2022.11.18(金)その他

【山崎強化委員長インタビュー】Vol.3 選手の挑戦を支える環境と日本の目指すべき道

東京2020オリンピック競技大会から1年。「ポスト・トーキョー」である2022年シーズンも、ほぼ終わりに近づいています。過去最多タイとなるメダル4を含む入賞9の成績の残したオレゴン世界選手権、そして、2名の競技者が進出を果たしたダイヤモンドリーグファイナルでの歴史的な快挙のほか、昨年から続いて多くの種目で日本記録が更新されるなど、日本陸上界では明るい話題が続く1年となった感がありますが、チームジャパンの司令塔として、強化を舵取りする山崎一彦強化委員長は、今季をどう見ているのでしょうか。2022年シーズンを振り返っていただきました。
取材・構成:児玉育美(日本陸連メディアチーム)

>>山崎強化委員長インタビューVol.1
複数年にわたる強化の成果と更なる飛躍に向けて

>>山崎強化委員長インタビューVol.2
自身で道を切り拓いた北口榛花・三浦龍司の挑戦を振り返る


若い選手の挑戦を支えるサポート


写真:フォート・キシモト

―――三浦龍司選手のダイヤモンドリーグ参戦にあたっては、安藤スポーツ・食文化振興財団(安藤財団)からのサポートが、とても大きかったと聞きました。
山崎:その通りです。安藤財団に支援をいただき、1回目のストックホルム大会、そして、2回目のローザンヌ大会からファイナルへと、2回も行くことができました。普通の大学生で、何の支援もなければ、もし行けたとしても、1回が精いっぱいだったと思います。円安に加えて、渡航費や宿泊費、滞在にかかわる費用が大きく高騰しているなかで実現できたのは、安藤財団のサポートがあってこそのことです。本当に感謝しています。

―――過去にも、多くのアスリートが安藤財団のサポートを受けてきていますよね。もう少し詳しく紹介していただけますか?
山崎:もともとは、安藤財団が取り組んでいるスポーツ支援の一つで、「グローバルチャレンジプロジェクト」という取り組みです。これは、将来、世界大会でメダル獲得を目指す若手アスリートの海外挑戦や、いわゆる「武者修行」を支援しようというもので、2015年度から行われています。海外挑戦といっても、「ちょっと行く」というのではなく、中・長期にわたって海外に滞在し、競技に取り組めるようにしようという目的でスタートしました。走高跳の戸邉直人(JAL)は、学生時代に、このプロジェクトによって、エストニアを拠点としてトレーニングや転戦を行うことができました。彼は、2019年の室内シーズンにヨーロッパを中心に行われる世界インドアツアーにおいて、2m35の日本新記録を樹立するとともに、シリーズを転戦して最終戦も含めて全勝し、日本人で初めてとなる同ツアー総合優勝を果たしています。また、北口も学生のころ、このプロジェクトを利用して、フィンランドやドイツ、そしてチェコに行っています。今はもう独り立ちできていますが、その年代に、そういうサポートがあったからこそ、チャンスが拓けたといえます。


写真:フォート・キシモト

―――時間とともに、強化を進めていくうえで必須となる「資金」の部分ですね。
山崎:はい。海外でトレーニングに取り組むだけでなく、例えば留学先を選ぶ際に、いろいろな大学を視察したり実際に練習を経験させてもらったり、今回の三浦のように海外転戦したり…。個人で行こうとすると、非常に経済的な負担が大きくなるところを、柔軟にサポートしてくださっています。このような見えないところでのこの後押しが、大きな成果となって現れてきていると思いますね。

―――先ほど、「海外に出ていくにも適齢期がある」と仰っていましたが、若い、多感な年代では、また、世界に出ていけるだけの実力は伴っていないことも多いから…。
山崎:そうなんです。若い時期、いろいろなことが吸収できる時期、失敗を未来の成功の種と受け止めることができる、そういう時期に、経験しておくことが必要なので。まだ大きな結果が出せていないタイミングで、こうした支援がいただけることは、本当に大きいといえます。私自身、海外へ出ていく取り組みを始めたのは社会人になってからで、それでは遅かったという反省があったので、なおさらそう思いますね。

―――先日、朝原宣治さんに話を伺った際に、同じようなことを仰っていました。
山崎:「大学を卒業して、一人前になってから行く」というのではなく、半人前のうちから行っておくべきだったということですね(笑)。私たちの時代では、実現させることが難しかった取り組みを、今、こうしてできるようになっていることは、本当に嬉しく思います。


日本とは「異なる価値観」で世界は動いている


写真:フォート・キシモト

―――日本においては、オリンピックや世界選手権での結果が、良くも悪くもアスリートを見るうえでの評価の基準になっています。ただ、今季は、北口選手と三浦選手がDLファイナルに進出を果たしたことで、これまでとは異なる価値観が芽生えてきたような印象があるのですが…。
山崎:ご存じの通り、ダイヤモンドリーグやかつてのグランプリシリーズ自体には 、日本選手も これまでも参戦はしているんですよ。ただ、一般的な日本社会に身を置いていると、目の当たりにする機会がないから関心は深まらなかった。だから日本では、ダイヤモンドリーグで戦うことのすごさや、そこで活躍する競技者を評価する価値観は、本当にひと握りの人しかわかっていなかったわけです。ようやくそこにスポットライトが当たるようになったという状態なのかもしれません。
もちろんオリンピックや世界選手権で成果を残せるというのも、ものすごいことではあるのですが、ダイヤモンドリーグを転戦することができて、しかもそこで成績を出せるのは、さらに一つ違う領域に入ると言っていいほどの価値があることで、もう、全然レベルが違うんですよね。そして、本当に「世界のトップ」というべきアスリートたちはみんな、その価値観のなかで動いているんです。

―――その価値観があるからこそ、そこを主戦場としているわけですね。
山崎:はい。私が現役のころは、グランプリと呼ばれていましたが、そこに行ったことで、本当に、いろいろな人たちと出会えました。同じ陸上でも、全く違う価値観で陸上をやっている人たちに会えたんですね。それは、アスリートとしても、そして人間としても、本当に財産になると思うので、少しでも多くの選手たちに経験してほしいなと思います。あと、もう一つ言えるのは、オリンピックや世界選手権でメダルや入賞を狙うということだけを目指すと、その成績のみで4年間、あるいは2年間評価されてしまうので、だんだん辛くなってくるということ。ダイヤモンドリーグの転戦といったように1年単位で結果を得たり、海外に身を置いて価値観の全く違うなかで評価を受けたりすることは、自分自身への肯定感に繋がりますし、新しいことをやってみようとする原動力にもなります。なので、そういう意味でも経験してみてほしいなと思いますね。

―――強化委員長の立場としては、今後、どういう展開を目指していますか?

写真:児玉育美(日本陸連メディアチーム)

山崎:もちろん、オリンピックや世界選手権で良い成績が残すことは、とても大切です。そのためにも、まずは海外での安定した活躍が必要になってくると思っています。整えられた条件のなか日本で記録を出すよりも、海外でコンスタントに記録を出せること、どんな条件下でも実力をきっちりと発揮できることが、我々強化がイメージするワールドアスリート。選手たちには、そこを目指してもらいたいなと思いますね。
そして、それだけじゃなくて、私は世界の人々に、もっと「個」を知ってもらえるようになってほしいと思っているんです。世界の人が、「サニブラウン、強いな」とか、「距離が伸びたぞ、キタグチが大喜びしそうだ!」とか、「あ、ミウラが前に出たぞ」とか言って、そのパフォーマンスに注目してくれるようになってほしい。それって、日本人として、この上なく嬉しく、誇らしいじゃないですか。ただ、それは、オリンピックや世界選手権でメダルを取ったくらいでは、覚えてもらえないんですよね、残念ながら。国内であれば、なんでもいいからメダルさえ取れば、なんかすごい人と注目されますが、それは日本でだけの価値観。アスリートとしての本当の価値は、そこじゃないように私は思いますね。そういう枠を超えた、もっと大きな世界を、若い選手たちに見てほしい。魅力にあふれるタレントは、たくさんいますから、ぜひ、大きく羽ばたいていけるような強化を進めていきたいです。
(2022年10月18日収録)



>>山崎強化委員長インタビューVol.1
複数年にわたる強化の成果と更なる飛躍に向けて

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自身で道を切り拓いた北口榛花・三浦龍司の挑戦を振り返る


■【DLファイナル開幕直前】朝原宣治さんインタビュー
~海外転戦の難しさや北口選手・三浦選手への期待を語る~
https://www.jaaf.or.jp/news/article/17051/


■【ダイヤモンドアスリート】特設サイト
https://www.jaaf.or.jp/diamond/

■【ダイヤモンドアスリート】サポート企業へのインタビュー
~豊かな人間性を持つ国際人への成長を支えるために~
https://www.jaaf.or.jp/news/article/15260/

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