会は、毎年10月最後の日曜日に開催され、「高畠競歩」の愛称で親しまれています。今回は、ワールドアスレティックス(WA)が来年から競歩の国際大会種目における距離を、従来の20kmと35kmに代わって21.0975km(ハーフマラソンの距離)と42.195km(マラソンの距離)で実施する決定を下したことに、いち早く対応。日本では最初となるマラソン競歩、ハーフマラソン競歩の公認大会として開催するとともに、男女マラソン競歩については、来年秋に名古屋で開催されるアジア大会の日本代表選手選考競技会を兼ねて実施されました。


男子マラソン競歩は、勝木が快勝 「サブスリー」達成!



この週末は、複数の低気圧や前線の影響で、全国的に雨模様に。高畠町も、晴れ間の見えない1日となりました。前夜からの雨は、午前6時ごろからいったん強まる時間帯が続き、関係者をやきもきさせましたが、幸いにも男女マラソン競歩の出発時刻に合わせるかのように少しずつ弱まっていきます。そして、午前8時、天候小雨、気温12.5℃、湿度92.6%、西南西の風1.3mの気象コンディション(主催者発表)のなか、日本で初めてとなるマラソン競歩レースの号砲が鳴り、男子21名、女子4名の選手がスタートしました。



この大会では、2023年からコースが変更され、1周1kmの周回コースでレースを実施しています。今回のマラソン、ハーフマラソンの距離への変更にあたっては、フィニッシュ地点は従来通りとして、スタート位置を変えての対応が採られました。すなわち、マラソン競歩においてはスタートして0.195km(195m)歩いたうえでコースを42周する、ハーフマラソン競歩においてはスタートして0.0975km(97.5m)歩いたうえでコースを21周するという方法です。
男子マラソン競歩は、スタートしてすぐに東京世界選手権男子35km競歩で銅メダルを獲得した勝木隼人選手(自衛隊体育学校)とパリオリンピック男女混合競歩リレー代表の髙橋和生選手(AD ワークスグループ)が飛び出し、少し離れて石田昴選手(自衛隊体育学校)が単独で追い、その後ろで岩井和也(自衛隊体育学校)、諏訪元郁(愛知製鋼)、村山裕太郎(富士通)の3選手が4位集団を形成して進んでいくという展開になりました。
「前半は抑えていく予定」で、特に「最初の5kmはウォーミングアップのつもりだった」という勝木選手が、序盤で想定していたのは1km4分15~20秒ペース。「10km刻みで、キロ5秒ずつ上げていけば2時間55分くらいで行けるかなと思っていた」そうで、「どこかで急に(ギアチェンジする)、というよりは、少しずつ上げていこうと思っていた」と言います。その言葉の通り、最初の周回を4分17秒で入ると、その後、4分15秒、4分10秒、4分08秒という形で、周回を重ねるなかで、徐々にペースを上げていきました。最初の5.195kmを22分18秒(この間の5kmは21分19秒)で通過すると、以降の各5kmを、21分00秒、20分58秒、20分40秒のラップを刻んでいきます。
変化が生じたのは、マラソンでいう中間点を迎えるあたりでした。勝木選手が残り22周の周回を4分05秒のペースに引き上げると、髙橋選手がやや後れ気味となり、その次の周回も4分05秒で刻んだことで、ここから両者の差は次第に開いていくことになりました。勝木選手は、25.195kmまでの5kmを20分30秒、その次の5kmも20分31秒のラップで、後続を大きく突き放していきます。最終的に1km4分00秒ペースまで引き上げることも考えていたそうですが、「その必要がなかった」こと、その後、ロスオブコンタクトでレッドカードが1つ出たこと、さらには残り10周となったあたりから、小康状態だった雨が再び降りだしたこともあり、その後の各5kmは20分42秒、20分49秒にペースを落としたものの、最後の2kmは8分10秒でまとめて、2時間55分28秒でフィニッシュ。2位以下のすべてを周回遅れにする圧勝ぶりで、初のマラソン競歩レースを制しました。

2位でフィニッシュしたのは、社会人2年目で、今年度から自衛隊体育学校の所属となった岩井選手。前述の4位グループから中盤で村山選手が後れると、その後は諏訪選手と2人で石田選手に追いついて3位集団を牽引。石田選手、諏訪選手、さらには先頭争いから後退してきた髙橋選手もかわしました。5.195kmから35.195kmまでの各5kmをすべてビルドアップ。30.195kmから35.195kmの5kmで20分50秒の最速ラップをたたき出しました。40.195kmは21分45秒、ラスト2kmは9分01秒で粘り抜き、3時間01分22秒をマークしました。
岩井選手は、20km競歩では日本大学4年時の2024年1月にマークした1時間22分31秒の自己記録を持っていますが、35km競歩も、もちろん50km競歩の経験はゼロ。そうした背景のなかでのマラソン競歩挑戦でした。しかし、「練習のときから未知であったが、未知であるからこそチャレンジしようかなという気持ちで取り組むことができたので、気持ち的にはけっこう楽だった」と岩井選手。その一方で、「夏合宿で練習ができていたし、自分は一定で押していけるタイプ。その持ち味が出れば行けるかなと思っていた」と振り返りました。
岩井選手に続いたのは石田選手。いったんは、5番手まで後退する場面もありましたが、終盤で盛り返して3時間04分22秒でフィニッシュ。これにより、自衛隊体育学校勢がワン・ツー・スリーを達成する形となりました。


女子マラソン競歩を制したのは内田 ケガを乗り越え、復活V



女子マラソン競歩は、男子と同じ午前8時にスタート。4名の選手が、アジア大会の代表入りも見据えつつ初めての種目に挑み、内藤未唯選手(ウィザス)が3時間47分51秒で優勝しました。
レースは、スタート直後から𠮷住友希選手(船橋整形外科)と立見真央選手(田子重)が横に並び、そのすぐ後ろに内藤選手がぴたりとつく隊列となって、1km5分20秒のペースを3人で刻んでいく形で進んでいきました。5.195kmは27分13秒で通過して、この間の5kmを26分12秒で入ると、以後、20.195kmまでの各5kmを26分27秒、26分37秒、26分57秒のペースで通過していきました。



レースが動いたのは、残り18周の周回でした。24km半ばのところで内藤選手が前に出ると、そこから少しずつリードを広げていったのです。内藤選手が、25.195kmからの5kmのペースを26分45秒まで戻したことで、その後、単独で内藤選手を追う形となった𠮷住選手との差は、この間の5kmで33秒に。終盤は雨が強まった影響もあり、30.195kmからの各5kmは27分50秒台、ラスト2kmは10分54秒と、ペースは落ちたものの、大きく崩れることはなく、後続に1分52秒の差をつけて、フィニッシュテープを切りました。
「今日は完歩が目標だった」という内藤選手は、レース後、序盤で前を行く𠮷住選手と立見選手が「行きたいと思っていた5分20秒くらいのペースで、お二人が話しながらレースを進めていて、私は後ろでそれを聞きながらリラックスして歩くことができた」と話し、「終わってからお二人に感謝を伝えました」とにっこり。単独で前に出た中盤の動きについては、「ラップが5分30秒近くに落ちてきて、自分はまだ余裕があったので、一定のペースで行こうとしたら、自然に前に出る形になった」と振り返りました。
内藤選手は、今年、社会人1年目。神奈川大学時代に2022年3月に行われた日本学生選手権20km競歩で、1年生優勝を果たして注目を集めると、2年生となった同年秋には、全日本競歩高畠大会20km競歩を1時間33分41秒で制しました。翌2023年には、バンコクで開催されたアジア選手権に日本代表として出場し、4位に入賞。また、その年の秋の全日本競歩高畠大会では35kmに初挑戦し、2時間50分35秒で勝利しています。
しかし、昨シーズンはヘルニアに苦しみ、思うような競技結果を残すことができず、11月中旬に手術。35kmに出場を予定していた前回大会はオンラインで観戦したと言います。年が明けてからトレーニングに復帰して迎えた今シーズンは、回復とともに再発を防ぐためのフォーム改良にも取り組んでいること、さらには夏が酷暑となったことも影響し、距離を踏むトレーニングは十分ではなかったそうですが、その状況下での勝利は自信となった様子。来季に向けて「また、ぜひ日本代表入りを果たせるように頑張りたい」と意欲を見せました。まずは、この種目でのアジア大会代表入りを期して、来年3月に開催される日本選手権マラソン競歩が最初のターゲットとなってきます。


男女ハーフマラソン競歩は学生ウォーカーが活躍

男子は逢坂、女子は永井が、ともにシニア初優勝



男女ハーフマラソン競歩は、いったんやんでいた雨が再び降りだして、徐々に強まっていくタイミングでのスタートに。男子は午前10時40分、女子は11時00分に、それぞれ号砲が鳴りました。
男子は、東京世界選手権男子20km競歩で7位入賞を果たした吉川絢斗選手(サンベルクス)、パリオリンピック男子20km競歩8位の古賀友太選手(大塚製薬)、同日本代表の濱西諒選手(サンベルクス)、2023年ブダペスト世界選手権男子35km競歩6位の野田明宏選手(自衛隊体育学校)など、世界大会での活躍実績を持つ日本代表選手も多数エントリー。オープン参加2名も含めて、全44名で行われました。レースは、スタート直後から、野田選手が飛び出し、これに濱西選手と吉川選手がすぐに食らいつき、先頭集団を形成しました。3人は5.0975kmを19分50秒(この間の5kmは19分27~28秒)で通過すると、次の5kmは19分42秒のペースを刻み、後続との差を広げていきます。次の5kmで濱西選手が後れると、その後は野田選手と吉川選手のマッチレースとなり、2人は残り6周となった15.0975kmを59分12秒(この間の5kmは19分40秒)で通過、ここを単独3位で通過した濱西選手との差は27秒に、吉迫大成選手(東京学芸大学)がリードする形で逢坂草太朗選手(東洋大学)と石田理人選手((福)八康会)の3人に絞られた4位グループとは52秒の差まで広がりました。しかし、ラスト6kmを迎える前あたりから吉川選手を引き離しにかかり、残り5周の周回を3分55秒に引き上げて単独首位に立った野田選手が、ロスオブコンタクトによりレッドカードが3枚となり、ラスト3周を目前にしたところで2分間のペナルティを喫して、吉川選手が首位へ躍り出ることに。そのまま逃げきりたかった吉川選手ですが、「世界選手権後からの期間では、やはり練習量が不足していた」と足が止まってしまい、20.0975kmまでの5kmは20分41秒にペースダウン。この5kmを19分38秒にペースアップして吉迫選手に4秒の差をつけた逢坂選手、その逢坂選手から後れつつも19分42秒にペースを上げた吉迫選手の2選手にかわされ、3番手でラスト1周を迎えることになりました。最後の周回では、逢坂選手に吉迫選手が食らいつこうとしましたが、逢坂選手が逃げきって1時間23分33秒で優勝。吉迫選手は2秒差の1時間23分35秒・2位でフィニッシュし、1時間24分06秒での入線となった吉川選手が3位でレースを終えました。
レース中は、「“辛抱”という言葉をずっと考えながら歩いていた」という逢坂選手は、シニア種目ではこれが初優勝。残り1kmとなる20.0975kmは、20km競歩の自己記録(1時間21分03秒)を大きく上回る1時間19分42秒で通過しており、ひと回り成長した様子を印象づけました。なお、3位の吉迫選手も、残り1周を20kmの自己記録(1時間19分55秒)を上回る1時間19分46秒で通過。学生陣の躍進が光るレースとなりました。
女子ハーフマラソン競歩は、スタートしてすぐに先頭に立った永井優会選手(金沢学院大学)が5.0975kmまでの5kmを23分29秒で入ると、次の5kmを23分14秒にペースアップして独り旅でレースを進めていきした。その後の各5kmは24分08秒と25分37秒、残り1kmは5分16秒と、さすがに落ち込んだものの1時間42分14秒で圧勝。男子の逢坂・吉迫選手と同じく、ラスト1周となる20.0975kmを1時間36分58秒と、20kmの自己記録(1時間39分39秒)を大幅に上回るタイムで通過しての勝利で、シニア主要大会における初タイトルに自ら花を添えました。
このほか実施された高校男子10km競歩は、髙橋汰紅選手(黒沢尻工高)が43分35秒で優勝。高校女子5km競歩では、2年生の佐々木愛海選手(古川黎明高)が26分04秒で先着し、勝利を手にしています。

※本文中の記録および各5kmのラップタイムは公式発表の記録。ただし、各周回(1km)のラップタイムは、レース中の速報や手元の計時を採用した。
※なお、マラソン競歩、ハーフマラソン競歩の記録は、日本では今大会から来年(2026年)12月31日までの期間に出された最も速いタイムが、日本記録として認定されることになっている。世界記録についても、来年12月31日までの最速タイムが最初の世界記録として認定されるが、WAが公認の対象を2026年1月1日以降にマークされた記録としたため、この大会の記録が最速となった場合も、世界記録には認定されず、世界最高記録の扱いとなる。



文・写真:児玉育美(JAAFメディアチーム)


【LIVE配信アーカイブ】



【大会情報】

大会名 :第62回全日本競歩高畠大会
兼 愛知・名古屋2026アジア競技大会 日本代表選手選考競技会
開催日程:2025年10月26日(日)
開催会場:高畠まほろば競歩路・日本陸連公認競歩コース
実施種目:一般男子/女子マラソン競歩・一般男子/女子ハーフマラソン競歩・高校男子10km競歩・高校女子5km競歩


【BeyondTheChallenge】

東京2025世界陸上の記憶 男子35km競歩銅メダル勝木隼人インタビュー



【競歩特設サイト】Race walking Navi

>>https://www.jaaf.or.jp/racewalking/


▼愛知・名古屋2026アジア競技大会 競歩日本代表選手選考要項
https://www.jaaf.or.jp/files/upload/202508/25_123204.pdf


【愛知・名古屋2026アジア競技大会】



>>https://www.jaaf.or.jp/competition/detail/2028/

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