2023.08.18(金)選手

【記録と数字で楽しむブダペスト世界選手権】男子100m:坂井・栁田・サニブラウンが2大会連続のファイナルを目指す(予選8月19日、準決勝20日、決勝20日)



8月19日(土)から27日(日)の9日間、ハンガリーの首都ブダペストを舞台に「第19回世界陸上競技選手権大会」が開催される。日本からは、76名(男子48名・女子28名)の代表選手が世界のライバル達と競い合う。

現地に赴く方は少ないだろうがテレビやネットでのライブ中継で観戦する方の「お供」に日本人選手が出場する33種目に関して、「記録と数字で楽しむブダペスト世界選手権」をお届けする。

なお、これまでにこの日本陸連HPで各種競技会の「記録と数字で楽しむ……」をお届けしてきたが、過去に紹介したことがある拙稿と同じ内容のデータや文章もかなり含むが、可能な限りで最新のものに更新した。また、記事の中では五輪についても「世界大会」ということで、そのデータも紹介している。

大会期間中は、日本陸連のSNS(Facebook or X)で、記録や各種のデータを随時発信予定。そちらも「観戦のお供」にしていただければ幸いである。
日本陸連Facebook:https://www.facebook.com/JapanAthletics
日本陸連X(Twitter):https://twitter.com/jaaf_official

現地と日本の時差は、7時間で日本が進んでいる。競技場内で行われる決勝種目は、日本時間の深夜から早朝にかけて競技が行われる。

睡眠不足にどうぞご注意を!



男子100m

(実施日時は、日本時間。カッコ内は現地時間)
・予備予選 8月19日 19:35(19日 12:35)
・予  選 8月20日 02:43(19日 19:43) 7組3着+3
・準 決 勝 8月20日 23:35(20日 16:35) 3組2着+2
・決  勝 8月21日 02:10(20日 19:10)

※記録は原則として7月31日判明分。現役選手の敬称は略させていただいた。トラック競技の予選・準決勝の通過条件(○組○着+○)は、ルールやこれまでの世界大会でのものを参考に記載したため、ブダペストではこれと異なる条件になる可能性もある。



坂井・栁田・サニブラウンが2大会連続のファイナルを目指す

2022年のオレゴンではサニブラウン・アブデルハキーム(タンブルウィードTC)が7位入賞。
五輪を含む世界大会では、1932年ロサンゼルス五輪6位の吉岡隆徳(たかよし)さん以来90年ぶりの「日本人ファイナリスト」となった。

今回は、これまでの世界大会で最もハイレベルな設定となった参加標準記録の10秒00を誰もクリアできなかったが、日本選手権を初制覇した坂井隆一郎(大阪ガス/エントリー記録10秒08=23年・ベスト記録10秒02=22年)がワールドランキング34位で、同2位の栁田大輝(東洋大2年/エントリー記録&自己ベスト10秒02=23年)がアジア選手権優勝者(ワールドランキングも33位で圏内)で出場権を獲得。
サニブウラウンは、ぎりぎりまでターゲットナンバー48名以内に入れるかどうかの位置にいたが、7月20日のルツェルンでの10秒09がきいて、最終的には46位できわどく滑り込んだ。

22年のオレゴンでは、サニブラウンは上述の通り7位入賞。
初出場だった坂井は、予選4組の3着(10秒12/+0.2)で着順で通過。準決勝は2組の6着(10秒23/+0.1)。
栁田は4×100mRの予選でアンカーをつとめ、1組の4着でフィニッシュ(38秒78)したが、2~3走のオーバーゾーンで失格となった。

サニブラウンは2大会連続の、坂井と栁田は初のファイナリストに挑む。


世界選手権&五輪での日本人最高成績と最高記録

<世界選手権>   
最高成績7位10.06(-0.1)サニブラウン・アブデルハキーム(タンブルウィードTC)2022年
最高記録9.98(-0.3)予選7組1着サニブラウン・アブデルハキーム(タンブルウィードTC)2022年

<五輪>    
最高成績6位10.7吉岡隆徳(東京高師)1932年
最高記録10.05(+0.2)準決勝2組5着山縣亮太(セイコー)2016年

1932年ロサンゼルス五輪の吉岡さんは「暁の超特急」と謳われ、素晴らしいロケットスタートで、決勝の70m付近までトップを走った。



世界選手権&五輪での決勝進出ライン

10秒00の参加標準記録適用期間内(2022年7月31日~23年7月30日)の記録(1国3名以内。前回優勝者のいるアメリカは4名)では、9秒台が25名もいてレベルが高い。

「表1」は、1968年以降の世界大会(五輪&世界選手権)での「ファイナリスト」への条件を調べたものだ。
1968年以降の五輪と世界選手権の決勝進出者で最も遅いタイム(「2組4着取り」で準決勝を通過した4着の選手で最もタイムが遅かった選手。または、「3組2着+2」の「+2」で最も遅いタイムで通過した選手)と準決勝落選者で最もタイムが良かった選手のデータをまとめた。

これによると、これまで準決勝落選者で最もタイムが速かったのは、2013年と15年の世界選手権と21年東京五輪での「10秒00」。ということはこれまでの世界大会では、準決勝で9秒台で走った選手は「100%決勝に進出」している。今回のブダペストではどうなるかはわからないが、これまでのデータからすると準決勝を「9秒台」で走れれば「ファイナリスト」が「かなり濃厚」ということになる。

とはいえ、21年の東京五輪では、準決勝の3組2着+2の「プラス2」は、第3組の9秒84と9秒90だった。この組の5着は10秒11だったが、もしも4着と同タイム9秒90で1000分の1秒単位で「着差あり」という5着の選手がいた場合「9秒90でも落選」という可能性があったことになる。実際は、2組2着の10秒00の選手が決勝に残り、1組3着と2組3着の2名が10秒00で落選した。

【表1/1968年以降の五輪&世界選手権の準決勝通過者最低記録と落選者最高記録】
・1968年のメキシコ五輪は、当時のルールで電動計時の100分の1秒単位を四捨五入して10分の1秒単位にしたものが正式記録とされた。また、当時のルールでは、手動計時との差を考慮して、電動計時を「0秒05遅れ」で作動させていたが、ここでは現行ルールの通りにその「0秒05」を加算したタイムで示した。
・「五輪」は、オリンピック。他は世界選手権を示す。
準決通過最低記録準決落選最高記録
1968五輪10.2610.22
1972五輪10.4810.42
1976五輪10.3710.33
1980五輪10.4510.44
198310.3910.40
1984五輪10.5210.34
198710.3710.24
1988五輪10.2410.31
199110.1310.17
1992五輪10.3310.34
199310.1510.20
199510.1710.20
1996五輪10.1110.13
199710.2210.18
199910.1410.13
2000五輪10.2010.25
200110.2910.26
200310.2710.22
2004五輪10.2210.12
200510.1310.08
200710.2110.19
2008五輪10.0310.05
200910.0410.04
201110.2110.14
2012五輪10.0210.04
201310.0010.00
20159.9910.00
2016五輪10.0110.01
201710.1010.12
201910.1110.11
2021五輪9.9010.00
202210.0610.12
最高記録9.9010.00
世選最高9.99(2015)10.00(2013・2015)
五輪最高9.90(2021)10.00(2016・2021)



1983年以降の世界選手権&五輪での決勝での着順別記録

「ファイナル」では、どれくらいのタイムでどれらいの順位が見込めるのか?
それを示したのが「表2」である。

【表2/1983年以降の世界選手権&五輪決勝での1~8位の記録】
・カッコ内は、のちにドーピング違反で失格となった記録で、後ろに当初の相当順位を記載。
風速1位2位3位4位5位6位7位8位
1983-0.310.0710.2110.2410.2710.2910.3210.3310.36
1984五輪+0.29.9910.1910.2210.2610.2710.2910.3310.35
1987+1.09.9310.0810.1410.2010.2510.3416.23(9.83=1)
1988五輪+1.19.929.979.9910.0410.1110.1112.26(9.79=1)
1991+1.29.869.889.919.929.959.9610.1210.14
1992五輪+0.59.9610.0210.0410.0910.1010.1210.2210.26
1993+0.39.879.929.9910.0210.0210.0310.0410.18
1995+1.09.9710.0310.0310.0710.1010.1210.2010.20
1996五輪+0.79.849.899.909.9910.0010.1410.16DQ
1997+0.29.869.919.949.9510.0210.1010.1210.29
1999+0.29.809.849.9710.0010.0210.0410.0710.24
2000五輪-0.39.879.9910.0410.0810.0910.1310.17DNF
2001-0.29.829.949.989.9910.0710.1110.24(9.85=2)
2003±0.010.0710.0810.0810.1310.2110.22(10.08=4)(10.11=5)
2004五輪+0.69.859.869.879.899.9410.0010.10DNF
2005+0.49.8810.0510.0510.0710.0910.1310.1410.20
2007-0.59.859.919.9610.0710.0810.1410.2310.29
2008五輪±0.09.699.899.919.939.959.9710.0110.03
2009+0.99.589.719.849.939.9310.0010.0010.34
2011-1.49.9210.0810.0910.1910.2610.2610.2710.95
2012五輪+1.59.639.759.799.889.949.9811.99(9.80=4)
2013-0.39.779.859.959.989.9810.0410.0610.21
2015-0.59.799.809.929.929.9410.0010.0010.00
2016五輪+0.29.819.899.919.939.949.9610.0410.06
2017-0.89.929.949.959.9910.0110.0810.1710.27
2019+0.69.769.899.909.939.9710.0310.0710.08
2021五輪+0.19.809.849.899.939.959.98DNFDQ
2022-0.19.869.889.889.9710.0110.0110.0610.07
最高記録9.589.719.799.889.939.9610.0010.00 
世界選手権最高9.589.719.849.929.939.9610.0010.00 
五輪最高9.639.759.799.889.949.9610.0010.03 

その時の風速にもよるが、9秒9台ならば6位以内濃厚。9秒8台ならば表彰台も……といったところである。



五輪&世界選手権の決勝での着順別最高記録

「表2」と似たようなものだが、決勝で「史上最高のハイレベルなレース」が展開された場合にどれくらいの順位が見込まれるのかというデータが「表3」だ。

【表3/五輪&世界選手権の決勝での着順別最高記録】
・「◎」は、他のすべてのレースを含めての着順別最高記録を示す。
着順オリンピック  世界選手権  五輪&
世界選手権
以外での最高
   
1着9.631.52012年9.58◎0.92009年    
2着9.751.52012年9.71◎0.92009年    
3着9.79◎1.52012年9.840.92009年    
4着9.88◎1.52012年9.921.21991年    
5着9.940.62004年9.930.92009年9.90◎1.82021年全米選手権
9.941.52012年       
6着9.96◎0.22016年9.96◎1.21991年9.96◎1.82022年全米選手権
7着10.000.02008年10.000.92009年9.98◎1.82022年全米選手権
10.00◎-0.52015年       
8着10.030.02008年10.00◎-0.52015年    

以上の通りで、これまでの「史上最高レベル」は、トータルでは五輪が2012年ロンドン大会、世界選手権は2009年ベルリン大会と言えそうだ。
世界大会以外では、今年の全米選手権が超ハイレベルで7着までが9秒台(1名が途中棄権)で9秒台の史上最多人数となった。
近年の世界大会では準決勝をくぐり抜けるには9秒台が当たり前になってきている。よって、今回のブダペストではファイナリスト8名全員が準決勝で9秒台となるかもしれない。

なお、31年前の1991年東京世界選手権も当時としては史上最高レベルで、優勝したカール・ルイス(アメリカ)が9秒86の世界新、以下2~6着と8着が着順別の世界最高で、6名が9秒台で走った史上初のレースだった。



坂井のピッチは世界一?? 栁田のピッチとストライドに変化!!

サニブラウン、坂井、栁田が自己ベストをマークした時の100mに要した歩数をカウントし、そこから1秒間の平均ピッチ(歩/秒)、平均ストライド(cm)、ストライドの身長比(%)を算出した。

<自己ベストの時の100mに要した歩数・ピッチ・ストライド・身長比>
・ベスト記録順に記載。
・身長・体重は記録を出した時に判明していた数値。

サニブラウンAハキーム(190cm・83kg)9.97(+0.8)43.7歩4.383歩/秒228.8cm120.40%
坂井隆一郎(171cm・64kg)10.02(+1.1)52.1歩5.200歩/秒192.3cm112.50%
栁田大輝(182cm・71kg)10.02(±0.0)45.3歩4.521歩/秒220.8cm121.30%

比較のために9秒台の他の選手は、
山縣亮太(177cm・70kg)9.95(+2.0)47.8歩4.804歩/秒209.2cm118.20%
桐生祥秀(176cm・70kg)9.98(+1.8)47.1歩4.719歩/秒212.3cm120.60%
小池祐貴(173cm・75kg)9.98(+0.5)51.0歩5.110歩/秒196.1cm113.30%

今回の出場者の中では、「1秒間平均5.200歩」という坂井の超高速ピッチが目をひく。
小池祐貴が9秒98で走った時、日本陸連科学委員会の分析によると30~40mの区間では5.5歩/秒前後のピッチを刻んでいる。しかし、100mトータルでの平均は5.110歩/秒で、坂井よりも低い数値だ。
世界の歴代上位選手でも坂井の「5.2000歩/秒」を上回る数字は、少なくとも筆者の記憶にはない。

サニブラウンの「平均ストライド228.8cm」は、日本人選手では最長に近い。「最長だ」と言わないのは、栁田がこれを上回るストライドで走ったことがあるからだ。
栁田は、高校3年生だった21年6月24日の日本選手権の準決勝と大学1年生となった22年8月2日のコロンビア・カリでのU20世界選手権の準決勝で、100mを43.3歩で走った。その平均ストライドは、サニブラウンを上回る「230.9cm」だったのだ。

しかし23年になってからの栁田のピッチとストライドが21・22年から変化してきている。
それを示しているのが下記の表である。
20年から22年までの年次ベストと、23年シーズンに自己ベストをマークした時の100mに要した「歩数」「ピッチ」「ストライド」「ストライドの身長比」を調べたものだ。

<栁田大輝の高校2年生(20年)以降の年次ベストと23年の自己ベスト更新時のピッチ・ストライド・ストライドの身長比>
・記録の後ろの「◎」は自己新、「△」は自己タイを示す。
年月日競技会名順)記録(風速)歩数ピッチストライド身長比
2020.08.23GGP東京予選10.27◎(+0.7)44.5歩4.333歩/秒224.7cm123.5%
2021.06.24日本選手権準決10.22◎(±0.0)43.3歩4.237歩/秒230.9cm126.9%
2022.08.02U20世界選手権準決10.15◎(+0.7)43.3歩4.266歩/秒230.9cm126.9%
---      
2023.05.12関東インカレ1)10.09(+3.1)43.9歩4.351歩/秒227.8cm125.2%
2023.05.21GGP横浜予選10.13◎(+1.5)44.4歩4.383歩/秒225.2cm123.7%
2023.06.04日本選手権2)10.13△(-0.2)44.6歩4.403歩/秒224.2cm123.2%
2023.07.01オールナイト1)10.10◎(+0.3)45.1歩4.465歩/秒221.7cm121.8%
2023.07.14アジア選手権予選10.10△(-0.5)43.9歩4.346歩/秒227.8cm125.2%
2023.07.14アジア選手権1)10.02◎(±0.0)45.3歩4.521歩/秒220.8cm121.3%

高校3年生(21年)と大学1年生(22年)の年次ベストの時には100mを「43.3歩」で走った。
が、23年のシーズンに入ってからは、アジア選手権の予選を除き、歩数が少しずつ増加している。
7月14日のアジア選手権で優勝した10秒02(±0.0)の時は「45.3歩」で21年・22年よりも2.0歩も多くなっている。
平均ストライドは21・22年の「230.8cm」に対し10.0cm短い「220.8cm」だった。
それでいながら記録は21年よりも0秒20、22年よりも0秒13アップしている。つまり、ストライドが短くなった分、ピッチが早くなっているのだ。
21・22年に1秒間に「4.2歩台」だったピッチは、23年5月からレースのたびに次第に早くなって、現在の自己ベストである10秒02で走った7月のアジア選手権の決勝では「4.5歩台」となった。10秒を切るか切らないかのレベルの選手において、かなり短い期間でのこの変化は、かなり珍しいことかもしれない。

ちなみにウサイン・ボルト(ジャマイカ)が、09年ベルリン世界選手権で現世界記録の9秒58(+0.9)を出した時、100mを「40.92歩」で駆け抜けた。その平均ストライドは「244.4cm」。196cmの身長に対する比率は「124.7%」。1秒間の平均ピッチは「4.271歩」だった。
21・22年の栁田の平均ピッチはボルトを僅かに下回り、ストライドの身長比はボルトを2.2%上回る数値だった。
身長が、196cmと182cmという違いはあるが、21・22年の栁田は身長に対してのストライドが大きく、脚の回転数(ピッチ)がゆったりとした「和製ボルト」とでもいうべきピッチとストライドのバランスの走りが特徴だった。

それが、上述の通り、23年のシーズンの数カ月間に、そのピッチとストライドのバランスがレースのたびに少しずつ変化してきた。
このあたりのことは、本人や土江寛裕コーチに直接聞いてみないとわからないが、何とも興味深い。


野口純正(国際陸上競技統計者協会[ATFS]会員)


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