長い1日となった8月6日、東京・国立競技場では、20時25分からイブニングセッションがスタート。この日は、最初の男子4×400mリレー予選を除く6種目はすべて決勝で、大会がいよいよ終盤を迎えていることを感じさせるタイムテーブル。日本は、トラック&フィールドの最終種目として、翌7日に行われる男子4×400mリレー予選のほか、ここまでに決勝へと駒を進めた女子やり投、女子1500m、そして男子4×100mリレーに出場しました。
女子1500m決勝
快挙といえる素晴らしい結果を残したのは、女子1500mの田中希実選手(豊田織機TC)でした。突破が難しいとみられていたこの種目の予選を、自身の日本記録を更新する4分02秒33をマークして着順で突破すると、準決勝では日本人女子初の4分切りとなる3分59秒19をマークして、これまた着順で決勝に進出。そこまででも十分に歴史的な快挙といえるのですが、決勝ではさらに日本陸上界に新しい風を吹き込むレースを見せてくれました。21時50分にスタートした決勝には13名が出場。スローな展開になるかと思われていたレースは、スタートして200mを過ぎたところで、5000mを制し、この大会で1500m・10000mの3冠を狙っているシファン・ハッサン選手(オランダ)が前方に上がってくる非常に珍しい動きを見せたことで異なる様相を示しました。これにすかさず前回覇者のフェイス・キピエゴン選手(ケニア)が反応。優勝候補2選手が1周目からトップを占め、最初の400mをなんと62秒9(WA公式サイト発表のデータによる。以下、同じ)という速いペースで通過していくこととなりました。そんななかで田中選手は一歩も引く様子を見せず、スタートを2番手で飛び出すと、その後は4~5番手に位置をとり、400mを63秒3、800mは2分07秒6と、トップ選手たちのつくるハイペースに乗ってレースを進めていきます。800mを過ぎたところで7番手以降が後れ、先頭のハッサン選手がロングスパートともいえるようなペースを刻んだことで、先頭集団も縦に長い列をつくることになりました。1000mを3分39秒3で通過した直後に1つ順位を落として、ラスト1周を6番手で通過した田中選手は、残り200mで後ろから上がってきた2選手にもかわされましたが、最後まで懸命に粘って8着でフィニッシュ。この種目で日本人初となる8位入賞を果たすとともに、準決勝に続いて再び4分を切る3分59秒95をマークしました。
なお、優勝争いはバックスレートでハッサン選手をかわしたキピエゴン選手が3分53秒11のオリンピック新記録で2連覇を達成。2位には最終コーナーを抜けるところで逆転したローラ・ミュア選手(イギリス)が3分54秒50をマークして続き、ハッサン選手が3位という結果になっています。
男子4×400mリレー 予選
国立競技場での最終種目として行われる決勝への進出を狙って、日本チームが予選で果敢なレースを繰り広げたのは男子4×400mリレー。2組上位3着+2(4着以下の記録上位2チーム)という進出条件で行われた予選の2組目に出場しました。先に行われた第1組がいきなり高速レースとなり、3着のトリニダードトバゴが2分58秒60、4着のイタリアが2分58秒91と、ともにナショナルレコードを更新する2分台の記録をマーク。これにより、「3着内に入るか、2分58秒91を切るか」というのが決勝進出の条件となったなか、日本は7レーンからスタートしました。1走の伊東利来也選手(三菱マテリアル)が45秒7の走りで、5番手争いをしながら2走の川端魁人選手(三重教員AC)にバトンを繋ぐと、川端選手は見事な位置どりで2~3番手を争いながらホームストレートに出て、4~5番目で3走・佐藤拳太郎選手(富士通)へバトンパス。佐藤選手は5番手を懸命に維持して、バトンはアンカーの鈴木碧斗選手(東洋大学)へ。鈴木選手は、いったん6番手に後退したもののホームストレートでの競り合いを制して5着でフィニッシュしました。タイムは、日本が1996年アトランタオリンピックで5位入賞を果たした際にマークした3分00秒76(当時、アジア新)にぴたりと並ぶ日本タイ記録でしたが、全体で10番目となり、目標は僅かなところで叶いませんでした。
女子やり投 決勝
女子やり投決勝には、予選でシーズンベストの62m06をマークしていた北口榛花選手(JAL)が出場。66m00の自己記録をもつことから、入賞さらには上位への期待がかけられていましたが、実は予選を終えたあとに脇腹などに痛みが出るというトラブルに見舞われたなかで臨んでいました。その影響で、1回目が53m45という入りになった北口選手は、2回目は失敗投てきとなったことで自らスターティングラインを踏み出してファウルに。3回目もやりが浮き上がってしまう投てきとなり記録は伸びたものの55m42。トップ8の進出はならず、無念の12位という結果で初めてのオリンピックを終えることとなりました。優勝したのは、中国の劉詩穎選手で、1回目に66m34を投げて、そのまま逃げきりました。中国がオリンピックでこの種目を制したのは、意外なことに、これが初めてとなります。
男子4×100mリレー 決勝
金メダルを目標に掲げてきた男子4×100mリレー。予選と同様に、1走から多田修平選手(住友電工)、山縣亮太選手(セイコー)、桐生祥秀選手(日本生命)、小池祐貴選手(住友電工)のオーダーで臨んだ日本は9レーンに入る番組編成。予選は着順で通過していたものの、記録としては全体で9番目、決勝進出チームのなかでは最も低かったこともあり、バトンパスでの利得を最大限に生かす「攻めのバトン」で大一番に挑みました。しかし、小さな歯車の狂いが生じて、1・2走の区間でのバトンを繋げることができず、ここでレースから離脱することに。公式記録には途中棄権を示す「DNF」という文字が残る結果となりました。なお、日本を欠くなかで進んだレースは、2走でリードを奪っていたイギリスを、ジャマイカ、中国、2・3走でバトンミスが出たイタリアが猛追する展開に。逃げるイギリスをフィニッシュ間際でかわしたイタリアが初優勝。優勝記録となった37秒50は、予選を終えたあと日本が決勝でのターゲット記録として想定したタイムとぴったり同じものでした。男子5000m 決勝
男子5000mでは、実に4位までが13分を切るレースに。日本国内のレースにおいて5000mで12分台の記録がマークされたのは、これが初めてのことです。大会1日目の10000mで優勝を逃していた5000m・10000m世界記録保持者のジョシュア・チェプテゲイ選手(ウガンダ)が12分58秒15で制し、10000mの雪辱を果たすとともに、待望のオリンピックチャンピオンの称号を手にしました。女子400mでは、ショーニー・ミラーウイボ選手(バハマ)が今季世界最高でエリアレコードにもなる48秒36の好記録を叩き出し、前回のリオ大会からの連覇を達成。この記録は、世界歴代5位となるもので、日本国内のレースで初めてマークされた48秒台となりました。また、この種目では、オリンピックへの挑戦は今回が最後と表明している35歳の名スプリンター、アリソン・フェリックス選手(アメリカ)が49秒46で3着となり銅メダルを獲得。オリンピックでのメダル獲得数を10個(金6、銀3、銅1)とし、単独女子最多獲得者となりました。女子4×100mリレー決勝
女子4×100mリレーは、ブリアナ・ウィリアムズ選手、エレーン・トンプソン・ヘラ選手、シェリーアン・フレーザープライス選手、シェリカ・ジャクソン選手のオーダーで臨んだジャマイカが、1・2走のバトンパスでひやりとする場面はあったものの、圧倒的な強さを見せつけて、世界歴代2位となる41秒02のナショナルレコードで快勝。この結果、トンプソン・ヘラ選手は、100m・200m・4×100mリレーの3種目で世界歴代2位となるジャマイカ新記録をマークしての3冠達成となりました。このうち100mと200mはともに2連覇、100mはオリンピック新記録という素晴らしい結果です。文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真提供:フォートキシモト
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