2024.06.25(火)大会

【日本選手権混成】レポート&コメント:丸山自己新記録で圧巻の連覇達成/熱田は初の日本タイトル獲得!



第108回日本選手権混成競技(日本選手権混成)が6月22~23日、8月に開催されるパリオリンピックの日本代表選考競技会として、岐阜・長良川メモリアルセンター長良川競技場で行われました。岐阜は、現スタジアムが建設される前の県営岐阜陸上競技場時代に、日本一を決める場として、日本選手権やインターハイが合同で行われていた縁のある地。最後に行われた1984年以来、実に40年ぶりの開催です。

梅雨前線の影響で、すっきりとした青空を見ることは叶わず、初日は曇り、2日目は雨という生憎の天候下となりましたが、その悪コンディションをものともせず、各種目で熱戦が展開。男子十種競技は丸山優真選手(住友電工)が7870点で2連覇を、女子七種競技は熱田心選手(岡山陸協)が5750点で初優勝を果たしています。


【男子十種競技】

丸山、自己新の7870点で圧巻の連覇



男子十種競技は、昨年、初優勝を果たし、日本代表として、アジア選手権(優勝)、ブダペスト世界選手権(15位)、アジア大会(3位)と戦った丸山優真選手(住友電工)が2連覇を果たしました。
今季、パリオリンピックへの出場を目指していた丸山選手は、ワールドランキングでの順位アップを目指して、4月に、イタリアの競技会に出場していましたが、棒高跳で左膝を負傷して棄権。今大会は、その回復状況が心配されるなかでの出場でした。実は、そのケガは、外側側副靱帯損傷、半月板損傷、亀裂骨折、骨挫傷と診断された重症で、完治に時間がかかると見込まれていたなか、「パリ(オリンピック)に出たいという気持ちで取り組んできた今までを思うと、最後までやりきりたかった」(丸山選手)と治療とリハビリに励み、驚異的な回復力で出場にこぎ着けていました。
左膝にテーピングを施して競技に臨んだ丸山選手は、万全ではないなか、走幅跳で種目別トップとなる7m18をマークするなどして着実に加点を重ね、1日目は3903点を獲得。首位に立った森口諒也選手(オリコ)と100点差の3位で前半を折り返しました。2日目に入って、最初の110mハードルで2位に浮上すると、第7種目の円盤投で逆転して、トップに浮上。ケガをして初めての試合となった棒高跳で、混成競技のなかでは自己新記録となる4m80の自己タイ記録を成功させ、続くやり投でも64m65の自己新記録をスロー。ここで後続を大きく突き放しました。最終種目の1500mは4分40秒31でフィニッシュ。ブダペスト世界選手権で記録した7844点の自己記録を上回る7870点で優勝。自身が保持していた日本歴代6位記録を更新し、同5位の7871点に1点差まで迫りました(丸山選手のコメントは、別記ご参照ください)。



7717点で2位を占めたのは、2022年大会の優勝者で、同年に日本人3人目の8000点デカスリート(8003点)となっていた奥田啓祐選手(ウィザス)。昨年は、左脛の疲労骨折により、シーズンを通して競技シーンから遠ざかっていたため、今季は、日本選手権出場の参加資格記録を獲得するところからスタートしての挑戦でした。ケガは完治はしていないそうですが、ケガを経験したことによって、「練習での質がすごく上がった」「まとめる力が高まった」の2つを上げたほか、その間に練習環境を見直し、母校の東海大を拠点に戻したことで、「今、競技をしていることがとても楽しい。原点に戻れた感じ」と言います。今大会に向けては、調整もすることなく、「まるで強化練習のよう」という状態で臨んでいたそう。「来年の世界選手権には絶対に出たい。今日はその通過点を一つクリアできた」と、戦線復帰を結果で示しました。



3位は今季好調の森口選手。1日目で唯一4000点台に乗せる4003点をマークし、トップで折り返すと、後半もよく粘り、7482点の自己新記録で昨年に続いて日本選手権のメダルを獲得しました。初日を終えた段階で目標として掲げた「7777点」には届かず。競技後は、「詰めが甘かった」と振り返りましたが、「次はもっと行くので見ていてください!」と頼もしい言葉も聞かせてくれました。




【女子七種競技】

熱田が初優勝!日本歴代5位の5750点をマーク



女子七種競技は、日本歴代3位(5907点)の自己記録を持ち、前回は故障の影響で欠場していたヘンプヒル恵選手(アトレ)が、4回目の優勝を果たした2022年大会以来2年ぶりに出場。日本記録保持者(5975点)の山﨑有紀選手(スズキ)、昨年日本歴代5位の5720点をマークしている大玉華鈴選手(日体大SMG)、同じく昨年日本歴代8位の5639点へと記録を伸ばしてきた熱田心選手(岡山陸協)が揃っての戦いが実現しました。

1日目でリードを奪ったのは熱田選手。「いつも1日目に100点以上の差をつけられていた」と本人も認めるように、実は2日目を得意としている選手です。しかし、今回の熱田選手は、強い向かい風のなかで行われた100mハードルを13秒90(-1.4)で滑りだすと、続く走高跳(1m69)と砲丸投(11m74)の2種目で自己記録を更新。1日目最終種目の200mでも向かい風(1.6m)をものともせず、種目別1位タイとなる25秒30をマーク。初日の自己最高となる3338点を獲得し、前半を得意とする大玉選手に40点の差をつける好スタートを見せます。

2日目では、日本選手権室内では優勝も果たしている得意の走幅跳が5m87(-0.4)にとどまる大誤算もあり、「45mくらい」を目標にしていたやり投で44m73をマークしたものの、走幅跳を終えた段階で2位に浮上してきたヘンプヒル選手とは132点の差で、最終種目の800mを迎えることに。この点差を800mのタイムで換算すると9秒で逆転が生じる状況です。
800mの自己ベストが2分25秒78と熱田選手にとっては不得手の種目。今季4月の東京選手権でも800mで逆転負けを喫し、悔しい思いをしたばかりでもあった熱田選手は、ここで「行くしかない!」腹をくくり、ヘンプヒル選手が「2分10秒を切ってくることはないだろう」とみて、自己記録より5秒以上速い2分20秒台をマークできるペースを設定。その目論見通り、果敢に攻める走りを展開し、その目標を上回る2分18秒52でフィニッシュしました。ヘンプヒル選手は、2分16秒63で先着していましたが、このタイム差では逆転はならず。5750点を獲得した熱田選手の初優勝が決定しました。
この結果、自己記録では大玉選手を抜いて日本歴代5位に浮上。また2015年以降、ヘンプヒル選手と山﨑選手が占めてきた日本選手権歴代優勝者に、新しい名前を刻むこととなりました(熱田選手のコメントは、別記ご参照ください)。



5663点で2位となったのは、2年ぶりの出場となったヘンプヒル選手。何度も大きなケガを乗り越えてきては、トップ戦線に戻ってきた選手ですが、今回は「噛み合っていない」ことを感じながらの勝負になったと振り返りました。「やることが多すぎて、どれからやっていくべきなのか…という感じ」と言うヘンプヒル選手。来年夏に開催される東京世界選手権を目指して、まずはこの秋に海外での2試合を予定しています。「次の試合までに何を最優先にして取り組むのか、しっかり整理して、これからやっていきたい」と話しました。



2年連続6回目の優勝を狙っていた山﨑選手は、5549点で3位。1日目の走高跳で踏切足のかかとを痛めてしまったなかでの苦しい勝負となりました。4位には、今季好調の萩原このか選手(デカキッズAC)が5540点の自己新記録で入賞。5位には大玉選手が5468点で続きました。大玉選手は、得意の走高跳が1m69にとどまったことが惜しまれる結果となっています。




【U20日本選手権】髙橋と下元がV

髙橋は、U20今季アジア最高の7445点をマーク



併催のU20日本選手権(U20規格で実施)は、今年は、8月末にリマ(ペルー)で開催されるU20世界選手権の日本代表選手選考会を兼ねて行われました。
U20男子十種競技には、5月の関東インカレ十種競技(一般規格)で7235点のU20日本最高記録を樹立して、注目を集めていた髙橋諒選手(慶應義塾大)が出場。髙橋選手は,初日から大きくリードを奪うと、その後も圧倒的な力を見せ、7445点で圧勝しました。これは、丸山優真選手選手が日本大の所属だった2017年に樹立したU20日本記録7790点に次いで、U20日本歴代2位となるもの。U20今季アジア最高で、U20今季世界リストでは11位に相当する好記録です。(髙橋選手のコメントは、別記ご参照ください)。

U20女子七種競技は、選手(東京学芸大)が5225点で、初の全国優勝を果たしました。個々の種目でのベスト更新はならなかったものの、すべての種目で自己記録に近いパフォーマンスを発揮したことによって、総合得点での自己記録更新を達成。ベースの部分の底上げができてきている様子が窺える結果となりました。秋以降の躍進が楽しみです(下元選手のコメントは、別記ご参照ください)。


【優勝者コメント】

日本選手権 男子十種競技

優勝 丸山優真(住友電工) 7870点



初日の段階で、パリオリンピックを目指す上では、現実的に無理な状況となった。悔しい思いもあったが、(ケガをして不安があった)左膝の調子を見ながら、まずは2連覇のために、できる限りのことをやってみたいという思いで2日目に臨んだ。最終的に2連覇を達成することができてよかったし、(膝のケガにより)出場も危ぶまれる時期もあったなか、この状況でも自己ベストが出たというのは、ベースが上がってきている証拠だと思っている。
全体を振り返ってみると、初日は、同じ大阪の出身で同級生の森口(諒也)がトップ。「このまま森口と勝負できるかな」と久々にワクワクする気持ちになった。また、2日目で2位に上がってきた奥田(啓祐)くんも、(疲労骨折による戦線離脱からの本格的な)復帰戦。日本選手権の参加標準記録を切って、やっとここへ出てきた状態だった。個人的にも仲がよく、いつも応援しているので、今回、一緒に戦えてよかったし、一方で「絶対に負けない」とも思っていたので、結果としてちゃんと(負けないことを)証明できてよかった。
棒高跳の4m80は、自己タイ記録。単独種目では跳んでいるが、十種のなかでは久々の自己ベストとなる。棒高跳でケガをすると、ネガティブなイメージがつき、(恐怖心から)思いきって踏みきれなってしまうこともあるのだが、僕はケガしたからこそ逃げたくない、もっと正面から棒高跳に向かっていこうというアグレッシブな気持ちで臨んでいた。実際に踏みきるときも怖くなかったし、こうやって自己タイが跳べたことで、完全に恐怖心はないと確信することができた。
投てき種目は今シーズン、自信があったので、やり投も65mくらいは飛ばせるかなと思っていた。実際に結果として出た(64m65)のはとても嬉しかった。
最後の1500mは、4分35秒を切ると7900点台に乗せることができる状況だったが、この2カ月練習ができなかったので、「攻めても潰れるだけだな」と考え、総合得点の自己ベスト更新を目指し、ペースを守って、しっかり走りきるプランを選択した。それが達成できたのでよかったと思う。
優勝しての喜び自体は、前回のほうが大きかったような気がしている。今回は、競技をしていくなかで、どうしてもパリオリンピックに出られなかったことを思うと、うわーっと(感情に)くるものがあって、その思いにとらわれながら戦っていく形。最後の1500mでは、「パリに懸けていた自分の思いを最後まで諦めずに来たのだから、しっかりと自己ベストを出すために頑張ろう」と自分に言い聞かせて臨んだ。
このあとは、8月末と9月にある2試合にエントリーを考えていて、今季は、その2試合で来年の東京世界陸上につながるような結果を残せればいいなと思っている。今回、この状態でもここまでできるというのがわかったので、まずはしっかりと治して、もっといいパフォーマンスができる状態にしていきたい。





日本選手権女子七種競技

優勝 熱田 心(岡山陸協) 5750点



今回は「3強(山﨑有紀、ヘンプヒル恵、大玉華鈴)を崩したい」と、挑戦してみる気持ちで臨んでいた。「優勝はどうだろう(難しいかもしれない)。でも、3位以内には入ろう」と思っていたので、(得点が伸びなかった)相手の状況とかもあったけれど、うまく転がっていったなという思いがある。
前日練習もこれまでにないくらい調子が良かったし、自信を持って臨めていた。また、(第1日の)走高跳や砲丸投でベストも出て、いつもだと100点以上の差をつけられていた1日目をトップで折り返すことができ、「ここまで来たら優勝したい」という気持ちになった。
(2日目は)得意の走幅跳でうまく(力を)出しきれなかったので、そこにちょっと悔しさが残る。やり投は44m73 ではあったけれど、(課題が)少しずつ克服できているので良かったと思う一方で、そこで(他選手との)差を広げることができず、自己ベストが2分25秒(78)の800mで、9秒先着されると逆転される状況となってしまった。「ああ、また、東京選手権みたいになるかも(※4月中旬の東京選手権で、最終種目の800mで逆転され優勝を逃した)」と思ったが、ここまで来たら、できることをやって負けたら仕方ないと考え、800mを(自己記録を大きく上回る2分)20(秒)で走ると決め、「もう行くしかない」という気持ちで走った。(力を)出しきれてよかった。
5750点の自己ベストを出すことはできたが、周りの選手は、本当はもっと強い人たち。まだ追いつけていないし、追い越せていないという気持ちはある。しかし、そのなかで、今日勝ちきれたことは、私にとっての一歩かなと思っている。
ほかの選手は5900点とか5800点とかを出してくる人たち。今日は勝ったけれど、これからも3選手の背中を追い続けたい。(優勝したことで)いろいろなプレッシャーも増えてくるとは思うが、挑戦する気持ちを忘れずに、楽しいと思いながら陸上に取り組んでいくことを大切にしながら、6000点を目指していきたい。




U20男子十種競技

優勝 高橋 諒(慶應義塾大) 7445点



天気もすぐれず、大変な2日間だった。もともと目標が7400点前半だったので、その目標を達成できたのでよかったと思う。
1日目は、(前回の試合となった)関東インカレからこの大会にかけての期間で、スプリントをやってきたはいたのだが、やはり走高跳のあとの400mというのがつらくて、そこがなかなか難しいなと思った。
2日目は、最初の110mハードルから、(U20規格のため、ハードルの高さは)低いが自己ベスト。その流れに続いて、円盤投、棒高跳、やり投の3種目でベスト。2日目は、この天気を考えたら、めちゃくちゃよかったのかなと思う。(取り組み始めたばかりで経験の少ない)棒高跳は、今使っているポールの長さは14フィート。まだ15フィート(のもの)は持っていないのだが、着実に基礎からというところで(力を)積めているのかなと思う。
課題に感じたのは、「やっぱり100mのスピードが、もっと速くならない…」ということ。100mが速くならないと、400mとか(で記録を更新していくの)も厳しいと思う。去年、(八種競技で6264点の)高校記録を出したときは10秒71。そのときは風がよかった(+1.9m)ので、まあ、10秒80くらいまで持っていけたらなと思う。
(代表選考会がかかっていた)U20世界選手権については、まだ代表には決まっていないが、決まるということを前提に、ここから練習を積んでいきたい。


U20女子七種競技

優勝 下元香凜(東京学芸大) 5225点



今回は、得点としては5300(点)、順位としては優勝を目標にやってきた。優勝することができて嬉しいのと、自己ベストではあるものの、(目標にしていた)5300点には届かなかったので、そこがまだ次の課題かなと思う。
種目別では1つもベストが出ていないのだが、でも、全部がベストからちょっとマイナスくらいの記録だったので、それが全体の自己ベストにつながったのかなと思う。そのなかで、もうちょっとだったなと思うのは走高跳。ベストは(1m)69で、今回は自己新となる(1m)72に挑戦したかったのだが、(1m)69を跳べなかったので、それが悔しい。あと、やり投も、雨というのもあり、自分の投げができなかったことはちょっと悔しく思う。しかし、雨というイレギュラーのなかで、走幅跳はそこそこ最低ラインくらい跳べた(5m71)し、800mも1人の(単独走になる)レースだったが、自己ベストにあとちょっとというところだったので、そこはよかったかなと思う。
今回勝てば、初めての全国優勝となるので、そこには強い思い入れがあった。去年のインターハイはケガをしてしまってダメだったし、(5月の)関東インカレはうまく噛み合わなかったというのがあったので、「今回こそは絶対に」と思っていた。優勝できて嬉しい。
次の試合は、日本インカレとなる。そこでは3位以内で表彰台に乗ることと、(これまでの目標から)ぶれずに5300点を超えていくことを目指したい。


※丸山優真選手、熱田心選手のコメントは、1日目および2日目両方の競技終了後におけるコメントを編集する形でまとめています。

文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真提供:フォート・キシモト/アフロスポーツ

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