第55回織田記念陸上が4月29日、サトウ食品日本グランプリシリーズ「広島大会」として、広島広域公園陸上競技場(エディオンスタジアム広島)において開催されました。この大会は、ワールドアスレティックス(WA)が世界で展開する「WAコンチネンタルツアーブロンズ」大会としても位置づけられている国際競技会です。当日は、朝からの雨が予報よりも長引いて、午後遅くまで残る悪天候に。この影響で気温も上がらず、特にフィールド種目の決勝は寒さとも戦いつつの競技となりました。
また、“第4波”といわれる新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響を受けて、この大会でも、開催直前に急きょ出場者スタッフの人数制限や競技者との対面取材をなくしてオンラインに切り替えるなどの措置に追われました。しかし、5000人に限定されることにはなったものの、観客のスタジアムへの来場が許されたことで、有観客での開催が実現。観戦するにも寒すぎる1日となったにもかかわらずスタンドからの温かく力強い拍手が、選手たちをあと押しました。
グランプリ種目は、トラック・フィールドともに各7種目が行われましたが、雨が上がり、雲間から日が差し始めた時間帯に行われた男女スプリントハードル種目で、一気にヒートアップしました。まず、男子110mHのA決勝で、1.7mという絶好の追い風にも恵まれ、前日本記録保持者の金井大旺選手(ミズノ)が13秒16の日本新記録で快勝。13秒32の東京オリンピック参加標準記録を突破するとともに、シニア規格では日本人初の13秒1台突入を果たして、高山峻野選手(ゼンリン)が2019年にマークした13秒25を塗り替え、日本記録を奪還したのです。13秒16は、2004年アテネオリンピックで、アジア人として初めてトラック種目の金メダリストとなった劉翔(中国)が2006年にマークした12秒88(当時、世界記録)に次ぐアジア歴代2位となるもので、この時点では今季世界3位、2020年の世界リストでは4位に相当する素晴らしい記録です。2位で続いたのは、3月の日本選手権室内60mHで7秒50の室内日本新記録を樹立して優勝を果たした泉谷駿介選手(順天堂大)。U20規格の110mHでは13秒19(U20日本記録、2019年)の記録を出している選手です。泉谷選手は、参加標準記録突破には0.01秒まで迫る13秒33でフィニッシュし、日本歴代3位で学生記録でもあった従来の自己記録(13秒36)を0.03秒更新しました。また、3位・石川周平選手(富士通)の13秒44はセカンドベスト、4位の村竹ラシッド選手(順天堂大)も13秒53の自己新をマークして自身のU20日本歴代2位記録を更新するハイレベルなレースでした。
男子に続いて行われた女子100mHも、追い風1.6mの好条件のなか行われたA決勝で、寺田明日香選手(ジャパンクリエイト)が圧勝し、2019年に自身がマークした日本記録(12秒97)を100分の1秒更新する12秒96をマークしました。この大会における寺田選手の優勝は、2010年の第44回大会以来。屋外シーズン初戦から快調な滑りだしを見せる結果となりました(日本新記録を樹立した金井選手の寺田選手、学生新記録を樹立した泉谷選手のコメントは、別記をご覧ください)。
ケンブリッジ飛鳥選手(Nike)が出場を見合わせたものの、日本歴代で上位記録を持つ国内在住の桐生祥秀(日本生命)、小池祐貴(住友電工)、山縣亮太(セイコー)、多田修平(住友電工)の4選手が顔を揃えたことで大きく注目された男子100mは、ショートスプリント種目のグランプリ最終種目としてA決勝が行われ、雨のなか行われた予選を10秒29(+1.0)の全体トップタイムで決勝に駒を進めた山縣亮太選手(セイコー)が、序盤からリードを奪ってそのまま逃げ切り、10秒14(+0.1)で優勝を果たしました。2019年に肺気胸により日本選手権を欠場して以降、故障が続いた影響で結果を出せていなかった山縣選手が10秒1台をマークするのは、2019年5月のセイコーゴールデングランプリ(10秒11・5位)以来となります。2021年度としては初戦となった故郷での大会を上々のタイムと優勝で飾ったことで、ファンを大いに喜ばせました。2位以降は、終盤で猛追した小池選手が10秒26で先着、桐生選手が10秒30で3位、多田選手が10秒32・4位で続く結果となりました。
フィールド種目で目を引いたのは男女やり投。悪天候のなかでの実施となった女子やり投では、佐藤友佳選手(ニコニコのり)が1回目からセカンドベストの61m01をマーク。2回目にも60m11を投げました。雨と低温が災いして記録を伸ばすことはできず、結果としては1回目の試技が優勝記録となったものの、64m00の参加標準記録突破は十分に可能な状況に仕上がっていることを印象づけました。天候が少しずつ回復に向かうなか行われた男子やり投では、ディーン元気選手(ミズノ)が3回目に80m17を投げてトップに立ちましたが、最終6回目で小南拓人選手(染めQ)が自己記録を79cm更新する82m52をマークして逆転優勝。この記録によって、小南選手は、日本歴代でディーン選手(84m28、日本歴代4位)に続く日本歴代5位へと浮上することとなりました。
男女3000mSCは、好記録ラッシュとなった兵庫リレーカーニバル(2000mSC)から中3日でのレース。男子は、中盤から独走に入った塩尻和也選手(富士通)を、ラスト1周で後続集団が追い上げる展開となりました。優勝したのはホームストレートでの競り合いを制したフィレモン・キプラガット選手(愛三工業)で8分25秒13をマーク。2位には、昨年日本歴代2位の8分19秒37(U20日本記録)を樹立して大きく注目を集めた三浦龍司選手(順天堂大)が自己2位の8分25秒31で続き、8分26秒52で3位となった山口浩勢選手(愛三工業)までが大会記録を更新しました。一方、優勝争いが早い段階から兵庫リレーカーニバル2000mSCで日本最高記録を樹立したばかりの山中柚乃選手(愛媛銀行)と2019年ドーハ世界選手権代表の吉村玲美選手(大東文化大)の2人に絞られる展開となった女子は、山中選手を突き放した吉村選手が大会新記録となる9分51秒47で優勝。2位でフィニッシュした山中選手も9分53秒00の大会新記録をマークしました。
このほか、男子走幅跳は小田大樹選手(ヤマダホールディングス)が、橋岡優輝選手(富士通)らオリンピック参加標準記録突破者3選手を押さえて、7m98(+2.4)で優勝。男子三段跳はU20日本記録保持者(16m35)の伊藤陸選手(近畿大工業専門)が最終跳躍で16m15(+0.3)を跳んで逆転Vを果たしました。出場13選手中5選手が記録なしとなった男子棒高跳は、悪条件のなか安定した跳躍を見せた竹川倖生選手(丸元産業)が5m45で制し、3選手が1m74で並んだ女子走高跳も、すべての試技を1回でクリアした高橋渚選手(日本大)が勝利しました。また、女子100mは君嶋愛梨沙選手(土木管理総合)が11秒64(+0.9)の自己新記録で、女子砲丸投でも大野史佳選手(埼玉大)が初めて16m台に乗せる16m04(日本歴代8位)の自己新記録で、それぞれ優勝を果たしています。
タイムレース2組で行われた女子5000mの第2組には、この種目でオリンピック代表に内定済みの田中希実選手(豊田自動織機TC)が出場。連戦することで強化を図っている田中選手は、1500mを制した4月25日に兵庫リレーカーニバルに続いてのレースでしたが、15分11秒82をマークして日本人トップの3位で競技を終えました。レースを制したのはガテリ・テレシア・ムッソーニ選手(ダイソー)。大会新記録の15分06秒76をマークしています。また、出場10選手全員が大会記録を更新する結果となった男子3000mは、森田佳祐選手(小森コーポ)が7分53秒01で制したほか、ノングランプリ種目ながら2組タイムレースで行われた男子5000mでは、高校3年生の佐藤圭汰選手(洛南高)が高校歴代4位の13分42秒50をマークして総合で日本人トップの4位に食い込む好走を見せました。この記録は、U18のカテゴリーでは日本歴代2位、今季世界最高となる好記録です。
【新記録樹立者コメント】
男子110mH
優勝 金井大旺(ミズノ)
13秒16(+1.7)=日本新記録、東京オリンピック参加標準記録突破
(屋外のレースでは)2週間前の法政大学の記録会で13秒36(+1.3)を出していて、織田記念になると緊張感もより高まるので、その記録は上回れるのではないかと考えていたのだが、13秒16というタイムは予想外。感覚よりもタイムがよく、想定していなかったので、びっくりしているというのが正直なところである。
オリンピック参加標準記録を突破できたことはよかったと思うが、ただ、ここで突破できたからといっても、日本選手権で結果を出さなければ内定しないという点で、まだまだ安心できないという気持ちが強い。ここからも身を引き締めて頑張りたい。
今日のレースでは、予選(13秒55、±0)ではスタートがよくなかったのだが、決勝でそこをしっかり修正することができた。そこがよかったのではないかと思う。記録が更新できた要因としては、冬場にウエイトトレーニングでしっかりと身体全体の底上げができたことが一番大きいと感じている。筋量も増えたし、パワーもついたことによって1歩1歩の出力が高まっている。その出力とインターバル間の走りとをしっかり結びつける作業が必要で、ここまでそこが噛み合っていない感触があったのだが、今回のレースで噛み合ったように思う。スピードの速いなかで(インターバルランニングを)刻むことができた。
「13秒1台」という記録については、まずは日本記録(13秒25)を切ってから(13秒1台を考える)という感じだったので、考えたこともなかった。いきなり(記録水準が)飛び上がりすぎたという感じ。ただ、世界で戦うことを考えたとき、(世界大会の)決勝進出ラインが2台から1台なので、ようやくそのスピードまで迫ってきたなという思いもある。
(今、日本のレベルがどんどん上がっているが)国内で同じような記録で走る選手がいることで、1日、1日の練習の質も上がるし、相手を意識して試合もトレーニングも積む。それによって必然的に基準値が底上げできていることが自分にはプラスになっている。また、日本のレベルが上がっているので、まずは国内で勝つことが、世界(で結果を出すこと)に繋がっていく。まずは、日本で勝ち続けることを凝視してやっていきたい。
次は日本選手権(での結果)が重要になってくる。しっかりと、確実に取り組みたい。(今回、予選で課題の残った)スタートも、自分の場合はフライングがたまにあるので、今日見つけた課題を修正していきたい。
男子110mH
2位 泉谷駿介(順天堂大)
13秒33(+1.7)=学生新記録
1台目を引っかけてしまったので、内容としてはよくなかった。(スタートから第1ハードルまでを8歩から)7歩にしてから1台目の入りが安定せず難しい。また、今日の決勝では、スタートで(金井選手に)行かれで焦ってしまい、自分のリズムで走れなかったという反省もある。まずは、もっと自分の走りに集中しなければいけないと感じた。ただ、1台目をひっかけても、後半で追いつけたという感触があったので、そういう面では力はついているのかなと感じている。
ここまでの状況としては、良い状態で来ている。この冬は、走ることと跳ぶことの基礎的なところをしっかりやってくることができた。スプリントも調子がよくて、100m(自己記録10秒37、2019年)でも自己ベストを出せそうな感じになっている。それだけに、スタートの7歩を、もっと練習して、安定させることが必要かなと思う。
記録については、自己新記録(学生新記録)ではあるけれど、0.01秒足りずにオリンピック標準記録が切れなかったので、なんともいえない気持ちである。次のレースは、5月9日に国立競技場で開催されるREADY STEADY TOKYOとなる。ここでしっかりタイムを狙って参加標準記録を突破したい。
同じレースで(金井選手が)日本記録を出されたことに対しては悔しいという気持ち。13秒1台という記録も、まさか1台が出るとは思っていなかったので驚いている。今は、オリンピックでどうこうというよりは、少しでも金井さんに近づかなければと思うが、それ以上に、自分のことにしっかり集中して、自分のレースをすることが大切という気持ち。まずはそこからだなと思っている。
女子100mH
優勝 寺田明日香(ジャパンクリエイト)
12秒96(+1.6) =日本新記録
天気が良くなってきて、いい風が吹いてきたので、(13秒)0台で走れたらいいなとは思っていた。ここまでタイムが出るとは思っていなかったのだが、トライアルのときに割と身体が動いていたので、そのまま行ければいいなと思って走った。珍しく7台目が8台目のところで、けっこう大きく(ハードルに)ぶつけてしまいバランスを崩してしまったのだが、そのなかでも今回の記録が出たことで、「(記録更新は)まだ行けるな」という自信にもなった。
(昨年からずっと課題にしてきた)走りがだいぶ良くなってきている。まだ噛み合っていない部分はあって、ハードル間のインターバルが走れれば走れるほど私のいいところが出てくると思っているので、もっと良くしていく必要はあるのだが、初戦にしては良かったと思う。
織田記念は記録が出る大会なので、大会に臨む前の段階では、ここで(オリンピック参加標準記録の)12秒84以上で走りたいと思っていた。しかし、午前中の天気や自分の走りを考えたなかで、(決勝で)そこまで行くのは難しいかなという気持ちになっていた。ただ、私たち(女子のレース)の前に金井(大旺)くん(男子110mH)が走って日本記録をマークしたことで、同じ北海道(出身)の人間として「金井くんに追いつきたいな」と思ったし、「(記録を)出せるんだ!」と思うことができた。金井くんの日本記録が、私の気持ちを変えてくれたなと思う。
(フィニッシュタイマー前での記念撮影の際、娘を呼んだのは)前の(日本記録樹立となった12秒)97を出したときに、娘が「ママだけ写って、ずるい」と言っていたのと、それ以降、娘に1番で走った姿を見せることができていなかったということが(背景に)あって、今回、娘が会場で見ていたなかで記録を出せたので一緒に撮ってもらうことができたら…と思っていたから。(運営や報道に関わる)皆さんがそういう時間をくださったので、本当にありがたかった。
ハードルをぶつけたという点もあるし、もっと気温が高ければもっと身体も動いてくると思う。次のレースは、5月9日のREADY STEADY TOKYOを予定している。(女子100mHはイブニングセッションを想定した20時25分のスタートとなるので)眠くならないかというところだけがちょっと心配だが、これから生活の時間をずらしながら身体を慣らしていって、今日より速く走りたい。
文、写真:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真:アフロスポーツ
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