2022.03.08(火)大会

【世界競歩チーム選手権】山西が金、池田が銀、団体銀メダルの快挙!~男子20km競歩 レポート&コメント~



オマーンの首都マスカットにおいて開催されているワールドアスレティックス(WA)主催の「世界競歩チーム選手権」は3月5日、現地時間の16時から最終種目の男子20km競歩が行われました。前回の2016年太倉大会(中国)において、個人・団体総合でともに金メダルを獲得しているこの種目、日本は、前回のチャンピオンで、東京オリンピックでは陸上日本選手団のなかでも最高成績となる銀メダルに輝いた池田向希選手(旭化成)、2019年ドーハ世界選手権20km金メダリストで、東京オリンピックでは銅メダルを獲得した山西利和選手(愛知製鋼)、そして、この大会が初のナショナルチーム入りとなる諏方元郁選手(愛知製鋼)の3名が出場しました。

前日に行われた女子20kmと同様に、男子20kmも、日没に向けて涼しくなっていくことを想定して、競技開始は16時に設定。気象状況は気温26℃、湿度55%と、女子よりは好条件となりましたが、それでもまだ日中の暑さが残るなか、65名が勝負に挑みました。

スタートから750mまでに22mを下っていく入り方をする最初の1kmは、4分08秒で通過。50選手が塊となって、やや縦に長い集団となって歩を進めていきます。コースは、ほかの種目と同じで、大きなカーブがある片道1kmの区間を折り返して2kmを周回していくもの。この1kmのなかに27mもの高低差があります。現地のスタッフからは、「まるで表参道(東京)を往復するような感じ」という喩えも報告されるほど。明らかに坂と目視できる起伏を、選手たちは何度も往復していくことになります。日本勢では、山西選手はドーハ世界選手権優勝というワイルドカードによって、すでにオレゴン世界選手権の出場権を獲得していますが、未獲得の池田選手と諏方選手は、日本陸連が設定する派遣設定記録(1時間20分00秒)、あるいはWAが定める参加標準記録(1時間21分00秒)の突破も、目標の1つになっていました。しかし、女子20km、そして男子35kmの状況から、この記録のクリアは難しいと予測されため、記録よりは順位を意識した展開に切り替えてのレースとなりました。

序盤は大集団の先頭に飛び出す者も出るなどトップが入れ替わりながら、上り基調となる1kmは4分20秒を超えるペース、下り基調となる1kmは4分10秒台のペースで進んでいきましたが、これを動かしたのが山西選手。4kmを過ぎたところですーっと首位に立つと、その差を広げていきます。山西選手はこの1kmを4分05秒に引き上げ、後続に5秒の差をつけて5kmを21分15秒で通過。このあとエルベル・アレバロ選手(コロンビア)が2位集団を抜けだし、単独で山西選手を追い始めたことで、池田選手・諏方選手を含んだこの2位集団が徐々に解体され、数珠が連なるような隊列となりました。山西選手は上り基調となる5~6kmを4分14秒でカバーして6kmを25秒29秒で通過。アレバロ選手が6秒後、3位グループの先頭が14秒後に通過していきます。

ここで動きを見せたのが池田選手です。下り勾配で3位集団から抜け出して、この1kmを4分01秒へとペースアップ。7kmを通過した直後でアレバロ選手をかわすと、上ったのちに少し下る7~8kmを4分08秒で刻み、山西選手に4秒差まで迫りました。その後の下りを使って山西選手に追いつくと、9kmは、揃って37分50秒で通過。8~9kmを池田選手が3分58秒、山西選手も4分02秒で歩いたこと、後続が3位を巡って牽制を始めたことで、3位集団との差は18秒に広がりました。そのあたりから山西選手が前、少し後ろに池田選手が続く並びとなり、10kmは山西選手が41分59秒、池田選手2秒後に通過していきましたが、以降は2人の差がじりじりと開いていく形に。山西選手は、11kmまでの1kmを3分57秒にペースアップ。その後も、4分12秒、3分57秒、4分09秒、4分01秒と刻みましたが、11kmまでが4分00秒となった池田選手の12km以降のラップは、4分14秒、4分03秒、4分19秒、4分06秒。山西選手が15kmを1時間02分15秒で通過したときには、差は28秒まで広がりました。

山西選手は、完全に独歩態勢となった残り5kmも危なげのない足どりで快調に刻み、1時間22分52秒で優勝。ドーハ世界選手権に次ぐ、2つめの金メダルを獲得しました。一方、15kmを1時間02分43秒での通過となった池田選手も、単独歩となったラスト5kmでのペースダウンはなく、逆に18~19kmでは、このレース全体でも最速となる3分53秒のラップを叩き出して、地力のあるところを示します。一時は43秒に開いた山西選手との差を、最終的には37秒差とし、1時間23分29秒でフィニッシュ。前述した世界選手権の派遣設定記録・参加標準記録突破は叶いませんでしたが、世界競歩チーム選手権2回目のメダル獲得を果たすとともに、東京オリンピックから2大会連続で世界大会銀メダリストとなりました。

序盤を先頭集団の後方に位置して歩いていた諏方選手は、先頭争いに動きが出て上位グループから離されてからも、入賞が見える位置でレースを進めていきました。当初は、落ちてきた選手を拾って、終盤に順位を上げていく展開を想定していましたが、12kmの段階で、下り坂でとられやすいロス・オブ・コンタクトのレッドカード(警告)が2枚出ていることを把握。失格になったり、ペナルティゾーンに入る(警告が3枚つくと、2分間の待機を課せられる)ことなったりすると、各国上位3名の順位を合計して競う団体の優勝は、その段階で可能性が閉ざされてしまいます。これを避ける戦略を採らざるを得ず、思うようなペースアップを図ることができない状況に陥ってしまった諏方選手は、終盤で徐々に順位を落としたものの、無事に最後まで歩ききり23位(1時間27分51秒)でフィニッシュしました。僅かな望みを残した団体優勝争いは、日本の合計ポイントは26。25となったエクアドルより1ポイント多く、連覇は惜しくも実現ならず。しかし、3位の中国(45ポイント)には大差をつけて銀メダルを獲得し、2大会連続で表彰台に上がる成績を残しました。

男子20km競歩

山西利和(愛知製鋼) 1位 1時間22分52秒

この大会は、個人と団体の両方で金メダルを取れたら…と思ってのレースプラン・展開で臨んだ。団体のほうは残念ながら銀メダルということで、少し悔しい部分もあるけれど、個人としては取りたいものが取れた。そこは収穫だったと思う。
レースプランについては、わりと行き当たりばったりだった。中国やスペインのチームが、団体で固まって歩きたがっているような感じがしたので、「だったら、その思惑につきあうのではなく、少しハイペースにして、その集団をばらけさせると、日本チームとしてもチャンスが広がるのではないか」と考え、序盤から早めにペースを上げることを選択した。
途中で池田くんが追いついてきたときは、チームとしてはワン・ツーが取れれば、(国別対抗の)順位は相当良くなるので、「2人できちんと逃げきる」ということを考えたが、でも、個人としては池田くんに負けたくないという気持ちもあったので、チームのことと個人のこと、その2つが入り交じったような状況だった。その後、池田くんとの差は広がったが、彼は自分と並ぶまでに、一気に差を詰めてきていたので、そこで疲れてしまっていたのかなと思う。
自分も、ラスト1~2周では、疲労がたまってきて、上り坂がけっこう厳しかった。しかし、そのころにはかなりリードが広がっていて、このまま自分が大崩れしなければ、優勝とか、3位内というのが確実に見えてくることがわかっていたこともあり、「この1周、この1回を粘って、リードを保とう」と考えながら歩いた。
今シーズンの最大の目標は、オレゴンの世界陸上での金メダル。そこを一つ目標にしながら、きちんと練習のなかで自分の課題や次のやりたいことに対して、トライ&エラーを繰り返しながら、また、日々を楽しみながら過ごしていきたい。そのやってきたことを、レースでお見せできるようなことができたらいいなと思う。

池田向希(旭化成) 2位 1時間23分29秒

個人・団体ともに銀メダルという結果になり、嬉しい半面、まだ課題の残る、ある意味、収穫のあるレースだったかなと思う。
今回のコースは、アップダウンがあって、今までに経験したことのないタイプのコースだったので、そういったコースに、いかに早い段階で慣れるかということと、リズムを崩さないということを意識して歩いた。
(4km過ぎで)山西さんが、1人で飛び出したあと、その差が「これ以上は行かせたくないな」と思うくらい開いたが、周りの選手は団体を意識して動いている感じがしたので、「ここは1人で行くしかない」と思い、徐々に徐々に詰めようという意識で、差を詰めていった。追いついてから少し休めるかなと考えていたのだが、思った以上に身体にダメージが来ていた。(山西選手と)歩きのリズムが合わないというのもあったので、少し距離をとって歩きたいと思っていたのだが、自分にはまだ、そこまでの力がなくて、(加減のいい距離を)維持することができず、後退してしまう形となった。
山西さんから離れてしまったあとは、単独で歩く時間が長くなったが、後ろとの差を把握しながら、最後まで粘ることができた。それが2位になれたことに繋がったと思う。
今後は、今年7月にはオレゴン世界陸上があり、その先も世界選手権、オリンピックと国際大会が続く。それらの大会で上位争いができるように、1つ1つ目標・目的を持って取り組んでいきたい。応援、ありがとうございました。

諏方元郁(愛知製鋼) 23位 1時間27分51秒

今回のレースは、とても悔しいものになってしまった。順位的にも自分の目標としていた順位ではなかったので、反省の残るレースとなってしまった。
今日は、前半で焦りすぎず、後半に懸けてレースを展開していきたいと思っていた。しかし、前半のうちに警告を受けてしまったことで、後半にかけて(ペースを)上げることができない状況になってしまった。自分のフォームはまだ完成できていないなということを実感させられた。
警告が2枚出ていることに気づいたのは、12kmくらい。「これ以上、(警告を)もらうわけにはいかない」と、下り坂で歩きを低くすることを心掛けた。終盤は、メンタル的にも、上り坂のタイミングで、きつくなっていたが、ほかの2人(山西選手・池田選手)が1位・2位ということを、すれ違うところで把握できていたので、そこは気持で、「なんとか上りきるぞ」という思いで、坂に挑んでいた。
次の目標は、4月の輪島大会(※日本選手権35km競歩と全日本競歩輪島大会の併催)が目標になってくる。自分には20km以外にも、35kmという選択肢もあると思っている。自分の可能性を、いろいろな面でみて、目標を決めてレースに臨んでいきたい。



▼世界競歩チーム選手権
https://www.jaaf.or.jp/competition/detail/1634/ 

▼アーカイブ(YouTube『TBSチャンネル』)
■女子20km https://youtu.be/u3SFag0wKgg
■男子35km https://youtu.be/ya9JyBMdtbw
■男子20km https://youtu.be/_T3OazzTcdo

▼東京2020オリンピック入賞者インタビュー(池田向希選手・山西利和選手・川野将虎選手)
https://www.jaaf.or.jp/olympic/tokyo2020/ 


文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真:WorldAthletics

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