2022.03.07(月)大会

【第105回日本選手権・室内競技】好スタートを切って、世界選手権シーズンへ勢いをつけるのは!?~展望・トラック編~



第105回日本陸上競技選手権大会・室内競技が3月12~13日、2022日本室内陸上競技大阪大会(以下、日本室内大阪大会)との併催で、大阪市の大阪城ホールで行われる。この大会は、2020年からシニア種目が「日本選手権・室内競技(以下、日本選手権室内)」の扱いになったことで、世界陸連(以下、WA)が展開するワールドランキング制での大会カテゴリがランクアップし、より効果的にポイントを獲得できる競技会となった。また、U20、U18、U16の区分で行われる日本室内大阪大会とともに、スプリント、ハードル、跳躍における各年代のトップアスリートが、屋外シーズン直前の状態を確認できる貴重な機会でもある。
昨年こそ、会期を1カ月以上ずらして無観客で行う形となったが、大会自体は、新型コロナウイルス感染症(COVID‑19)による中止もなく、継続して開催できていて、今回は、指定席制ながら有観客で実施する予定とのこと。室内日本新記録、U20室内日本新記録をはじめとして、毎年、好記録が誕生しているだけに、勝負・記録ともに大いに期待できそうだ。
また、この大会で選手たちの動向を把握しておくと、4月から本格的にスタートする日本グランプリシリーズをはじめとした屋外シーズンを、よりいっそう面白く見ることができるはず。「自国開催のオリンピック」という世紀のビッグイベントを終えた日本陸上界にとって、新たな1歩を踏み出す年でも2022年シーズン、7月に開催されるオレゴン世界選手権(アメリカ)、9月に予定されている杭州アジア大会(中国)に向けての熱い戦いが、いよいよ始まる。
ここでは、トラック編とフィールド編の2回に分けて、日本選手権室内の見どころを紹介していくことにしよう。

※出場者の所属、記録・競技結果等は3月3日時点のもの。また、エントリー情報は、3月3日段階の出場者リストに基づくため、欠場する可能性もある。

文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真:フォート・キシモト、アフロスポーツ


この大会のトラック種目は、男女60mと60mHの2種目。どちらもオレゴン世界選手権の参加標準記録には含まれていない種目だが、WAワールドランキングにおいては、60mは屋外100mに、60mHは屋外110mH(男子)・100mH(女子)に関与する種目となっている。「日本選手権」としてWAワールドランキングでは国内競技会における最高水準の大会カテゴリDに位置づけられており、8位までにポイントが加算されることを考えると、オレゴン世界選手権、杭州アジア大会への代表入りを狙う選手たちにとっては、着実にポイントを獲得しておきたいところだろう。

・男子60m

男子60mは、順当に進めば、東京オリンピック(以下、五輪)男子100m代表の多田修平(住友電工)を中心とした戦いになりそうだ。多田は昨シーズン、布勢スプリント100mで10秒01と自己記録を更新、日本選手権を初めて制して、オリンピック代表入りを果たす躍進を見せた選手。前回大会では、シーズンイン直前のこのレースで、自己タイの6秒56をマークして2連覇し、その好調さを屋外シーズンへと繋げていった。スタート直後の立ち上がり局面でリードを奪うタイプだけに、60mは得意といえる種目。仕上がり具合によっては、2019年に川上拓也(大阪ガス)とサニブラウン・アブデルハキーム(フロリダ大=当時)がマークした6秒54の室内日本記録を更新してくる可能性も十分にある。多田は、出身の大阪で開催されるこの日本選手権室内に出場したのちに、ベオグラード(セルビア)で開催される世界室内60mに臨む連戦スケジュールを組んでいる。男子100mは「ポスト東京(東京五輪後)」も大激戦必至。昨年、9秒95の日本記録保持者となった山縣亮太(セイコー)、また、桐生祥秀(日本生命)・小池祐貴(住友電工)といった9秒台スプリンターが出場しないなかであるだけに、多田自身の最大の強みと同様に、ここで好スタートを切って、良い加速に乗っておきたいところだろう。
前回2位の東田旺洋(栃木県スポーツ協会)は、昨年100mで10秒18の自己新記録を2回マーク。また、前回3位の坂井隆一郎(大阪ガス)は、シレジア世界リレー4×100mR代表に選出(1走)される好スタートを切りながらも、日本選手権は直前のケガで決勝進出を逃す悔しい結果に終わった選手で、それでもケガから復調した7月には自己記録(10秒12)に迫る10秒16のシーズンベスト(以下、SB)をマークし、2021年は日本リスト4位に収まっている。ともに今季は東京五輪代表組に割って入ることを目指す1年となるはずだ。このほか、昨年の日本選手権100m・200mでともに2位の成績を上げ、男子4×100mRで五輪代表入りを果たしたデーデー・ブルーノ(東海大学)もエントリー。五輪本番は控えに回ったが、後半で無類の強さを発揮するデーデーが、60mという距離でどんな走りを見せるかは、屋外シーズンを占う意味で興味深い。この点は、2019年ドーハ世界選手権4×100mR銅メダリストで200mにも出場した白石黄良々(セレスポ)にも言えることだろう。さらに、シレジア世界リレー4×100mRで3走を務め3位獲得に貢献した宮本大輔(東洋大学、ダイヤモンドアスリート修了生)は、この春からは社会人。大学最後のこの大会で、どんな走りを見せるかにも注目したい。

・女子60m

女子60mは、前回、日本選手権室内と日本室内大阪大会U20の部の優勝タイムが、どちらも7秒38の同タイム。この記録は、室内日本歴代2位となるもので、しかも日本選手権覇者がU20であったことで、ともにU20室内日本新記録樹立となった。今回の日本選手権室内では、この2人が「金色のライオン」(※日本選手権の優勝メダルにはライオンの顔を模したデザインが彫られている)を巡って激突する。すなわち、三浦愛華(園田学園女子大学)は連覇を狙っての、そして青山華依(甲南大学)は2019年のU16、2020・2021年のU20に続く「室内4連覇」と、日本選手権初タイトルへの挑戦となる。
大阪高校所属で出場した前回、U20室内日本新・室内高校最高を樹立して「室内3連覇」を果たした青山は、昨年は、その後も快進撃を続けた。3月末の100mの屋外レースでU20・高校歴代4位タイの11秒56をマークして、世界リレーのメンバーとして初めてシニアでの日本代表に選出。甲南大学所属で臨んだ5月の世界リレーでは4×100mR(1走)で4位の成績を上げて、この種目の東京五輪およびオレゴン世界選手権の代表切符をつかみ取った。東京五輪でも、決勝進出はならなかったものの、再び第1走者として快走し、日本記録(43秒39)に0.05秒まで迫る43秒44(日本歴代2位)をマークしている。リレーはもちろん、個人でも日本のエースとなることが期待される気鋭の1人だ。
三浦のほうは、前回の優勝インタビューでコメントしていた通り、自己記録を11秒6台(11秒61)へと更新し、高校3年時にマークした11秒81を塗り替えるとともに、200mでも24秒27のパーソナルベストを記録した。自ら「前半型」と言うだけに、この大会の連覇は狙っていきたいところだろう。
このほかでは、シレジア世界リレー、東京オリンピックで、ともにアンカーを務めた鶴田玲美(南九州ファミリーマート)もエントリー。どちらかというと後半で順位を上げてくるタイプなので、この大会で上位争いをしてくるようだと、屋外の100m・200mで、さらに躍進する可能性がある。前回2位の名倉千晃(NTN)は、昨シーズンは100m11秒53・200m23秒69と2種目で大きく自己記録を更新した選手。前半から飛び出す爆発力が持ち味だ。また、昨年100m・200mともに11秒51・24秒19と自己記録を伸ばしてきた君嶋愛梨沙(土木管理総合試験所)もエントリー。初戦で弾みをつけて屋外シーズンを迎えたい。

・男子60mH

屋外におけるスプリントハードルの活況を証明するかのように、日本選手権室内においても、ここ数年、予選も含めて、室内日本新のアナウンスが連発している。東京五輪代表で近年における「トッパー」隆盛の屋台骨的存在としてリードしてきた金井大旺(ミズノ)、さらには2016年リオ五輪代表の矢澤航(デサント)が昨シーズンで第一線を退いたが、それでも男子スプリントハードル界の層は依然としてレベルの高い状態で、その厚さを誇っている。この大会でも、予選から好記録のアナウンスが続出しそうな気配だ。
注目は、東京五輪代表で、昨年、110mHでアジア歴代2位(1位は元世界記録保持者の劉翔)・2021年世界リスト5位となる13秒06の特大日本新記録を樹立した泉谷駿介(順天堂大学)だろう。大学1年の2018年に、U20世界選手権110mH(U20規格)で銅メダル獲得、同年秋にはこの規格の110mHで13秒19という破格の記録をマークして以降、「ぐんぐん」という言葉がぴったりな勢いで、日本のエースに成長したハードラーだ。前回の日本選手権室内では、予選で7秒56の室内日本新をマークすると、決勝では7秒50まで更新。2020-2021インドアシーズンの世界リストで4位に飛び込む好記録だった。学生として最後の大舞台となるこの大会、連覇&記録更新で有終の美を飾れるか。
その泉谷の背中を追って、昨年、大躍進を見せたのが、順天堂大学で泉谷の2学年後輩となる村竹ラシッドだ。昨年は、走るたびに自己記録を更新。日本選手権110mHの予選で、その時点で日本歴代3位、日本学生新記録(この2つは決勝で泉谷に塗り替えられてしまったが)・U20日本最高となる13秒28を叩き出して五輪参加標準記録(13秒32)を突破した。しかし、ここまで肉薄しながらも、決勝でフライングを犯して失格に。自国開催の五輪代表入りは実現ならずという、非常に悔しい結果に終わっている。
村竹は、もともと高校時代から高い実績を残していて、千葉・松戸国際高校3年時の日本室内大阪大会(202年)U20男子60mH(U20規格)では7秒61のU20室内日本新記録を樹立して、前年のU18との連覇も果たしている。このオフシーズンは順調にトレーニングが消化できた上に、身長が伸びるなど体格面でも充実。昨年以上の「大ブレイク」に期待が持てそうな状況というだけに、どんな滑りだしを見せるかが楽しみといえる。
もちろん、東京五輪代表で、常に高いレベルの安定感を武器に日本の水準を引き上げてきた110mH元日本記録保持者の高山峻野(ゼンリン)、日本選手権室内の前々回覇者で、もともと後半型ながら前回大会では7秒57の好記録をマークして2位となった石川周平(富士通)も、上位争いには確実に絡んでくるだろう。さらには、昨シーズン、13秒3台に突入した野本周成(愛媛陸上競技協会、13秒38)、13秒4台まで記録を更新した藤井亮汰(三重県スポーツ協会、13秒41)、横地大雅(法政大学、13秒45)もエントリー。このあと世界室内を控える石川と野本が出場するかを含めた動向にもよるが、決勝へ駒を進めるためには、予選からレベルの高いパフォーマンスが求められそうだ。
このほかで、注目したいのは、昨年の福井インターハイを13秒69の高校新記録で制した西徹朗(名古屋学院名古屋高校)と、男子400mHで東京五輪に出場した黒川和樹(法政大学)の2人。春から早稲田大学に進んで、シニアが戦いの場となる西にとって、この顔ぶれのなかでのレースは、来るシーズンに向けての試金石となるだろう。一方の黒川は、もともと110mHにも取り組んでいて、山口・田部高校3年時には国体(少年共通)とU20日本選手権で3位・2位の成績を残しているほか、2020年日本室内大阪大会U20では、村竹に続いて2位で食い込んでいる選手。ハイハードルでは昨年、一気に13秒69まで自己記録を塗り替えた。周りの顔ぶれを考えると、同じ持ちタイムの西とともに、予選突破なるかが大きな関門となるかもしれない。

・女子60mH

東京オリンピックでフルエントリー(3名出場)を果たした女子100mH陣は、そのうちの2人である寺田明日香(ジャパンクリエイト)と青木益未(七十七銀行)が、12秒87の日本記録を樹立。五輪参加記録(12秒84)突破まで、あと0.03秒まで迫った。7月に開催されるオレゴン世界選手権の参加標準記録も12秒84。今季は、ワールドランキングではなく、標準記録を突破しての出場に挑んでいくことになる。五輪代表のうち、木村が昨年で第一線から退いたが、12秒台ハードラーのトップ2に迫る選手は多く、非常にレベルが上がっている。そういう点で見ても、女子60mHも注目種目といえるだろう。
60mHで実績を残しているのは青木。日本選手権室内は2連覇中で、前々回は決勝で8秒11をマークして室内日本記録を21年ぶりに更新、前回は予選(8秒06)、決勝(8秒05)と2レース続けて、その記録を塗り替えた。ここまで来ると、日本人初の7秒台突入を期待してしまう。アジア人の女子で8秒を切っているのは、室内アジア記録保持者のオルガ・シシギナ(カザフスタン、7秒82)のみ。この記録は1999年に出されたもので、シシギナは翌2000年シドニー五輪で金メダルを獲得している。
もちろん、寺田明日香(ジャパンクリエイト)にも、その可能性は十分にある。競技復帰した2019年に、日本人初の12秒台突入(12秒97)を達成して以降、日本女子スプリントハードルを力強く牽引してきた。昨シーズンは、屋外初戦の織田記念を12秒96の日本新でスタートすると、その後も12秒台を連発、東京五輪でも予選を12秒95で走り、準決勝進出を果たした。2021年だけでも12秒9台で4回、12秒8台で3回走っており、その高い安定性は、他の追随を許さない。ただし、東京オリンピックまで高い集中度で取り組んできたこともあり、2024年を視野に入れつつ競技を継続していくために、今季は無理せず、じっくりと取り組んでいく方針をとっている。このため、室内大会での実戦を入れずに、トレーニングで屋外シーズンへと仕上げていく可能性もある。
昨年、100mHで日本歴代3位タイの13秒00まで記録を伸ばした鈴木美帆(長谷川体育施設)、また、自己記録は13秒13(2020年)ながら、自己記録に近い公認記録を複数回出し、追い風参考では13秒0台でも走っている清山ちさと(いちご)あたりは、3人目となる12秒台突入、あるいは「トップ2」に迫る飛躍を見せる可能性がある。初戦となる日本選手権室内でどんな走りを見せるか。なお、鈴木は、WAワールドランキングのポイント状況によっては世界室内に向かう可能性もある。このほか、100mHで昨年のSBだけで見ても、中島ひとみ(長谷川体育施設)、大久保有梨(ユティック)、芝田愛花(環太平洋大学)、田中佑美(富士通)、藤原未来(住友電工)、玉置菜々子(国士舘大学)、福部真子(日本建設工業AC)の7名が13秒2台で並ぶ。決勝進出ラインは、超大激戦になりそうだ。


▼大会ページ
https://www.jaaf.or.jp/competition/detail/1609/
▼エントリーリスト
https://www.jaaf.or.jp/files/competition/document/1609-4.pdf
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https://www.jaaf.or.jp/news/article/15883/

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