2021.08.02(月)選手

【記録と数字で楽しむ東京オリンピック】男子110mハードル



・予 選 8月3日 19:10 5組4着+4

・準決勝 8月4日 11:00 3組2着+2

・決 勝 8月5日 11:55


泉谷駿介(順天堂大学)
金井大旺(ミズノ)
高山峻野(ゼンリン)


「表彰台」のチャンスあり!!

19年ドーハ世界選手権と同じく泉谷駿介(順大4年)、金井大旺(ミズノ)、高山峻野(ゼンリン)の3人がエントリー。ただドーハでは泉谷は右ハムストリングスの肉離れのため無念の欠場だった。「ドーハの借りは東京で!」である。

参加標準記録適用期間内(2019年5月11日~20年4月5日・20年12月1日~21年6月29日)の記録では、泉谷(13秒06=21年)が5位、金井(13秒16=21年)が12位、高山(13秒25=19年)が16位。

21年の世界リスト(7月28日判明分)では、泉谷3位、金井11位、高山(13秒38)34位。

◆五輪&世界選手権での日本人最高成績と最高記録◆
<五輪>
最高成績 準決勝1組4着 15.1 藤田辰三(東京文理大)1932年
最高記録 13.39(+1.5)谷川 聡(ミズノ)2004年 予選1組3着 =日本新


<世界選手権>
最高成績 準決勝1組6着 13.73(+1.0)内藤真人(法 大)2001年

〃   準決勝2組6着 13.68(±0.0)内藤真人(ミズノ)2003年

〃   準決勝3組6着 13.58(-1.0)内藤真人(ミズノ)2007年

〃   準決勝2組6着 13.62(-0.3)田野中輔(富士通)2007年

〃   準決勝3組6着 13.58(+0.6)高山峻野(ゼンリン)2019年

最高記録 13.32(+0.4)高山峻野(ゼンリン)2019年 予選4組2着


上記の通り、五輪も世界選手権も「準決勝の壁」に阻まれ続けてきた。しかし、今回は持ちタイムからしても「ファイナリスト」のみならず「メダル」の期待も高まっている。

19年ドーハ世界選手権では、高山が何とも惜しかった。3台目まで先頭で、見ていた誰もに「おっ!!」と思わせた。が、5台目のリード脚をハードルに乗り上げる格好で残念な6着だった。レース後の本人は「悔しさはないです」とすっきりした表情で話していたが、第三者からすれば、ドーハを肉離れで走ることができなかった泉谷と同じく「ドーハの借りは東京で!」である。

金井のドーハは予選の6台目で脚をぶつけリズムを崩し、13秒74の7着で無念の落選。これまた「ドーハの借りは東京で!」だ。実家の歯科医を継ぐために歯学部受験を目指し、今年を「ラストシーズン」と位置づけている金井にとって、東京五輪は競技人生の集大成の場でもある。


◆「13秒06」を他種目の記録に当てはめると……◆
6月27日の日本選手権で、高山がマークした13秒06の「超特大の日本新」は、7月28日判明分で21年の世界3位、歴代でも34位。

100mで「9秒台の日本新」、あるいはマラソンで日本新が誕生すると、スポーツ紙だけでなく一般紙でも一面に写真付きで大きく報じられ、テレビのニュースでも必ず取り上げられる。が、他の種目ではなかなかそういうふうにはならない。

しかし、世界歴代34位に相当する記録は100mなら9秒88、マラソンなら2時間04分29秒。日本記録である山縣亮太(セイコー)の100m9秒95(21年)は歴代83位タイ、鈴木健吾(富士通)のマラソン2時間04分56秒(21年)は歴代59位タイ。これをみても「13秒06」のレベルの高さがわかるだろう。

以下は、日本選手権の時に陸連のツイッターで紹介したデータだが、「110mH13秒06の価値」をより多くの方に知っていただくために再掲する。

110mHの「13秒06」は、世界陸連の採点表では「1243点」。

これを競技場内で行われる他の個人種目の記録にあてはめると以下の通りだ。

・カッコ内は日本記録

100m=9.90 (9.95)

200m=19.86 (20.03)

400m=44.10 (44.78)

800m=1.42.76 (1.45.75)

1500m=3.30.15 (3.35.42)

5000m=12.51.08 (13.08.40)

1万m=26.49.82 (27.18.75)

400mH=47.78 (47.89)

3000mSC=8.03.34 (8.15.99)

走高=2.37 (2.35i)

棒高=5.91 (5.83)

走幅=8.48 (8.40)

三段=17.73 (17.15)

砲丸=22.04 (18.85)

円盤=69.95 (62.59)

ハンマー=83.21 (84.86)

やり=89.92 (87.60)

十種=8748 (8308)

日本記録がこれを上回っているのは、室伏広治さんのハンマー投(84.86)のみ。

上記は「競技場内の種目」だが、ロード競技の相当記録(1243点)は、

マラソン=2.05.32. (2.04.56.)

20kmW=1.17.38. (1.16.36.)

50kmW=3.36.48. (3.36.45.)

で、すべての日本記録が「13秒06」を上回る。ただ、世界陸連の採点表は、トラックの1万mなどに比べるとマラソンの点数がやや甘いような印象を受ける。

参考までに「リレー」の「1243点」は、

400mR=37.78 (37.43)

1600mR=2.56.73 (3.00.76)

で、400mRは110mHの13秒06を上回っている。


ついでに、世界陸連のポイントのトップ10をあげると、

1)1269 室伏広治 ハンマー 84.36

2)1266 鈴木雄介 20kmW  1.16.36.

3)1254 鈴木健吾 マラソン 2.04.56.

4)1251 山西利和 20kmW  1.17.15.

5)1248 川野将虎 20kmW  1.17.24.

5)1248 川野将虎 50kmW  3.36.45.

7)1247 池田向希 20kmW  1.17.25.

7)1247 高橋英輝 20kmW  1.17.26

9)1244 大迫 傑 マラソン 2.05.29.

10)1243 泉谷駿介 110mH  13.06

(以上の「トップ10」は、熊田大樹さん調べ)

ちなみに、金井の13秒16は「1223点」で100mなら9秒96相当、高山の13秒25は「1206点」で10秒00相当だ。


◆世界記録と日本記録の差◆
400m以下の距離の種目で電動計時の記録のみが世界記録や日本記録として公認されるようになってからの世界記録と日本記録の差を調べたのが「表1」である。「○」は、その差が歴代で最小になったことを示す。

【表1/世界記録と日本記録の差の変遷】

年月日   世界記録 日本記録 差

1972.09.07 13.24  14.30  1.06

1977.08.21 13.21   〃   1.09

1977.10.16  〃   14.25  1.04 ○

1978.05.14  〃   14.06  0.85 ○

1979.04.14 13.16   〃   0.90

1979.05.16 13.00   〃   1.06

1981.08.19 12.93   〃   1.13

1989.05.07  〃   13.95  1.02

1989.08.16 12.92   〃   1.03

1990.09.15  〃   13.82  0.90

1991.06.16  〃   13.80  0.88

1991.08.27  〃   13.58  0.66 ○

1993.02.20 12.91   〃   0.67

2001.10.17  〃   13.50  0.59 ○

2003.07.20  〃   13.47  0.56 ○

2004.08.24  〃   13.39  0.48 ○

2006.07.11 12.88   〃   0.51

2008.06.12 12.87   〃   0.52

2012.09.07 12.80   〃   0.59

2018.06.24  〃   13.36  0.56

2019.07.27  〃   13.30  0.50

2019.08.17  〃   13.25  0.45 ○

2021.04.29  〃   13.16  0.36 ○

2021.06.27  〃   13.06  0.26 ○



1980年代までは、1秒0前後の差があったが91年東京世界選手権で岩崎利彦さんが13秒58で走ってその差を一気に0秒66にした。その後、谷川聡さんと内藤真人さんが0秒5前後とし、金井・高山・泉谷が切磋琢磨する中で「0秒26差」まで縮めてきて、世界と勝負ができるレベルにきた。


◆五輪&世界選手権での予選・準決通過ライン◆

世界選手権が予選・準決・決勝の3ラウンド制になった2001年以降の「準決勝で落選した最高記録」と「予選で落選した最高記録」は、「表2」の通りだ(2004・08年の五輪は4ラウンド制だったので第二次予選のデータを記載)。


【表2/準決勝と予選で落選した最高記録】

年  準決落最高  予選落最高

2001   13.42    13.82

2003   13.53    13.74

2004五輪 13.30    13.53=二次予選

2005   13.44    14.12

2007   13.36    13.67

2008五輪 13.42    13.53=二次予選

2009   13.42    13.67

2011   13.57    13.56

2012五輪 13.34    13.59

2013   13.35    13.52

2015   13.29    13.63

2016五輪 13.43    13.66

2017   13.27    13.58

2019   13.47    13.60

-----------------

最高記録 13.30    13.52

五輪最高 13.30(2004) 13.53(2004・2008)

世選最高 13.27(2017) 13.52(2013)

ということで、日本の3人は、予選でハードルを大きく引っかけるなどしなければ準決勝進出は確実。100mと同様に準決勝がポイントだ。2015・17年の世界選手権では「13秒2台で落選」ということもあった。この時、ファイナルに進んだ「+2」の2番目の選手の記録は、15年が13秒25、17年が13秒23だった。世界大会で誰も経験したことがない「ファイナル」のスタートラインに複数の日本人選手が並ぶ可能性もある。


◆五輪&世界選手権での1~8位の記録◆
見事に「ファイナリスト」となった場合、どれくらいの順位が見込めるのかということで、世界選手権が始まった1983年以降の1~8位の記録を調べたのが「表3」だ。


【表3/1983年以降の五輪&世界選手権での1~8位の記録】

・2019年世界選手権の「13.30*」は、救済措置のため順位繰り上げで3位タイ

・カッコ内は、のちにドーピング違反で失格となった記録で、後ろに当初の相当順位を記載。

年    風速  1位  2位  3位   4位  5位  6位  7位  8位

1983   +1.3 13.42 13.46 13.48 13.56 13.66 13.68 13.73 13.82

1984五輪 -0.4 13.20 13.23 13.40 13.45 13.55 13.71 13.80 14.15

1987   +0.5 13.21 13.29 13.38 13.41 13.48 13.55 13.71 DNS

1988五輪 +1.5 12.98 13.28 13.38 13.51 13.52 13.54 13.61 13.96

1991   +0.7 13.06 13.06 13.25 13.30 13.33 13.39 13.41 13.46

1992五輪 +0.8 13.12 13.24 13.26 13.26 13.29 13.41 13.46 14.00

1993   +0.5 12.91 13.00 13.06 13.20 13.27 13.38 13.60 14.13

1995   -0.1 13.00 13.04 13.19 13.27 13.30 13.34 13.38 13.43

1996五輪 +0.6 12.95 13.09 13.17 13.19 13.20 13.23 13.40 13.43

1997   ±0.0 12.93 13.05 13.18 13.20 13.26 13.30 13.55 DNS

1999   +1.0 13.04 13.07 13.12 13.22 13.26 13.30 13.39 13.54

2000五輪 +0.6 13.00 13.16 13.22 13.23 13.28 13.42 13.49 13.61

2001   -0.3 13.04 13.07 13.25 13.30 13.51 13.52 13.76 13.84

2003   +0.3 13.12 13.20 13.23 13.34 13.48 13.55 13.57 (13.36=5)

2004五輪 +0.3 12.91 13.18 13.20 13.21 13.21 13.48 13.49 13.76

2005   -0.2 13.07 13.08 13.10 13.13 13.20 13.47 13.47 13.48

2007   +1.7 12.95 12.99 13.02 13.15 13.19 13.22 13.33 13.39

2008五輪 +0.1 12.93 13.17 13.18 13.24 13.36 13.46 13.60 13.69

2009   +0.1 13.14 13.15 13.15 13.30 13.31 13.38 13.56 13.57

2011   -1.1 13.16 13.27 13.44 13.44 13.67 13.67 DNF  (13.14=1)

2012五輪 -0.2 12.92 13.04 13.12 13.39 13.40 13.43 13.53 DQ(42.86)

2013   +0.3 13.00 13.13 13.24 13.27 13.30 13.31 13.42 13.51

2015   +0.2 12.98 13.03 13.04 13.17 13.17 13.18 13.33 13.34

2016五輪 +0.2 13.05 13.17 13.24 13.29 13.31 13.40 13.41 DQ(13.45)

2017   ±0.0 13.04 13.14 13.28 13.30 13.31 13.32 13.37 13.37

2019   +0.6 13.10 13.15 13.18=13.30* 13.29 13.61 13.70 13.87

-----------------------------------

最高記録     12.91 12.99 13.02 13.13 13.17 13.18 13.33 13.34

五輪最高     12.91 13.04 13.12 13.19 13.20 13.23 13.40 13.43

世界選手権最高  12.93 12.99 13.02 13.13 13.17 13.18 13.33 13.34



以上の通りで、決勝で泉谷のベストと同じ13秒06で走れれば、これまでの「史上最高のハイレベルなレース」に当てはめても五輪なら3位相当、世界選手権なら4位相当となる。金井の13秒16なら五輪で4位相当、世界選手権で5位相当だ。

種目の特性もあって8人のうち2人くらいが大きく引っかけて失速することも多いので、7・8位の記録が低くなっている大会も多いようだ。

◆ホロウェイに「世界新」の可能性も!◆
19年ドーハ世界選手権チャンピオンのG・ホロウェイ(アメリカ)に9年ぶりの「世界新記録」の可能性がある。

全米選手権の準決勝では追風1.8mの好条件で世界記録に0秒01と迫る12秒81をマーク。追風0.4mの決勝でも12秒96で2位(D・アレン=16年リオ五輪5位、19年世界選手権7位)に0秒14差をつけた。当初は、16年五輪と17年世界選手権を制したO・マクレオド(ジャマイカ)との一騎打ちと目されていたが、マクレオドは国内選考会で大きく引っかけ最下位に終わり東京には出場できない。そんなことで、ホロウェイ優位が一層強固なものとなった。

マクレオドが不出場ということで、21年世界リストでは泉谷が出場者の2位。13秒10のブロードベル(ジャマイカ)も出ないので金井も9位タイに位置する。

その他のライバルは、21年は金井よりも下のタイムだが、12秒9台のベストを持つ個人参加の扱いのS・シュベンコフ(ロシア。12.92=18年。21年は13.19)、H・パーチメント(ジャマイカ。12.94=14年。21年13.16)、キューバから国籍変更したO・オルテガ(スペイン。12.94=15年。21年13.15)は一気に浮上してくる可能性がある。全米2位のアレン(13.03=16年)も全米では準決・決勝と13秒10で走った。全米3位のD・ロバーツ(アメリカ。13.00=19年。21年13.11)、ジャマイカチャンピオンのR・リーヴァイ(ジャマイカ。13.05=17年。21年13.08)も表彰台候補。21年に13秒1台のD・トーマス(ジャマイカ。13.11)、W・ベロシアン(フランス。13.15)も好調そうだ。

話は変わるが、ホロウェイと泉谷には共通点がある。その身体能力の高さである。

泉谷が神奈川・武相高校時代に八種競技でインターハイチャンピオンであったこと、大学入学後も110mHのほかに走幅跳、三段跳でも活躍していることはよく知られている。

泉谷の各種目のベストは、100m10秒37(+0.7=19年)、走高跳2m03(16年)、走幅跳7m92(+1.1=19年。20年にも同記録。追風参考では8m09/+2.8=19年)。三段跳16m08(+2.0=19年)。

一方、ホロウェイは、200m20秒66(-0.7=19年)、300m32秒80(17年)、500m63秒35(16年)、300mH36秒73(15年)、走高跳2m16(14年)、走幅跳8m17(+0.6=18年。追風参考8m32/+2.9=18年)。さらには、1600mRでも加速付きとはいえ43秒75で走ったことがあるというのは驚きだ。

マイルリレーの2走以降の加速付きの400mのスプリットは、筆者の過去の調査によると400mのフラットレースよりも0秒7前後速い。これからするとホロウェイはフラットでも44秒台半ばの走力があるはず。ということは、400mHでも世界記録を出せるかもしれない。というのも、7月1日に46秒70で走って29年ぶりに世界記録(46.78)を更新したK・ワルホルム(ノルウェー)の400mのベストが44秒81。前世界記録(46.78)保持者となったK・ヤング(アメリカ)が45秒11。6月末の全米選手権で46秒83の歴代3位を出したR・ベンジャミンが44秒31。18年に46秒98のA・サンバ(カタール)が44秒60だ。機会があれば、ホロウェイには是非とも400mHにも挑戦してもらいたいものだ。188cm・82kgの身体は400mHにも向いていそうだ。というのも、400mHの歴代4位までの選手の身長と体重は、ワルホルムが187cm・80kg、ヤングが193cm・82kg、ベンジャミンが191cm・81kg、サンバが187cm・75kgだからである。

何はともあれ110mHでの「世界新」と「日本人の表彰台」を是非とも見せてもらいたいところである。


野口純正(国際陸上競技統計者協会[ATFS]会員)
写真提供:フォート・キシモト

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