第105回日本陸上競技選手権大会・室内競技/2022日本室内陸上競技大阪大会の第2日が3月13日、大阪市の大阪城ホールで行われました。最終日となるこの日は、日本選手権男女10種目のほか、日本室内大阪大会としてU20の男女6種目で決勝が組まれる日程です。東京オリンピックに出場した選手をはじめ、本年7月、そして9月に開催されるオレゴン世界選手権、杭州アジア大会での活躍を期すトップも多数出場しました。
女子60mは大阪出身の青山が快走! 大会変則“4連覇”で、日本選手権者に
女子60mは、昨年の世界リレー、東京オリンピックと女子4×100mリレーの第1走として素晴らしい走りを見せた青山華依選手(甲南大)が、予選で、昨年のこの大会で出した7秒38(U20日本記録)の自己記録を0.02秒更新し、室内日本歴代2位となる7秒36をマーク。全体でトップ通過を果たすと、混戦となった決勝も、スタートから奪ったリードを譲らずに7秒41で先着しました。青山選手は、この大会は、2021年・2020年とU20の部を連覇、さらに2019年はU18の部も制していますが、今回、「日本選手権者」として初のタイトル獲得となりました。なお、女子60mには、青山選手と同じく、世界リレー、東京オリンピック女子4×100mリレー代表の鶴田玲美選手(南九州ファミリーマート)も出場。100mや200mでは中盤以降で伸びてくるタイプの選手ですが、60mでもきっちりA決勝に進出し、7秒51で5位の成績を収めました。多田、2連覇中の男子60m決勝を棄権 坂井が日本選手権初優勝
男子は、この大会2連覇中で、屋外では、昨年100mで日本選手権初優勝、東京オリンピック出場と活躍した多田修平選手(住友電工)の走りに注目が集まるなかで行われました。予選4組に登場した多田選手は、6秒70・1着でフィニッシュして決勝に進出。しかし、「3月初めに(新型コロナウイルス感染症の)ワクチンを打ってから、倦怠感がとれず、走りが重たく、動きも悪い状態が続いていた」(多田選手)ため、出場を予定しているベオグラード世界室内(セルビア、3月18~20日)に向けたコンディショニングへの影響も懸念し、決勝は棄権しました。多田選手は、予選を終えたあとにメディアの取材に応じて棄権の経緯を説明。出発を直前に控えた世界室内に向けては、「今日(の予選)は6秒7台とあまり良くなかったが、6秒5台前半…室内日本記録(6秒54)を更新するくらいでないと決勝は見えてこない。期間が短いけれど、これから体調を整えて、世界室内では(男子60mでの)日本人初のファイナリストを目指したい」と、頼もしい言葉を聞かせてくれました。多田選手不在で行われた決勝を制したのは、坂井隆一郎選手(大阪ガス)。予選は、2組で全体のトップタイムとなる7秒67をマークした宮本大輔選手(東洋大、ダイヤモンドアスリート修了生)に次いで2着(6秒70)でしたが、決勝はスタートで抜群の飛び出しを見せると、そのリードを守って6秒63でフィニッシュ。初の「日本選手権」タイトルを獲得しました。坂井選手も、女子チャンピオンの青山選手と同じく大阪・大阪高の出身で、青山選手の5歳先輩となります。地元・大阪での大会で、同じ高校の先輩・後輩が、日本選手権の男女種目を席巻する結果となりました。坂井選手は、昨年は、世界リレー男子4×100mリレーで1走を務め、日本チームにオレゴン世界選手権の代表切符をもたらしましたが、その後、故障に見舞われ、日本選手権は無念の準決勝敗退。今年は、オレゴン世界選手権のリレーメンバー入り、さらには100mでの代表入りを狙ってのシーズンとなります。
この坂井選手に、0.03秒差の6秒70で続いたのは宮本選手です。中学時代から年代別で常にトップで活躍し、坂井選手同様に、昨年の世界リレーでは3走を務め、3位フィニッシュ(※優勝した南アフリカの選手にドーピング違反が判明したことで、今後、2位に繰り上がる可能性がある)に貢献した選手。春から社会人となるため、今回が東洋大のユニフォームを着て走る最後のレースでした。決勝では、スタートで大きく出遅れるミスもありましたが、終盤で追い上げていく走りも見せており、社会人1年目となる屋外シーズンに向けて、順調な経過を示している様子を伺わせました。
なお、男子60mには、東京オリンピックの男子4×100mリレーで代表に選出されたデーデー・ブルーノ選手(東海大)も出場。後半での伸びやかな加速が強みで、前半は出遅れるタイプですが、1組に出場した予選は6秒77をマークして2着でフィニッシュ。予選タイムの上位9~16番目で競われるB決勝に進みましたが、決勝は出走しませんでした。
男子棒高跳は山本が5m80に挑戦! 男子走幅跳は津波が制す
男子棒高跳と男子走幅跳にも、東京オリンピック日本代表選手が出場しました。オリンピアンの山本聖途選手(トヨタ自動車)と江島雅紀選手(富士通、ダイヤモンドアスリート修了生)が顔を揃えた男子棒高跳は、2月の室内フランス選手権にオープン出場して5m71をマークしていた山本選手が5m60で優勝を決めると、一気にバーを上げ、自己ベストで室内日本記録でもある5m77を上回り、オレゴン世界選手権参加標準記録となる5m80に挑戦。2・3回目の試技では、競技後、自身も「感触が良かった」と振り返った跳躍を披露しました。残念ながら室内日本新記録誕生はなりませんでしたが、屋外シーズンに向けて順調にトレーニングを積めてきたことを印象づけました。江島選手は、5m30、5m40を1回でクリアしたものの、5m50を跳ぶことができず2位。しかし、使用するポールのメーカーを変えて初めて臨んだなかで好感触を得ており、こちらも屋外シーズンに向けての好材料となった様子です。男子走幅跳では、東京オリンピック代表の津波響樹選手(大塚製薬)が3回目の試技で7m62を跳んでトップに立つと、最終5回目の跳躍で7m67まで記録を伸ばして優勝しました。2位で続いたのは、最終跳躍で6m65と記録を伸ばした手平裕士選手(オークワ)で7m65をマーク。日本記録保持者(8m40)で東京オリンピック代表の城山正太郎選手(ゼンリン)は7m55で4位の結果でした。
女子走幅跳では秦が6m52! 室内日本記録に5cmと迫る
女子走幅跳は、秦澄美鈴選手(シバタ工業)が最終跳躍で室内日本記録(6m57、花岡麻帆、2003年)に5cmまで迫る6m52を跳び、日本選手権室内3連覇を達成。前身の日本室内大阪大会シニアの部も含めると4連勝となりました。1回目をファウルで滑りだした秦選手は、2回目も5m35と踏み切り位置の調整にやや苦労します。しかし、3回目に6m22を跳んでトップに立つと、ベストエイト以降の試技は6m34、6m52と記録を上げていきました。屋外では昨年、6m65の自己記録を筆頭に、6m40台の記録を安定して出し続けた秦選手ですが、今回の6m52は屋外を含めてのセカンドベスト。「序盤をもっとスムーズに入ることができていたら…」あるいは「普段通り、全6回の試技だったら…」と思わせる跳躍でした。女子走高跳は、昨年の学生チャンピオンである高橋渚選手(日本大)がただ一人1m80をクリア。この記録は、大学1年時の2018年にマークした自己記録に並ぶもの。続いて挑戦した自己新記録1m83の成功はなりませんでしたが、日本大のユニフォームを着て臨む最後の試合を、勝利で締めくくりました。男子走高跳は、ともに2m24を失敗に終わった真野友博選手(九電工)と赤松諒一選手(アワーズ)による優勝決定戦が行われましたが、決定戦の最初の高さとなった2m24を真野選手がきれいにクリア。赤松選手が失敗に終わったことで、真野選手の優勝が決まりました。
このほか、男子三段跳は、昨年、屋外で日本人3人目の17m台となる17m00の学生新記録を樹立した伊藤陸選手(近畿大学工業高等専門学校)が、3回目に16m20をマーク。ベストエイト以降は跳躍をうまくまとめられず、記録を伸ばすことはできませんでしたが、U20室内日本新記録で制した第103回大会以来、2年ぶりの優勝を果たしています。
文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真:児玉育美(JAAFメディアチーム)、フォート・キシモト
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