布勢スプリント2021が6月6日、サトウ食品日本グランプリシリーズ鳥取大会として、ヤマタスポーツパーク陸上競技場(鳥取県立布勢総合運動公園陸上競技場)で開催されました。直線のスプリント種目を中心として構成されており、「記録が出る大会」とすっかり認知されるようになりました。今年も、男女100mとスプリントハードル(男子110mH、女子100mH)の4種目が行われ、予選から好記録が続出、大いに盛り上がりました。
太平洋沿岸が梅雨前線に覆われる気圧配置となるなか、開催地の鳥取市は朝から快晴に恵まれ、青空が広がりました。気温が28℃前後まで上がりながらも湿度は30%台と過ごしやすい陽気に。また、会場のヤマタスポーツパーク陸上競技場は、グランプリ種目が始まるあたりから、ホームストレートが適度な追い風が吹き始め、“直線種目”にとって絶好のコンディションのなか競技が行われました。
この日の最大の注目は、男子100m。桐生祥秀選手(日本生命)、小池祐貴選手(住友電工)、山縣亮太選手(セイコー)、ケンブリッジ飛鳥選手(Nike)、多田修平選手(住友電工)がエントリーし、現在、国外を拠点としている日本記録保持者(9秒97)のサニブラウン アブデルハキーム選手(タンブルウィードTC)を除くトップランカーが顔を揃えたことで、オリンピック代表選考会となる日本選手権の前哨戦として、記録・勝負ともに期待の集まるなかでのレースとなりました。
上位2着+2の決勝進出条件で行われた予選では、第1組で多田選手が、2017年にマークした自己記録に並ぶ10秒07でフィニッシュ、ケンブリッジ選手が10秒24・2着で続く展開に。追い風2.6mであったために残念ながら参考記録となりましたが、オリンピック参加標準記録の10秒05に迫るタイムが出たことで、会場のムードが一気にヒートアップします。そして、1.7mと絶好の追い風のなかでのレースとなった第2組では、山縣選手が今季日本最高となる10秒01でフィニッシュして、この種目4人目のオリンピック参加標準記録突破者に。2着には、すでに標準記録突破済みの小池選手がシーズンベストの10秒18で続き、3着の東田旺洋選手(栃木スポ協)が自己タイの10秒21をマークする好走を見せました。さらに3組目では、5月9日のREADY STEADY TOKYO(以下、RST)を不正出発で失格していた桐生選手が、追い風参考(+2.6m)ながら山縣選手に並ぶ10秒01をマークして先着し、2着の永田駿斗選手(住友電工)も自己記録(10秒31)を上回る10秒22でフィニッシュ。決勝は、ここまでに挙げた7選手に1組3着の遠藤泰司選手(新日本住設)を加えた8名で行われることとなりました。
日本選手権を見据えて、この大会の出走は1本のみと決めていた桐生選手がここでレースを終えたため、7人で行われることになった決勝は、約3時間のインターバルをとって行われました。後方からの風を感じながらスタートラインについた選手たちは、一発できれいにスタート。前半から飛び出すことを得意とする多田選手と山縣選手が反応よく飛び出しますが、まずは多田選手が先行しました。しかし、中盤付近で山縣選手が追いつくと、そこから両者の競り合いに。80m付近で今度は山縣選手がリードを奪って、そのまま先着し、僅差で多田選手が続きました。山縣選手のフィニッシュと同時に、フィニッシュタイマーが日本記録でもある9秒97で止まったことで、場内にはどよめきが。この計時がいったん消え、正式計時が発表されるまでには、少し時間が空く形となりました。まず、風が追い風2.0mで公認であることがアナウンスされると、山縣選手が小さくガッツポーズ。その直後に、正式結果として「9.95」のタイムが表示され、2019年にサニブラウン アブデルハキーム選手(当時フロリダ大、現タンブルウィードTC)がマークした9秒97を更新する日本新記録の誕生が確定。場内が大きな拍手で包まれました。日本人としては4人目、国内レースでは2回目となる9秒台。また、アジア歴代記録では3位ながら、アジア出身の競技者としては、アジア記録保持者の蘇炳添選手(中国、9秒91)に次ぐタイムです。これにより、山縣選手は同日時点の2021年世界リスト8位、オリンピック出場枠を考慮して1カ国3人を上限で順位をつけると5位タイという位置に浮上しました。
2位でフィニッシュした多田選手のタイムは10秒01(日本歴代6位)で、関西学院大3年の2017年日本インカレでマークした10秒07の自己記録を4年ぶりに更新するとともに、オリンピック参加標準記録もクリアしました(山縣選手、多田選手のコメントは、別記をご参照ください)。この2人に続いたのは小池選手で、序盤が出遅れたなか、ラストで順位を上げ、今季自己最高の10秒13でフィニッシュしました。4・5位の東田選手・永田選手は10秒18・10秒22と、ともに自己新記録をマーク。ケンブリッジ選手は10秒28・6位という結果になりました。
男子100mだけでなく、女子100mHでも好記録が続出しました。3組上位2着+2の決勝進出条件で行われた予選では、第1組で、この1~2年の成長が著しい鈴木美帆選手(長谷川体育施設)が日本歴代2位となる13秒00(+1.5)をマークすると、2組では、この種目のトップランカーである青木益未選手(七十七銀行)が13秒01(+0.8)でフィニッシュして自己記録を0.01秒更新、そして3組では、6月6日の木南記念で自身の日本記録を12秒87へと更新したばかりの寺田明日香選手(ジャパンクリエイト)が12秒95(+0.9)で先着。決勝でのハイレベルな戦いに加えて、オリンピック参加標準記録(12秒84)突破の期待を大きく高める滑りだしを見せました。
グランプリ4種目の先陣を切って行われた決勝は、寺田選手が1台目からリードを奪う入りを見せたものの、3台目のハードルをぶつけて、その後の加速にやや鈍りを生じさせてしまいます。その間にスタートから寺田選手に次ぐ位置につけていた青木選手がスピードに乗って、中盤あたりで先頭に立つと、そのままフィニッシュラインを駆け抜けました。速報値12秒89で止まったフィニッシュタイマーは、その後、上方修正されて12秒87の正式結果が表示。風も公認の1.8mであることがアナウンスされ、寺田選手に並ぶ12秒87の日本タイ記録誕生となりました。
青木選手は、昨年の日本選手権と3月の日本選手権室内(60mH)をともに制し、60mHでも日本記録(8秒05)も樹立している実力者。この大会までの100mHの自己ベストは、昨年の日本選手権を制した際に出した13秒02でしたが、昨年のアスリートナイトゲームズイン福井では、2.1mの追い風のなか12秒87で走っています。今回は奇しくも同タイム。公認記録でも長年の念願であった12秒台ハードラーの仲間入りを果たしました(青木選手の日本タイ記録樹立コメントは、別記ご参照ください)。
2位の寺田選手は、「3台目の大クラッシュ」(寺田選手)に加えて終盤でもミスがあったというなか12秒89でフィニッシュ。“失敗レース”と位置づけた状態でも3回目の12秒8台をマークしました。今季は、屋外の全8パフォーマンスのうち、初戦だった織田記念の予選(13秒25)を除く7レースがすべて12秒台。高いレベルでの安定感が、一段と際立つ結果となりました。3位には、序盤は4~6番手に位置していた鈴木選手が、中盤以降で順位を上げてフィニッシュ。12秒台突入はならなかったものの、予選の13秒00に続くセカンドベストの13秒01をマークし、このレベルでの安定感を印象づけました。4位の木村文子選手(エディオン、13秒18)、5位の清山ちさと選手(いちご、13秒20)は、決勝で記録を伸ばすことはできませんでしたが、予選で木村選手は13秒12、清山選手は13秒14と、ともにシーズンベストをマークする結果を残しています。
このほか、女子100mは、恵庭北高(北海道)3年の2019年に日本選手権優勝を果たし、同年にU20日本歴代2位となる11秒46をマークしている御家瀬緑選手(住友電工)が11秒57(+1.6)で優勝。昨シーズンからの不調を脱し、日本選手権に向けて着実に調子を上げてきている様子をうかがわせました。御家瀬選手に続いたのは、名倉千晃選手(NTN)。予選を全組トップタイムとなる11秒53(+2.0)で走って、2017年と2020年にマークしていた11秒63の自己記録を更新すると、決勝でも11秒59でフィニッシュ。2レース続けて自己記録を上回るとともに、11秒5台で揃えました。
世界水準といえるハイレベルなパフォーマンスが続いている男子110mHは、関東インカレで13秒30をマークしてオリンピック参加標準記録(13秒32)を突破した泉谷駿介選手(順天堂大)は出場しなかったものの、織田記念で13秒16の日本記録を樹立した金井大旺選手(ミズノ)、前日本記録保持者(13秒25)ですでに参加標準記録も突破している高山峻野選手(ゼンリン)、6月6日の木南記念で13秒35のU20日本最高をマークして、参加標準記録に0.03秒まで迫った村竹ラシッド選手(順天堂大)、日本歴代5位タイの13秒39の自己記録を持つ石川周平選手(富士通)と、日本リストの上位を占める選手が集結しての勝負となりました。レースは、唯一向かい風(-0.8m)となった予選1組で、全体トップとなる13秒48をマークしていた金井選手が、決勝(+1.8m)も安定した強さを披露。新記録の樹立等はならなかったものの13秒40で快勝しました。石川選手と高山選手が競り合った2位争いは、13秒48の同タイムながら着差ありで石川選手が2位、高山選手が3位という結果。村竹選手は、13秒52(-0.8)で予選を通過しましたが連戦の疲労が著しかったため決勝は棄権しました。
なお、この決勝に先駆けて行われたB決勝では、高校生の小池綾選手(大塚高校)が13秒台でフィニッシュ。高校歴代6位タイとなる13秒93の好記録をマーク(6着)して、夏に向けて期待を膨らませる結果を残しています。
写真:児玉育美
9秒台をずっと出したいと思ってやってきていたので、今日出せてよかった。(東京オリンピック参加標準記録を突破することができ)肩の荷が下りた。ここまで、いつも近くで支えてくれるチームメイトが、しんどいときもサポートしてくれたことが、とても力になった。
この大会はオリンピックを狙ううえで、勝負という意味でも外せない試合だと思っていた。そのなかで勝てて、タイムもついてきて、本当によかった。(オリンピック代表選考会の)日本選手権では、3番に入って、オリンピックの(出場する)権利を勝ち取りたい。また、勝負はオリンピックだと思っているので、しっかりそこで頑張りたい。
※レース直後の会場インタビューより。
このほか、山縣選手のレース後記者会見の模様は、https://www.jaaf.or.jp/news/article/14951/に詳細を掲載しています。
写真:児玉育美
本当によかった。「公認であれ」と祈っていた。
織田(記念、4月29日)とテスト大会(READY STEADY TOKYO、5月9日)で、「勝ちたい」「記録出したい」と思って(臨んだところ)、あまり(結果が)良くなかったので、(今回は)力まずに、寺田さんと競るようなレースをしようと考えていた。それができれば勝手に記録は出るかなと思っていた。
予選の前の(ウォーミング)アップは本当に調子が悪くて、「ヤバい」と思うほどの状態だったが、(焦ることなく)レースは落ち着いて走ろうと思うことができていた。また、決勝は、(気象)コンディションがよかったので、絶対に寺田さんが(記録を)出すだろうなと思っていて、そこについていけば、自分も念願の12秒台は出るかなと考えていた。
決勝は、アップで1台目がうまく入ることができずにいたので、そこにあまりこだわりすぎず、スタートから3台目までをしっかりバランスを崩さないように大事に行き、そのあとはしっかり走るだけ、という意識で、そこを大切に行った。(スタート後に)寺田さんにガッと(前に)出られることもなかったので、去年の福井(アスリートナイトゲームスin福井、追い風参考記録ながら12秒87をマークして優勝)のときみたいに、そこからは自分のリズムでしっかり行こうと思って走った。
レース中盤は、寺田さん(の姿)が見えていたので、ここで(ハードルに)ぶつけないように、リズムを落とさずに維持するだけを心がけた。最後の10台目を越えたあとも、(寺田さんが)見えていたので、もう、必死に走った。
今年は、室内(日本選手権室内)の前から股関節を痛めていた。関節唇(かんせつしん)に傷があるということで、休んですぐに治るものではなかったし、このシーズンはオリンピック(出場)の可能性もあるので、ドクターとも相談しながら痛みがひどくならないように注意しながら、できる限りのことをやろうと取り組んできた。幸い、(故障のほうは)徐々に良くなってきている。
女子のハードルは、寺田さんが復帰されてから、一気にレベルが上がった。「自分も12秒台は出せる」という気持ちでずっとやってきたわけだが、今シーズンは寺田さんがずっと12秒台を連発していたので、「やっぱり(寺田さんは)周りとは(頭)一つ違うのかな、そこに自分は行けるのかな」という思いにかられたこともあった。しかし、今日、しっかりと競り合うことができて、勝てて、記録も出すことができたので、「自分も(寺田さんと)高め合いながら、もっと上に行きたいな」ということを改めて感じている。
(東京オリンピックに向けては、ワールドランキング順位での出場だけでなく、参加標準記録12秒84のクリアも見えてきたのでは? との問いに)まだどうなるかはわからないので、ドキドキしてはいるが、次のレースは日本選手権。最後まで気を抜かずに、いいレースができればと思う。
ちょっと力んでしまった。春先と比べたら、力みもだいぶマシにはなってきていたのだが、後半の弱さが出てしまった。山縣選手との0.06秒は、その差かなと思う。
予選は、スタートの部分で少し浮いてしまったり、後半も横を見てしまったりと、走りの内容が全然ダメだった。それでも自己記録と同じ10秒07…追い参(追い風参考:+2.6)ではあったが…で走れたので、決勝は、本当にしっかり走れば優勝も狙えるかなという気持ちで出場していた。ただまあ、なかなか及ばなくて…(苦笑)、また負けてしまったので、日本選手権ではリベンジするつもりで臨み、しっかり優勝して、オリンピック(の代表権)を勝ち取れるようにしていきたい。
10秒01は自己新記録。フィニッシュ後は、(記録の発表までに時間がかかったので)自分が何秒か全然わからなかったが、そんなに差がない状態で山縣選手が9秒95だったので、「五輪標準記録(10秒05)は切っているだろうな、もしかしたら9秒台…9秒99とかが出たかな」という気持ちだった。そのあとでの10秒01だったので、ちょっと悔しいなという思いがあった。それでも、自己記録の更新は4年ぶり。(記録が伸び悩んで)挫折しそうな時期もあったし、むしろ苦しい時期のほうが長かったが、佐藤(真太郎)コーチを信じてやってきた成果が、このタイムとなったと思う。諦めずに頑張ってきて、本当によかった。
後半の力みについては、それ以前にもともと後半が弱いという面が課題としてある。去年、周りの選手を意識して硬くなってしまうというパターンが多かったので、今季は、それを意識しないように自分のレーンだけを見て、後半になっても自分の走りをすることを心がけていて、体重を乗せるイメージで走ると、後半がバテにくくなることを感じていた。また、(得意の)スタートの部分でも、春先は力みが出ていて、そのせいで中盤までに最速ギアに到達して、そこから減速してしまうパターンが多かったのだが、今回は、スタートは足を置いていくイメージで、体重移動させながら出ていくイメージを意識して走ったら、中盤以降も軽やかに走ることができた。こうしたことは、ここまでにもいろいろ試してはいたけれど、(走りに)キレがないとなかなかできないことで、試合を重ねてきたなかで、だんだんとできるようになってきたのかなと感じている。
日本選手権は、今までにない緊張感のあるレースになるはずで、そこで集中できた人が(100mの五輪代表となる)3番以内に入ってくる。自分の場合は、スタートは今までの通りの感じで行くことと、あとは後半。今日も、中盤過ぎまでは(山縣選手と)一緒で、本当に後半の差だった。そこの弱さが今回は出たので、これからの2週間で克服したい。今日のレースで、また課題が見えてきたと思うので、あとで走りをよく見返して、どう改善に取り組んでいくのかを、コーチと相談しながら取り組みたい。ただ、自分は、試合を重ねていくごとに調子も上がっていくタイプ。日本選手権には、もっといい走りをお見せしたいなと思う。
文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真:アフロスポーツ
~東京への最終章~ 東京五輪内定をかけた最終決戦!
第105回日本陸上競技選手権大会 6月24日~27日開催!
#誇りをまとうために。
https://www.jaaf.or.jp/jch/105/
■サトウ食品日本グランプリシリーズ特設サイトはこちら
https://www.jaaf.or.jp/gp-series/
■9秒95日本新記録!布勢スプリント優勝 /男子100m山縣亮太選手 記者会見コメント
https://www.jaaf.or.jp/news/article/14951/
男子100mで9秒95!
初の9秒台&日本新記録で山縣が完全復活!
太平洋沿岸が梅雨前線に覆われる気圧配置となるなか、開催地の鳥取市は朝から快晴に恵まれ、青空が広がりました。気温が28℃前後まで上がりながらも湿度は30%台と過ごしやすい陽気に。また、会場のヤマタスポーツパーク陸上競技場は、グランプリ種目が始まるあたりから、ホームストレートが適度な追い風が吹き始め、“直線種目”にとって絶好のコンディションのなか競技が行われました。
この日の最大の注目は、男子100m。桐生祥秀選手(日本生命)、小池祐貴選手(住友電工)、山縣亮太選手(セイコー)、ケンブリッジ飛鳥選手(Nike)、多田修平選手(住友電工)がエントリーし、現在、国外を拠点としている日本記録保持者(9秒97)のサニブラウン アブデルハキーム選手(タンブルウィードTC)を除くトップランカーが顔を揃えたことで、オリンピック代表選考会となる日本選手権の前哨戦として、記録・勝負ともに期待の集まるなかでのレースとなりました。
上位2着+2の決勝進出条件で行われた予選では、第1組で多田選手が、2017年にマークした自己記録に並ぶ10秒07でフィニッシュ、ケンブリッジ選手が10秒24・2着で続く展開に。追い風2.6mであったために残念ながら参考記録となりましたが、オリンピック参加標準記録の10秒05に迫るタイムが出たことで、会場のムードが一気にヒートアップします。そして、1.7mと絶好の追い風のなかでのレースとなった第2組では、山縣選手が今季日本最高となる10秒01でフィニッシュして、この種目4人目のオリンピック参加標準記録突破者に。2着には、すでに標準記録突破済みの小池選手がシーズンベストの10秒18で続き、3着の東田旺洋選手(栃木スポ協)が自己タイの10秒21をマークする好走を見せました。さらに3組目では、5月9日のREADY STEADY TOKYO(以下、RST)を不正出発で失格していた桐生選手が、追い風参考(+2.6m)ながら山縣選手に並ぶ10秒01をマークして先着し、2着の永田駿斗選手(住友電工)も自己記録(10秒31)を上回る10秒22でフィニッシュ。決勝は、ここまでに挙げた7選手に1組3着の遠藤泰司選手(新日本住設)を加えた8名で行われることとなりました。
日本選手権を見据えて、この大会の出走は1本のみと決めていた桐生選手がここでレースを終えたため、7人で行われることになった決勝は、約3時間のインターバルをとって行われました。後方からの風を感じながらスタートラインについた選手たちは、一発できれいにスタート。前半から飛び出すことを得意とする多田選手と山縣選手が反応よく飛び出しますが、まずは多田選手が先行しました。しかし、中盤付近で山縣選手が追いつくと、そこから両者の競り合いに。80m付近で今度は山縣選手がリードを奪って、そのまま先着し、僅差で多田選手が続きました。山縣選手のフィニッシュと同時に、フィニッシュタイマーが日本記録でもある9秒97で止まったことで、場内にはどよめきが。この計時がいったん消え、正式計時が発表されるまでには、少し時間が空く形となりました。まず、風が追い風2.0mで公認であることがアナウンスされると、山縣選手が小さくガッツポーズ。その直後に、正式結果として「9.95」のタイムが表示され、2019年にサニブラウン アブデルハキーム選手(当時フロリダ大、現タンブルウィードTC)がマークした9秒97を更新する日本新記録の誕生が確定。場内が大きな拍手で包まれました。日本人としては4人目、国内レースでは2回目となる9秒台。また、アジア歴代記録では3位ながら、アジア出身の競技者としては、アジア記録保持者の蘇炳添選手(中国、9秒91)に次ぐタイムです。これにより、山縣選手は同日時点の2021年世界リスト8位、オリンピック出場枠を考慮して1カ国3人を上限で順位をつけると5位タイという位置に浮上しました。
2位でフィニッシュした多田選手のタイムは10秒01(日本歴代6位)で、関西学院大3年の2017年日本インカレでマークした10秒07の自己記録を4年ぶりに更新するとともに、オリンピック参加標準記録もクリアしました(山縣選手、多田選手のコメントは、別記をご参照ください)。この2人に続いたのは小池選手で、序盤が出遅れたなか、ラストで順位を上げ、今季自己最高の10秒13でフィニッシュしました。4・5位の東田選手・永田選手は10秒18・10秒22と、ともに自己新記録をマーク。ケンブリッジ選手は10秒28・6位という結果になりました。
女子100mHは、青木が12秒87の日本タイで優勝
2位・寺田も12秒8台でフィニッシュ
男子100mだけでなく、女子100mHでも好記録が続出しました。3組上位2着+2の決勝進出条件で行われた予選では、第1組で、この1~2年の成長が著しい鈴木美帆選手(長谷川体育施設)が日本歴代2位となる13秒00(+1.5)をマークすると、2組では、この種目のトップランカーである青木益未選手(七十七銀行)が13秒01(+0.8)でフィニッシュして自己記録を0.01秒更新、そして3組では、6月6日の木南記念で自身の日本記録を12秒87へと更新したばかりの寺田明日香選手(ジャパンクリエイト)が12秒95(+0.9)で先着。決勝でのハイレベルな戦いに加えて、オリンピック参加標準記録(12秒84)突破の期待を大きく高める滑りだしを見せました。
グランプリ4種目の先陣を切って行われた決勝は、寺田選手が1台目からリードを奪う入りを見せたものの、3台目のハードルをぶつけて、その後の加速にやや鈍りを生じさせてしまいます。その間にスタートから寺田選手に次ぐ位置につけていた青木選手がスピードに乗って、中盤あたりで先頭に立つと、そのままフィニッシュラインを駆け抜けました。速報値12秒89で止まったフィニッシュタイマーは、その後、上方修正されて12秒87の正式結果が表示。風も公認の1.8mであることがアナウンスされ、寺田選手に並ぶ12秒87の日本タイ記録誕生となりました。
青木選手は、昨年の日本選手権と3月の日本選手権室内(60mH)をともに制し、60mHでも日本記録(8秒05)も樹立している実力者。この大会までの100mHの自己ベストは、昨年の日本選手権を制した際に出した13秒02でしたが、昨年のアスリートナイトゲームズイン福井では、2.1mの追い風のなか12秒87で走っています。今回は奇しくも同タイム。公認記録でも長年の念願であった12秒台ハードラーの仲間入りを果たしました(青木選手の日本タイ記録樹立コメントは、別記ご参照ください)。
2位の寺田選手は、「3台目の大クラッシュ」(寺田選手)に加えて終盤でもミスがあったというなか12秒89でフィニッシュ。“失敗レース”と位置づけた状態でも3回目の12秒8台をマークしました。今季は、屋外の全8パフォーマンスのうち、初戦だった織田記念の予選(13秒25)を除く7レースがすべて12秒台。高いレベルでの安定感が、一段と際立つ結果となりました。3位には、序盤は4~6番手に位置していた鈴木選手が、中盤以降で順位を上げてフィニッシュ。12秒台突入はならなかったものの、予選の13秒00に続くセカンドベストの13秒01をマークし、このレベルでの安定感を印象づけました。4位の木村文子選手(エディオン、13秒18)、5位の清山ちさと選手(いちご、13秒20)は、決勝で記録を伸ばすことはできませんでしたが、予選で木村選手は13秒12、清山選手は13秒14と、ともにシーズンベストをマークする結果を残しています。
女子100mは御家瀬が復調の兆し示すV
男子110mHは金井が貫禄の勝利
このほか、女子100mは、恵庭北高(北海道)3年の2019年に日本選手権優勝を果たし、同年にU20日本歴代2位となる11秒46をマークしている御家瀬緑選手(住友電工)が11秒57(+1.6)で優勝。昨シーズンからの不調を脱し、日本選手権に向けて着実に調子を上げてきている様子をうかがわせました。御家瀬選手に続いたのは、名倉千晃選手(NTN)。予選を全組トップタイムとなる11秒53(+2.0)で走って、2017年と2020年にマークしていた11秒63の自己記録を更新すると、決勝でも11秒59でフィニッシュ。2レース続けて自己記録を上回るとともに、11秒5台で揃えました。
世界水準といえるハイレベルなパフォーマンスが続いている男子110mHは、関東インカレで13秒30をマークしてオリンピック参加標準記録(13秒32)を突破した泉谷駿介選手(順天堂大)は出場しなかったものの、織田記念で13秒16の日本記録を樹立した金井大旺選手(ミズノ)、前日本記録保持者(13秒25)ですでに参加標準記録も突破している高山峻野選手(ゼンリン)、6月6日の木南記念で13秒35のU20日本最高をマークして、参加標準記録に0.03秒まで迫った村竹ラシッド選手(順天堂大)、日本歴代5位タイの13秒39の自己記録を持つ石川周平選手(富士通)と、日本リストの上位を占める選手が集結しての勝負となりました。レースは、唯一向かい風(-0.8m)となった予選1組で、全体トップとなる13秒48をマークしていた金井選手が、決勝(+1.8m)も安定した強さを披露。新記録の樹立等はならなかったものの13秒40で快勝しました。石川選手と高山選手が競り合った2位争いは、13秒48の同タイムながら着差ありで石川選手が2位、高山選手が3位という結果。村竹選手は、13秒52(-0.8)で予選を通過しましたが連戦の疲労が著しかったため決勝は棄権しました。
なお、この決勝に先駆けて行われたB決勝では、高校生の小池綾選手(大塚高校)が13秒台でフィニッシュ。高校歴代6位タイとなる13秒93の好記録をマーク(6着)して、夏に向けて期待を膨らませる結果を残しています。
【好記録樹立者コメント】
<新記録樹立者>
男子100m
優勝 山縣亮太(セイコー)
9秒95(+2.0) =日本新記録
※予選(10秒01)・決勝(9秒95)ともに東京オリンピック参加標準記録を突破写真:児玉育美
9秒台をずっと出したいと思ってやってきていたので、今日出せてよかった。(東京オリンピック参加標準記録を突破することができ)肩の荷が下りた。ここまで、いつも近くで支えてくれるチームメイトが、しんどいときもサポートしてくれたことが、とても力になった。
この大会はオリンピックを狙ううえで、勝負という意味でも外せない試合だと思っていた。そのなかで勝てて、タイムもついてきて、本当によかった。(オリンピック代表選考会の)日本選手権では、3番に入って、オリンピックの(出場する)権利を勝ち取りたい。また、勝負はオリンピックだと思っているので、しっかりそこで頑張りたい。
※レース直後の会場インタビューより。
このほか、山縣選手のレース後記者会見の模様は、https://www.jaaf.or.jp/news/article/14951/に詳細を掲載しています。
女子100mH
優勝 青木益未(七十七銀行)
12秒87(+1.8) =日本タイ記録
写真:児玉育美
本当によかった。「公認であれ」と祈っていた。
織田(記念、4月29日)とテスト大会(READY STEADY TOKYO、5月9日)で、「勝ちたい」「記録出したい」と思って(臨んだところ)、あまり(結果が)良くなかったので、(今回は)力まずに、寺田さんと競るようなレースをしようと考えていた。それができれば勝手に記録は出るかなと思っていた。
予選の前の(ウォーミング)アップは本当に調子が悪くて、「ヤバい」と思うほどの状態だったが、(焦ることなく)レースは落ち着いて走ろうと思うことができていた。また、決勝は、(気象)コンディションがよかったので、絶対に寺田さんが(記録を)出すだろうなと思っていて、そこについていけば、自分も念願の12秒台は出るかなと考えていた。
決勝は、アップで1台目がうまく入ることができずにいたので、そこにあまりこだわりすぎず、スタートから3台目までをしっかりバランスを崩さないように大事に行き、そのあとはしっかり走るだけ、という意識で、そこを大切に行った。(スタート後に)寺田さんにガッと(前に)出られることもなかったので、去年の福井(アスリートナイトゲームスin福井、追い風参考記録ながら12秒87をマークして優勝)のときみたいに、そこからは自分のリズムでしっかり行こうと思って走った。
レース中盤は、寺田さん(の姿)が見えていたので、ここで(ハードルに)ぶつけないように、リズムを落とさずに維持するだけを心がけた。最後の10台目を越えたあとも、(寺田さんが)見えていたので、もう、必死に走った。
今年は、室内(日本選手権室内)の前から股関節を痛めていた。関節唇(かんせつしん)に傷があるということで、休んですぐに治るものではなかったし、このシーズンはオリンピック(出場)の可能性もあるので、ドクターとも相談しながら痛みがひどくならないように注意しながら、できる限りのことをやろうと取り組んできた。幸い、(故障のほうは)徐々に良くなってきている。
女子のハードルは、寺田さんが復帰されてから、一気にレベルが上がった。「自分も12秒台は出せる」という気持ちでずっとやってきたわけだが、今シーズンは寺田さんがずっと12秒台を連発していたので、「やっぱり(寺田さんは)周りとは(頭)一つ違うのかな、そこに自分は行けるのかな」という思いにかられたこともあった。しかし、今日、しっかりと競り合うことができて、勝てて、記録も出すことができたので、「自分も(寺田さんと)高め合いながら、もっと上に行きたいな」ということを改めて感じている。
(東京オリンピックに向けては、ワールドランキング順位での出場だけでなく、参加標準記録12秒84のクリアも見えてきたのでは? との問いに)まだどうなるかはわからないので、ドキドキしてはいるが、次のレースは日本選手権。最後まで気を抜かずに、いいレースができればと思う。
<オリンピック参加標準記録突破者>
男子100m
2位 多田修平(住友電工)
10秒01(+2.0) =東京オリンピック参加標準記録突破
ちょっと力んでしまった。春先と比べたら、力みもだいぶマシにはなってきていたのだが、後半の弱さが出てしまった。山縣選手との0.06秒は、その差かなと思う。
予選は、スタートの部分で少し浮いてしまったり、後半も横を見てしまったりと、走りの内容が全然ダメだった。それでも自己記録と同じ10秒07…追い参(追い風参考:+2.6)ではあったが…で走れたので、決勝は、本当にしっかり走れば優勝も狙えるかなという気持ちで出場していた。ただまあ、なかなか及ばなくて…(苦笑)、また負けてしまったので、日本選手権ではリベンジするつもりで臨み、しっかり優勝して、オリンピック(の代表権)を勝ち取れるようにしていきたい。
10秒01は自己新記録。フィニッシュ後は、(記録の発表までに時間がかかったので)自分が何秒か全然わからなかったが、そんなに差がない状態で山縣選手が9秒95だったので、「五輪標準記録(10秒05)は切っているだろうな、もしかしたら9秒台…9秒99とかが出たかな」という気持ちだった。そのあとでの10秒01だったので、ちょっと悔しいなという思いがあった。それでも、自己記録の更新は4年ぶり。(記録が伸び悩んで)挫折しそうな時期もあったし、むしろ苦しい時期のほうが長かったが、佐藤(真太郎)コーチを信じてやってきた成果が、このタイムとなったと思う。諦めずに頑張ってきて、本当によかった。
後半の力みについては、それ以前にもともと後半が弱いという面が課題としてある。去年、周りの選手を意識して硬くなってしまうというパターンが多かったので、今季は、それを意識しないように自分のレーンだけを見て、後半になっても自分の走りをすることを心がけていて、体重を乗せるイメージで走ると、後半がバテにくくなることを感じていた。また、(得意の)スタートの部分でも、春先は力みが出ていて、そのせいで中盤までに最速ギアに到達して、そこから減速してしまうパターンが多かったのだが、今回は、スタートは足を置いていくイメージで、体重移動させながら出ていくイメージを意識して走ったら、中盤以降も軽やかに走ることができた。こうしたことは、ここまでにもいろいろ試してはいたけれど、(走りに)キレがないとなかなかできないことで、試合を重ねてきたなかで、だんだんとできるようになってきたのかなと感じている。
日本選手権は、今までにない緊張感のあるレースになるはずで、そこで集中できた人が(100mの五輪代表となる)3番以内に入ってくる。自分の場合は、スタートは今までの通りの感じで行くことと、あとは後半。今日も、中盤過ぎまでは(山縣選手と)一緒で、本当に後半の差だった。そこの弱さが今回は出たので、これからの2週間で克服したい。今日のレースで、また課題が見えてきたと思うので、あとで走りをよく見返して、どう改善に取り組んでいくのかを、コーチと相談しながら取り組みたい。ただ、自分は、試合を重ねていくごとに調子も上がっていくタイプ。日本選手権には、もっといい走りをお見せしたいなと思う。
文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真:アフロスポーツ
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