2020.01.21(火)大会

MGCファイナルチャレンジ女子第2戦:大阪国際女子マラソン展望




第39回大阪国際女子マラソンが1月26日、大阪市のヤンマースタジアム長居陸上競技場を発着点とする42.195kmのコースで開催されます。

この大会は、東京オリンピック女子マラソン代表の最後の1枠を巡る選考レース「MGC(マラソングランドチャンピオンシップ)ファイナルチャレンジ」の第2戦として行われるもの。東京オリンピック女子マラソン代表は、昨年9月15日に開催されMGCにおいて上位を占めた前田穂南選手(天満屋)と鈴木亜由子選手(日本郵政グループ)の2名がすでに内定していますが、残り1名については、MGCファイナルチャレンジにおいて、2時間22分22秒の設定記録を上回ったなかで、最も記録のよい競技者が選ばれることになっています。昨年、MGCファイナルチャレンジ第1戦として実施されたさいたま国際マラソン(12月8日)では該当者が出なかったため、残るチャンスは今回の大阪国際女子と3月8日に行われる名古屋ウィメンズの2大会。もし、両レースで条件を満たす選手が現れなかった場合は、MGC3位の小原怜選手(天満屋)が代表に内定します。

「2時間22分22秒」というMGCファイナルチャレンジ設定記録は、2017年から2期にわたって行われたMGCシリーズ内でマークされた最高記録よりも1秒速いタイム。つまり、女子の場合は、2018年ベルリンマラソンで松田瑞生選手(ダイハツ)がマークした2時間22分23秒の記録を1秒上回ったものであることが設定の基準となっています。高低差が比較的少ない大阪国際女子マラソンは高速レースとなることも多く、2時間21分18秒の大会記録(2003年、野口みずき)を筆頭に、過去には3選手が2時間21分台を、6選手が2時間22分台をマーク。また、歴代オリンピックや世界選手権の選考レースとしても、数多くの名勝負が繰り広げられてきました。天候に恵まれれば、「記録」「勝負」の両面で、レベルの高いレースとなることが期待できそうです。

 

「大阪」で勝負をかける小原、松田、福士


MGCファイナリストのうち、大阪国際女子を「ファイナルチャレンジ」の場に選んだのは、小原、松田、福士加代子(ワコール)の3選手です。



◎待つのではなく、自らつかみ取りにいく小原
MGCで3位の成績を収めている小原選手は、女子マラソンで過去に多くのオリンピアンを輩出している天満屋のランナーのなかでも、潜在能力の高さで常に期待され続けてきた人物。マラソンでは、2回目となる2016年名古屋ウィメンズマラソンで、リオデジャネイロオリンピック出場に挑み、当時日本歴代12位となる2時間23分20秒の好記録をマークしたものの、終盤で一騎打ちとなった田中智美選手(第一生命グループ)とのデッドヒートで最後に後れ、わずか1秒の差でオリンピック代表の座を逃しました。9月のMGCでは、終盤で2位を行く鈴木選手を激しく追い上げましたが逆転には4秒届かず3位でのフィニッシュとなり、またしても「あと少し」のところで内定切符をつかみ損ねる悔しさを味わったばかり。それだけに「MGCファイナルチャレンジを走らずに他選手の結果を待つ」という選択肢もあるなか、それをよしとせず、自らの手で確実に代表の座をつかみにいく道を選びました。

大阪国際女子マラソンには、前回の2019年に初めて出場。このときは「30km以降で、自分で仕掛けていくレースをする」ことを課題として、30kmと35kmで2回仕掛ける果敢なレースを展開しましたが、最終的に、ファツマ・サド選手(エチオピア)に38km手前で突き放され、7秒差で2位。マラソンでの過去最高順位は得たものの、「ここという(スパートすべき)ところで行ききれなかった」という反省を残す結果となりました。2時間22分22秒の設定記録を上回るためには、自己記録を1分近く更新する必要はありますが、2016年の名古屋ウィメンズ、そしてMGCで見せた終盤の力からすれば、クリアすることは十分に可能。東京オリンピック本番で戦うことをも見据えるのであれば、「勝たなくてはならない相手に、勝ちきるレース」「仕掛けるべきときに迷いなく仕掛けて、押し通すレース」を、ぜひこの大阪で成功させておきたいところでしょう。

なお、この大阪国際女子には、小原選手と同じ天満屋から、ドーハ世界選手権で7位入賞を果たした谷本観月選手もエントリーしています。スピード型というよりは粘り強さが持ち味の選手で、マラソンはこれが5回目となります。昨年の名古屋ウィメンズでマークした2時間25分28秒の自己記録を、どこまで更新してくるかにも注目です。



◎地元・大阪で、再びの躍進を期す松田
MGCレースの対象期間中に、ファイナリストのなかでトップタイムとなる2時間22分23秒(2018年ベルリン)をマークしていた松田選手は、9月のMGCにおいて優勝候補の筆頭といえる存在でした。しかし、本番では、序盤からハイペースになるという自身が想定していなかった展開にうまく対応することができず、順位を4位に上げるのが精いっぱいとなる悔しい結果に終わりました。

大阪生まれの大阪育ちである松田選手ですが、これまで常に「長居スタジアム」が躍進の起点になってきました。10000mで初の全国優勝を果たして関係者の注目を集めたのは、長居スタジアムで開催された2016年秋の全日本実業団。翌2017年には、同じく長居スタジアムで行われた日本選手権のこの種目で初優勝を果たし、ロンドン世界選手権の日本代表に選出されました。そして、2018年1月の大阪国際女子でマラソンに挑戦すると、いきなり日本歴代9位の2時間22分44秒の好記録をマークして、初マラソン初優勝を達成。その8カ月後のベルリンマラソンにおける2時間22分23秒の自己記録更新へとつなげています。「地元」というだけでなく、アスリートとしてのキャリアを大きくステップアップさせてきたこの地で東京オリンピック代表切符を手に入れたいという思いは、人一倍強いことでしょう。

初マラソンとは思えない力強さで圧巻の優勝を果たした2018年大阪国際女子では、25km過ぎから先頭に立った前田穂南選手(天満屋)を31km手前でかわすと、30~35kmの5kmを16分19秒にペースアップして独走態勢に持ち込み、そのままフィニッシュラインを駆け抜けています。今大会でも、ペースメーカーが外れてからの30km以降で、こうした走りが再現できるようだと、自己記録更新、つまりMGCファイナルチャレンジ設定記録更新の可能性は、ぐんと高まってくるはずです。



◎福士、2016年大阪を彷彿とさせるレースができるか
福士選手は、女子3000m8分44秒40(2002年)、5000m14分53秒22(2005年)、10000m30分51秒81(2002年)、ハーフマラソン1時間07分26秒(2006年)の自己記録を持つ選手。3000m・5000mの記録は今なお日本記録、ハーフマラソンも1月19日に新谷仁美選手(積水化学)が更新するまでは日本記録、10000mは日本歴代2位という水準の高さを誇る一方で、世界選手権には5回(2003年パリ、2005年ヘルシンキ、2007年大阪、2009年ベルリン、2013年モスクワ)出場、オリンピックには4大会連続出場(2004年アテネ、2008年北京、2012年ロンドン、2016年リオデジャネイロ)を果たしてきた日本陸上界屈指のトップランナーです。

一方で、マラソンでは、過去に2008年北京、2012年ロンドンと、早い段階からオリンピック出場にチャレンジしてきましたが、どちらも選考レースとして臨んだ大阪国際女子(2008年、2012年)において、途中で大きくペースダウンして失敗に終わる苦杯もなめてきました。成果としてまず花開いたのは、2013年の大阪国際女子。2011年のシカゴマラソンでマークしていた2時間24分38秒の自己記録を更新する2時間24分21秒を叩き出してモスクワ世界選手権出場を決めると、その世界選手権では銅メダルを獲得。さらに、2016年大阪国際女子では、日本歴代7位の2時間22分17秒(自己記録)で優勝を果たし、“3度目の挑戦”にしてオリンピックマラソン代表の座を手にした経歴を持っています。

リオデジャネイロオリンピック(14位)後は、休養の期間を経て、東京オリンピックに向けて前回の大阪国際女子でマラソンに復帰。このときはレース中盤で転倒するアクシデントで途中棄権という結果でしたが、3月の名古屋ウィメンズで条件を満たし、MGC出場権を獲得しました。しかし、そのMGCでは、中盤で4位に浮上して粘る場面もみせながら、後半で大きくペースを落として7位。不完全燃焼の結果に終わっています。

福士選手にとって、大阪国際女子は「世界大会への関門」として、これまで何度も挑み続けてきたレース。過去の5レースでは、成功も失敗も、さまざまなパターンを経験しています。2時間22分22秒の設定記録突破を狙うためには、当時、2時間22分30秒であったリオオリンピック派遣設定記録を見事にクリアしてみせた2016年大阪国際女子における自身のペース設定が、格好の指標となるはず。上位争いという点では、その上で終盤の落ち込みをいかに食い止めるかが鍵となってきそうです。

 

ハイレベルな顔ぶれとなった海外招待選手


今大会では、海外招待選手も、2時間20分台2名、2時間21分台2名と、レベルの高い自己記録を持つ顔ぶれが揃いました。優勝を争う上では熾烈さが増すことになりますが、まずは2時間22分22秒の設定記録のクリアが求められる日本勢にとっては、ペースメーカーが外れる30km以降のペース維持あるいは指標という点で、プラスの面に大きく作用することが期待できます。

1時間20分13秒(2018年)のトップタイムを持つハフタムネッシュ・テスファイ選手(エチオピア)は、この記録を含めて2018年に1時間20分台を2回マークしている選手。ただし、2019年のシーズンベストはベルリンでマークした2時間26分50秒にとどまっており、大阪国際女子でどのくらいの記録をマークしてくるかは、ふたを開けてみないとわからないという印象です。2番目となる1時間20分36秒の自己記録を持つメスケレム・アセファ選手(エチオピア)は、2018年名古屋ウィメンズの優勝者(2時間21分45秒)で、同年10月のフランクフルトマラソンで上記の自己ベストをマークしています。2019年は2レースを走っており、フランクフルトで走った2時間22分11秒がシーズンベストという状況です。

自己記録では劣るものの、2019年の結果で両選手を上回っているのが、ミミ・ベレテ選手(バーレーン)と、前回の大阪国際女子3位のボルネス・ジェプキルイ選手(ケニア)の2人。どちらも昨年10月、ベレテ選手はアムステルダムで2時間21分22秒(5位)の、ジェプキルイ選手はリュブリャナで2時間21分26秒(優勝)のパーソナルベストをマークする勢いの良さをみせています。このほか、前回大会で小原選手を終盤でかわして優勝したサド選手もエントリー。自己記録は2時間24分16秒(2015年)ながら、過去24回のマラソンで7回の優勝を経験している選手で、日本では昨年12月のさいたま国際(2位)に続いての出場となります。

海外招待選手の2019年の成績を見る限りでは、勝負は2時間21分台での戦いか。もし、日本選手が終盤でその流れにうまく乗ることができるようであれば、設定記録のクリアだけでなく、優勝争いに絡む可能性も十分にあります。さらには、気象条件や終盤の展開次第によっては、上位3選手が2時間21分台をマークした2003年大会の水準を上回る結果も期待できるかもしれません。



 

ペースメーカーに新谷・萩原を起用

「ペースメーカー制御バイク」も投入し、設定記録突破をあと押し


大会運営サイドも、「2時間22分22秒」という設定記録突破者の実現に向けて、ランナーたちをバックアップする態勢を整えています。その1つが、日本人ペースメーカーの起用です。複数人で30kmまでをフォローするペースメーカーの一員として、2019年ドーハ世界選手権女子10000m代表(11位)の新谷仁美選手(積水化学)と、2014年仁川アジア女子10000m3位の萩原歩美選手(豊田自動織機)が走ることになっています。

なかでも新谷選手は、2011年テグ世界選手権5000m決勝進出、2012年ロンドンオリンピック10000m9位、2013年モスクワ世界選手権10000mでは30分56秒70(日本歴代3位)をマークして5位に入賞した実績を持つ選手。2014年に引退を表明して、一時期競技生活から離れていましたが、2018年に復帰すると、2019年にはシーズンベストを31分12秒99まで戻してきました。東京オリンピックは10000mでの出場を目指していますが、1月19日にはヒューストンハーフマラソンで1時間06分38秒の日本新記録をマーク。2006年に福士選手が出した1時間07分26秒の日本記録を14年ぶりに更新して優勝を果たすなど、さらに強さに磨きがかかってきています。一定のハイペースを精密機械のような正確さで押し続けていける能力は、世界でもトップクラスと高い評価を得ているだけに、ペースメーカーとして絶対的な信頼をおける新谷選手の存在は、記録を狙う日本選手にとって心強い援軍となるはずです。

また、大阪国際女子マラソンでは初の試みとなる「ペースメーカー制御バイク」も導入。これは、レースディレクターがバイクに乗車して、コース上で直接ペースメーカーへ指示を出し、安定したペース制御を行う手法です。さらに、先頭集団の前を走るテレビ中継車の背面部にタイマーを設置して、5kmごとの通過時には直近のラップタイムも表示する予定で、より選手がレース中のタイムやペース配分を把握しやすい環境が整うことになっています。

当日は、果たして、どの選手が、どんな成果を残すのか――。この大阪国際女子の結果は、MGCファイナルチャレンジ最終戦となる3月8日の名古屋ウィメンズマラソンにも大きな影響を及ぼします。2時間22分22秒の設定記録を上回るレベルで、国内外を問わず多くの選手たちが激しい上位争いを繰り広げる、そんな白熱のレースが展開されることを期待しましょう。

 

文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真提供:フォート・キシモト

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