第7期ダイヤモンドアスリートに向けたリーダーシッププログラムの第2回が3月11日、オンライン形式で行われました。ダイヤモンドアスリート(DA)は、東京オリンピックやその後の国際大会での活躍が大いに期待できる次世代の競技者を強化育成するために2014-2015年を第1期としてスタートした制度。リーダーシッププログラムは、「豊かな人間性を持つ国際人育成のための個を重視した育成プログラムの中でリーダーシップ教育と位置づけて行い、国際的なリーダーシップを発揮できるアスリートの育成を目指す」ことを目的( http://www.jaaf.or.jp/diamond/program/ )に、東京マラソン財団スポーツレガシー事業として実施されています。
2回目となる今回も、第7期生(https://www.jaaf.or.jp/news/article/14653/ )のうち、国内にいる中村健太郎選手(日本大、やり投)、出口晴翔選手(順天堂大、400mH)、藤原孝輝選手(洛南高、走幅跳)、栁田大輝選手(東京農業大学第二高、100m )、アツオビンジェイソン選手(大阪桐蔭高、砲丸投)の5名が参加しました。この日は、2011年3月11日に起きた東日本大震災から、ちょう10年目。受講者たちは、まず全員で1分間の黙祷を捧げたのちに、企画・運営を担当する株式会社ホープスの坂井伸一郎さんの進行で、オリンピアン講話とワークショップの2つを受講しました。
1つめのプログラムとして組まれたのは、オリンピアンを招いての講話です。冬季オリンピック種目のカーリングで、2018年平昌オリンピックに出場して8位の成績を上げた山口剛史選手(SC軽井沢クラブ)が登壇し、「オリンピックに向かっての気づき」をテーマに、自身について語りました。
山口選手の講話は、まず、自己紹介からスタート。続いて、カーリングについて、簡単なルールや、1998年の長野大会からオリンピック正式種目となったこと、メジャー種目とは言いがたく、いわゆる「アマチュア」の立場で取り組む競技環境であることなどを説明したのちに、自身がカーリングに取り組むことになったいきさつ、オリンピックを目指して競技に向き合い、2006年トリノ大会から4回目の挑戦となった2018年平昌大会で実現させ、8位入賞を果たすまでの過程を述べていきました。
2014年ソチ大会への出場がかなわなかった28歳の段階で、「30歳」という年齢を競技者としてのひと区切りにすることを考えていた山口選手は、さらに「4年後」を目指すかどうかで悩んだそうですが、周囲や妻の応援を受けて挑戦することを決意。こうした紆余曲折の末に、念願かなって臨んだオリンピックでの経験を、「ダントツに楽しかった。今まで出場した大会とは比較にならないほど、ワクワク、興奮する場所だった」と振り返りました。
さらに、2004年から出場を3回逃したあと、平昌オリンピックに向けて、自身を見直して取り組んできたこととして、
1)自分はどうなりたいのかの目標設定、
2)それまで課題だった「緊張」への対策、
3)応援される人を目指しての環境づくり、
の3つを挙げて、その具体例を紹介。特に、強く実感したという「応援の力」については、「応援される人は愛される人。応援される人になるために、まず“自分が愛する人になろう”と考えた」と話し、「自分が嬉しいと思うことをする」「ポジティブな発言をする」「憧れられるような選手になる」「挨拶やお礼を言う」「身近な人、家族を大事にする」の5つを心がけてきたと明かしました。
平昌オリンピック以降は、2022年に開催される北京オリンピックに向けた挑戦を続けてきましたが、2月に開催された日本選手権で敗れ、その夢は絶たれることに。この結果を踏まえての最近の気づきとして、「特にこの1年は勝たないといけないと思いすぎて、今を楽しめていなかった」と反省するとともに、「応援の力に改めて助けられた」とコメント。また、自分が今後、何を社会に与えられるかということも考えるようになったと話し、「日本でカーリングにもっと取り組める環境、日本の男子がオリンピックで毎回活躍できるような環境づくりを考えていくことが必要だと感じている」と未来に向けての思いにも触れました。
その後の質疑応答では、DAたちから「引退に対する考え方」「進路を大きく方向転換したときの心境」「長い競技時間のなかでの集中の高め方、切り替え方」などの質問が挙がりました。1つ1つの問いに対して、山口選手は、逆に問いを出したDAの意見や感想を求めるなどしながらコミュニケーション。DAたちに、自身の思いを丁寧に伝えていく様子が印象的でした。
第2部では、人財育成・組織人事コンサルティング会社を経営する安藤奏さん(株式会社アクビー)が、「周囲の力を活かすコミュニケーション」をテーマに、ワークショップ形式で講義を行いました。
安藤さんは、小学生の頃から役者としてドラマやCMに出演するなど、高校まで芸能活動を行ってきた経歴を持つ人物。高校時代に、「キャリアの選択を考えたときに、“将来、人の自信や誇りを見出せる社会人になりたい”と思った」ことが契機となり大学卒業後、東京ディズニーリゾートを運営する株式会社オリエンタルランドに入社しました。
そして、東京ディズニーリゾートで現場責任者や人事の経験を積んだのちに、20代で組織人事コンサルティング事業や教育研修事業を行う会社を起業し、現在に至っています。
第1部で山口選手が話した「応援される人になる」の内容も踏まえて、安藤さんは「アスリートとして競技活動に取り組む際に“応援してくれる味方=ファン”を増やすことは競技人生を豊かにする」と、周囲にファンをつくることを提案。ファンをつくることのメリットやファンを増やすコミュニケーションのポイントを、個人ワークや質疑応答を挟みながら説明を進め、直ぐに活用できる具体的なポイントを紹介していきました。
安藤さんはまず、自分を応援してくれる味方が増えると、「評価・役割・居心地・自己成長などの側面で、自身の描いている自己実現に近づいていくことができる」「人との関係の質を高めることで、思考・行動に成功の循環が生まれ、競技の結果も高めることができる」といったメリットがあることを提示。その上で、相手を尊重し、自分の要望や意見を相手に伝える「アサーティブ・コミュニケーション」を解説しました。その中で、アサーティブ・コミュニケーションをより実践に繋げるために「DESC法」というコミュニケーション手法も示しました。
さらに、「周囲にファンをつくるコツ」として、安藤さんは興味、共感、信頼の3つを挙げ、「まずは自分から興味や好意を相手に示す返報性」や「長期的な関係性を構築する意識」「相手の思いを引き出し受け取る “聴く”方法」など実践する為のポイントをご自身の経験も踏まえて解説しました。
また「信頼関係は銀行口座のように“信頼残高を高める”こと」であると伝えた上で、「挨拶や感謝など当たり前の行動の地道な積み重ね」の大切さを意識づけしました。
最後に安藤さんから「“わかる”と“できる”は違う。わかったことを無意識にできるようにするためには、まずは“やってみること”。だからこそ、すぐ行動に移してほしい」とDAたちに呼びかけ、70分のワークショップは終了。DAたちからも「個人の視点に留まっていたが、相手視点で周囲と関係を築くことが競技人生において重要だと気づけた」「当たり前だと思っていたコミュニケーションの一つひとつに相手の背景や想いがあることを学んだ」など各自が深い学びを得ていました。
文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
■ダイヤモンドアスリート特設サイト
https://www.jaaf.or.jp/diamond/
■ダイヤモンドアスリート第7期認定アスリート紹介動画
https://www.jaaf.or.jp/gallery/article/14667/
■【ダイヤモンドアスリート】第1回リーダーシッププログラム レポート
https://www.jaaf.or.jp/news/article/14681/
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