2019.09.24(火)大会

【第67回全日本実業団対抗陸上競技選手権大会】レポート




第67回全日本実業団対抗陸上競技選手権大会が9月20~22日、ヤンマースタジアム長居(大阪市)において開催されました。
今大会は、会期が9月27日から開幕するドーハ世界選手権への出発直前となる難しいタイミング。このため、日程の都合により出場できない選手もいましたが、この大会を最終調整・状態チェックと位置づけて出場するケースも見られました。記録的には女子400mと女子10000mWで今季日本最高がマークされたほか、最終日には、男子400mHと男子やり投で大会新記録が、男子走高跳で大会タイ記録が誕生。ここから本格化する秋シーズンの盛り上がりを予感させるような好パフォーマンスが会場を沸かせました。
チーム対抗成績では、男女の合計得点で競われる団体総合では54点を獲得した富士通が6連覇を果たした2012年以来となる9回目の優勝を達成。男子総合も富士通(54点)が制しました。女子総合は、31点を獲得した東邦銀行の優勝となりました。

 

 

◎400mH・鍛治木、五輪標準記録まで0.02秒に迫る48秒92! 

1日目、2日目と、記録的にはやや寂しい印象が否めなかった今大会でしたが、最終日の午後に入って、走種目(ハードル)、投てき種目、跳躍種目と、スタジアム内の各所で好記録が続出。そのボルテージは大きく高まりました。
活況の口火を切ったのは、男子400mH決勝です。レースは1選手が棄権して7名で行われ、予選1組を50秒35・2着で通過して9レーンに入った鍛治木崚選手(住友電工)が序盤からスムーズな流れで先頭争いを展開すると、5台目を過ぎたあたりで徐々にリードを奪い、トップで最終コーナーを抜けてきました。第10ハードルを越えてから、ミズノの野澤啓佑選手と松下祐樹選手が追い上げたものの、鍛治木選手はこれを許すことなく先着。昨年に続く2連覇を達成しました。フィニッシュタイマーは速報値として48秒94で止まりましたが、正式記録は、48秒92へと上方修正。安部孝駿選手(ヤマダ電機)が日本選手権でマークした48秒80に続く今季日本人2人目の48秒台で、鍛治木選手にとっては初めて49秒を切る自己新記録の誕生です。2位の野澤選手は49秒08、3位の松下選手も49秒23のシーズンベスト。さらに4位の大林督享選手(石丸製麺、49秒67)以下、7位までの全選手が49秒台をマークするハイレベルな結果となりました。
上位3選手がドーハ世界選手権参加標準記録を上回る結果に、レース後には「あと、もう少し早ければ…」という声も。さらに、鍛治木選手の記録は、東京五輪参加標準記録の48秒90に0.02秒まで迫るタイムとあって、正式記録が表示された瞬間に、これを惜しむ声も聞かれました。
「去年も優勝したので、このレースは、タイムよりも順位にこだわっていた」という鍛治木選手は、レース直後の場内インタビューでも「こんなに出るとは思っていなかった」とコメント。48秒台を出したい気持ちはあったというものの「今年は、タイムは全然出ていないし、日本選手権も予選落ち。ドーハ(世界選手権出場)も逃すし、さんざんな年だったので…(笑)」と言います。しかし、「1本1本レースに出るごとに課題を見つけ、修正することをやってきた」とここまでの経過を振り返った上で、「そうやって夏にしっかり立て直して、秋シーズンを迎えられたことが、ここに来て全部ハマったのかなと思う」と、好記録が出た要因を分析しました。
「これで五輪参加標準を突破することも見えてきたのでは?」というメディアからの問いに、「リアクションタイムが遅かった(0.228秒)と思うので、そこがよければ、(五輪標準を突破する記録は)今回出ていたのかも…」と苦笑いしながらも、「でもまあ、今はしっかりと力をつけたいという気持ち。今日は、来シーズンにつながる走りができた。そこがすごい収穫だと思う」と、鍛治木選手らしい穏やかな口調で、充実感を漂わせました。
また、今シーズン序盤から、ドーハ世界選手権出場に近い成績を残しつつも、参加標準記録の突破がならず、実現することがかなわなかった野澤選手と松下選手は、“もう3週早ければ…”という今回の結果に、悔しさを隠せませんでした。しかし、ここに来ての上り調子に、来年の東京オリンピックに向けては「次につながる結果」と大きな手応えをつかめた様子。秋シーズンは鍛治木選手と同様に、10月4日から開幕する茨城国体、10月19日のデンカアスレチックスチャレンジカップ(新潟)に出場を予定。東京オリンピックの参加標準記録突破に挑みます。


 

 

◎男子やり投は小南が81m71で2連覇、男子走高跳では真野が2m28をクリア

大会最終日、会場の長居スタジアムは、15時ごろからの30分ほど激しい通り雨に見舞われましたが、そんな雨の中で競技が進められたにもかかわらず、男子やり投と男子走高跳で好記録が誕生しました。男子やり投では小南拓人選手(筑波銀行)が日本歴代6位となる81m71をマークし、最古の大会記録として残っていた溝口和洋選手がマークした80m98(1986年)を更新して2連覇を達成。また、男子走高跳では、社会人1年目の真野友博選手(九電工)が、元日本記録保持者の君野貴弘選手(ゴールドウイン)が1999年に樹立した大会記録に並ぶ2m28を2回目にクリアして自身初めてとなる全国タイトルを獲得。小南選手は、400mHの鍛治木選手とともに優秀選手に選出され、真野選手は敢闘選手に選ばれました。
ルーキーイヤーの昨年、この大会で自身初の80m台となる80m18をマークした小南選手は、験のいい長居スタジアムで再びの好記録をマークしました。会場が煙る強い雨脚のなか迎えた5回目の試技で渾身の投てきを披露。「(雨で)滑りながらも、ただただ(ファウルしないようにと)必死で(身体を)止めた」と自身も振り返って笑ったように、投てきしたあと身体を倒れ込ませての投てきとなりましたが、7月のトワイライトゲームズでマークした自己記録81m11を大きく更新。「正直、自己ベストが投げられるとは思っていなかった」と想定以上の出来であったことを認めつつも、「(81m11をマークした)トワイライトゲームズよりも感覚と記録のギャップがなかった。今回は飛んだなと感じた」と、良い手応えのあった投てきであったことを明かしてくれました。
東京五輪の参加標準記録は85m00。「今のままでは届かない」と、冷静に現状を見極めている小南選手ですが、この夏には、91m36の自己記録を持つ鄭兆村選手らチャイニーズタイペイのナショナルチームのメンバーと1週間ほど一緒に練習する機会に恵まれ、そのなかで「彼らの上手な身体の使い方や柔軟性などを間近に見て、大きな刺激を受けた」と言います。「今シーズンは、昨年に比べて、いい記録が出せていて、わずかながらベストも更新しているので、来年はどこかで大きいベストが出せるんじゃないと思っている」と、その手応えも感じている様子。今回の結果は、オリンピックシーズンに向けての飛躍を期待させる結果となりました。






男子走高跳を制した真野選手は、この日、2m10から試技をスタートさせて、以降、2m13、2m16、2m19、2m22、2m25までのすべて1回でクリア。今季5月の静岡国際でマークした2m27の自己記録を1cm上回る2m28は2回目に成功し、ドーハ世界選手権参加標準記録でもあった2m30を1cm更新する2m31に挑戦しました。この高さも、2回目の試技では、腰までの体幹部分は完全に越えながらも、ふくらはぎのあたりがわずか触れてバーを落とす非常に惜しい跳躍に。真野選手は競技後、「(2m30の)3回目は力んでしまった」と苦笑いしましたが、ハイジャンパーにとって1つの大きな区切りとなる2m30台突入がそう遠くないことを印象づけました。
この日は、「2m10の段階では脚がつりそうで、全然調子がよくなかった」そうですが、バーが2m22に上がったあたりから「徐々に動きがよくなった」と真野選手。さらに、通常であれば“最悪”と言ってよいような急な雨について、「雨で気温が下がったことで、そこまであった身体のほてりがなくなって動きやすくなった」と、真野選手にとっては“恵みの雨”であったことも明かされました。
2m27をクリアした静岡国際のときには、母校の福岡大学、そして現在の九電工で拠点としている福岡で開催される日本選手権での活躍を誓っていた真野選手ですが、その日本選手権は「2m10で脚がつってしまって」、最初の高さとして挑戦した2m10をクリアできず記録なしに終わる苦い結果を味わいました。当時の心境を「今、考えると、5月に2m27を跳んだことで、(世界選手権参加標準記録の2m30を絶対に)跳ばなければならない気持ちが焦っていたのかも」と明かし、日本選手権以降は、「助走を見直し、そこを安定させることを重点的に取り組んできた」と言います。その段階で、きっちりと気持ちの切り替えができていたことが、今回の好結果を引き寄せたようです。
「今後、目指すところは?」との質問に、真野選手は、「とりあえずは東京オリンピックが最大の目標」ときっぱり。その実現に向けて、「大きな大会で安定した記録をマークして、上位に食い込めるようにしていきたい」と、力強い言葉を聞かせてくれました。

 


 

◎ドーハ代表組は木村、佐藤、松本がV。青山は予選で52秒90

9月27日から開幕する世界選手権に向けて日本代表選手団の第1陣が、この全日本実業団最終日の9月22日の深夜(23日0時台)に出発するというタイミングではありましたが、代表選手の一部には、この大会を経てドーハに向かうスケジュールを組む選手も。女子1500mでは、世界選手権では5000mに出場する木村友香選手(資生堂)が出場。ペースメーカーが外れてからトップに立った木村選手は、ラストで今年の日本選手権800m・1500mで2冠を獲得している卜部蘭選手(Uran)が前に出ようとするのを許さず、4分13秒38で快勝。「思っていた以上の走りができた」と、世界選手権本番に向けて弾みのつくレースを披露しました。女子やり投には、佐藤友佳選手(ニコニコのり)が出場し、最終投てきで58m21をマークして優勝。「あの投てき(優勝投てき)が最初にできていれば…」と惜しむ様子も見せましたが、「状態は悪くない。シニアの世界大会は初めてなので、試合の雰囲気を楽しみながら、自分らしい投てきができたら…」と世界選手権を見据えていました。






また、男女混合4×400mRの代表メンバーに選ばれた青山聖佳選手(大阪成蹊学園職)と松本菜々子選手(東邦銀行)は、日本選手団第1陣となる9月22日深夜の便で出発する日程のなか、この大会に出場していました。青山選手は、最終日の400mと200mの予選のみに出場。午前9時半から行われた400m予選で自己記録に0.05秒と迫り、今季日本最高となる52秒90の好記録をマーク。そのあと行われた200m予選を24秒05(+3.7)で走ったのちに、東京へと移動しました。松本選手のほうは、2日目に行われた4×100mRでアンカーを務めて優勝(45秒82)。最終日は400mを54秒35で制して2冠を達成しました。ホームストレートが強風となったこともあり、400mのレース後は「目標タイムより1秒近く悪い」と何度となく「悔しい」という言葉を口にしていましたが、ダブルタイトル獲得によってチームの女子総合優勝に大きく貢献。「(所属先の)銀行の皆さんが応援に来てくださっていて、そのおかげで緊張する場面でリラックスすることができ、本当にありがたかった。貢献できて嬉しい」と晴れやかな笑顔を見せていました。

男子では、110mHに出場する金井大旺選手(ミズノ)が予選のみ出場。1.1mという強い向かい風のなか13秒78をマークして1着でフィニッシュしています。また、男子100mには、4×100mRの代表メンバーに選出された多田修平選手(住友電工)が出場。予選はラストを大きく減速させて10秒58(+0.3)で1着通過を果たしたあと、準決勝以降を棄権しました。これは、合宿からの疲労の影響なども考慮しての判断ということですが、「練習でも調子は上がっている。状態は悪くはない」と好感触をつかんでいる様子でした。


 

 

◎その他:女子ハンマー投で佐伯が64m44、男子200m・400mは木村が2冠を獲得!

以下、そのほかで注目が集まった結果をご報告しましょう。

女子ハンマー投では、佐伯珠実選手(チャンピオン)が、5回目の試技で昨年のこの大会でマークした62m45を大きく更新する64m44をマークして優勝。初の全国タイトルを獲得するとともに、自身が持っていた日本歴代5位の記録を引き上げました。

世界選手権出場組が不在でも、世界大会代表経験選手がずらりと顔を揃える豪華な布陣となった男子10000mWは、丸尾知司選手(愛知製鋼)が、1200m付近で先頭に立ち、2000m前からは“一人旅”となる展開のなか39分43秒72で快勝。女子は、河添香織選手(自衛隊体育学校)が今季日本最高の44分46秒63で優勝しています。






2日目に行われた男子400mは、右足立方骨の疲労骨折により、3月のオーストラリア遠征以降、ナショナルチームから離脱していた木村和史選手(四電工)が、45秒96で優勝。最終日の200mでは自己記録に0.01秒まで迫る20秒86(+1.9)をマークして、2冠を達成しました。

また、今季記録水準の高まりが著しい男子110mHは、8月17日のアスリートナイトゲームズイン福井で13秒60の自己タイ記録を、9月1日の富士北麓ワールドトライアルで13秒59の自己新記録をマークしている社会人1年目の栗城アンソニー選手(新潟アルビレックスRC)が終盤で抜け出し、13秒67(-0.5)で初の全国タイトルを獲得。女子100mHも、今季13秒13まで自己記録を伸ばしてきている福部真子選手(日本建設工業)が序盤から飛び出す得意のレースパターンを見せて13秒28(+1.2)でフィニッシュ。広島皆実高校3年時のインターハイ以来となる全国タイトルを手にしました。

男子円盤投は、堤雄司選手(群馬綜合ガード)が2年前に自身がマークした大会記録(当時、日本記録)に5cmと迫る60m69で2年ぶり5回目の優勝を果たしています。

女子100mは、今季復調した土井杏南選手(JAL)が11秒74(+0.9)で制し、大学2年時の日本インカレ以来となる全国タイトルを獲得。また、過去にこの大会でも100m・200mで2冠(2011年)を獲得した実績を持ちながら、その後、低迷が続いていた髙橋萌木子選手(ワールドウィング)が、2位の島田雪菜選手(北海道ハイテク)と同タイムの11秒87で3位に食い込み、久しぶりに表彰台に上がる復調ぶりを見せました。このほか女子100mでは、4月のアジア選手権以降、故障の影響で競技会から遠ざかっていた日本記録保持者の福島千里選手(セイコー)と、同じくケガのために日本選手権以降、治療・リハビリを続けていた市川華菜選手(ミズノ)がレースに復帰。どちらも予選通過はなりませんでしたが、秋シーズンに向けて、新たな1歩を踏み出しています。

なお、この大会は、気胸のため6月の日本選手権を欠場、9月1日の富士北麓ワールドトライアルも腰痛の影響で出場を見送っていた男子短距離の山縣亮太選手(セイコー)にとっても復帰レースとなる予定でした。しかし、最終日に行われた200mのウォーミングアップ中に右ハムストリングスに違和感を覚えたため、大事をとって出場をとりやめることを決断。今季は、これでシーズンを終了させ、来季に向けた準備に入るとのことです。

 

文:児玉育美(JAAFメディアチーム)
写真提供:フォート・キシモト


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