8月19日から開幕したブダペスト2023世界選手権における、すべての日本代表選手の競技が終わった8月27日、日本陸連は、囲み取材形式で大会の総括を行いました。取材には、日本選手団監督を務める山崎一彦強化委員長が対応。今大会における日本選手団の成績、評価、今後の課題等について述べました。山崎委員長のコメント要旨は、下記の通りです。
◎山崎一彦強化委員長(日本選手団監督)
中長距離、マラソンについては高岡寿成シニアディレクターが総括しているので、私は全体のところで話を進めさせていただく。今回は、75名の選手団を派遣した。そのうちメダルが男子1、女子1。入賞が男子6、女子3。合計はメダルが2、入賞が9となる。また、日本新記録は2ということで、田中希実(New Balance、5000m)と佐藤拳太郎(富士通、400m)が樹立した。
ちなみに昨年のオレゴン大会の成績は、メダルが4、入賞が5ということで、今回は、メダルの数は減ったが、入賞数を増やすことができている。
そのなかで、特に入賞について、選手たちがさまざまな種目で入賞することができたことが特徴的といえる。かつては、マラソン、競歩、リレーでのメダル獲得・入賞に頼っていたが、トラック&フィールドのさまざまな種目で入賞者が出せたことは、新しいチーム構成、新たな選手層ができている証拠といえる。
大会後半では、北口榛花(JAL)が女子やり投で金メダルを獲得してくれた。彼女はダイヤモンドアスリートの第1期生。私たちがダイヤモンドアスリートプログラムを立ち上げて9年経ったわけだが、メダルという結果を得たことで、長い間にわたる活動が本当の強化につながったと思っている。北口については、ダイヤモンドアスリートに選出した高校生のころから見ていたので、そういう意味では感慨深いものがあった。今回は、そういう選手が本当に頑張ってくれたと思っている。数字的な側面とか入賞の層とかは、今後、しっかり分析して、正確な数字を出したうえで理事会等でも報告していくが、概ね、選手たちは力をつけていて頑張ってくれたと思っている。
今までと違った傾向としては、ダイヤモンドリーグとかに出て、すでに成績の残している選手を見るほかの選手たちの様子であった。北口、三浦龍司(順天堂大学、男子3000m障害物)、泉谷駿介(住友電工、男子110mハードル)などがダイヤモンドリーグで活躍しているところは、「もうちょっとで自分も」という層の選手たちのモチベーションにかなり影響していると感じた。実際に、選手団として動いているなかでも、「オレ行きたい、オレもやってみたい」といった声が聞こえてきた。世界選手権といった大会もあるが、「世界で戦う」とはどういうものか、どうやって戦うかというところを、みんなに示すことができたように思う。そこは私たちが目標としてきたことで、究極を目指しながら、数名でいいから高いところまで引っ張り上げることができたことで、そこに追随する人たちが出てきたと考えている。それが例えば、男子400mにおける3選手(佐藤拳、佐藤風雅=ミズノ、中島佑気ジョセフ=東洋大学)の自己ベストなどにもつながっていると思う。
一方で、課題もいろいろあった。目立つところでいうなら、まず、インビテーションにより、最後滑り込みで(代表に)入った選手。ここはランキング通りということで、前半にかなり厳しい戦いとなってしまった。「出場するレベル」と「戦うレベル」はやはり別のものであったといえる。インビテーションでの参加で頑張れたのは、男子200mの飯塚翔太(ミズノ)のみだったと思う。飯塚の場合は、ベテランであったことが影響していて、初めて出場した選手の場合は、戦い方が未熟であったように感じた。
私たちはいま、「世界と戦う」「入賞」というところを目標にしているし、また、皆さんから求められているところも、おそらく「入賞・メダル」であるのだろうと思っている。そういった厳しさのなかでやらなければいけないわけで、参加しただけで、よかったとか、楽しかったとか、経験になったということでは済まされない。もう一段上がるようなチーム構成にしなければならない。
ただ、一方で、自国開催となる東京の世界選手権も2025年に控えている。いわゆる地元枠というのが機能するような状況になった場合は、そのあたりをどういう構成にしていくかも考えていかなくてはならないし、また、チームとしての「戦う雰囲気」をどう醸成するかも考えていかなければならない。
派遣の問題では、世界的にコロナウイルス感染症の問題がまだ尾を引いていて、選手の出場の条件が揃っていても出場できないという例が生じるなどなど、海外では厳しい状況になっている。私たちも財政状況が悪くなっているなかで、今までは「選手の派遣だけはとにかくやっていこう」としてきたが、今後は、そのあたりも考えていかなければならない。また、強化資金の獲得もきちんとしながらやっていくことが必要。今後、上層部と話をして、選手たちがよりよい環境のなかで、競技活動ができるようにしていきたい。
あとは、注目をされていて、期待もされているということで、リレーについて触れたい。男子4×100mリレーについては5位。こちらはやはりメダルを期待されていて、私たちも同じく期待をしていた。予選まではまずまずの流れであったが、その段階で、メダルに届くか届かないかというのが正直なところだった。決勝では、バトンがスムーズに渡らなかったところとかがあり、その結果、5位の成績になったといえる。ただ、優勝記録やメダル獲得記録をみると、まだまだ日本が獲得できる範疇にある。実現のためにはバトンパスワークの精度を上げていくことが必要だし、それに向かってやらなければ、金メダルを取ることはまだ難しいと思う。走力でアメリカに劣っている点を考えると、バトンミスをしてはいけないことといえる。
また、男子4×400mリレーは、こちらも個人種目に出場した3人が自己ベストを更新していたこともあり、リレーでの成果も期待していたのだが、(予選は)流れがつくれなかった。今回、競技の特性や選手の特性からオーダーを采配したのだが、その流れがうまくいかなかったことは反省点。ただ、予選で出した3分00秒39は、日 本歴代2位の記録。悪くはなかったが、今回の競技環境を含めて、まあまあ良い環境のなかで高速になっていったということも、一つ私たちの敗因であったかなと思う。そのあたりは、今後精査をして、パリオリンピック、東京世界選手権と、必ずメダルを取れるようにしていきたい。
※本内容は、8月27日に実施した囲み取材において、山崎一彦強化委員長が発言した内容をまとめました。より明瞭に伝えることを目的として、一部、修正、編集、補足説明を施しています。
文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
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https://www.jaaf.or.jp/wch/budapest2023/
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