第59回実業団・学生対抗陸上は7月27日、神奈川県平塚市のShonan BMWスタジアム平塚において開催されました。この大会は、1961年から実施されている実業団と学生による対抗戦です。当日は、ホームストレートがやや強い向かい風となるコンディションとなりましたが、バックストレートで実施された男子110mHで日本新記録が誕生したほか、女子100mH、女子棒高跳、男子4×100mRで大会新記録が誕生しました。団体戦は、男子は学生が、女子は実業団がそれぞれ優勝。秩父宮賜杯が授与される男女総合は、実業団が203.5点を獲得して通算51回目の優勝を果たしています。
◎男子110mHで高山選手が13秒30の日本新! 東京五輪参加標準記録も突破!
男子110mHには、日本選手権で大接戦を繰り広げ、ともに13秒36の日本タイ記録でフィニッシュして1・2位となった高山峻野選手(ゼンリン)と泉谷駿介選手(順天堂大)がエントリー。また、昨年のアジア大会(2位)と今年のアジア選手権(3位)で日本勢に先着し、5月には13秒34の自己記録をマークして上り調子の陳奎儒選手(チャイニーズタイペイ)がオープン参加したことによって、記録・勝負ともに注目の一戦となりました。フライングがあったために2回目の号砲でスタートしたレースは、1台目の入りこそやや泉谷選手がリードしたように見えましたが、遜色ないアプローチを見せた高山選手が3台目あたりで前に出ると、中盤でその差を一気に広げてフィニッシュしました。風は公認の追い風1.9m。タイマーが“13.32”で止まったことにより観客席から大きなどよめきが上がります。記録はその後、“13.30”へと上方修正。アジア歴代5位、今季世界12位となる日本新記録の誕生です。フィニッシュ直後から振り向くようにしながらタイマーに目をやっていた高山選手は、正式記録が表示されると、「よっしゃ!」と声を上げて、両腕でガッツポーズし、スタンドからの祝福に笑顔で応えました。
レース直後の感想を求められ、「率直に嬉しいという気持ちと実感がないという思い(の両方)がある」と答えた高山選手。好記録が出たのは「風のおかげ」として、「持っている実力以上のものが出たと思う」と話しましたが、その一方で、「ほかの選手のことが気にならず、自分のレースに集中することができた」とも振り返り、「前半抑えて、後半伸びるというイメージ通りに行くことができた。後半は今までに刻んだことのない速さで刻めた」と得られた収穫も大きかった様子。また、東京オリンピック参加標準記録(13秒32)を突破したことで、「かなり気持ちの面で楽になった」と喜びました(高山選手の新記録樹立コメントは、別記をご覧ください)。
布勢スプリント(13秒36、+1.9)で金井大旺選手(ミズノ)に並んでレコードホルダーとなり、日本選手権(13秒36、−0.6)で再びタイ記録をマークして泉谷選手に競り勝ち、そしてこの実業団・学生対抗で日本新記録樹立と、3大会続けて高いレベルの安定性と勝負強さを披露したにもかかわらず、「自己ベストが出たことは嬉しいが、まだ金井くんと泉谷くんに勝てているとは思っていない」と話した高山選手。次戦は8月17日に行われるアスリートナイトゲームズ福井で、金井・泉谷選手も出場を予定しています。大会に向けた抱負を問われると、「金井選手も、泉谷選手も疲れをとって、いいレースをしてくれると思う。僕はここで脚をちょっと削って次はダメだと思うので、頑張ってついていきたい」と、なんとも高山選手らしい言い回しで次戦を見据えていました。
一方の泉谷選手は、この日は、三段跳に出場(5位、15m62、+1.6)してから110mHに挑みましたが、終盤で陳選手(13秒44)に逆転されて、3着でのフィニッシュ。記録は13秒60にとどまりました。日本選手権後、すぐに渡欧してナポリ(イタリア)で開催されたユニバーシアードに出場し、銅メダルの成績(13秒49、+0.1)を上げたばかり。その影響もあってか「今回は、特に(記録等への)意識はなくて、練習みたいな感じで出ていた」そうですが、「それでも目の前で日本記録を出されて負けると、すごく悔しい」と衝撃的だった様子。「ユニバーシアードが(13秒)49で、今回は(13秒)60。(日本選手権で出した)あの(13秒)36は、たまたまだったのかなと思ってしまう。1回出しただけじゃダメ。同じ記録を何回も出していかないと…」と話し、「最近は動きがちょっとばらばらだった。自分のやることをしっかりやって、(13秒)30を越えられるように頑張りたい」と決意を新たにしていました。
◎女子100mHは寺田選手が今季日本最高の13秒07で制す
男子110mHのほかでは、女子100mHも好記録が誕生しています。結婚・出産、他競技への挑戦を経て、今季6年ぶりに競技に復帰した寺田明日香選手(パソナグループ)が、追い風1.3mという好条件に恵まれ、今季日本最高となる13秒07の大会新記録で優勝。ベルリン世界選手権出場を果たした2009年に2回マークしている自己記録(13秒05)に0.02秒、日本記録(13秒00)に0.07秒、ドーハ世界選手権参加標準記録(12秒98)に0.09秒と迫るところまで戻ってきました。男子100mは、6月の日本学生個人選手権覇者で、日本選手権でも6位に食い込む健闘を見せた坂井隆一郎選手(関西大)が10秒29(+1.1)で優勝。女子100mは、土井杏南選手(JAL)が11秒54(+1.7)で制しています。男子400mに勝ったのはウォルシュ・ジュリアン選手(富士通)。ウォルシュ選手は世界選手権参加標準記録(45秒30)突破を狙って挑んでいましたが、風の状態が悪かったこともあり、記録は46秒08にとどまりました。
女子棒高跳は、ともに大会新記録となる4m10を1回で成功した竜田夏苗選手(ニッパツ)と那須眞由選手(RUN JOURNEY)の対決となりました。続く4m20を竜田選手が1回でクリアすると、1回目を失敗した那須選手は残り試技をパス。バーは4m30に上げられましたが、どちらも越えることができず、竜田選手の優勝となりました。このほか男子走高跳は、すでにドーハ世界選手権参加標準記録(2m30)を突破している衛藤昂選手(味の素AGF)が出場。2m21で優勝を果たしています。
【新記録樹立者コメント】
高山峻野(ゼンリン)男子110mH 1位 13秒30(+1.9) =日本新記録
今シーズンはピークを日本選手権に持ってきていたので、ここで(記録が)出るとは思っていなかった。また、風に押されたので(好記録の)手応えはあったが、まさか(13秒)30まで行っているとは思わなかった。東京オリンピックの参加標準記録が13秒32なので、それを切ることができたのはすごく大きい。とても嬉しく思う。
今日は、ウォーミングアップの段階ではあまり調子がよくなくて、ハードルの練習でもひどくぶつけていたが、レースでは集中することができた。日本選手権のときは泉谷くん(駿介、順天堂大)を意識して、ついていくのが精一杯だったが、今回は、周りがあまり気にならなくて、自分の走り、自分の思うようなレースができた。そこが日本選手権との一番の違いかなと思う。
今回は、今まで自分にはなかったようなレース展開を試したいという思いがあって臨んでいた。毎回、後半が落ちていたので、今日のレースは、金子公宏先生と「前半の3台目くらいまでを抑えて、後半に向けてテンポアップしていこう」という話をしていた。僕は前半に力を入れすぎると、後半の失速が大きくなってしまうので、そこを防ぎたいと思っていて、減速するラインを7台目か8台目くらいまで下げようという話を(金子先生と)していた。“前半抑えて、後半伸びる”という感じ。(実際に)そのイメージ通りのレースをすることができたと思う。後半は、今までに刻んだことのない速さで刻むことができた。
僕の持ち味はパワーとスピードだが、今季は、その点を冬期トレーニングで、ケガなく、しっかり積むことができていた。また、体重自体は変わっていないが、身体がしっかり絞れている。あとは地面のとらえ方が変わってきた。そこが本当に大きな進歩かなと思う。
自己ベストが出たことは嬉しいが、まだ、(これまで同記録で並んでいた)金井くん(大旺、ミズノ)と泉谷くんに勝てているとは思っていない。また切磋琢磨して頑張りたい。
(出場が決まっている世界選手権に向けて)前回の世界陸上は予選落ちだったが、今回はしっかり準決勝に残れるようにしたい。予選からレースをつくれるようなトレーニングをこれから積んでいきたい。また、東京オリンピックに向けては、今回、標準記録を切れたことで、かなり気持ちの面では楽になった。記録にとらわれることなく、自分をしっかり高められるように頑張っていきたい。
文・写真:児玉育美(JAAFメディアチーム)
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