2019.11.27(水)その他

【Challenge to TOKYO 2020 日本陸連強化委員会~東京五輪ゴールド・プラン~】第10回 日本で開かれる世界大会の戦い方 東京・大阪の世界選手権を振り返って(3)

第10回 日本で開かれる世界大会の戦い方 東京・大阪の世界選手権を振り返って(2)』から


今、選手たちに求められるもの


──「時代に即して」となると、今の選手たちに求められているものは何でしょうか。

海老原 地元の大会だとメリットとデメリットが同じぐらい、しかも隣り合わせに出てきますよね。物事がわかってすんなりできるところと、すんなり行き過ぎて、でもそこに特別感を持たないといけないというところと。戦うという意味では、地元ってすごく怖いんじゃないかな。その中でやらないといけないので、自分のことだけに集中した人は成功するかもしれないし、集中しているようで何となく「ここはどうなんだろう」と考えていた選手は、フラフラしてしまう気がします。

今は情報化社会で、みんなSNSとかを使っていますけど、1つ間違えたら炎上する怖さを本当に理解して使ってるのかどうか。そういうことを含めて、選手自身の「自立」がすごく重要だと思います。さっき髙野先生が「東京五輪だったら……」という話をされていましたが、私も「人生懸ける覚悟があったら(引退しないで)やってたかなぁ」と考えてしまいました。髙平さんも(東京五輪まで)やるなと思っていたら、やめてしまったので(笑)。

髙平 まだできるんじゃないの?

海老原 いやいや、投げるまでに1年ぐらいかかりそうです(笑)。高平さんが1歳上なので、目標というか、ついて行けばいい先輩が身近にいたんです。だから、世界大会に行くと楽だった。今、そういう人がいるかなと考えた時に、うまく上に立って引っ張ってくれる人を作り出すのも陸連側の役目なのかなと、みなさんの話を聞きながら思っていました。

──それは、陸上チーム全体のリーダーという意味ですか。

海老原 チームとしても必要だと思いますし、それが各ブロックにいたら、なおいいんじゃないですか。

山崎 たぶん今、うまく成績が出ているブロックはそれができていて、成績が出ていないブロックはできていないんですよ。ある意味、自然発生的になっていて、そこは考えないといけません。ただ、成績を出している人がいたら「そうなりたい」と思う選手が絶対に出て来るので、やっぱり成績ですよね。

──その選手が道しるべになりますからね。

山崎 
同じ道を行くことだけが道しるべじゃなくて、ゴールはオリンピックや世界選手権の入賞なので、そのゴールだけ決めておけば、そこへの手段は人それぞれでいいと思うんですよ。私が現役の頃はプロへの過渡期で、契約社員で会社に入った時には「練習しかしないの?」とか、「社会人として働いて競技に立ち向かいなさい」と周りの人に言われました。ただ、そこには「責任」が伴って、私はその責任が大事だと思っています。自分自身への責任、競技に対しての責任。その自覚を持てている選手が増えています。

あとは、競技者としてプロになってほしい。芸能活動の収入が増えるのではなく、競技活動で収入を増やす。そういう選手がどれぐらい出て来るかです。私たちは強化の立場なので、そういう選手を作りたい。〝本当のプロ〟と呼べる選手たちが出て来ると、今度はそこが道しるべになると思います。東京五輪を境に、「競技者」として生活できる選手が出てほしいですね。

髙平 これはあくまでも個人的な意見ですが、僕は企業が選手を雇用する時点で、選手やコーチだけでなく所属先も「オリンピックの金メダリストを育てるんですよ」という覚悟と自覚を持つべきだと思っています。多くの大学生が夢を持って就職しても、「金メダル取ってこんなものなのか」と感じる環境であれば、未来のアスリートがあこがれるスポーツに成長していかないと思います。もちろんお金がすべてではありませんが、競技に集中できる環境がどれだけセッティングできているかというのは、業界として考えないといけないかな。最後の頂点のクオリティをどれだけ引き上げられるかが業界全体の底上げにもつながると思います。野球やサッカーのプロ選手との格差は大きいですから、そこを埋めていくための作業ですよね。

髙野 アスリート委員会としてそういう主張をしてきているのは大事かなと思います。ただ、会社もその覚悟で選手を採用したいけれど、そうすると限られた人数になります。あとの選手は要りません、となるリスクがあります。一人前になる前に「最高の環境を用意しないと俺はできない」という方向に行き過ぎても、それは甘いかなと思いますね。会社側も選手も一生懸命やった中で、こういう方法がいいというのを見つけ出していく必要があるような気がします。

最近は選手がSNSで「応援ありがとうございました」とか、試合の結果などを報告していますよね。選手がダイレクトに届けられるツールができたので、それをいい意味で使う分にはいいと思います。ただ、そうやって発信しないとみんなから応援されないんじゃないかという強迫概念を持つとか、それで評価されることにこだわり過ぎるのはどうかなと思いますね。

海老原 あれは選手によって得意、不得意があるんじゃないですかね。会社から「やれ」と言われてやっている選手もいるかもしれません。ウチは選手に任せていますけど。

髙野 プロっぽい意識にはなるんだけど、本当のプロがよくわかってないのかなと思うことはあります。ベースはアマチュアですから。陸上は結果がすべてなので、あまり気を遣わなくてもいいのかな、と。私が現役の時、ツイッターがあったら、なんてつぶやいていたんだろうか。「明日、いよいよ決勝です」とか(笑)。

髙平 私は、アスリートになる路線を含んだ大学の授業とかがあればいいなと思っているんです。自分が選手を続けるのに年間いくらかかって、どういうかたちだったらアスリートを続けられるのかをわかっている人はほとんどいないんですよね。また、SNSでこういう発信をしたらこうなるんだということを直接考えられる機会があれば良くて、もっと自分のことに落とし込める環境があればいいなと思います。SNSは「こういうリスクがありますよ」とだけしか言われていないんです。

 




東京五輪に向け、選手たちへの提言


髙野 東京五輪まであと1年ということで、山崎さんが強化の中枢にいるわけですけど、やれることは限られていて、あとは選手が持てる力を全部出せるかどうか。大阪世界選手権の反省を踏まえると、選手がいかに自分の内面に集中できるかです。外の変化にばかり目が行っていたら気が散って、本番になったら自分をコントロールできなくなってくると思うんですよね。

これから1年は競技者として自分自身の内面と向き合う。私は東京世界選手権の時、30歳でそれができたと思っているのです。いつも身体と対話して、心の状態は大丈夫とか、この心理状態ならメディアとこう対応しようとか。いつも自分自身と向き合っていました。周りは、選手が勝ち上がっていく邪魔をしないだけです。

──髙野さんのこの発言を受けて、選手たちは残りの1年をどう過ごしたらいいのか、皆さんからのアドバイスでこの座談会を締めたいと思います。

髙平 髙野さんの「内側に」と似ているのですが、マイペースを貫いてほしいと思います。今年の世界選手権(ドーハ)が特殊な時期に開催されるので(例年は夏開催だが、今回は9月末から10月初旬の秋)、それが終わってしまうと残りの期間は少ないです。世界選手権に行けなかった選手は来年のオリンピックにフォーカスしやすいでしょうけど、行っても、行けなくても、それぞれのペースでやってほしいですね。自分がどう行動すればいいかを自分で把握できている選手が一番強いと思いますし、そうじゃないと東京五輪に行ったとしても戦えないと思います。

自国開催なので「出たい」という気持ちが強くなるのはしようがないと思うんですけど、出た時に自分はどうなりたいのか、きちんとビジョンを描いて取り組んで行くべきだと思います。大阪世界選手権の時も「出ること」が最重要な人がいましたから。

海老原 みなさんが言ってるように、これからは自分自身との戦いだと思うんですよ。逆に、サポートする側として選手に何ができるか考えた時、私は「選手が質問してきたら的確に答えよう」と思ってます。ランキング制度についても、ポイントを稼ぐために「こういう試合があるよ」と提案したり、きちんと受け答えができないといけないと思ってます。

あと、選手に言いたいのは「やりたい」「こうしたい」と思ったことは、実行してほしい。「こうしたかったのに」は絶対に通用しないので、「こうやっていきたいです」というのを自分から言えるようになってほしいなと、今、つくづく感じています。レベルはともかく、まず自分の言葉で発信してほしい。髙平さんは「出てからのビジョン」と言いましたけど、若い人は出ることをステップにして、その先のオリンピックを目指すのもいいなと私は思ってるので、東京に出ることをきっかけにして、次のオリンピックで戦うことを見据える。それには今回、足元をすくわれないように、自分を見つめることができればいいかなと思います。

ともかく、試合に出る前も、出た後も、自分自身との戦いでしょうね。自分を信じて、その場ですべてを出し尽くすことです。

山崎 オリンピックというビッグ大会の印象が強く残るのはデレゲーションを組んでからの過ごし方だと思いますけど、私たちがきちんと分けて考えないといけないのがそこまでの準備ですよね。今回は秋に世界選手権があって、その後の冬季、あるいはシーズン前の時期、どうやって選手のサポートができるか。メダルが狙える種目、入賞を目指せる種目がドーハでだいたいわかります。その人たちにきちんとフォーカスして、東京五輪で戦えるような準備をしないといけません。オリンピックには1人でも多くの選手が出場した方がいいと思っていますが、そこはきちんと区別したいと思います。

──オリンピックに行って、戦おうとしている人、出るだけの人の心構えはまったく違うと、髙野さんも以前おっしゃっていましたね。

山崎 私もそれに共感していました。自分も祭りで行った時と、戦いに行った時の心構えの違いは、身をもってわかっています。大阪世界選手権では、そのあたりがみんな一緒になってしまったんですよね。

世界選手権と違ってオリンピックはJOC管轄で、制約が結構あるのですが、地元の利を最大限に生かして、メダルをいくつというより、きちんと準備をして選手を送り出す方に気を配りたいです。本格的には世界選手権が終わってからになりますが、総力を挙げてやらないといけないので、みなさんよろしくお願いします。


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