2023.10.09(月)大会

【MGC】男子レース展望:「2強」+トヨタ&九州勢。経験者、初出場入り交じる大熱戦予感


大迫 傑(Nike)/鈴木健吾(富士通)

2024年パリ五輪の代表切符は男女それぞれ3枚。そのうち、MGCの優勝者、および2位の選手は「内定」となる。残る1枠は、今年12月から始まるMGCファイナルチャレンジにおいて派遣設定記録(男子:2時間5分50秒、女子:2時間21分41秒)を突破した選手の記録最上位者か、突破者が出なかった場合はMGC3位の選手。男子は午前8時、女子は午前8時10分にスタートする運命の一戦を展望する。
※9月25日時点の情報で構成

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東京五輪6位・大迫と日本記録保持者・鈴木が並び立つ

東京五輪の代表選考レースとして行われた4年前のMGCは31人のエントリーだったが、今回はほぼ倍増の65人が登録した。2時間4分56秒の日本記録(2021年)を持つ鈴木健吾(富士通)を筆頭に、2時間5分台が3人、2時間6分台が7人と、出場者の持ちタイムは前回と比べてグンと上がっている。それだけにレースの行方は混とんとしているが、やはり日本歴代2位の2時間5分29秒が自己ベストで、東京五輪では6位入賞を果たした「前・日本記録保持者」の大迫傑(Nike)と、「現・日本記録保持者」の鈴木が〝2強〟と目される。
東京五輪後にいったんは引退を表明した大迫だが、あまり間を置かずに現役復帰。すでに昨年11月のニューヨークシティ、今年3月の東京とメジャーマラソンを2戦完走し、東京では2時間6分13秒と自己サード記録(日本人3番手の9位)でフィニッシュした。
トラックレースでスピードを磨くのも大迫流だ。6月の日本選手権5000mは途中棄権に終わったが、7月のホクレン・ディスタンスチャレンジ網走大会で10000mを1日2本、およそ2時間のリカバリーで走っている。
2度目のMGCに向けては、拠点を置く米国・フラッグスタッフで高地トレーニングを実施。前回のMGCは終盤の上り坂で力尽き、先行した中村匠吾(富士通)だけでなく服部勇馬(トヨタ自動車)にも逆転を許して悔しい3位だっただけに、自身のキャリアを総動員してマラソン初優勝を狙ってくるだろう。
一方の鈴木は、昨年のオレゴン世界選手権を体調不良で欠場しており、フルマラソンは2022年3月の東京(2時間5分28秒/日本人トップの4位)以来となる。その間、何レースか出場を模索したが、故障などでスタートラインに立つに至らなかった。
「レース勘を取り戻すために」と、今年6月の函館ハーフマラソンで実に1年3ヵ月ぶりにレース復帰を果たした。ケガからの復帰途上で練習はまだ十分に積めていない状態だったが、1時間2分46秒(7位)をマークし、本人もコーチングスタッフもひと安心したようだ。
9月に入って渡米し、オレゴン世界選手権前と同じアルバカーキで1ヵ月間の高地トレーニングを実施。そこで出遅れているぶんの練習をこなせていれば、パフォーマンス歴代で1、2位の記録を持つ鈴木の本領発揮となるだろう。鈴木は前回のMGCにも出場しており、中盤や終盤で集団を揺さぶるなど積極的な走りを見せて7位だった。

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世界選手権代表の山下、西山らが追う

フレッシュな初出場組で大迫、鈴木に肉薄しそうなのが、26歳の山下一貴(三菱重工)。今夏のブダペスト世界選手権で途中先頭に立ち、40km地点を5位で通過しながら、その後の脚のケイレンで12位まで後退した。だが、思い切りの良い走りはマラソンファンの脳裏に焼きついた。今年3月の東京でもペースメーカーが外れた30km以降、一時先頭に立っている。最後は大迫と競り合いながらも先着し、日本歴代3位に当たる2時間5分51秒で日本人トップの7位。其田健也(JR東日本)、西山和弥(トヨタ自動車/※)を含め、世界選手権に出場した3人は疲労からの回復具合が気掛かりだが、山下の物怖じしない積極的な走りと、さわやかな笑顔がMGCでも見られるか。
山下の台頭で、これまでチームの屋台骨を背負ってきた井上大仁(三菱重工)は、前回よりも気負わずに五輪選考レースに臨めるだろう。4年前は優勝候補の一角に挙げられながら、完走選手中最下位(27位)の屈辱を味わった。2018年のジャカルタ・アジア大会金メダリスト。〝アジア大会イヤー〟に再び歓喜をつかみに行く。
1チームから最多の7人が出場するトヨタ自動車は、昨年のオレゴン世界選手権で13位(2時間8分35秒=世界大会日本人最高タイム)と健闘した西山雄介が主軸となる。初マラソンだった昨年2月の別府大分で、2時間7分47秒をマークして優勝。マラソンはオレゴンを含む2回しか走っていないが、西山は暑さにも強いとのこと。前回のMGCで2位に入り、東京五輪の代表を決めた服部勇馬(トヨタ自動車)とほぼ同じ流れで合宿を組み、2度に渡る米国・パークシティでの高地トレーニングをチームメイトとこなした。
東京五輪の代表候補選手に選出された大塚祥平(九電工)は、前回のMGCで4位。自国開催のオリンピックは出番がなかっただけに、今度こそパリ行きのチケットを確実に手に入れたいところだろう。大塚は今年2月の大阪マラソンで、2時間6分台(2時間6分57秒)の仲間入りを果たしている。
大塚とともに九電工で注目されるのが、スピードランナーの赤﨑暁。7月のホクレン・ディスタンスチャレンジ北見大会5000mで、13分28秒70をマークして1着。世界を舞台に3000m障害で活躍する三浦龍司(順大)を抑えたことで、一躍存在感が高まった。
鈴木健吾が日本記録を作った2021年のびわ湖毎日マラソンで、2時間6分35秒をマークした細谷恭平(黒崎播磨)は、その年の福岡国際で真っ先にMGCチケットを獲得。以降も安定した成績を残しており、今度のレースも先頭集団に食らいつくはず。五輪、世界選手権の両方で入賞歴のある中本健太郎監督にあやかって、古賀淳紫(安川電機)もとことん粘るレースを目指していく。
※西山和弥(トヨタ自動車)は、10月3日に欠場を発表済み


山下一貴(三菱重工)


西山雄介(トヨタ自動車)


大塚祥平(九電工)


細谷恭平(黒崎播磨)


先頭集団に食らいつく多彩な顔ぶれ

先頭集団に加わりそうな選手は他にもいる。元日の全日本実業団対抗駅伝を連覇したHondaからは3人出場するが、最長4区(22.4km)で区間3位と好走し、首位に躍り出て優勝に貢献した小山直城が筆頭格となりそう。7月初めのゴールドコースト・マラソンで2時間7分40秒の大会新記録を樹立して優勝を飾っている。
マラソンの名門ながら、前回のMGCには1人も出場できなかった旭化成も、今回は3人がスタートラインに立つ。ともに33歳の鎧坂哲哉と丸山文裕、若手の土方英和が五輪代表に名を連ね、名門復活の狼煙を上げることができるか。
この他、過去6回のマラソン歴のうち4回が2時間7分台の安定感を誇る聞谷賢人(トヨタ紡織)や、2020年の福岡国際マラソンで優勝(2時間7分05秒)している吉田祐也(GMOインターネットグループ)、オレゴン世界選手権代表だった星岳(コニカミノルタ)、マラソン経験では右に出る者がいない川内優輝(あいおいニッセイ同和損保)ら、顔ぶれは多彩。川内は前回のMGCにも出場権があったが、ドーハ世界選手権を優先させて、エントリーはしていない。
さらに、39歳の今井正人(トヨタ自動車九州)と岡本直己(中国電力)、36歳の佐藤悠基(SGホールディングス)らベテラン勢の、味のある走りも堪能したい。
前回経験者で2時間6分台の記録を持つ上門大祐(大塚製薬)や髙久龍(ヤクルト)、MGCチャレンジ指定大会を兼ねたジャパンマラソンチャンピオンシップ(JMC)シリーズのG1レースで日本人トップを占めた市山翼(サンベルクス)や秋山清仁(愛知製鋼)なども控えるほか、湯澤舜(SGホールディングス)ら2時間7分台を持つ選手はずらり。混戦となれば、誰が抜け出してもおかしくはない。


鎧坂哲哉(旭化成)


小山直城(Honda)






編集:月刊陸上競技


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