2024.03.14(木)委員会

大きく変わった! さらに進化中! もっと良くなっていく!日本陸連の『公認指導者資格』について、聞いてみました(Vol.2)



日本陸連では、2017年度に競技団体としてのあり方や目指す将来像を明文化した「JAAF VISION 2017」を発表。さらに「競技者育成指針」「指導者養成指針」をとりまとめ、「すべての指導者が、コーチ資格を取得する」「コーチが学び続けていくことのできる体制や環境をつくる」ことを目指して、コーチ養成システムの再構築に取り組んできました。
「実際に、どんなコーチ資格があるの?」「現在行われている講習の特徴は?」「コーチ講習を受けることで、何を学ぶことができる?」「勉強って、どのくらい大変?」「これからの社会で、コーチ資格の取得は、どう生きてくる?」
そんな疑問を、新しいシステムつくりの“事情通”と呼ぶべきスペシャリスト、森健一さん(日本陸連指導者養成委員会ディレクター兼幹事)と田中悠士郎さん(日本陸連強化部指導者養成課長)の二人にぶつけてみました。

今回は全3回シリーズのVol.2をお届けします。(Vol.1はこちら、Vol.3はこちら

文・写真:児玉育美(日本陸連メディアチーム)


指導者同士が、互いに学び合える

「双方向型のカリキュラム」

―――先ほど、「双方向型に変換した」という言葉が出てきました。実際に、どういうカリキュラムに変化したのでしょう?
森:従来は、いわゆる「知識の提供型」の講義スタイルで実施していましたが、グループワークを設けて、受講生同士が発言する時間をつくるところに軸を置き、いかに受講者が自ら考え全員に発言いただくか、また、グループワークが活発に進むことで、それぞれの学びをどれだけ深めていけるか、というところで、講義の中身やスタイルをすべて変えることになりました。それを可能にするためには、コーチデベロッパーや、あとで説明しますがJAAFエデュケーターという存在も必要で、そうした制度も並行して整えていったので、大きな変革になりましたね。

―――3つの資格とも、すべて変えたのですか?
森:はい。スタートコーチも、ジュニアコーチも、公認コーチも、すべてそういう方向に変えていきました。グループワークで発言し、他者とディスカッションするためには、十分な知識を持っていることが大前提となってきますので、それらの提供は、オンデマンドによる講義やテキストを見て学ぶ自宅学習に置き換えました。特に、公認コーチを受講する方々の場合は、すでに基礎的な知識を備え、実際に指導者としても十分な経験をお持ちです。それらをほかの方々に提供していただき、互いが学び合える場となるカリキュラムにすることを目指しました。



―――異なる年代や競技レベルの対象を、さまざまな地域あるいは環境で教えている方々が集まって、それぞれの知識や経験を共有する場にもなるわけですね。受講者に話を聞いた際、「参加したことで人脈が広がった」という感想を述べていた方もいました。
森:とても大切なことです。よく「コーチコミュニティ」という言葉でお伝えしているのですが、移動がしにくい地域を拠点としているのであれば、近隣のコーチも含めて、専門性を活かせるように、そこでのコミュニティをつくるところも、実は目的の一つに置いているんです。ネットワークが広がれば、例えば「合宿をやろう」「あの人に相談してみよう」といった新たな交流も生まれます。集合学習での経験は、実際には都道府県に戻ったあとに活かされる形になってくるので、そこまでつながっていくようにするところは意識しています。
あとは、公認コーチの資格をとった方が、その後は、その都道府県において、ジュニアコーチやスタートコーチの講師を担当されることになります。ですから、公認コーチ講習のカリキュラムについては、その点も意識した形でつくっていますね。

―――双方向型のカリキュラムで課題となっている点はありますか?
森:我々が意図している形の議論が進まないことはありますね。例えば、グループワークで1つのテーマを考えることになったとき、そのテーマから離れてしまうケースが見られます。皆さんが普段抱えている疑問や、パフォーマンスを高めるためにどうすればよいのかという“陸上談義”に話が進んでしまうことが起こりがちなんです。

―――(笑)。陸上競技が大好きで、熱意を持った方々が集まった際の「あるある」ですね。
森:はい(笑)。その気持ちは、本当によくわかるんですけどね。ただ、そこは「コーチを育てる講習会」という場なので、「コーチングスキル」とか、「コーチとしてどう選手に対応しなければならないか」とか、コーチングのための内容を話し合っていただきたいんです。まだそうしたディスカッションが難しいなというのは感じますね。
田中:公認コーチ講習においては、かなり我々が理想としているところになってきたと感じています。逆に、ジュニアコーチについては、まだ課題があるという状況ですね。我々としては、ジュニアコーチは、競技者育成指針に沿って、「陸上競技の全種目を理解したうえで、活動にあたっていただくオフィシャルなコーチ」と位置づけているのですが、実際の講習では、「陸上はやっていたけれど、コーチングの知識は学んでいない」とか、「指導はしているけれど、自分が取り組んでいた種目以外は詳しく知らない」とかいう方も含まれるんですね。そうなると、講習会のグループでは、どうしても指導経験のある人ばかりが発言したり、競技実績を持つ人の話が中心になったりしがちで、単なる経験談になってしまうんです。本来あってほしい「コーチング」のための議論が進みづらいというところは、課題といえます。ただ、それは資格制度や講習会に関して、日本陸連が何を目指し、どう進めていこうとしているかが、十分に伝わっていないということだと受け止めています。講習会に関する案内も、もっと工夫が必要で、「どういう方が、どの資格を取るといいのか」というところを、わかりやすくお伝えしていく必要があると感じています。


コーチ養成講習会で最も大事なことは

「安心・安全」

―――講習内容において、最も重視していることはありますか?
田中:「安心・安全」ですね。コーチ資格の講習では、「コーチングハンド」という言葉で示されるコーチに求められるスキルを学んでいただくことになります。この言葉は、もともとはワールドアスレティックス(世界陸連、WA)における教育のなかで用いられているもので、コーチに求められるスキル(コーチングスキル)を、手のひらを開いたときの状態に喩えています。コーチングスキルは、指のように「関係の構築」「説明の指示」「デモンストレーション」「観察と分析」「フィードバック」の5つに大きく分けることができるのですが、それらをすべて円滑に動かしていくために最も大切なのは、手のひらに相当する「安心・安全」。コーチの手に握られているもの(求められるスキル)すべては、「安心・安全」があってこそ成り立っていることを示しています。つまり、コーチは、選手が安心・安全に活動できるように、コーチ自身の安全も含めて考えていく必要があるということです。その点については、資格のレベルが上がれば上がるほど重要視して、受講者が広い視野で見られるようになることを目指しています。




森:
公認コーチの講習会では、指導演習を実施します。受講生をコーチ役と選手役に割り振り、自身の専門種目外の種目を指導してもらいます。そのなかでは普段だったら見過ごしてしまいそうなことでも、すべてにおいて「大丈夫だろう」でなく、「より安心・安全に指導するにはどうしたらよいか」「どういう伝え方が分かりやすいか」という視点をもち、講習会を通して学んできたコーチングスキルを実践する機会として非常に重視しています。そうした講習を受けることで、日常のコーチングにおける安心・安全管理の重要性を改めて認識し、それをご自身の現場で心掛けていただきたいという理由からです。

―――なるほど、「安心・安全」の管理は、コーチにとって何よりも重要なことというわけですね。
田中:たぶん受講者側からすれば、「高い技術」とか「最新のコーチング」とかいうものが、ニーズとしてあると思います。しかし、コーチ資格を持つ上での最も大切なのは、そこではないということ。公認コーチの講習においては、種目別の指導法は安全管理とセットで行われますし、指導演習においても徹底的なチェックが行われます。もしかしたら、参加した方々は、受講していくなかで気づくところかもしれません。
また、先ほど森先生がおっしゃったように、公認コーチは、将来的に、ジュニアコーチやスタートコーチの講師になっていただく方ですし、もっと言うならコーチの背中を見て育つ選手たちの鑑にもなるわけです。その教え子たちが将来的にコーチを目指すとなったら、恩師のコーチングは、すごく重要な存在になってきます。

―――確かに、恩師の指導スタイルを、そのまま受け継ぐというケースは、よく見られます。
田中:そういう意味でも、「みんなが憧れる」とか、「みんなが陸上を好きになる」とかいうきっかけがつくれる指導者が増えていってほしいと思うんですよね。日本陸連としては、そういう方々の背中を押してあげられるような体制つくりや環境つくりをすべきだと考えてます。資格取得を勧めるとき、「その資格を取って、何を得られるの? どんなメリットがあるの?」というのは、どの世界でも言われることだと思います。今後、資格を持っている方がメリットと感じてもらえるような状況を、我々はつくっていかなければなりません。まずは、「コーチ資格を持っていることが当たり前のことだし、持っているからこそ選手が安心して飛び込んでいける、選手を預ける保護者や、コーチとして起用する人々が安心して指導を任せられる、そういうコーチを養成していくことを目指しています。
森:現在、部活動の地域移行が進んでいますよね。これまでの部活動は、教員免許を持っている学校の先生が、課外活動として指導していたということで、ベースとして「学校のなかでの安全」が確保された状態だったわけです。しかし、その現場が、地域のクラブに移行していこうとなっているなか、現段階では誰でもクラブの指導者になれる状況なんです。今後は、「コーチングをきちんと学んで、資格を持っている人が教える」というところが、非常に大事になってくると思いますし、そうなっていかなければならないと考えています。

―――日本陸連が展開しているものでは、「最新の」あるいは「ハイパフォーマンスレベルの実例」といった観点で位置づけているのは、「JAAFコーチングクリニック」なのかなと推察しています。コーチ資格を取ったうえで、さらに学んでいく機会といえばよいのでしょうか?
森:はい。位置づけとしては、まさにその通りです。コーチングクリニックは、コーチ資格をとった方々の更新研修の場としても位置づけているんです。コーチにとって、学びというのは常に続いていくもの。そもそも資格を取得する講習会で完結するものではないのです。もちろん各自が日常のコーチング活動において学び続けていることが大前提ですが、日本陸連としても、さらにブラッシュアップ、アップデートする場として、コーチングクリニックをはじめ、コーチ登録できる4年間のうちに、いろいろな更新研修を設定し、それらを受けて、勉強していただくなかで、ご自身のスキルをアップしていただけるようにしています。

―――「学ぶことをやめたら、教えることをやめなければならない」という有名な言葉もあります。
森:そういう意味では、我々も「学び続けている」立場なんです。すべてを提供できるとは思っていませんし、ずっと学んでいく必要があるんです。私たち講師陣も全員が有資格者で、学び続けることを、とても大切にしています。そこは忘れてはならないことです。

―――「コーチは、常に学び続ける存在である」という前提で、全体のシステムを構築し、みんなで一緒に学び、高め合っていこうというスタンスですね。
森:はい。ある意味、「循環型」ということができると思います。スタートコーチ、ジュニアコーチ、公認コーチと、まず資格を取って、次は講師の立場で関わっていただくということになり、それがずっと回っていく形となるので。

―――なるほど、「コーチ講習をする講師」としての学びが必要になりますものね。
森:はい。そのためにまた研修していくことになりますから。

―――その「循環型」を目指すうえで重要になるのが、先ほど挙がった「JAAFエデュケーター」の方々でしょうか。どういう役割を担うのか説明してください。
田中:各都道府県で開催するスタートコーチやジュニアコーチ講習会の統括や、各地域における指導者コミュニティの中心的な存在として活動することを期して、日本陸連が新たに設けた役割です。スタートコーチの新設と並行して、2022年度から養成を始めました。初年度は、陸連の指導者養成委員会の委員がJAAFエデュケーターとして活動して、2023年度から都道府県においてJAAFエデュケーターとして認定された方々が徐々に増えてきている状況です。



―――2023年度段階での認定者数は?
田中:2023年12月13日の段階で、都道府県に配置されたJAAFエデュケーターは、22名になりました。

―――まだ多くはない状況なのですね。
田中:始まったばかりということもありますが、条件もかなり厳しく設定しています。公認コーチを有すること、エデュケーター養成講習会を受講し修了すること、公認スタートコーチ養成講習を開催し、統括講師としてJAAFエデュケーターとともに活動をする必要があります。そして、最終的にJAAFエデュケーターからの評価に基づき日本陸連 (指導者養成委員会)が認定します。認定期間は2年度間とし、更新するためにはJAAFエデュケーターとしての活動歴が必須となります。このように、いくつかのステップを踏む必要があるため、「ちょっとハードルが高すぎるんじゃないか」という声をいただくこともあります。しかし、エデュケーターとして活動していただくためには、コーチ養成システムに対して、我々と共通の認識や理解を持っていることが大前提。また、各都道府県において、どんどん開催していくためには、安全管理の重要性、現行の指導者養成制度や実施しているカリキュラムを熟知していなければなりません。各地域のコーチ養成で核となっていく存在なので、そこは大切にしたい。最終的に、すべての都道府県に配置され、稼働することを目指しています。

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