2023.05.17(水)選手

【記録と数字で楽しむ第107回日本選手権】女子走幅跳:秦澄美鈴、世界選手権参加標準記録突破と17年ぶりの日本記録更新に挑む



6月1日~4日に大阪(ヤンマースタジアム長居)で行われる「第107回日本選手権」の「見どころ」や「楽しみ方」を「記録と数字」という視点から紹介する。
各種目の「2023年日本一」を決める試合であるとともに、8月にハンガリー・ブダペストで行われる「ブダペスト2023世界選手権」、7月のタイ・バンコクでの「アジア選手権」、9月末からの中国・杭州での「アジア競技大会」の日本代表選手選考競技会でもある。また、「U20日本選手権」も同じ4日間で開催される。
本来であれば全種目についてふれたいところだが、時間的な制約のため10種目をピックアップしての紹介になったことをご容赦いただきたい。また、エントリー締め切りは5月15日であるが、この原稿はそれ以前の10日までに執筆したため、記事中に名前の挙がった選手が最終的にエントリーしていないケースがあるかもしれないことをお断りしておく。

過去に紹介したことがあるデータや文章もかなり含まれるが、可能な限り最新のものに更新した。
スタンドでの現地観戦やテレビ観戦の「お供」にして頂ければ幸いである。

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【女子走幅跳】

・決勝/6月4日


秦澄美鈴、世界選手権参加標準記録突破と17年ぶりの日本記録更新に挑む

秦が「冬」から絶好調!日本記録まであと11cm

21・22年の日本選手権を連覇して「V3」に挑む秦澄美鈴(シバタ工業)が春からでなく「冬」から絶好調だ。
2月12日、カザフスタンのアスタナで行われたアジア室内選手権で6m64の室内日本新を跳んで優勝。花岡麻帆さん(Office21)が03年に出した6m57を20年ぶりに更新した。
そのシリーズも素晴らしかった。6m51-ファウル-6m54-6m62-6m46-6m64と尻上がりに記録を伸ばしていった。22年9月24日の岐阜での全日本実業団でマークした屋外の自己ベスト6m67(日本歴代4位)に早くもあと3cmと迫った。

2月25日のタイ・バンコクで6m47(-0.5)。
3月25日は、オーストラリア・ブリスベンで6m48(+1.3)。
国内初戦の4月23日の兵庫リレーカーニバルは、風がコロコロと変化し、秦の4回の有効試技はすべて向風。風が一番弱かった2回目の6m35(-0.9)がこの日のベストで優勝した。6m29・27・22だった残る3回は、-2.0、-3.5、-2.9という条件で記録を伸ばすにはさすがに厳しかった。7人での競技だったが、他の6人がこの日のベストを出した時の風は5人が追風で、1人が無風。中には、追風2.1mで参考記録という人もいたのに、秦が跳んだ時のみ風の神様(?)が意地悪をしたようだ。

が、5月3日の静岡国際では風の神様(?)が味方をしてくれた。
1回目ファウルのあと、2回目に向風0.1mながら6m68で1cmの自己ベスト。3回目は、公認ギリギリの追風2.0に恵まれ6m75と伸ばし大会タイ記録。4回目6m58(+1.2)のあと5・6回目でも記録を狙ったが残念ながらファウル。
トップ8の選手がベスト記録をマークした時の風は、6人が追風参考記録(+2.4~3.2m)だった。そんな中、秦の6m75の時に「+2.0mピタリ」というのは、何ともラッキーだった。

ブダペスト世界選手権参加標準記録は「6m85」。日本記録は、池田久美子さん(スズキ)が06年に出した6m86。

秦にとっては、「日本記録を更新すること、すなわちブダペスト行き確定」となる。
静岡国際で大会タイ記録で並んだ6m75の保持者は日本記録保持者の池田さんだ。その池田さんは、17年前の06年の静岡国際で6m75を跳んだ3日後に長居競技場での国際グランプリで6m86の日本新記録をマークしたのだった。

秦にも、「静岡国際で6m75、長居で日本新」と17年前の池田さんに続いてもらいたい。



秦は、2年以上日本人相手に負けなしの連勝記録を更新中

秦は、1996年5月4日生まれの27歳。
出身は大阪府八尾市。大阪府立山本高校から武庫川女子大学に進み、19年シバタ工業に就職。

陸上競技は高校入学後で、短距離と走高跳に取り組んだ。走幅跳を始めたのは大学入学後。

各種目の年次ベストは、
 100m走高走幅跳その他の種目
12年/高112.76200m26.24
13年/高212.571.65200m25.50
14年/高312.571.72200m25.69
15年/大112.861.825.52/6.08w 
16年/大212.201.815.84 
17年/大311.96w1.806.08/6.31w三段12.45
18年/大412.201.756.24三段12.64 七種4863
19年/社111.901.766.45 
20年/社26.25/6.28i 
21年/社36.65/6.69w 
22年/社412.066.67 
23年/社56.75 
当初は、「走高跳の秦澄美鈴」だった。
大学2年の日本インカレでは優勝者と同記録の1m81で2位。翌17年も3位になっている。が、年次ベストは大学1年の時から毎年ダウン。一方、入学後から取り組んだ走幅跳は、毎年ぐんぐん伸びて3年の日本インカレで4位。4年では、日本選手権2位、日本インカレでは頂点に立った。そんなことで、大学卒業後は「走幅跳の秦澄美鈴」でいくことになった。

その走幅跳では、20年10月1日の日本選手権で3位だったのを最後に、21年2月28日からこの原稿を書いている段階で終わったばかりの23年5月3日の静岡国際まで、2年2カ月以上日本人選手には1度も負けていない。
調査した限りで日本人相手の試合は、23年の静岡国際までで21連勝だ。
このところの状況からすると、自らがファウルで記録なしに終わったりでもしない限り、秦の日本人を相手にした連勝記録はまだまだ続きそうである。



兵庫県勢が6連勝中



17年以降の日本選手権優勝者は、
17年高良彩花(園田学園高2年)=初優勝
18年高良彩花(園田学園高3年)=2回目
19年秦澄美鈴(シバタ工業)=初優勝
20年高良彩花(筑波大2年)=3回目
21年秦澄美鈴(シバタ工業)=2回目
22年秦澄美鈴(シバタ工業)=3回目
2人とも兵庫県の登録選手だ。高良は兵庫県西宮市の出身の兵庫県人。
秦は、大阪府八尾市出身で、大学までは大阪登録だったが、社会人になってからは、勤務地がある兵庫県の登録選手となった。よって、兵庫県勢としては日本選手権6連勝中だ。
23年から高良がJALに就職して東京登録となったが、今シーズンも圧倒的な強さをみせている秦が自身の3連覇と兵庫県登録選手の7連勝を果たす可能性は高そうだ。

秦が3連覇を達成すれば、この種目の連勝記録の歴代4位タイになる。歴代2位は4連覇で、山内リエさん(1942~48年。43~45年は戦争で中断)と湶純江さん(76~79年)が並んでいる。歴代トップは、山下博子さんの何と8連覇(67~74年)だ。


日本選手権での「順位別最高記録」

・走幅跳では、公認と追風参考に関わらず順位がつくので追参の記録も含めた
1)6.822001年7.13w1990年=外国人
2)6.782001年   
3)6.422008年6.43w1990年=外国人が1位
4)6.332008年   
5)6.322008年   
6)6.212006年   
7)6.112008年6.161993年=外国人が1位
8)6.05w1990年   
大会記録の7m03はベレズナヤさん(ソ連。90年/追風参考で7m13)が保持してる。日本人の最高記録は、花岡麻帆さんの6m82(01年)。
2位の最高記録6m78は、花岡さんが上記の6m82を跳んだ同じ試合で池田久美子さんがマークした。
ともにそれまでの日本記録6m61を大きく更新した時のもので、その時点での世界4位と同7位という超ハイレベルな記録だった。世界の舞台で通用するレベルの試合が日本人同士で、22年も前に繰り広げられていたことは、今の若い人にとって驚愕かもしれない。

この2人は、05年にも「伝説の名勝負」を展開した。逆転につぐ逆転のシーソーゲームで、最終的には6m69の同記録。セカンド記録も6m61で同じ、サード記録が6m60(池田)と6m57(花岡)で決着したのだった。

6m75まで伸ばしてきた秦には、日本人の「1位の最高記録」を破ってもらいたい。そこまできたら、それよりも4cm遠い地点の日本記録6m86もだ。

なお、8位までの入賞者全員が6mをオーバーしたのは、90年、99年、06年、07年、09年、17年、22年の7回。
上のデータの8位の最高を見てわかる通り、入賞者8人全員が6m10を超えたことはない。今回の参加資格記録で6m10以上は16人。33年も前の「8位の最高記録」は破ってもらいたい。


・記録は、5月7日判明分。
・記事中の「WAランキング」は5月2日時点のもの(毎週火曜日に発表されるので、できる限り最新のものを盛り込みたいところだが、原稿の締め切りの都合で5月2日時点のものとした)。
・記事は、5月7日時点での情報による。上述の通り、エントリー締め切り5月15日以前に書いた原稿のため、記事に登場する選手が最終的にエントリーしていないケースがあるかもしれない。また、競技の実施日は確定しているが具体的なタイムテーブルとエントリーリストは5月19日に公表される予定である。
・現役選手については敬称略をご容赦いただきたい。

なお、日本選手権の期間中、ここで取り上げることができなかった種目以外の情報(データ)も日本陸連のSNSで「記録や数字に関する情報」として、その都度発信する予定なので、どうぞご覧くださいませ。



野口純正(国際陸上競技統計者協会[ATFS]会員)



【第107回日本陸上競技選手権大会】




今年はスペシャルチケットとして、テーブル・コンセント付きの最上位グレード席となる「SS席」、1日50席限定の「B席アスリート交流チケット」、1日15席限定の「カメラ女子席」、そして日本選手権では初めてサブトラックの観戦ができる「サブトラック観戦チケット」を販売!既に一部の席は完売となっておりますので是非お早めにお買い求めください!
>>エントリーリスト(5月15日10時00分時点)
※エントリーリストは5月19日(金)発表予定です。
※エントリー締切後に資格審査を行った後に、出場可否が決定します。

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https://sports.yahoo.co.jp/contents/12894

■「世界選手権」「アジア選手権」「アジア競技大会」日本代表選手選考要項
 https://www.jaaf.or.jp/news/article/15943/
■ブダペスト世界選手権参加資格有資格者一覧
https://www.jaaf.or.jp/news/article/17055/
■「WAランキング」ブダペスト世界陸上への道
https://www.jaaf.or.jp/news/article/17277/

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