第45回全日本競歩能美大会は3月21日、第15 回日本学生20km競歩選手権大会との併催で、根上文化会館前(石川県能美市)の日本陸連公認能美市営20kmコースにおいて開催されました。この日の能美市は、比較的気温の高い曇天で朝を迎えましたが、低気圧通過の影響で天候が悪化。時間が経つにつれて風雨が強まる難しいコンディション下でのレースとなりました。
全日本の部と学生選手権の部を兼ねて行われた男子20kmは、最初の1kmこそ3分50秒で入ったものの、その後は1km4分前後のペースで推移。これにより先頭は、早い段階で東京オリンピックの代表に内定している高橋英輝選手(富士通、20km代表内定)と川野将虎選手(東洋大学、50km代表内定)の2人に絞られる形となりました。2人は5kmを19分49秒で通過。6kmすぎで川野選手が大きくペースチェンジして、この1kmで3分46秒のラップを刻んだことにより、いったんは高橋選手が遅れる場面もありましたが、8kmすぎで川野選手に追いついて再び並走ならぬ“並歩”の状態に。2人は10kmを39分41秒で通過しました。
先頭争いに変化が生じたのは、12kmを過ぎたあたりから。4分を切るペースでラップを刻み始めた高橋選手に対して、川野選手がついていけなくなり、その差は、14km地点で8秒に広がり、15kmでは59分37秒(この間の5kmは19分56秒)で通過した高橋選手から19秒後れることになりました。風が強まった影響もあり、最後の5kmは高橋選手もペースを落としたものの20分台(20分42秒)でまとめて、1時間20分19秒でフィニッシュ。この大会では初めてとなる優勝を果たしました。
川野選手が2位・1時間21分01秒で続き、男子20kmで東京オリンピックの補欠競技者に内定している古賀友太選手(明治大学)が1時間22分09秒で3位に。集団での競り合いが終盤まで続いた4位争いは、諏方元都選手(愛知製鋼)が1時間23分19秒で先着し、住所大翔選手(順天堂大学、1時間23分21秒)、石田昂選手(立命館大学、1時間23分29秒)が5・6位でフィニッシュ。これにより、8月中~下旬に成都(中国)で開催されるワールドユニバーシティゲームズの代表選考会を兼ねて行われた学生選手権の部は、川野選手が優勝、2位・古賀選手、3位・住所選手という結果となりました。
女子20kmは、男子20km終了後に天候が急変。気温が一気に10℃以上も下がり、雨風ともに非常に強くなる過酷なコンディション下でのレースとなりました。
レースは、中盤にさしかかるあたりでワールドユニバーシティゲームズ出場を目指す林奈海選手(順天堂大学)が先頭に立つと、10kmを47分57秒、15kmを1時間11分53秒と、ともにその間の5kmで23分台を維持。いったんは後続を大きく引き離しました。しかし、17kmからの周回で2番手にいた河添香織選手(自衛隊体育学校)が逆転。ここで単独首位に立つと、最後の5kmをこの日の自身の最速ラップとなる23分56秒を叩きだし、1時間36分54秒で優勝しました。レース終盤で低体温症の症状も出ていた林選手は、最後の5kmを26分39秒までペースを落としたものの1時間38分32秒で2位に。3位には藪田みのり選手(武庫川女子大学)が1時間39分13秒、4位にはレース序盤に果敢な歩きを見せていた立見真央選手(中京大学)が1時間39分52秒で、それぞれフィニッシュし、この結果、林選手が学生チャンピオンに、藪田選手と立見選手が2位・3位の座を占めました。
このほか実施された種目では、高校生男子10kmで奈良・智辯カレッジ高の中尾心哉選手(42分50秒)と中谷知博選手(43分18秒)で「ワン・ツー」でフィニッシュ。高校女子5kmも同校の小出佳奈選手が22分51秒で制する活況をみせました。また、中学男子3kmは田口昊汰選手(川北町立川北中学校)が15分53秒で、女子3kmは松本果恋選手(スポコム金沢南)が16分44秒で優勝しています。
全日本の部男女優勝者とオリンピック代表内定競技者のコメント、そして今村文男オリンピック強化コーチ(競歩担当)による総括コメントは、下記の通りです。
※本文中の記録および5kmごとの通過タイムは公式発表の記録。ただし、1kmごとの通過タイムは、レース中の速報を採用している。
【全日本競歩能美大会男女優勝者およびオリンピック代表内定者コメント】
■男子20km競歩
高橋英輝(富士通) ※東京オリンピック男子20km競歩代表内定済み
優勝 1時間20分19秒
今年の夏のオリンピックでメダルを獲るという自分の目標に向けて、現在の自分の立ち位置と課題の大きさを改めて感じた。そういった意味で、このレースに出てよかったなと思ったし、ここで感じたことを生かして、引き続き夏に向けて取り組んでいきたい。
評価に際しては、レースの内容と自分の歩き(動き)とタイムの3つの要素がある。まず、レースの内容に関しては、これまで自分でレースを作る経験があまりなかったので、レースをつくる経験値を高めておきたいと考えていた。そこにトライする姿勢を出せたことはよかったと思う。動きに関しては、練習の場面で「いいな」とか「できているな」とか思えていたところが、がまだ(レースのなかで)無意識にできるところまで落とし込めていなかった。そのため、スタートからずっとふらふらしたままの20kmになってしまい、さらに最後でペースダウンしてしまった。そういう意味で、動きという部分では、目標との隔たりに距離を感じた。また、タイムに関しても、動きができてこそのもので、動きより先にタイムを求めるべきではないと思っているので、その点でも課題は残った。トライする部分、できた部分と、まだまだ課題だと改めて感じる部分があったので、自分にとってはすごくいい経験になった。
川野選手が(6~7kmでペースを)上げたときに反応できなかったことに対しては、自分の技術面と体力面の仕上げの足りなさと実力のなさを感じている。あそこでぱっと反応できることが20kmではすごく大事。世界(で戦うこと)を見据えるうえでは、そこでスキを見せてはいけない。戦略的に追いつくパターンもあるけれど、今回についてはずっとレースを支配したいと考えていただけに、あそこで反応できず主導権を与えてしまったことに自分の力不足を感じた。(12km以降で川野選手を引き離したが)そこから川野選手もリズムに乗りきれておらず、私が離したというよりも、お互いのペースに入っていってしまったという感じ。私自身もなかなかリズムをつくりきれていなかったので、お互いの完成度の低さがレースの結果に出たように思っている。
終盤のペースダウンは、前半でしっかり(リズムに)乗っておきたいところで歩きのリズムをつくれなかったことが原因。最初の15kmをまとめきれなかった結果、失速につながったと考えている。今日のラスト5kmを踏まえて、今後は、しっかり自分のやりたい動きを20kmのレースのなかで再現することに注力して取り組んでいきたいなと、改めて感じた。
■男子20km競歩
川野将虎(東洋大学) ※東京オリンピック男子50km競歩代表内定済み
2位 1時間21分01秒 =学生選手権20km優勝
今回は、学生(としての自分)の集大成として、東京オリンピックに繋げるということを第一に取り組んでいた。結果は2位で、優勝という形で(周囲の方々に対する)最高の恩返しはできなかったが、オリンピックに向けた課題を見つけることができた。この課題を修正して東京オリンピックに臨むことが、今後できる恩返しなのかなと思っているので、この経験、悔しさを大切に、頑張っていきたい。
今回のレースは、東京オリンピックを見据えて、「20kmという速いペースのレースのなかで、50kmの練習」といった位置づけで出場した。6kmで(ペースアップして)仕掛けたところは、レース中の揺さぶりに対応できるようなること、また、ペースの上げ下げを行って自分からレースを動かせるようにしたいというチャレンジの心があったことから、事前に(酒井)瑞穂コーチと話をしたうえで挑戦した。瑞穂コーチと話をした段階では、10秒くらいペースを上げることを目標にしていたのだが、結果として、(4分01秒から)3分46秒と、ちょっとペースが上がりすぎてしまった。それで動きが変わって、硬くなってしまったことが、後半(のペースダウン)に響いてしまったと反省している。そのときの(気象)コンディションや自分の状態を、まだまだ客観視できていないことを実感した。オリンピックに向けては、どんなペース変化があっても、柔軟に対応できるようなフォームを、これから身につけていきたいと思っている。
一方で、3分46秒までペースを上げられたことは一つの収穫ともいえる。自分は、スタミナだけでなく、スピードも大切にしたいと思っているので、今後も、スタミナとスピードの両立をテーマに、練習に取り組んでいきたい。
■女子20km競歩
河添香織(自衛隊体育学校)
優勝 1時間36分54秒
今日は、4月の輪島(東京オリンピック代表選考会として、女子20kmの特別レースを実施)に向けた練習の一環として出場した。天候も考慮して、1時間36~38分くらいで歩くことを想定していた。予定通りのレースができて、順調に歩けたのではないかと思っている。
最初の入りが全体的にスローとなった。1時間36分台を出すためには、(1km)4分50秒くらいのペースが必要になるのだが、最初からそのペースから行かなくても、ゆっくり入って徐々にペースをつくっていけたらいいなと思っていたので、周りの選手を意識するよりは、まずは自分の歩きに集中する形で歩いていた。最後の5kmのラップを全体のなかで一番上げていけるようにすることを最初から意識していたので、ラスト5kmでペースを上げたら、結果的に優勝できたという感じ。特に、「優勝するためにペースを上げた」という感じではなかった。
ラストの5kmは、自分の感覚としては、(ペースを)抑えて歩いていた中盤までよりも、スムーズに歩けていた感覚がある。最後の1~2kmでもうちょっとペースを上げられたらよかったのだが、ばててしまったので、そこが今後の課題といえる。
オリンピック出場権を獲得するための今後のレースに向けては、準備期間が短いので、どうしても練習できることの限界はあるとは思うが、自分のなかで今、一番突き詰めてやっていきたいと思っているのは、「動きの面でいかに労力を使わずにスムーズに歩けるか」ということ。そのうえで、スピードだったりタイムだったりがついてきたらいいなと思っている。
【日本陸連総括コメント】
今村文男(競歩オリンピック強化コーチ)
能美競歩は、例年だとオリンピック等の代表選考会として白熱する大会。しかし、今回については、コロナ禍でいろいろな競技会が実施されなかったり、延期が多かったり、特にオリンピックも1年延期になったりしたなかで、(オリンピック)代表に内定している選手たち、代表を目指す選手たち、そして、ワールドユニバーシティゲームズの代表選考会としてのレースに出場する選手たちと、個々のモチベーションが、それぞれに非常に異なるなかでのレースとなった。また、(天候が急変したこともあり)改めて、記録というのは、気温、風、グラウンドコンディションによってつくられるものが大きいなということも実感した。朝よりも気温が大きく下がるなどの天候となったこともあり、選手のパフォーマンスも、思うようにいかなかったことが印象に残った。
すでに東京オリンピックの代表に内定している20kmの高橋英輝選手については、昨日の記者会見でも述べていたように、技術面の課題のほか、レース中のペースの変化、対応力などを課題に掲げていたが、こういった悪天候のなかでも、そういったものに対応しており、また、東京オリンピックを見据えながら想定されるレース展開ができていたように思った。また、50kmの代表に内定している川野将虎選手に関しても、50kmレースの途中でのペースチェンジを意識するということで、今回は6kmすぎで一気にペースを4分01秒から3分46秒にアップした。本人が課題に挙げていたペースの切り替えがしっかりできていたと思う。ただし、そういった意味では収穫があったものの、その後の歩型であったり、ペース維持能力であったりというところでは、20kmのレースに対しては準備が足りなかったかなという印象である。
その他、日本学生選手権という観点では、ワールドユニバーシティゲームズの代表選考会として、本番でのメダルを目指したレースができたのではないかという感想を持った。(この年代の競技者も有力候補となっていくであろう)2024年パリオリンピックを見据えて、しっかりと(成都で開催されるワールドユニバーシティゲームズ)本番で活躍できるようサポートしていきたい。
残念な点としては、先ほども述べたように全体的に気温や雨風の影響で、ネガティブラップ…後半にペースアップが求められるなかで、どの選手もほとんどペースを落としていたということ。今後、こうした条件下のレースにおけるペースの配分であったり、状況に応じた歩き方だったりを見つけていかなければならないなと感じた。
文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
■ 第45回全日本競歩能美大会 ライブ配信はこちら
https://www.jaaf.or.jp/news/article/14696/
■第45回全日本競歩能美大会 大会ページはこちら
https://www.jaaf.or.jp/competition/detail/1518/