2024.02.22(木)その他

【レポート】日本陸連『組織における多様性の意義と「システム思考」アプローチ』をテーマに、D&I推進の研修実施


「人の多様性を認め、受け入れて活かすこと」を意味するダイバーシティ&インクルージョンを重視している日本陸連では、競技団体としてのダイバーシティ&インクルージョンの実現に向けて、昨年末から関係者の認識や理解を深める研修活動を行っています。2月7日には、前回、受講した日本陸連事務局員に加えて、本連盟の理事・監事まで対象を広げ、2回目の研修を行いました。

>>「多様な性のあり方」という視点で、ダイバーシティ&インクルージョンの推進の研修実施
https://www.jaaf.or.jp/news/article/19368/



今回の研修では、「多様性(ダイバーシティ)の実現が、組織に何をもたらし、その成長や発展にどう影響するか」いう観点で多様性について考え、その大切さを学びました。
『組織における多様性の意義と「システム思考」アプローチ』というテーマで講義を行ったのは、只松観智子さん(株式会社Think Impacts代表取締役)。ジェンダー平等の側面から社会課題の解決を実現させるコンサルティングを企業に提供するのと並行して、内閣府男女共同参画推進連携会議有識者議員を務めたり、NPOの経営支援や政策提言を行ったりと、幅広く活躍するスペシャリストです。
もともと外資系金融機関や外資系コンサルティングファームで、ビジネスコンサルタントとしてキャリアを築いてきた只松さんは、以前の勤め先で、ダイバーシティ&インクルージョンオフィスのリーダーを務めたことがきっかけで、多様性の問題に深く関わっていくことになりました。「いざ、取り組んでいくと、ダイバーシティの問題は非常に解決が困難で、表面的に出てきている問題への対処だけでは、根本的な解決には至らないということに気づいた」と只松さん。この日は、「今日話す内容は、企業へのコンサルティングを通して得た知見なので、そのままスポーツ界に当てはまらないこともあるかもしれないが、置き換えて考えていくことはできると思う」として、「組織で多様性を実現することの意義」が示されたうえで、根本的な解決を目指して自身が試行錯誤してきたなかで見えてきたという問題解決のアプローチ法「システム思考」が紹介されました。


多様性の実現が、組織にもたらすもの

まず、組織で多様性を実現することの意義として、只松さんは、「法令遵守」「社会的責任」「成長の原動力」の3つを挙げ、「現代においては、この3つすべてを達成して初めて、の組織の持続可能性とパーパスが実現される」と述べました。
そのなかでも詳しく解説が進められたのは、「成長の原動力」における意義です。組織の存続に直結するために、どの組織でも取り組みが必須となってくる法令遵守や社会的責任に比べると、「法的拘束力がない」「効果が遅れて現れるためにインセンティブが働きづらい」などの理由から、「踏み込んで考えていない組織がまだ多い」と只松さんは言います。
しかし、そこから只松さんは、多様性の実現が、「成長の原動力」となることで、組織にもたらす効果として、次のような事柄を挙げていきました。
・組織に多様な視点・知見が集まることで“集合知”が高められる。
・集合知が高まることは、結果として組織としてのリスクマネジメントを高めることにつながる。
・多様な視点に基づく議論により、解決策の幅が広がる。
・多様な視点を持つことで、盲点を排除し、問題の全体像を把握できるようになる。
・多様性の高いチームの議論は、その多様性ゆえに苦痛を伴うが、正解率は著しく向上する



これらの説明から、受講者たちは、出発点である「多様性」の実現が、集合知が高まる→高いリスクマネジメント力→正しい判断力→持続的な成長と連鎖していくことや、このポジティブなサイクルに入ることで自己強化がなされ、持続的成長の加速にもつながっていくこと(図1)を理解し、その取り組みが、組織の持続的成長や掲げる目的やミッションの達成に向けて、重要な鍵となってくることを認識しました。
そのうえで、只松さんは、「ただ多様な視点が集まっているだけでは十分ではない」として、組織のビジョンやミッションを実現するうえで最適な視点があること、皆が意見を言い合える心理的安全性やインクルージョンが実現されていることを、必要な条件として挙げ、それらは、組織の舵を取る意思決定層に、特に求められることを示しました。
そして、これらを可能にする組織であるかのチェック項目として、
・理事会などの重要意思決定機関において、安心して意見を言い合える心理的安全性が担保されているか、
・候補者選び~選任プロセスに透明性があるか。またビジョンを実現する上で適切な構成となっているか、
・意思決定プロセスに問題があると感じる構成員がいる場合、それに対処し改善するプロセスがあるか、
・ビジョン実現のための最適な決断がなされているか。目の前の問題に流されて中長期的なビジョンを見失っていないか、
の4つを挙げ、「こういったものがあると、意思決定プロセスも、より効果的なものになっていく」と述べました。
この説明のなかで、「組織におけるビジョンやパーパスは、皆さんの意思決定のすべての判断基準になる。なので組織にとって重要な意思決定や議論をするときには、“何が最も中長期的なビジョンに資するか”という視点で判断していくことが重要」と強調していた只松さんは、日本陸連が目的やミッション、ビジョンを明文化している「JAAF VISION 2017」(https://www.jaaf.or.jp/pdf/about/jaaf-vision-2017.pdf)と、実現に向けて、より具体的なアクションプランを設定した中長期計画「JAAF REFORM~新たなステージへの挑戦~」(https://www.jaaf.or.jp/pdf/about/reform_jp.pdf)について触れ、「これまでに、いろいろな企業のビジョンペーパーを見てきたが、これを、ご自分たちでつくられたと聞き、本当にびっくりした」とコメント。「バックキャスティング(目標とする未来像を描き、それを実現する道筋を、未来から現在へと遡って描く手法)で、目的、ミッションから、具体的な施策(ビジョン)まで落とされていて、しかもビジョンでは中期的な目標(2028年まで)、長期的な目標(2040年)も掲げられているうえに、2022年には中長期計画も策定していて、より具体化された内容になっている」と高く評価しました。そして、「この目的等を常に念頭に置き、施策等を着実に取り組んでいけばいいと思う」と述べ、「その際にはPDCAをしっかり回し、うまく行っていないときは、原因を究明して新たな施策を考える。そうやって自分たちを軌道修正しながら、目標に向かって進んでいけばいい」と」と呼びかけました。


問題解決に有効な「システム思考」というアプローチ



続いて、只松さんが紹介したのは、問題解決のために用いる「システム思考」という概念(
図2)。解決したい問題を、目に見えている現象だけに囚われるのではなく、問題を取り巻いている様々な要素のつながりに着目し、その全体像を「システム」としてとらえ、多面的な見方で原因を探し、最も効果的な解決法を模索していこうとするアプローチの方法です。目まぐるしい勢いで複雑に変化を遂げている現代における問題解決の手法として近年注目を集め、ジェンダー平等や多様性以外の社会課題についても、このアプローチで解決の道を探るケースが増えています。
只松さんは、「一つの領域として専門的な研究が行われている分野なので、短い時間で紹介しきれる内容ではないけれど、考え方を知ることで参考にできることは多い」として、ここでは、「組織の方針を決めていくトップ層(意思決定層)において、どのように女性を増やしていくかという問題」を例に挙げ、システム思考を説明していきました。
解決すべき「問題」というのは、海に浮かぶ氷山をモデルとして考えるとわかりやすいと只松さん。これは、「現象として現れる問題(出来事)」は海上に浮かんでいる氷山の一角にすぎず、海面下には「その現状を生み出すパターン」が、それより深いところに「パターンを引き起こす構造」が、もっと深いところには「根底にある意識(メンタルモデル)」が潜んでいるというものです。問題が浮上するプロセスは、一番深いところから始まっていて、逆に、問題解決の難しさは海面より深くなるにつれて難しくなっていくということが特徴です。つまり、「トップ層において、女性をどう増やすか」という問題も、全体像を見ていくと、表面的に現れる「理事会に女性が少ない」「指導的立場の女性が少ない」といった要素の底には、現象を生み出すパターンや、パターンを引き起こす構造、根底にある意識などの問題が潜んでいて、表面的なことだけに対処していては解決しないということ。只松さんは、「システム思考においては、表面的な問題だけでなく、その下にある要素にも対処していく必要があると捉え、特にパターンを引き起こす構造と、根底にある意識に働きかけていくことが、根本的な問題解決につながっていくと考える」と説明しました。
実際に陥りがちなパターンとして、「応急処置(表層的な要素のみに対応する)に走りがちになること」「システムの全体視線が欠如していること」を挙げたうえで、解決にあたる際の施策のヒントになるのは、「要素間のつながりにフォーカスすること」と述べ、例として挙げていた「女性リーダーをどう増やしていくか」を考える際の施策のヒントとして、組織構造とメンタルモデルの側面で有効となる変革の項目が、それぞれ具体的に紹介されました。


日本陸連が、組織としての持続可能性を高めていくために

最後の質疑応答では、意思決定プロセスにおけるチェック項目に関する質問や、「組織としてのパーパス(目的または存在意義)を構成員がどう捉えるべきか」「議論をするなかで必ず生じるマイノリティ(少数派)の声をどこまで考慮すべきか」など、現状をさらに良くしていくための必要となってくる問いかけが、理事や職員から上がりました。

1時間強の講義終了後、只松講師より「スポーツ界の皆さんとお話するのは、とても新鮮で、私も楽しませていただきました。少しでも皆様に気付きを与えられたのであれば大変嬉しく思います。日本陸連の皆さんがダイバーシティ&インクルージョンの観点で、スポーツ業界をけん引されることを期待しています。」というコメントを寄せていただきました。


文:児玉育美(JAAFメディアチーム)

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