東京・国立競技場で開催された第107回日本選手権10000mは、12月10日に無事、大会を終えました。日本陸連は、競技終了後、強化委員会の高岡寿成中長距離・マラソン担当シニアディレクターによる総括会見を行いました。
会見の要旨は下記の通りです。
■高岡寿成強化委員会シニアディレクター(中長距離・マラソン担当)
今回の日本選手権10000mで選手たちは、我々(強化委員会)が期待していた以上の結果を残してくれた。大変嬉しく思っている。今回のレースで、多くの選手がパリオリンピックに向けて、大きく近づいた。それは記録、また、ワールドランキング順位におけるポイント獲得の両面合わせての前進と感じている。まず、女子では、当然ながら、ブダペスト世界選手権で7位に入賞している廣中璃梨佳選手(JP日本郵政G)を軸とした展開にはなったが、そのなかで複数の選手が廣中選手に挑戦したり、(オープン参加の)外国人選手と競ったりするなかで、上位に入った多くの選手が自己新記録をマークした。また、最後の競り合いは、非常に見応えのあるもので、男子もそうだが、この競り合いの部分に関しては、世界で勝負するうえでは必須となってくる要素。そういった競り合いを見ることができたのかなと思う。
男子についても、女子と同様に、速い展開のペースという流れになったが、核となる選手…(エントリーリスト1位で臨み、4位の結果だった)田澤廉選手(トヨタ自動車)含めて、いい形でレースが進んだ。当然、ペーシングライト(電子ペーサー)の力は多少なりともあるとは思うが、それ以上に、(点灯した電子ペーサーの)前を走る選手たちを見て、非常に頼もしく感じた。また、女子同様に、最後の競り合いは、勝負するうえで必要な部分。そういった意味でも、よい駆け引きができたレースだった。
ここまで記録を伸ばせたことは、非常に良かったと思っている。(気温上昇を懸念していた)コンディション、ライバル、そして多くの観客の方に来ていただけたこと。そういったところも記録が出た要因だと思っている。
【質疑応答】
Q:男子は、3人が日本記録を上回った。このタイミングで、3人が従来の記録を上回った要因はなんだと思うか?高岡:やはり「ライバルが近くにいる」ということ、また、「ライバルには負けたくない」という気持ちがあるのではないかと思う。記者会見で、塩尻和也選手(富士通)も述べていたように、塩尻選手自身は「記録が出て良かった」と思っているが、2位以下の選手たちは必ず「悔しい」という思いを胸に持っていると思う。また、その思いが次のレースの力になってくると思うし、塩尻選手が日本記録はクリアできるだろうと思っていたということは、みんなが、そのような気持ちになっているということ。その気持ちで臨んでいたことが、より大きく記録を更新させた要因だと思う。
Q:半年後に行われる第108回日本選手権10000mへの期待を。
高岡:当然ながら記録といったところもあるが、(当日の)気温と、準備の部分がどこまで望めるかということが一つあると思う。そのなかで、より選手に合ったレースを、展開含めてできればと思っているし、第108回大会は、当然ながら順位も必要になってくる側面がある。そういったところで、さらにレベルの高い競い合いを期待したい。
Q:ペーシングライトが2019年に採用されてから、いわゆる各国の選手権大会でペーシングライトを導入したのは日本が初めてとなるわけだが、その経緯を聞かせてほしい。
高岡:海外ではダイヤモンドリーグはじめ各大会でペーシングライトの力というのは感じていたし、私たち自身も(導入した)ホクレンディスタンスチャレンジを通じて感じていた。チャンピオンシップとなる日本選手権という場ではあるが、記録に対して、選手にもっと執着してほしいという思いをもって導入の判断をした。
Q:来年5月の第108回日本選手権10000mや、パリオリンピックに向けた日本選手権で実施される10000m以外の中長距離種目で採用することは考えているのか?
高岡:現段階では、今日の結果を踏まえて状況をみて…といったところになる。ペーシングライトが。必ずしもすべて選手の追い風になると言いきれない部分もあるかなと思っていて、特に、点灯するペースよりも遅れたときのことも含めて、「設定する難しさ」を感じている。当然、第108回大会については、順位も大切になってくるというあたりもあわせて、今回の結果をみて、判断していきたい。
Q:今大会の結果を踏まえ、参加標準記録について、どのように捉えていて、選手たちにどういったチャレンジを期待しているか?
高岡:(男子は)ブダペスト世界選手権時から比べて、参加標準記録が大きく上がったので、「簡単に突破はできない」と思っていた。ただ、今回、コンディションが整ったレースだったとはいえ、(塩尻選手の優勝タイムは)今季世界リスト9番となる記録。そこは、選手も、私たちも自信を持っていいと思っている。この記録によって、「26分台(を目指す)」という考え方のできる選手は増えるので、当然、そこを目指すことが今の日本の選手たちにとって、大きくプラスに働くはず。また、(突破者を出せなかった)ブダペスト世界選手権の参加標準記録(27分10秒00)で考えると、突破できている記録。そういった意味で、選手たちも「勝負できる」という気持ちに変わっていくのではないかと期待している。
※本稿は、12月10日の日本選手権10000m終了後に行われた総括会見の要旨をまとめたものです。発言内容が正確に伝わることを意図して、一部、実際のコメントに編集を加えています。
文・写真:児玉育美(JAAFメディアチーム)