2020.09.30(水)選手

【記録と数字で楽しむ第104回日本選手権】女子800m・1500m

10月1日~3日に新潟で行われる「第104回日本選手権(一般種目)」の「見どころ」や「楽しみ方」を「記録と数字」という視点から紹介する。「混成競技」は、9月26・27日に終了。「長距離種目」は、12月4日に大阪・長居で実施される。

「日本一」を決める試合なので、本当は全種目についてふれたいところだが、原稿の締め切りまでの時間的な制約があったため、「日本新」が期待されたり、好勝負が予想される種目に関してのみの紹介になったことをご容赦いただきたい。

「コロナ」のため世界陸連(WA)の決定によって、今年4月6日から11月30日までの競技会の成績や記録は「五輪参加標準記録」や「WAランキングポイント」には反映されないが、「2020日本チャンピオン」を目指して各種目で選手たちが全力を尽くす。

なお、これまた「コロナ」に配慮して、「スタンドから生で観戦」ができるのは3日間とも「新潟県民2000人限定」となった。そのため、全国の陸上ファンの方々のほとんどが「TV」や「ライブ・ネット中継」での観戦となるが、その「お供」にしていただければ幸いである。

・記録は、9月27日判明分。
・記事は、9月28日時点の情報による。直前に「欠場」となった選手については、文中
に 【★*月*日に欠場を発表★】 と付記した。



【女子800m・1500m】

卜部vs田中vs800mのスペシャリストの勝負の行方は?

<1500m>
・予選/10月1日 17:30 2組5着+2
・決勝/10月2日 19:43

<800m>
・予選/10月2日 14:50 3組2着+2
・決勝/10月3日 16:30

2019年は、卜部蘭(Nike Tokyo TC。現、積水化学)が「二冠」に輝いた。

が、今回は8月23日の「ゴールデン・グランプリ」の1500mで4分05秒27の日本新をマークした田中希実(豊田自動織機TC。同志社大3年生だが学連には登録していない)が800mと1500mにエントリーしてきた。ドーハ世界選手権の5000mに出場した田中のメイン種目は5000mであろうが、今回は「コロナ」のため、長距離種目は12月4日(大阪・長居)の別開催となったため、800mにもエントリーすることとなった。800mと1500mの両種目にエントリーしているのは、卜部・田中に菊地梨紅(肥後銀行)の3人。

2019年の日本選手権(福岡・博多の森)は、4日間開催で1日目・1500m予選、2日目・1500m決勝、3日目・800m予選、4日目・800m決勝というのが当初の日程だった。ただ、1500mは欠場者が出て予選がキャンセルとなって「一発決勝」になった。今回は、3日間開催で2日目に800m予選(14:50)と1500m決勝(19:43)が行われる。が、5時間近くの間隔があるので、卜部も田中も問題なしであろう。

日程順に、まずは1500mから。
ゴールデン・グランプリで田中が日本新をマークした時の100m毎のペース分析は下記の通り。

・400m、800m、1100m、1200mは場内のタイマーの表示(その他は筆者の計時)。

 17.0 17.0
 33.7 16.7 33.7
 50.0 16.3    50.0
1.06.42 16.4 32.7    66.42
1.22.3 15.9          1.22.3
1.38.9 16.6 32.5 48.9
1.55.2 16.3
2.11.91 16.7 33.0    65.49
2.28.6 16.7    49.7
2.45.4 16.8 33.5       1.23.1
3.02.37 17.0
3.17.89 15.5 32.5 49.3 65.98
3.33.5 15.6
3.49.6 16.1 31.7
4.05.27 15.7(31.8)47.38(62.90)1.19.9
 (前半2.03.5+後半2.01.8(前後半差△1.7)

・前半と後半は、700mと800mの通過タイムからの推定
・ラスト1000mは、2.43.0(公認日本記録は、2.41.08/杉森美保/2002.06.19)
・ラスト800mは、2.10.1
・ラスト600mは、1.36.7

この時は、1100mまで田中の背後に卜部がついたが、ラスト400mで一気に突き放しての「日本新」だった。卜部も4分11秒75でベストを2秒77破ったが田中には、6秒48の差をつけられた。

卜部が、2019年の日本選手権を制した時の100m毎は、

・すべて筆者の計時
 16.2 16.2
 33.1 16.9 33.1
 50.5 17.4    50.5
1.08.3 17.8 35.2    68.3
1.26.4 18.1          86.4
1.43.6 17.2 35.3 53.1
2.01.4 17.8
2.19.0 17.6 35.4    70.7
2.37.2 18.2    53.6
2.54.6 17.4 35.6       88.2
3.12.5 17.9
3.29.0 16.5 34.4 51.8 70.0
3.45.2 16.2
4.00.5 15.3 31.5
4.15.79 15.3(30.6)46.8(63.3)81.2
 (前半2.10.2+後半2.05.6/前後半差 △4.6)

・前半と後半は、700mと800mの通過タイムからの推定
・ラスト1000mは、2.49.4
・ラスト800mは、2.14.4
・ラスト600mは、1.38.1

卜部は、ラスト300mあたりからのスパートを得意としていて、この時もラスト400mを63秒3、ラスト300mを46秒8でカバーし、2位の田中(4.16.23)に0秒44の差をつけ、初優勝(2018年は2位)を飾った。

ラスト400m、同300mをゴールデン・グランプリの時の田中のそれと比較するとあまり変わらないが、1100mの通過で10秒もの差がある。

田中は、9月15日に神戸(ユニバ記念・補助競技場)で行われた「第2回神戸市長距離記録会」の1500mに出場した。この時のラスト1周は、下記の通りで圧巻の「60秒4」だった。

100m毎のタイムは、Youtubeにアップされていた動画(01moroyaさん撮影)から計測した。

 17.3 17.3
 34.3 17.0 34.3
 51.8 17.5    51.8
1.09.3 17.5 35.0    69.3
1.27.3 18.0          1.27.3
1.44.7 17.4 35.4 52.9
2.02.3 17.6
2.20.1 17.8 35.4    70.8
2.37.6 17.5    52.9
2.55.0 17.4 34.9       1.27.7
3.12.4 17.4
3.27.3 14.9 32.5 49.7 67.2
3.42.3 15.0
3.57.4 15.1 30.1
4.12.81 15.4(30.5)45.5(60.4)1.17.8
   (前半2.11.2+後半2.01.6/前後半差 △9.4)

・前半と後半は、700mと800mの通過タイムからの推定
・ラスト1000mは、2.45.5
・ラスト800mは、2.10.5
・ラスト600mは、1.35.2

以上の通りで、1100mまではチームメイトの後藤夢がトップを引き、100m17秒5前後のほぼイーブンペース(1500m換算4分22秒5のペース)だったが、ラスト400mで田中が一気にスパート。イーブンペースのタイムを10秒短縮した。

1990年代から2000年頃にかけて1500m・3000m・5000m・1万m、最終的にはマラソンでも活躍した弘山晴美さん(資生堂)、あるいは日本選手権1500mで5連覇(2006~10年)した吉川美香さん(パナソニック)がどこかのレースでラスト400mを62秒台でカバーしたことがあったような記憶があるが、61秒台とか、ましてや「60秒4」というのは、見たことがない。

なお、田中はこのレースのフィニッシュ(18:01)からわずか42分後の3000m(18:43start)にも出場し、8分56秒18(2.59.-6.03.)で走った。7月に3000mで日本新(8.41.35)を出した時のラスト1000mも驚愕の「2分43秒」だった。

ゴールデン・グランプリのレース後に田中は、「卜部さんがついているのは薄々わかっていた。練習でラストスパートの自信はつけていたので、それをしっかりと出すことができてよかった」とのコメント。
卜部は「ラスト1周で可能性は広がると感じたレースだったので、そこを今後の課題として埋めて……」という旨のコメント。

2018年2位の卜部が2019年は初優勝。2019年2位の田中の2020年は……。
田中の強烈なロングスパートに卜部がどう対応するかが、ポイントとなろう。

日本選手権・決勝での「着順別最高記録」は、以下の通り。

1)4.11.00 2016年/4.07.77 1991年=外国人
2)4.11.00 2006年
3)4.14.63 1997年
4)4.15.60 1997年
5)4.17.46 2019年
6)4.17.68 1997年
7)4.17.86 1997年
8)4.18.84 1997年

29年前にT・チドゥー(ルーマニア)がマークした大会記録の4分07秒77の更新のみならず、今シーズン2度目の日本新にも期待がかかる。

続いて、800m。

2014年以降の優勝者(所属は、当時のもの)は、下記の通り。

2014 2.05.05 大森郁香(日 大)=初出場・初優勝
2015 2.08.20 山田はな(東学大)=初出場・初優勝
2016 2.05.92 福田翔子(松江北高)=初優勝
2017 2.04.62 北村 夢(日体大)=初優勝
2018 2.02.54 北村 夢(エディオン)=2連覇
2019 2.02.74 卜部 蘭(Nike Tokyo TC)=初優勝

現役を退いた福田さん以外の4人が今回もエントリーしている。

至近6年間の内、初優勝が5回。唯一の連覇は北村夢(エディオン)だが、2020年は故障でもあったのか一度もレースに出場しておらず、日本選手権が今季第一戦となる。

前回、1500mとの二冠に輝いた卜部蘭(積水化学)が連覇を目指すが、1500mと同様に田中希実(豊田自動織機TC)が参戦。2017年以降、北村とともに各種の大会で「三強」とされることが多い川田朱夏(東大阪大)と塩見綾乃(立命大)が加わっての争いとなりそうだ。

2019年に卜部が勝った時の100m毎の順位とタイムは、以下の通り。

・すべて筆者の計時
6) 14.2 14.2
7) 29.0 14.8 29.0
7) 44.5 15.5
4) 59.4 14.9 30.4 59.4
3)1.15.1 15.7
4)1.31.1 16.0 31.7
1)1.46.8 15.7
1)2.02.74 15.9 31.6 63.3(前後半差/▽3.9)

550m付近まで塩見がレースを引っ張り(13.5-28.0-43.0-58.8-1.14.8)、600mではヒリアー紗璃苗(明星高。現、青学大)がトップ(1.30.8)に。序盤は後方に待機していた卜部が少しずつ順位を上げ、650mでトップに立って、そのまま川田(2位・2.03.35)以下を引き離しての初優勝での二冠獲得だった。

いつも最初から積極的飛ばしていく川田と塩見がいるので、今回も400m58~59秒台の速い展開になることは必至。これに、卜部と田中がどう対応するか? 北村が2017年に2分00秒92(日本歴代2位)を出した時のような力を取り戻していれば、500m過ぎから5人くらいでの「用意、ドン」となるかもしれない。

なお、800mでも田中のラスト400mは強い。
7月12日の兵庫選手権では、独走で2分04秒66の今季日本最高で走っている。

その時のYoutubeの動画(マキシマム座レバーさん撮影)から100m毎のタイムを計測したのが下記である。
ただし、動画は250m手前からで、フィニッシュの瞬間が映っていないため、ラスト100mのタイムは790m地点から推定(1秒5を加算)し、300m以降の通過タイムは正式記録から逆算した。

 47.5 ??.?
1.03.3 15.8 ??.? 63.3
1.18.8 15.5
1.34.2 15.4 30.9
1.49.9 15.7
2.04.66 14.8 30.5 61.4(前後半差/△1.9)

2019年は、大会前までのベストが2分08秒64だったヒリアーが、予選で2分04秒73の大ベスト。決勝でも上述の通り600m手前から一時トップに立って、最後に力尽きたもの2分04秒99で4位入賞。その勢いで、全国インターハイもケニア人留学生を退けて優勝した。ただ、今季は、ゴールデン・グランプリも日本インカレも最後に失速(2020年は、2分10秒53がベスト)。インカレからの3週間でどこまで立て直してくるか?

昨年のヒリアーのように、日本選手権で「大化け」する高校生や大学生が出てくるかもしれない。

地元・新潟出身の広田有紀(新潟アルビレックスTC。新潟高出身)と5年前に今回と同じ会場で初出場・初優勝を果たした山田はな(当時、東学大。現在、わらべや日洋。新潟南高出身)は、「新潟県民限定2000人」のスタンドからの応援(「声援」はできないので、拍手のみ??)を「力」にしたいところ。5年前は、新潟県勢の優勝は全種目を含めて山田のみ。大会本部の計らいで、プレゼンターが急遽新潟県知事に変更されたということがあった。

今春、秋田大医学部を卒業した広田は、3月に医師国家試験に合格。しかし、「東京五輪を目指したい」と、少なくともあと1年は研修医にはならず、競技に専念することにした。
2013年の全国インターハイ800mチャンピオン(同学年の卜部は4位)。日本インカレでは、3年生の時(2016年)から3・2・2・2位。日本選手権でも同じく2016年から、4・8・4・5位と4年連続入賞してコンスタントに結果を残してきている。が「表彰台」には届いていない。「地元での今年こそ!」の思いが強いことだろう。

2014年のチャンピオン・大森郁香(奥アンツーカー)は「ラスト・日本選手権」になる模様。
千葉・幕張総合高校時代は、2分15秒87がベストで、インターハイ路線は千葉県大会5位、南関東大会は予選落選の選手だった。が、日大進学後に力をつけ、4年生の時(2014年)に関東インカレ・日本選手権日本インカレの三冠に輝いた。自己ベストは、2分03秒96(2014年)で高校時代から11秒91も伸ばした選手だ。

日本選手権・決勝での「着順別最高記録」は、以下の通り。

1)2.00.45 2005年
2)2.03.29 2001年
3)2.03.87 2019年
4)2.04.33 2018年
5)2.05.35 2019年
6)2.05.72 2019年
7)2.07.09 2018年
8)2.07.51 2017年

1着の最高記録でもある「日本記録」と2着の最高記録は15年以上も前のものだが、3着以下は、この3年以内の記録。間違いなく「層の厚み」は増してきている。



野口純正(国際陸上競技統計者協会[ATFS]会員)
写真提供:フォート・キシモト


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