日本陸連は11月24日、指導者セミナー『ハイパフォーマンス発揮に向けた日々のコンディショニングの重要性~パリ2024オリンピックでの事例を交えながら~』を開きました。オフィシャルスポンサーである大塚製薬株式会社の協力を得て実施する本テーマでのセミナーは、今年2月に続いて2回目。今回は、都道府県でチームを組んで挑む国民スポーツ大会や全国都道府県男女駅伝において、監督・コーチを務める立場となる都道府県陸上競技協会の強化スタッフを対象に、年間を通してのトータルコンディショニングの重要性を知らしめるとともに、感染症予防をはじめとするコンディショニングの実践に役立つ知識や情報を提供することを期しての開催です。
セミナーはオンライン方式で行われ、日本スポーツ協会公認スポーツ指導者資格の更新研修も兼ねて開催する措置がとられたこともあり、当日は、全国各地から175名(うち更新研修受講者は75名)が参加。ハイパフォーマンススポーツの最前線で活躍する豪華なメンバーによる講演とパネルディスカッションが展開されました。また、更新研修での受講者には、セミナーが終了したあとアンチ・ドーピング研修も行われ、こちらでも大切な知見が共有されました。
【第1部:指導者セミナー】
ハイパフォーマンス発揮に向けた日々のコンディショニングの重要性
HPSCが推進する「トータルコンディショニング」
セミナーは、講演とパネルディスカッションの二本立てで行われました。講演で最初に登壇したのは、ハイパフォーマンススポーツセンター(HPSC)/国立スポーツ科学センター(JISS)副主任研究員の清水和弘氏です。清水氏は、コンディショニングや運動免疫学を専門とし、体調管理や感染対策に関する研究・支援を行っています。今回は、HPSCが推進するトータルコンディショニングを紹介したのちに、アスリートにおける感染予防のためのコンディショニングについて講演を行いました。「ハイパフォーマンススポーツの世界では、近年、高速化・高度化が進み、勝つためにはコンディショニングが非常に重要になってきている」という言葉で講演をスタートさせた清水氏は、HPSCでは、コンディショニングを「アスリートのハイパフォーマンス発揮に必要なすべての要因を、ある目的に向けて望ましい状態に整えることと定義している」と述べ、スキル、フィットネス、メディカル、メンタル、用器具、スケジュールなど多岐にわたる各要因を、「できるだけ考え、評価して、整えていくことが必要になる」と話しました。

このコンディショニングを効果的に行うためにHPSCで用いられているのが、「トータルコンディショニング」という新たなコンディショニングの考え方で、パリ五輪に向けたアスリート支援においても活用されました。HPSCを管理・運営する独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC)は、大塚ホールディングス株式会社と2016年より共同プロジェクトを行い、昨年に学術的・専門的な知見や技術をまとめた書籍「アスリートのためのトータルコンディショニングガイドライン(https://www.jpnsport.go.jp/hpsc/study/conditioning/tabid/1850/Default.aspx)」を発刊しました。これには「トータルコンディショニング」やパフォーマンス発揮に必要な様々なコンディショニングの方法が紹介されています。さらに今年6月には、ガイドラインの内容を、アスリートや関係者に向けて、よりわかりやすくコンパクトに解説した「アスリートのためのトータルコンディショニングハンドブック」(https://www.jpnsport.go.jp/hpsc/Portals/0/resources/hpsc/TCRP/handbook.pdf)を発行し、誰でもダウンロードができるようになっています。
今回の講演では、「各エクスパートが協力・強調して連携を組み、包括的な活動を行うこと」と紹介された「トータルコンディショニング」の実現のために重要なポイントとして、
・各専門家は、自身の分野のエクスパートになると同時に、他分野の技術や知識への理解が必要となること、
・さまざまな分野の知識や技能を持ち、全体をマネジメントできる人材(ジェネラリスト)の重要性が、近年のスポーツ現場で特に高まっていること、
・最も大切なのは、アスリート自身が自立して考え、主体的にセルフコンディショニングを実践できる“インテリジェント・アスリート”となること、
が示されました。
アスリートにおける感染予防のためのコンディショニング
「これからの時期に、重要となってくる」として、次に紹介されたのが、アスリートにおける感染予防のためのコンディショニング。1月に都道府県対抗で競われる全国都道府県駅伝(男子・女子)に向けた強化に取り組んでいる受講者にとっては、競技者のパフォーマンス発揮を左右する重大なテーマです。まず、データを示しながら、「アスリートは感染症(特に風邪)にかかりやすい」と述べた清水氏は、感染症にかかることで生じる問題や、そもそもアスリートはなぜ感染症に罹患しやすいのかに触れたうえで、罹患しやすい理由の1つとして提示した「免疫機能が低下しやすいから」にスポットを当て、免疫とは何か、身体を守るために免疫がどう機能するのかを説明。さらに、アスリートの免疫機能低下に関係する要因に、激しい運動、高地滞在、減量、月経異常、睡眠障害、長距離移動、心理的ストレスの7つを挙げ、それぞれについてエビデンスをもとに解説し、「アスリートは免疫機能が低下しやすい環境にあるので、感染予防には免疫学的観点からみた体調管理がとても重要」と話しました。

また、免疫機能の低下を把握するために、HPSCでは免疫機能を定期的に測定、数値化してフィードバックし、状況に応じた対策案の提示を行うほか、感染対策のリテラシー向上を重視した取り組みにも力を入れていることを紹介する一方で、コストや手間のかかる定期的な測定が難しい場合でも自身で把握する方法があるとして、免疫が低下しているときに生じる主観的なサイン(強い疲労感、寝つきや寝起きの悪さ、口腔内の渇き)を紹介。「こういう状態が起きたときに、すぐに免疫機能の低下と結びつけ、適切な対策をとることが、感染症の予防につながっていく」として、以下の4つの対策を挙げ、それぞれの具体的なアプローチを示しました。
・病原体の侵入を防ぐ:こまめな手洗い、マスクで保湿、粘膜に接する部位(目・鼻・口など)を触らない。
・トレーニング内容の検討:運動量を抑える、免疫機能が低下しにくいトレーニングを行うなど。
・免疫機能のリカバリー:鍼治療やマッサージ、十分な睡眠、副交感神経の働きを高める温浴やアロマテラピー、笑うこと。
・栄養学的アプローチによる免疫亢進:バランスのとれた食事、乳酸菌を継続的に摂取するなど。
最後に、清水氏は、トータルコンディショニングの観点で考えたときに必要になる感染予防のポイントとして、①スタッフ自身も予防を実施し、チームにおける蔓延を防ぐこと、②多角的な視点で感染対策を捉え、状況に応じて必要なリソースにアクセスできる体制を整えること、③アスリート自身が、セルフコンディショニングを実践できるようになること、を提起。「今日話したことすべてを一気にやるのは難しいが、こういった感染対策があることを認識したうえで、状況を踏まえて実践しやすいものから取り入れてほしい」とまとめました。
パリ2024オリンピックでのコンディショニング事例報告
続いての講演は、陸上日本選手団がパリオリンピックにおいて実施したコンディショニングの事例報告です。今回のパリオリンピックで、陸上日本選手団は、金メダル1を含めて過去最高数となる11の入賞を果たしましたが、本番における最大のパフォーマンス発揮を可能にすることを目的として、パリ市郊外のセルジーに陸上選手団としての拠点を設け、事前合宿や大会期間中の調整に活用する方法を初めて実施。講演では、陸上日本代表監督として選手団を率いた山崎一彦常務理事・強化委員長と、拠点となったセルジーでドクターとして対応した金子晴香医事委員によって、その模様が報告されました。◎陸上日本選手団が実施したパリオリンピックでの「トータルコンディショニング」
監督を務めた山崎強化委員長は、先の講演で清水氏が、トータルコンディショニングの実現において、特に現場での重要性が高まっていると述べた「ジェネラリスト」(多分野での知識や技能を持ち、全体をマネジメントできる人材)に該当します。山崎強化委員長は、まず冒頭で、パリオリンピックにおける入賞者(トップ8)が、どのくらいの自己記録達成率(%PB)あるいはシーズンベスト記録達成率(%SB)であったかの数値を挙げ、陸上競技で五輪入賞を果たすためには、「そのときに今年一番の絶好調、またはベストに近い状況にもっていかないと難しくなってきている」とコメント。この実現に寄与すべく、独自の拠点設置をはじめとする「トータルコンディショニング」に取り組んだことを明かしました。実施に当たっては、「準備=コンディショニングを整え、選手とコーチの選択肢を増やしていくこと」を目指し、常に最悪の場合も想定しつつ、オリンピックでの環境を「良かったらExcellentだが、悪かったとしてもBetterに持っていけるように準備をした」と山崎強化委員長。本番でのパフォーマンス発揮に大きな影響を及ぼす項目として、「渡航スケジュール」「トレーニング環境」「食環境」「周辺・居住環境」「入村スケジュール」「リラックス」「感染症対策」の7つを挙げ、それぞれで課題となる点を説明していきました。

そうした多くの課題のクリアに貢献できるとして、2年をかけて準備されたのが、陸上選手団の拠点です。車を用いれば選手村へ30分でアクセスできるセルジー市に、宿泊とトレーニングが行えるキャンプ地を設けて環境を整えました。山崎強化委員長は、セルジーの宿泊施設やトレーニング施設、食事、周辺環境などの様子を、写真とともに紹介し、通常は苦労するアクレディテーションが発行されないパーソナルコーチが選手との接触に活用した例や、大会が始まってからも有効に使う選手が多かったことなども示したうえで、「かなりベストな状態をつくることができた」と報告しました。
◎陸上日本選手団が実施したパリオリンピックにおけるメディカルサポート
パリオリンピックに際して、拠点となったセルジーにおける担当ドクターとして、現地で対応に当たった金子医事委員からは、メディカルスタッフの視点での報告が行われました。今回、陸上日本選手団では、「アスリートが最良のコンディションで、最高のパフォーマンスを発揮できるように、メディカルの面からサポートすることを目的」に、2名のドクターと5名のトレーナーからなるメディカルチームが組織され、大会前はセルジーで、大会が始まってからは選手村とセルジーに分かれて、メディカルチェック、障害・疾病発生時対応、感染症対策、アンチ・ドーピング、コンディショニングなどに対応しました。
ここでは、実際に展開されたコンディショングチェックのフローや、オリンピックまでのコンディショニングチェックの具体的な手法、情報発信やコミュニケーションに際しての留意点、使用薬剤やサプリメントの確認例などが示されたほか、感染症や下痢症状など現地で陥りがちな諸問題を防ぐために実施した事前準備や情報発信、渡航時および現地での対応例、留意点等が共有されました。また、暑熱環境下での大会ならではの対応ともいえる冷水浴によるリカバリーや熱中症にかかった場合の治療法、良質な睡眠を確保するための時差調整、スポーツ外傷・障害に対するサポートなどについても説明が行われました。
パネルディスカッション
「大会までコンディショニングを維持するために取るチームマネジメント」
3名のゲストによる講演のあとに実施されたのが、「大会までコンディショニングを維持するために取るチームマネジメント」というテーマでのパネルディスカッションです。講演を行った清水氏、山崎強化委員長、金子医事委員が揃って登壇し、ファシリテーターを日本陸連医事委員会トレーナー部長の大山卞圭悟氏が担当。先の講演内容も踏まえつつ、チームを率いて高いレベルの競技者を育成し続けている山崎委員長、ドクターとして現場でのメディカル対応にも詳しい金子委員、運動免疫学や感染症研究の第一人者として知られる清水氏が、大山氏の投げかける問いに対して、それぞれに持つ豊富な経験や知識を披露し、答えていく形がとられました。
以下、紹介されたなかで、現場ですぐに活用できる情報の要旨をピックアップしてご紹介しましょう。
◎暑熱環境下における留意点
・山崎:いつも心掛けているのは、試合当日だけでなく、少なくとも1週間くらい前から水分摂取を促すこと。また、起床時の尿の色を必ずチェックし、自身が脱水していないかを確認するように指導している。・金子:暑熱環境における発汗量は人によって異なり、ストレスや練習量によっても変わってくる。前もってしっかりと水分を入れておくことが大切。脱水のチェック方法としては、尿の色のほか、皮膚の張りや舌や喉の乾燥具合なども指標にできる。そうしたところに敏感になってほしい。
・清水:専門的な場面では尿の比重を測定する方法もあるが、現場ではまず大切なのは選手が自身で把握できるようになること。尿の色で状態を把握し、水分補給を行えるようになるのがベスト。あとは体重のモニタリングも有効。起床直後に計測して変化をみたり、練習の前後に測定することで練習による脱水の程度を把握したりすることができるので推奨したい。
◎寒冷対策について
・山崎:末端を冷やさない。陸上で主流の短いソックスは、アキレス腱や筋腱移行部の冷えにつながり、強い力を発揮したときに断裂や損傷が起こるリスクとなる。短距離・ハードルなどのトレーニングでは、走ったあとのリカバリーが長い傾向もあるので、そこで冷やさないことも大切。暖かい長いソックスを着用するよう指導している。・金子:気温が下がると血管が締まるので、先端に行くほど血流が行かず、もともと乏しい場所にはさらに血流が届かなくなる。そうした部位にフォーカスした保温対策は大切。また、運動をしていると、体温が下がっているのを感じにくくなることが研究でわかっているので、普段よりも寒さを感じにくい点を認識し、保温を心掛けることも大切。
・清水:(寒冷時の入浴に関するエビデンスはあるかの質問に答えて)多くはないがある。入浴すると副交感神経が高まり、それに合わせて免疫機能も高まっていく。また、交代浴を行うと免疫機能が高まることもわかっているので、リカバリー方法として勧めている。
◎普段のチームで感染症対策として実施していること、あるいは、実践を勧める対策は?
・山崎:少し前まではコロナ禍の感染予防策として、ワンタップ(スポーツ)という管理ソフトで体調チェックを行っていた。現在はストップしているが、毎日チェックしたことで、自分の体調にどう向き合うかにつながった点が良かったと思う。現在は、自身で予防する、蔓延させないという観点で学生トレーナーに体調を報告し、異状がある場合は練習に来ない、あるいは時間をずらすことで周りに迷惑をかけない仕組みをつくっている。体調が悪いことを隠さない、正直に言えるような環境づくりが大切。・金子:(チームマネジメントする人へ呼びかけたい事柄として)コロナ禍で実践していた朝の体温計測を、ぜひ、継続してもらいたい。起床時の安静体温は、その日の健康がわかる客観的な指標の一つ。併せて尿の色や体重計測も行うと、より望ましい。特に、女性の場合は基礎体温ということになるので、感染症対策だけでなく、月経の状況やその周期に伴う体調変化の指標としても非常に重要。女性が所属するチームでは、ぜひ実践してほしい。
・清水:(講演で、免疫機能の維持に重要な役割を持つとして、唾液中に含まれる分泌型免疫グロブリンA=SIgAが紹介されたが、免疫機能の状態を把握するとき、これに近い変動をしたり、代わって指標となったりする簡便なものはあるかの問いに)SIgAは測定するにもコストや少々手間がかかるので、確かに測り続けることが難しい。このため、HPSCにおいても、SIgAの変動の傾向をつかみ、他の指標と併せて着目していく方法も用いていて、そこでは講演で紹介した免疫が低下しているときに生じる主観的なサインが、SIgAの推移とリンクする選手もいるので、主観的なサインを指標に取り入れることを勧めたい。また、唾液にはSIgAだけでなく、さまざまな抗菌・抗ウイルス機能を持つ物質が含まれている。「唾液があること」自体がバリアになっていると捉えてよいと思うので粘膜の保湿が重要。このほか指標になり得るのは、起床時の心拍数。いつもよりも心拍数が10拍ほど高いときに、免疫機能が落ちている選手もいた。個体差はあると思うが、客観的なサインとして一つの目安になる可能性がある。
◇ ◇ ◇
最後に、大山氏は「今回、登壇されたお三方は、トップのサポートで活躍されているわけだが、そのなかから、競技レベルにかかわらず現場に生かせる知見が、たくさん生まれているのだなということを感じた。そうしたところが、トップの活躍によって、さらにクローズアップされ、多くのさまざまな指導現場に広がっていくといいなと思う」とまとめ、2時間にわたった指導者セミナーを終了しました。
【第2部:日本スポーツ協会公認スポーツ指導者更新研修】
アンチ・ドーピング研修:スポーツの価値とサプリメントについて
指導者セミナーが終了したあと、休憩時間を挟んで、第2部として行われたのはアンチ・ドーピング研修。こちらは、日本スポーツ協会公認スポーツ指導者資格の更新研修として参加していた受講者のみに対象を絞っての実施です。ドーピングの問題は、スポーツ界における重大な懸念事項であり、日本の陸上界においても、いくつか問題が生じています。アスリートが正しい知識を持ち、アスリート自身や日本の陸上界、さらにはスポーツ自体の価値を損なわないために、正しい知識と共通理解が必要ということで、受講対象となった公認スポーツ指導者やアスレティックトレーナーが、この研修によって改めて知識をアップデートし、コーチングや活動の場面に生かしていけることを目指して、このプログラムが組まれました。
研修は、第1部でも登壇した日本陸連医事委員の金子晴香氏が講師を担当。金子氏は、順天堂大学医学部の准教授で、日本陸連での活動に加えて日本学連医事委員、関東学連医事委員長を務めるほか、競技会などでグラウンドドクターとして現場でも活動しています。今回の研修では、日本アンチ・ドーピング機構(JADA)の承認エデュケーターの立場で、「クリーンスポーツについて」「サプリメントのリスク」「スポーツの価値を守る」について、話を進めていきました。
◎クリーンスポーツについて
クリーンスポーツについての説明では、「参加することはアスリートの権利だが、権利があれば、役割と責務も生じる」として、アスリートやサポートスタッフに求められる役割と責務がそれぞれ示されました。また、ここで「しっかりと理解しておく必要がある」と挙げたのは、「アスリートには厳格責任がある」という点。「生じた違反はすべて自分の責任となり、クリーンである場合、それは自身で証明しなければならない」として、さまざまな例を挙げながら、違反を防ぐための考え方やとるべき行動が紹介されました。さらに、ルール違反には11の項目があること、検査で陽性となってから違反が決定する流れ、アンチ・ドーピング規則違反による制裁措置などが解説されたほか、厳格責任に則って自身が行わなければならないアンチ・ドーピング規則違反における無実の証明は、非常に困難が伴うことも示されました。
また、禁止されている物質と方法は、全世界・全スポーツ共通の内容が禁止国際基準において規定され、少なくとも1年に1回(毎年1月1日)に改定されるため、「薬の使用や医療行為を受ける前に、必ず最新の禁止表を確認してほしい」と金子氏。併せて、医薬品を使う前にとるべき行動のフローや、医薬品の成分を調べられるサイトなども紹介されました。
◎サプリメントのリスクについて
サプリメントに関する内容では、まず、サプリメントの定義が説明されたうえで、・サプリメントは食事の代わりになるものではなく、あくまで不足分を補充するもの、
・パフォーマンス向上目的で摂取する際には、「必要性・有効性・安全性」を確認すること、
・特に、海外製品は、表示されていないドーピング違反物質が含まれている危険性があるため注意を要する、
といった事柄を解説。日本陸連医事委員会スポーツ栄養部が作成した「サプリメント摂取の基本8ケ条」(https://www.jaaf.or.jp/files/upload/201909/27_150433.pdf)も紹介されました。
◎「スポーツの価値を守る」について
最後に行われたのは、スポーツの価値を守るために求められる行動を考えるグループワークです。金子氏は、多様な人物やキャラクターが、さまざまな場所で、いろいろな行動に取り組んでいる様子を鳥瞰する形で描かれたイラストを提示。「画像に描かれた一場面を切り取り、その取り組みについて考えてほしい。どのようなスポーツの価値が生まれ、それらが蓄積していくことで、クリーンスポーツの観点をどう高めていけるか、自分たちはどんな行動をすればよいかを、グループで意見を集約することで、スポーツの価値の多様性を含めて理解を深めてほしい」という課題を出しました。受講者たちは4~5人単位で分かれて、20分間のグループワークに取り組みました。
グループワーク終了後、金子氏は「抽象的で話しにくい内容にもかかわらず、活発にディスカッションが行われていた」と振り返り、その内容として、「薬やサプリメントの使い方を正しく指導すること」といった声のほか、「楽しさや思いやり」「挨拶」「人間性を育てる」「人と人を繋いでいく」「ルールを守る」「応援者と喜びを共有していく」などがスポーツの価値を高めていく事柄として挙がっていたことを共有。「クリーンスポーツ、アンチ・ドーピング活動というのは、あくまでもスポーツの価値を高めるものの1つ。競技のルールを守ることと同じように、ルールとしてスポーツに息づいていくべきものということができる。皆さんの“スポーツによって人間を育てる”という指導方針の1つに、このクリーンスポーツも加えていただけたらと思う」と述べ、講義を締めくくりました。
文・写真:児玉育美(JAAFメディアチーム)