第108回日本陸上競技選手権大会混成競技(日本選手権混成)が、6月22~23日に行われます。今年は、8月に開催されるパリオリンピックの日本代表選手選考競技会を兼ねての開催です。会場となるのは、岐阜・岐阜メモリアルセンター長良川競技場。実は、この会場は、現在の競技場として新設される前の県営岐阜陸上競技場時代の1984年まで、混成競技の日本選手権が行われ、当時は別開催だったインターハイの男女混成競技とともに、「混成競技日本一を決める場」としてアスリートたちが集まった歴史を持っています。40年ぶりに岐阜で開催されるこの第108回大会、果たして日本タイトルを巡る戦いには、どんな結末が待っているのでしょうか?
ここでは、今年日本陸連が新設した「アスリートコラボレーター」第1号として、日本選手権混成のアスリートコラボレーター就任した男子十種競技元日本代表の中村明彦さん(スズキ)にインタビュー。日本人2人目の8000点デカスリート(8180点=日本歴代2位)として、長年にわたって活躍を続けてきた混成競技のスペシャリストならではの視点で、十種競技・七種競技の魅力や楽しみ方、日本一を巡る戦いの見どころを紹介していただきました。
<選手の記録、WAワールドランキングの状況等は、6月6日時点の情報に基づき構成しています>
構成・文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真:フォート・キシモト
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【アスリートコラボレーター第1号です!】
―――中村さんが第一線を退いて、7カ月が過ぎました。現在は、どんな日常を送っているのですか?中村:フレックスなサラリーマンといえば、わかりやすいでしょうか(笑)。平日は、午前中は現役時代から出社していた出向先の勤務地へ行き、午後からはリモートで浜松にあるスズキ本社の関連業務に取り組むほか、空いた時間に中京大の陸上部の選手を見ています。そのほか、スズキの選手の合宿に帯同して練習を見たり、週末には試合に帯同したりという形で、陸上のほうにもかかわっています。
―――選手時代とはまた違った忙しさを味わっているようですね。
中村:はい。会社のなかでも、今まで全く接点のなかった方々とかかわりつつ、これまでやってきた競技の経験とか知識を生かして、会社のなかで活動ができているので、これはこれで面白いなと思いながら、毎日を過ごしています。
―――そういうなかで、このたび、日本陸連が新設したアスリートコラボレーターにも就任されました。中村さんが第1号ということになります。
中村:そうですよね、嬉しいです。
―――このアスリートコラボレーターは、現役アスリートや引退後のアスリートに競技会やイベント、プロジェクトの運営や推進に参加してもらい、自身の競技人生で培ってきた貴重な経験・知識・発想を活かしたアイデアを生かしていくなかで、「する人」「見る人」「支える人」すべてのアスレティックファミリーにとって魅力のあるような場所を、日本陸連や加盟団体などの主催者と一緒につくっていくことを目指して設けられたと聞いています。実際には、どんなことをするのですか?
中村:「選手と大会主催者、選手と陸連の橋渡し」という感じですね。両方の間に立って、陸連側からの要望を選手にわかりやすく伝えたり、逆に選手の「こうしたい、ああしたい」「こうしてほしい」という希望が実現に繋がるよう言葉や情報を足して伝えたりする人、というイメージで活動しています。
また、陸上競技において「盛り上がる」のに求められる第一は、やっぱり選手の記録。なので、記録を出しやすい競技会をつくるための、いろいろなアプローチをしていければと思っていますし、多くの観客に来ていただけるようなアプローチもしていきたい。そこは、僕自身の活動だけでなく、出場する選手にも求められる意識だと思うんです。それぞれが「あの選手を見に行こう!」と観客の方が会場へ来て、応援してくれるような魅力ある選手になって、たくさんのファンを集められるようになっていくことを見守りながら、「盛り上がる大会」をつくっていくために、大会側と選手側をうまく繋げていきたい。そういう思いで活動しています。
―――「する人」と「支える人」との間だけでなく、「見る人」も含めて、それぞれを「繋げていく人」という印象ですね。今回の日本選手権混成に向けては、すでに陸連公式サイトに掲載されている『混成競技を楽しむポイント』記事の監修だけでなく、ほかにもいろいろな予定が組まれていると聞いていますが…。
陸連担当者:この大会に向けては、昨年の秋くらいから、運営をしていただく岐阜陸協さんも含めて月に1回、全体会議をやっているのですが、実は、中村さんにも、会議に参加していただいているんです。「このタイミングで、こういうことができると、選手はやりやすい」など、選手目線での意見をいろいろ出していただき、それを踏まえて、うまく反映できるよう調整することを進めてきました。
―――ずいぶん前から、いろいろなことにかかわってきたのですね!
中村:そうですね。去年の冬の初めごろには、田﨑さん(田﨑博道日本陸連専務理事)と一緒に、岐阜陸協の事務局にも行ってきましたよ。
―――岐阜県内の小学校や中学校を訪問しての陸上教室開催やニュース番組生出演のほか、大会当日は、フロアMCとして、競技場内で選手へのインタビューも行うと聞きました。
中村:はい、あとは小学生を対象に、スタジアムツアーも計画していますよ。
―――スタジアムツアー?
中村:「コンバインド体感会」ということで、写真判定室やアナウンス室、情報処理室など、普段見ることのできないバックヤードを見学したり、混成競技で使われる用具を手にとったり、実際にチャレンジしてみたりすることを準備しているんです。例えば、競技場に来ないと見られない棒高跳なんかは、近くでみると、ものすごい迫力がある種目。試合のときだと遠く離れたスタンドから見ることになってしまうので、今回は、公式練習のタイミングで、競技場内に入ってもらって、間近で見てもらえるようにしようと考えています。
―――小学生の子どもたち、真横で見たら、きっとびっくりするでしょうね!
【混成競技の魅力】
2日目の夕方にならないと勝負が分からないところ
“赤ちゃん”を見る気持ちで、応援してもらえたら
―――話題を少し変えて、次は、混成競技の面白さを聞いていきましょう。中村さんの思う混成競技の魅力って、どんなところにありますか?
中村:「2日やらないと、2日目の夕方にならないと結果が分からないところ」が、まず一つ、大きな魅力かなって思います。
―――2日間、見続けるのって、なかなか大変ではありますが…(笑)。
中村:ああ、それ、僕も、見る側になって「待ち時間、長いな」と…(笑)。選手だったころは、あっという間に過ぎちゃって、「こんなにしんどいのに、もう次の時間か」って思っていたんですけどね。
―――運営役員の方々やチームスタッフへの感謝が強まりますね(笑)。
中村:はい。ただ、選手と一緒に、長い時間を過ごしていただくことで、勝負や応援する選手に対する思い入れも、いっそう強まるのかなと思います。
―――確かに。
中村:そして、その2日間のなかには、選手それぞれに得意な種目、不得意な種目があるわけです。特に、不得意な種目を、どう切り抜けるかを見るのは、とても面白いと思いますよ。「最低限にまとめる」ことを選ぶか、「苦手ということは伸びしろがあること。だから勝負に行こう」と考えるか…。そういう苦手種目の取り組み方や切り抜け方のほうが選手の特徴とか性格が出ると思っていて、僕自身も最近は、そこに注目して見ているんです。
―――それは、十種競技(男子)、七種競技(女子)を問わずに共通していること?
中村:はい。男女は関係なく、選手によってそれぞれかなと思います。学生に指導していても、「苦手な種目だから勝負を懸ける」選手もいれば、「安パイ(安全パイ)でまずは確実に」という選手もいますから。
―――ちなみに中村さんは…(笑)。
中村:僕はもう安パイって感じでしたね(笑)。行けそうなときは行くけれど、基本的には外さないことが大事かなと思っていたので…。
―――1日目が得意でリードを奪う中村さんのようなタイプだと、2日目は着実な加点を狙うことになりがぢですよね。2日目を得意とする人のほうが、攻めていく感じがします。
中村:確かに、攻めないと順位を上げられない状況が多いでしょうから。
―――ほかには、ありますか?
中村:あとは、単独種目の選手と比較して見ると、混成競技のパワフルさを実感していただけるんじゃないかと思いますね。芸術点は低い(笑)。けれど、気づいたら、すごい高さを跳んでいたり、遠くに投げたりしています。「え、あんなフォームで?」と(笑)。これは国際大会に行くと、より顕著になることかもしれません。
―――ご自身にも身に覚えがある?
中村:実は、現役時代に、確か(母校である岡崎城西)高校で壮行会を開いていただいたときの記者会見で、(高校・大学での後輩にあたる)棒高跳の山本聖途選手(トヨタ自動車)から、「明彦さんのポールは粗削りなんで…」と言われて…(笑)。“そりゃあ、そうだよ”と思ったことがあります。
―――確かに粗削りでした(笑)。
中村:(笑)。彼なりに気を遣ってくれた“粗削り”という言葉、気に入っているんです(笑)。きれいじゃないけれど、バーを揺らしてでも、マルがつけば(クリアすれば)マル(成功)なので。型にはまらないというか、そういったパワフルさ、がむしゃらさが、混成競技はより出る種目。そういったところも魅力の一つといえますね。
―――競技間の過ごし方は、選手によって違うのですか?
中村:長い休憩時間だと寝ている選手もいますし、ずっと音楽を聞いている選手もいれば、ずーっとしゃべっている選手(笑)もいる。食べるものも人によって、それぞれに違いますよ。
―――そうした選手それぞれの個性は、大会当日、中村さんのフロアMCによって引きだしていただけそうですね。
中村:ああ、そうですね。それぞれの特徴がみえるような話を聞いていきたいと思います。
―――選手の立場で応援を受けるとき、どんな応援をしてもらいたいですか?
中村:試技の前後に「わー」とか「おー」とか大きな声を出して注目を集める選手もいますが(笑)、僕の場合は感情表現があまり得意じゃないので、なかなか大きな声が出せないタイプでした。でも、応援は本当に力になるんですよ。競技運営の妨げになっちゃうとまずいけれど、支障がない形で、大きな声や拍手、アクションなどを起こしてくれると、すごく嬉しいですね。「ああ、応援されている、見られている」と、とても励みになるので。
―――観客の反応や空気が、アスリートの背中を押してくれますよね。
中村:はい。「ああ、やっちゃったー」という反応でも、「おお、あんなに投げられるんだ!」という反応でも、どちらでもいいんです。客席から声がもらえると、選手はとても嬉しいんですよね。
―――パフォーマンスの一つ一つに何かしらのリアクションがあると頑張れる?
中村:はい、もう、赤ちゃんだと思ってもらえたら…。(笑)
―――赤ちゃん!!!(笑) なるほど! 目を離さないで見守って、声をかけ続けてほしいってことですね(笑)
中村:はい!(笑)
【男子十種競技】
丸山と奥田が、どんな戦いを見せるか
勢いのある森口にも注目
―――では、そろそろ第108回大会について、具体的な展望や見どころを伺っていきたいと思います。まず、パリオリンピックに向けてということになると、参加標準記録は男子十種競技が8460点、女子七種競技は6480点と、ともに日本記録(十種競技8308点、七種競技5975点)よりも高いうえに、ターゲットナンバーはどちらもわずか「24」。WAワールドランキングのポイント獲得によって出場を狙う場合も敷居が高く、他の種目と比較すると“狭き門”ということができます。このあたり、中村さんは、どうみていますか?中村:「厳しい」と言わざるを得ない状況ですよね。きっと僕らが思っている以上に、選手たちはそれを感じていると思います。エントリーリスト上位にいる選手、男子のほうは特に、2024(年パリオリンピック)、2025(年東京世界選手権)、2026(年名古屋アジア大会)に、“JAPAN”のユニフォームが着られるシリーズ(競技記録)を目標にして、そこへの出場を明言して活動してきた選手がほとんど。いざ直近の選考会となったときに、確率が高くない状況となっているなか、そこに対して、どういう思いを持ち、どういう気持ちで大会に臨むのかというところは聞いてみたいところですね。
―――両種目の具体的な展望をみていきましょうか。まずは男子から。
中村:現段階の日本のエースともいえる丸山優真選手(住友電工、自己記録7844点)と奥田啓祐選手(ウィザス、自己記録8008点)が、やはり注目株ですよね。ただし、どちらもケガからの回復状況が気になる状態です。2022年の日本選手権獲得者で、同年秋には8008点をマークしている奥田選手については、その後、疲労骨折の影響で、長らく戦線から離れていましたが、今季は春から試合に出ていて、5月末の日体大競技会で十種競技にフル参戦、7231点を取っています。ここから本番までの期間で、どれくらい勝負を懸けて自己ベストに近いところまでもってくるのか、(自己ベストを)上回ってくるのか、まだ無理をせずに臨んでくるのか、そのスタンスも含めて気になるところです。また、丸山選手は、今季はパリオリンピック出場を狙って、春先にヨーロッパで2戦する予定でしたが、初戦の2日目にアクシデントがあり、2種を残したところで途中棄権。2戦目には出場せず帰国しています。状況としては、その経過次第といったところにあります。
―――丸山選手は前回大会を自己新(7808点)で初優勝。昨年は、アジア選手権で金メダルを獲得して、ブダペスト世界選手権に出場。ブダペストでは自己記録を7844点へと引き上げました。アジア室内(七種競技で実施)は昨年、今年と2連覇中。昨年秋のアジア大会でも銅メダルを獲得と、着実に足場を固めてきています。ただ、春先の結果により、ターゲットナンバー内に入ってパリオリンピック出場を、という当初の狙いは、厳しくなっている状況にあります。日本選手権で8460点という、高い参加標準記録に挑んでいくのかどうか。
中村:そうですね。これまでの丸山選手は、“JAPAN”がかかった大事な試合でも、将来を考えての戦略撤退ということをやってきた印象のある選手。ただ、26歳という年齢を考えると、「厳しくても勝負を懸ける」時期に来ているようにも思います。ちょうど年代的には、フィジカルも、テクニックも、メンタルも充実し、まさに脂に乗ってくる時期。それに合わせるかタイミングで、パリオリンピック、東京世界選手権、名古屋アジア大会と、注目される国際大会が続いていきます。冬場は、しっかりと積み上げができていると聞いていますし、これまでためてきた力を一気に発揮して、ここで大きくブレイクスルーを果たしてほしいな、という期待がありますね。
―――このほかで、注目している選手はいますか?
中村:今年の勢いでいくと、森口諒也選手(オリコ)でしょうか。東海大大学院を出て2年目、今年からはオリコ所属で活動していますが、4月中旬の東京選手権で7445点をマークし、初の表彰台(2位)となった昨年の日本選手権でマークした自己記録(7374点)を更新して優勝を果たしています。充実した冬季練習を経て、試合に臨んできている印象です。
―――丸山選手とは同学年、同じ大阪の出身で、高校生のころから競い合ってきた選手。丸山選手と同様に、長身が目を引きます。
中村:そうですよね、大きな身体に恵まれ、スピードもあるタイプ。まだ「十種競技、始めたて」という印象があるので、デカスリートらしい試合ができれば、 するする~っと7700~7800点くらいまで行ってしまうポテンシャルはあるとみています。
―――日本選手権で、その点数が狙える戦いができると、上位争いはいっそう過熱しますね。
中村:はい。彼らあたりの世代が、ぐぐっと来てくれないと、その下の年代も続けないので。
―――丸山選手、森口選手は1998年生まれ、奥田選手は1996年生まれ、丸山選手と一緒に昨年のアジア選手権に出場した田上駿選手(陸上競技物語、自己記録7764点)は1997年生まれで、2020年に7603点の自己記録を出している片山和也選手(烏城塗装工業)は1995年生まれ。このあたりの年代ということですね。
中村:全般にケガが多い感じがあります。“デカスリートにケガはつきもの”ではあるけれど、そのケガをどれだけせずに年齢を重ね、コンスタントに試合出場して、パフォーマンスを残していけるかというのも求められる種目だと思うんですよ、十種競技って。そういう意味で、この20代後半の世代は、試合へ出場し続けたり、完走したりパフォーマンスを残したりすることが少ない。持っている自己ベストと、秘めているものが釣り合っていない印象があります。そろそろ、そこを払拭してほしいです。「世界を目指す」という言葉が、現実味のあるものなるような記録を出してくれたら、すごく嬉しいですね。
―――逆にいうと、この年代全員が万全の状態で戦え続けることができれば、一気に水準は上がる可能性を秘めている…。
中村:そう思います、本当に。一つの試合で8000点台が2人、3人と出てくるような結果になっても、おかしくない力を持っていると思うんです。
―――そう思うと、夢が広がりますね。
中村:はい。期待はとても大きいです。でも、その半面、「何、くすぶってるんだよ!」という気持ちもある(笑)。エントリーリストを見ると、男子の場合は、女子と違って社会人が多いことがわかります。それだけに、しっかりと記録にフォーカスした、ピリッとした緊張感のある試合を見せてほしいです。
―――日本記録保持者の右代啓祐選手(国士舘クラブ)について聞かせていただきましょうか。日本人最初の8000点突破者で、ずっと日本の十種競技を牽引してきた人物。今年7月で38歳となります。
中村:年下の僕のほうが先に引退してしまいましたが…(笑)。右代さん自身は「(競技は)やれるところまでやる」と話していたので、「どこまで行けるのか」が楽しみですよね。東京オリンピックを目指していくあたりくらいまでは、「世界のメダル(を目指す)」と言っていた印象があったのですが、最近は少しずつ変化を感じています。競技をするうえでは、世界に出ていくとか、高いパフォーマンスをすることは、もちろんすごく大事なのですが、競技をやり続ける選手、応援され続ける選手というのも、アスリートとしての大きな魅力だと思うし、とても大切な価値だと思うんですよね。右代さんは、まさにそういうデカスリート。そんな選手が、日本選手権に出続けて、若手と一緒に戦ってくれているというのは、若い世代にとってはすごく貴重なことだと思います。だから、右代さんには、やれるだけしっかりやってもらって、フィールドのなかで、いろいろなものを後輩たちに見せたり話したりしてほしいですね。
【女子七種競技】
トップ3は、山﨑、ヘンプヒル、大玉
幅広いエントリーからの大幅なレベルアップにも期待
―――続いて、女子七種競技のほうを見ていきましょう。
中村:順当に行けば、日本記録保持者の山﨑有紀選手(スズキ)、歴代3位の5907点の自己記録を持つヘンプヒル恵選手(アトレ)、そして昨年、日本歴代5位の5720点まで記録を伸ばしてきた大玉華鈴選手(日体大SMG横浜)の3人が、上位争いの中心となってくることが見込まれます。ヘンプヒル選手は4月末にイタリアの競技会に出場して5688点をマークし、これが現段階で日本リスト1位の記録。山﨑選手は、5月中旬に今季最初の七種競技に臨み、5618点をマーク。大玉選手の七種競技初戦は5月末の競技会で、5410点の記録を残しています。ただ、3人とも、春先の試合の出方などを見ていると、単独種目を含めて出場頻度があまり多くない傾向で、万全の状態でシーズンインできているのか、どのくらいの調子で来ているのかは、気になるところですね。ここまでどういった状況だったのか、そこからどのくらいまで仕上げてきて、勝負しにくるのかに注目しています。
―――今季の日本リストでいうと、4月中旬の東京選手権を5435点の自己新記録で優勝した萩原このか選手(デカキッズアスリートクラブ)が3番手、5427点で東京選手権2位の熱田心選手(岡山陸協)が大玉選手の前に来て、ヘンプヒル、山﨑選手に続くという順位ですね。熱田選手は、昨年5639点(日本歴代8位)まで記録を伸ばしてきた選手です。七種競技もパリオリンピックの参加標準記録と開きが大きいというのが正直なところですが、記録面への期待ということではいかがでしょう?
中村:個人的には、やはり6000点を見たいので、そこに向けて、どういう戦いをしてくれるのかな…というところに期待しています。
―――みんながベストの状態に仕上げてくることができていた場合、どの点が見どころになりますか?
中村:走高跳を強みとする大玉選手が、まだ疲労のない2種目めで得意種目に臨めるという点で、ここでしっかり点数が取って勢いに乗っていける可能性がありますよね。大玉選手は、今年は社会人3年目を迎えます。混成競技では、社会人3~4年目あたりでひと皮むけてブレイクスルーするイメージがあるので、そういう意味で、大玉選手がどれくらい自己記録を更新してくる身体をつくれているか、どこまで突き抜けてくるかを楽しみにしています。身長などを考えても、5900点、6000点という点数を取ってもおかしくないくらいポテンシャルは持っていると思うので、あとはどこまでしっかりと身体をつくって、各種目の積み重ねができるかなというところだと思いますね。
――― 6000点まで、あと25点という日本記録(5975点)を保持している山﨑選手の状態はどうでしょう?
中村:同じチームではありますが、拠点とする場所が異なるので、把握しきれているとは言いづらいところです。しかし、直近の調子でいうと、記録会等の結果から、「仕上げてきているな」「準備はしてきているな」という様子が伺えますから、充実した気持ちで、身体の調子をしっかり合わせてくることができれば、自己ベストも可能なのではないかなとみています。
―――ヘンプヒル選手は、大きなケガを何度も乗り越えてのオリンピックイヤーとなります。
中村:アメリカでトレーニングをしていることもあり、なかなか情報が入ってこないという面はありますが、まずは試合に出てシーズンインできていることで安心しましたね。2017年に自己記録をマークしたあと、手術を伴うケガが続きましたが、海外の選手を見ても、大きなケガを乗り越えて活躍したり、出産による競技中断のあと復帰後にベストを更新したりする選手はたくさんいます。なによりまず、ヘンプヒル選手らしい試合をしてもらえたらいいなと思いますね。ヘンプヒル選手で強く印象に残っているのは、様々な経験を重ねていくにつれて、日本選手権前日に行われる記者会見での言葉が、すごく力を持つようになっていること。そこは、ケガを経て、たくさん悩んで考えて、いろいろなところへ行き、いろいろな人と話したり、もがいたりした結果なのだろうな、と…。人間的に深みが増して、とても魅力的なアスリートになっていると思うんですよね。
―――このほか、七種競技のエントリーを見て、どんな感想をお持ちですか?
中村:年齢の幅が広がっているな、と思いますね。高校生や大学はもちろん、社会人アスリートの数も増えてきたな、というのがあるので、七種競技の日本のレベルが一気に引き上げられるような試合になってくれたらいいなと期待しています。あと、身内のことになっちゃいますが、やたら中京大のエントリーが多い…笑。
―――シニアの七種競技では7人もエントリーしています。
中村:今は、(1校の出場枠が決まっている)インカレに出るよりも、日本選手権に出るほうが楽な状態なので。
―――すごいですね。でも、中京大だけでなく、学生年代に日本選手権を経験する選手が多くなり、社会人になっても続ける選手が増えてきているということは、積み重ねる要素の多い混成競技にとっては、とても良い傾向ですよね。どこかのタイミングで、記録の水準がガンと上がる可能性が…。
中村:あると思います。ジュニア年代から大学で競技を続けていくなかで、どうしても1~2年、下手したら3年くらい足踏みしてしまう選手が出ていたわけですが、これだけ年齢層に幅があるエントリーとなっているのは、そうした問題が少しずつ解消されてきているからかもしれない、と思うんですよね。今年への期待ももちろんですが、こうした選手たちが長く競技を続けていってくれることで、七種競技のレベルが世界に近づいていってくれたら、と考えています。
【なるか、U20日本新記録!】
―――この大会は、U20日本選手権も併催されますが、U20男子十種競技には、今季進境著しい高橋諒選手(慶應義塾大)がエントリーしています。高橋選手は、関東インカレ十種競技で7250点をマークして1年生優勝を果たしたことで大きく話題となりました。この記録は、シニア規格の十種競技におけるU20日本最高記録なんですよね。中村:とても楽しみですね。U20規格であれば、7500点とかは確実に行けそうですよね。さらに伸び盛りの勢いにうまく乗れば、それ以上の記録も期待できそうです。そうなってくると、丸山選手が日本大学時代の2017年にこの大会で出した7790点のU20日本記録更新が見えてきます。
―――現段階のU20世界リストを見ると、U20十種競技の世界1位は7713点なんです。U20とはいえ十種競技で世界リスト上位に入ってくるかもしれないと思うと、ワクワクします。
中村:今年は、U20世界選手権(8月27~31日:ペルー・リマ)が開催されますから、そこでのメダルを目標にできますね。そう考えると、岐阜での日本選手権はまだまだ通過点。日本選手権混成での記録もそうですが、今シーズンを通して、どれだけ夢を見させてくれるのか。さらには来年以降、シニアでどういう成長を見せてくれるのかという観点でも注目したいですね。インタビューができるので、どういう言葉を聞かせてくれるか、楽しみです。
―――ぜひ、その魅力を引きだしてください! あとは規格が違うといえど、U20で7700点とか7800点とかいう数字が出てくると、シニアに出ている選手たちにも刺激になりますね。
中村:きっと、2017年大会で僕たちが、丸山選手に抱いたような気持ちになるはず(笑)。でも、そうやって若手がぐんと伸びてくることはすごく大事なんです。高橋選手の活躍が、停滞している記録とか雰囲気とかを、ぶちこわす起爆剤になってくれることも期待しています。
―――こうやってみると、長そうに思われる2日間も、見どころ満載で、あっという間に過ぎてしまいそうですね。選手たちがベストの状態で戦えるような気象状況に恵まれることを祈りつつ、当日を待とうと思います。本日は、ありがとうございました。
(2024年6月4日収録)
>>エントリーリスト
https://www.jaaf.or.jp/files/competition/document/1830-4.pdf
>>競技日程
https://www.jaaf.or.jp/files/competition/document/1830-3.pdf
【混成競技のルール】
混成競技は走・投・跳から構成される複数の種目を1人の選手が行う競技。各種目の合計得点で順位を競います。
男子は2日間で十種目(1日目:100m、走幅跳、砲丸投、走高跳、400m、2日目:110mハードル、円盤投、棒高跳、やり投、1500m)、女子は七種目(1日目:100mハードル、走高跳、砲丸投、200m、2日目:走幅跳、やり投、800m)を行い、陸上競技のなかでも最も過酷な競技と言われ、その勝者は「キングオブアスリート」「クイーンオブアスリート」と呼ばれます。
【応援メッセージ募集中!】
>>ご応募はこちら
このたび、大会へ出場する選手に向けた「応援メッセージ」を大募集!本大会は「パリ2024オリンピック競技大会」日本代表選手選考競技会を兼ねており、日本一が決定すると同時に世界への挑戦が始まる大会でもあります。
いただいたメッセージは本連盟公式ウェブサイトやSNS、ライブ配信にて紹介し選手へお届けします。
皆様からのメッセージは日本一、そして世界の舞台を目指して戦う選手たちにとって大きな力になるはずです!
抽選で豪華プレゼントも!!たくさんのご応募をお待ちしております。
- 普及・育成・強化
- 第108回日本陸上競技選手権大会・混成競技/第40回U20日本陸上競技選手権大会・混成競技
- 中村明彦
- 右代啓祐
- 丸山優真
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- 日本選手権混成
- 運命をかけた決戦
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- 中村明彦アスリートコラボレーター
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